第十四話
「・・・はっ!! ばっ、化け物は!?」
あれから数時間ほど経ち、日が暮れる頃ウィリアムが意識を取り戻し慌てて飛び起きた。
「あ、起きたっすか、ウィリアムさん」
隣にいるガレオが安堵の表情でウィリアムを覗き込む。
「あの魔物は・・・ユートが倒してくれたらしいよ」
カールも先に起きており、魔物はもういない事を伝える。
「そんなバカな・・・そのユートは?」
「外で夜食の準備をしてるっす! オレらも今さっき起きたばっかなのでまだ詳しい話は聞いてないんすよ」
「あ、起きたんですね! 怪我の具合はどうですか?」
馬車内で話し声が聞こえた俺は、中にいる3人に声を掛ける。
「ユート・・・お前があの魔物を倒したってのは本当か?」
「はい。貴方達のお陰でアイツを攻略する事が出来ました」
「俺達のお陰? どうやって倒したんだ?」
俺は3人にあの魔物を倒した時の詳細を説明し始める。
「素の状態では皮膚が硬すぎてこちらの攻撃が通らない事は、4人の戦闘で分かりました」
「あぁ。それで俺達は糸口が掴めないままボロクソにのされちまった・・・」
「そうですね・・・だけどこの情報が無ければ俺もそういう戦い方をしていたでしょう」
「表面の攻撃が効かないなら内側を攻めればいい。そう思ったので先ずは奴の弱点である属性を調べる事から始めました」
「確かに、魔物には個体によって耐性がある属性も弱点である属性もあるが・・・耐性と言ってもダメージはある筈なのにアイラの中級火属性魔法は全く効いちゃいなかったぞ」
「それは奴の耐性がアイラさんの魔法を上回っていたからです。それ程までに高い魔力を有してました」
「そんな奴初めてだ・・・だが調べるったってどうやって・・・」
「ウィリアムさん忘れたっすか? ユートさんは7属性全ての魔法が使えるっすよ!」
「あぁ、そうだったな・・・」
「えぇ。結果的に奴は水属性の適正を持ってる事が判明しました。なのでガンガン雷魔法を腹に当て続けて皮膚を弱らせていき・・・」
「弱らせていき・・・?」
ゴクリと3人が固唾を飲んで俺の答えを待つ。
「腹に剣をぶっ刺してその空いた穴に手を突っ込んで体内から雷魔法をぶっ放しました!」
あははと笑いながら後頭部をポリポリと掻きつつ早口で喋れば、勢いに流されて有耶無耶になるかと思ったがそうはいかなかった。
3人が見るからにドン引きしている。
そりゃそうだ。
倒し方がキモ過ぎる。
俺でも同じリアクションをするだろう。
「ユートさん・・・結構エグいっすね・・・」
「ユートお前・・・あ、ありがとな・・・」
「・・・おぇ」
カール。お前の反応が1番傷つく。
「ま、まぁどんな方法であれ勝ったのは変わらないので! ほら! 戦利品もありますよ!」
そう言って俺は話を逸らし、被せていた布を取り魔石を皆に見せる。
「うっそだろ! これ魔石なのか!? とんでもねぇデカさじゃねぇか!!」
「うっひょ〜! こんなにデカいのは見た事ないっす!」
「す、すげぇ・・・!」
「町に着いたら換金しましょう! 一体1人幾らになるのか楽しみだなぁ」
「は?」
「え?」
「ん?」
俺の言葉を聞いた3人が一斉に反応する。
「? ・・・俺、なんか気になる事言いました・・・?」
「ユート。冒険者にはルールがあってな。戦利品は見つけた者、倒した者に所有権があるんだ。お前今1人幾らになるか気になるっつったな。あの魔物を倒したのはお前なんだからこの魔石の所有権は全てお前にある」
「俺達冒険者はずっとこのルールでやってきてる。それが1番公正で後腐れがないからな」
「なら、この魔石の代金はやっぱり山分けですね」
「なっ! お前話聞いてたか!?」
「だって俺、まだ冒険者じゃありませんから。そんなルールを守る義務はまだ無いですよ」
「それに言ったじゃないですか。皮膚が硬くて攻撃が通らない事は4人の戦闘で分かったと。つまり俺達5人で倒した事になりますよね? 5人で倒したなら5人の報酬になる事は間違っちゃいないでしょう?」
「それとも冒険者というものは、止めを刺せば全てそいつの報酬になるもんなんですか?」
「それは・・・ならないが・・・でも、本当に良いのか・・・?」
「当たり前でしょう? 何度も言わせないで下さい。俺は貴方達のお陰で勝てたんです」
「そうか・・・よし! じゃあもう遠慮なく頂く事にするぜ! お前らももうコイツに何言っても無駄だから今回は有り難く貰おうぜ!」
「そ、そっすね! ユートさんの懐の深さとオレの懐が暖かくなるのがちょっと信じられなくて夢を見てる気分っす!」
「ユート。ありがとう。恩に着るよ」
「俺達が眠っちまってた分、明日はガンガン進むぞ! 今日はもう飯だ!」
「はぁあなんだかいつもより腹減ったっすね」
「そうだな。それに外から良い匂いがする」
「アナタ達! 起きたなら手伝って! 夕食出来てるわよ!」
「皆さん、アイラさんにはお礼を言ってあげて下さい。彼女は貴方達の看病をずっと続けて、ろくに休んでいないんです」
皆も勘付いていたのだろう。
派手な怪我をしていた筈なのに、身体に巻かれた包帯は新品のままだ。
これは何回も巻き直した何よりの証拠。
皆が頷き、アイラのところへ向かう。
俺は少し離れて4人の様子を見守る事にした。
なぜか邪魔したくないと思ったから。
アイラが照れ臭そうに顔を伏せているのを見て、皆生きていてくれてありがとうと心の中で思うのだった。




