第十三話
「こっからは俺が相手だ!」
俺はアイラの前に立ち塞がり魔物と対峙する。
「ユート、さん・・・なんだよね? アナタ1人じゃ勝てっこないわ! 早く逃げて!!」
「今まで手も貸せずすみませんでした。貴方達の気持ちを尊重して加勢に躊躇ってたんですが、流石にもう我慢出来ないので!」
「それに今までの戦いで少し見えてきた事があったので、それを試してみたいんです」
「見えてきたこと・・・?」
「まずは隙を見てみんなの避難を!」
俺はアイラに指示を出し魔物へ駆け出す。
昨晩のアイラとの会話で、属性魔法にはそれぞれ相性というものが存在している事を聞いていた。
「五大属性には相性によって各属性毎に優劣がつけられるの。火は風に強く水に弱い、風は土に強く火に弱い、土は雷に強く風に弱い、雷は水に強く土に弱い、水は火に強く雷に弱いって感じね。光と闇は交互に強く、そして弱いわ」
この世には全ての生物に魔素が宿る。それは魔物も例外ではなく、他よりも色濃く魔素の影響を受けている。
すなわち耐性のある属性もあれば逆もまた然り。
先のアイラの火属性魔法にあまり効き目がなかった事を鑑みるに、火属性は弱点ではなかったのだろう。
他の属性魔法を試していけばおのずと弱点属性が解る。
俺は手数が倍になった魔物の攻撃を神具の向上した動体視力によって回避し右手を構える。
「まずは風魔法"エア・スラッシュ"!!」
放たれた風の刃が魔物へと被弾するが攻撃の手は止まない。
「違うかっ! なら次だ!」
魔物から距離を取り、再度右手を構える。
「土魔法"サンド・ボール"!!」
魔法によって押し固められた高密度の土の塊が魔物へと飛んでいき着弾する。
早い速度で被弾したおかげか、魔物は若干よろめいたが有効打としてはイマイチだ。
「ならこれならどうだ! 雷魔法"エレキ・ショット"!!」
右手を銃の形にして狙いを定め撃ち放つ。
一直線に向かった電撃は魔物の腹部に直撃し、突き抜けるかの様に真っ直ぐ飛んでいった。
「お゛あ゛ぁっ」
効いてる! コイツは水属性か!!
「お前の声初めて聞いたぜ! もっと聞かせろよ!」
そう言いながら雷魔法を続けて同じ箇所に浴びせる。
何度か同じところに当て続け、次第に魔物の腹部が劣化してきている事を俺は見逃さなかった。
「行くぜ! 俺のもう一つの神具"アルデバラン"!! 武器召喚"剣"!!」
神具"アルデバラン"には、俺に2つの力を与えてくれている。
1つはこの仮面同様、身に付けている部位(つまりは左手)の筋力、すなわち握力と頑丈さを飛躍的に向上させる。
後の1つがアルデバランも使用していた"武器召喚"だ。
この力は武器を瞬時に生み出すことの出来る、この神具ならではの特性である。
俺は左手から剣を発現させ、魔物の劣化した腹部に向かって渾身の力で突き刺した。
刃が深々と突き刺さり、魔物は苦悶の表情を浮かべ叫び散らす。
「ぐお゛ぉぉお!!」
「まだ終わってねぇよ!!」
俺は突き刺した剣を横に振り切り、切開かれた腹部に右手を差し込む。
「内側から喰らいやがれ!! エレキ・ショット!!」
肩まで突っ込んだ右手を上方向に向け、脳天目掛けて狙いを澄まし、電撃を放つ。
垂直に放たれた電撃は内部を通り脳天から天に向かって電流が走った。
魔物は絶叫し、やがて声を発さなくなり仰向けに倒れ込んだ。
「どんなもんだ! 内側まで鍛えてから出直して来い!」
やがて魔物の身体が塵となって霧散し、そこには漬物石程の大きさの黒い石が転がっていた。
「まさか本当に・・・た、倒しちゃったの・・・?」
3人を岩陰に避難させていたアイラが俺の方に駆け寄り困惑の表情を浮かべる。
「まぁなんとか。まぁ魔物と言っても所詮は生物。表面がどんなに頑丈でも内臓を焦がされちゃ流石に効くでしょう?」
「どうしてそんな無茶をするのよ! アナタまでもし・・・ぐすっ・・・」
「あっ、あの・・・すみません」
「ぐすっ・・・でも・・・・・・ありがとう」
こうして俺は皆に応急処置を施した後、黒い石のところへ向かい処置を続けているアイラに質問を投げた。
「アイラさん・・・これってなんですか?」
「それは魔石よ。私もそんなに大きいものを見るのは初めて。」
「魔石って?」
「あぁ、魔石っていうのはね、魔物の体内に宿る魔素が、身体の崩壊に伴って結晶化した物よ」
確か、これまで戦ってきたゴブリン達もこの石を落としていたが小石程度の大きさばかりだった。
体内に宿る魔素の結晶という事は、コイツはゴブリンの100倍くらいの魔力を持っていたって事か。
道理でアイラさんの火属性で耐性を超えるダメージを与えれなかったわけだ。
「そうですか。俺も魔物ご落とすにしては綺麗な宝石だなと思って拾ってたんですけど、魔物の成れの果てって考えるとそんなに価値は無さそうですね・・・捨てておこ」
「その大きさだったら、ギルドに売ればアナタ1人くらいなら贅沢しなければ一生働かなくても生きていけるんじゃない?」
「馬の負担になりそうなんで、馬車に積んである要らないものは捨てておきますね! さて、この石はどこに置こうかな!」
「ふふっ・・・分かりやすい性格してるのね」
「無駄な殺生はしない主義なので! この形見は然るべき場所へ保管します!」
「魂胆が見え見えなのよ! ・・・ぷっ、あははは!」
ようやくアイラの心に余裕が出てきて俺は安心した。
町まではもう少しだ。
このパーティを好きになっていた俺は少しだけ寂しさを感じていた。




