第十二話
巨人の魔物との戦闘がウィリアムの先制攻撃から始まった。
「オラァっ!!」
ウィリアムの武器は大剣である。
自身の身長とほぼ同じ大きさの大剣を肩の位置で構え、魔物の左足へ一文字に斬り及ぶ。
「っ硬ぇ・・・!!」
上半身に比べて貧弱そうに見える足を狙ったが、切り傷ひとつ付かない。
「なら上はどうっすか!?」
ウィリアムより身軽な装備をつけているガレオが跳躍し、魔物に斬りかかるが、
「ここもっ・・・硬いっす!!」
行動虚しく刃が通らず逆に跳ね返されてしまった。
「どんだけ硬いんだよっ!! カール! 頭を狙え! 出来れば目だ!」
「無茶な注文を・・・了解!」
上方に待機していたカールが大弓を引き絞り、魔物目掛けて矢を放つ。
バチィィンっと音をたてて命中したかと思ったが、魔物は矢を額で受け目への命中には至らなかった。
「頭まで硬ぇのかよ! だが目の攻撃は嫌がったと見たぜ! カール! 目をどんどん狙え! 俺達は他の弱点を探しつつお前の援護をする! アイラ! 魔法が有効かもしれねぇから合図してくれ!」
「もう準備は出来てるわ! 離れて!!」
アイラが前衛2人にそう伝えると、杖を構え魔法を発動させる。
「いくわよ! フレイム・アロー!!」
杖先から勢いよく放たれた矢を形作った炎が魔物の胸へ直撃し爆発。
パチパチと上半身を炎が包むが、魔物は効いていないのかびくともしない。
「魔法もダメっすか・・・!?」
そして魔物が動き出す。
狙われたのはウィリアム。
魔物は拳を握り締めウィリアム目掛けて振り下ろした。
「くっ!」
辛うじて避けたものの、その拳は地を直撃し地面にめり込む。
直撃してたら致命傷は避けられないだろう。
地面から拳を引き抜いた魔物はウィリアムへ追撃をかける。
拳を引き、ストレートにウィリアムへ放つ。
「ぐあっ!!」
大剣でガードしたものの拳の勢いは凄まじく、大男が吹き飛ばされた。
「ぐっ、くそっ・・・なんてパワーだ・・・!!」
「ウィリアムさん! 大丈夫すか!?」
「ばっ、馬鹿! 油断するな!!」
ウィリアムの安否を気にしたガレオを魔物が襲いかかる。
「あ゛がっ!!」
ガレオに魔物の拳が振り抜かれ、背面の岩場に吹っ飛ばされた。
ガシャァンっと鎧と岩の接触音が辺りに鳴り響き、ガレオは崩れ落ちる。
「ガレオ!!」
カールの叫びに魔物が反応し、近くの岩をカールに向けて投石する。
「くそ!」
カールはその場から退避するが、魔物は投石を続け様に投げつける。
「ふざけんなっ! この!」
カールは大弓から短弓に持ち替え応戦するが、体積が弓より数十倍大きい事に加えて魔物の身体が頑丈である為押し負けてしまう。
「あぐっ!」
遂に避けきれず上半身に被弾してしまったカールは胸装備を破壊する程の威力に力尽きる。
「っ!! くそがぁぁあ!!」
「リーダー!! やめて!!」
アイラの静止も聞こえておらず、ウィリアムは大剣を振りかざし魔物へと向かう。
「うおおぉぉ!!」
渾身の力を込めて剣を打ち込むが、やはりびくともしない。
それでもひたすらに攻撃を打ち込んでいく。
鬱陶しいと言わんばかりに両腕を振り回すが、ウィリアムも歴戦の戦士であるが故に攻撃を見切っていく。
いくら図体がデカくても所詮は人型の魔物。
ウィリアムも次第に魔物の動きに慣れていき、避けては打ち、避けては打ち込む事がパターンとなりつつあった。
「いくら硬くてもいつかは軟いところがでてくんだろ!!」
確かにこのまま続けていれば、多少なりともダメージはある筈だからいつかは有効打があるかもしれないが、魔物もそれまで待ってちゃくれなかった。
突如として魔物の動きが止まり、ウィリアムも警戒して距離を取る。
すると背中の肩甲骨辺りが異様に盛り上がり、ズボボッと音を立てて腕が飛び出してきた。
「!! ・・・化け物が・・・!」
2本の右腕と2本の左腕。
計4本となったその剛腕から放たれる攻撃は先程の比ではなかった。
慣れてきたと思っていたウィリアムに、追加された2本の腕を対応するにはあまりにも体力と気力が足らなかった。
一発被弾してしまったのを皮切りに、腕4本からなる連打にウィリアムの身体は宙に舞い、地面へと落ちる。
力の抜けた人形の様に転がるウィリアムを見て、アイラは絶望感に苛まれていた。
「みっ・・・みんな・・・リーダー・・・」
ガクッと膝が落ち呆然としているアイラ。
そのアイラの肩にポンと手が置かれる。
「大丈夫。まだみんな生きてます。後は俺がなんとかしますので、隙を見てみんなを安全なところへ運んで下さい」
「・・・ユート、さん・・・?」
後は任せろ。俺がこいつをぶっ飛ばしてやる!
漆黒のヘルメットと左手にグローブを身に付けた俺は心の中でそう宣言し、魔物と対峙するのであった。




