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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
三章 アレクレア共和国と騎士小隊結成
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3章 78話 シナの娘

シナ曰く、泊まりで来るお客用の部屋として使われていた場所に案内されたオスト達。

ちょっとした宿泊施設ほどもある家なだけあり、各々が割と広い個室を与えられることになった。

そのため、夕食までに荷解きをすると決まった訳であるが、家が全焼して元々の持ち物が少ないオストは早速時間を持て余していた。

家が燃えたのは一年以上前で流石に何かを買っているだろ?と普通なら聞かれるであろう。

だが、彼は重度の貧乏性であった。

ここ一年宿暮らしや野宿が多かったというのも理由であるが、とにかく私物が少なかった。

着回せるほどの服、あとは冒険者としての装備と小道具くらいなもので、その他の品など昔から大切にしてる槌だけだ。

世のミニマリストも驚きのものの少なさだ。

備え付けの棚やタンスに物を入れて十分もせずに荷解きは完了してしまった。


「どうするか」


夕食までの時間はかなりあるのだが、出かけられるほどの余裕がある訳ではない。

そもそも、土地勘など皆無なのでどこに行けば良いのかも分からず、最悪迷いかねない。

ならば、家の中で何をするかと考えても特に思い浮かばない。

掃除をしようにも既に手を入れられていたようで非常に綺麗な状態だ。

なら、庭をぶらつくかとも考えたが魔物が放し飼いにされているらしく多少の不安がある。

当たり前であるが、家の中を探索は迷惑だろう。

悩み抜いた末に、オストは他の人の荷解きを手伝うことにした。


「で、お前のところに来たわけだ」


「へー、何で俺のところ?」


扉から顔を覗かせるジュンジは、何となくの予想を立てながらも不思議そうに聞く。

オストと仲が特に良いのはマサキ、ヒカル、コヨミの三人だ。

別に他の人と仲が悪いと言う訳ではなく、ジュンジとも会話は普通にするが、なら仲間内で一番に尋ねられるかと聞かれればそれほどでは無い。

むしろ、この二人の接点が一番なかったりするからこその疑問。


「マサキとヒカルがジュンジは片付けが出来ないからそっちを手伝えって言われてな」


「片付けくらい俺にでも出来るよ。全く」


伺うような顔から一転、ハァーと頭が痛いと言わんばかりに呆れるジュンジ。

非常に心外だとその身で表しているが、オストはチラリと背後の部屋の中の覗き見る。

そこには山賊にでも荒らされたのかと思うほどの惨状が広がっていた。


(数分もしないで、何処をどうしてそうなったんだ?)


クシャクシャの服に、戦闘に使う道具。

旅の際に必要であった小道具に、果てはいつ買ったのかよく分からないオブジェクト。

まるで荷物をひっくり返したかのような状況下だ。

こんな行動を、片付けができる人がする行動だろうか。


「部屋凄いことになってるが…」


「ん?あぁ、取り敢えずはどんな物があったのか整理しようと思って」


「分かった。俺も手伝う」


「いや、いいよ」


「いいから、さっさとやるぞ!」


自分の持ち物までうろ覚えなのはどういうことなのか。

不安しかないジュンジに、オストは背中を押して無理やり押し入ることにした。

手伝ってもらっている側が渋々ということで始まった片付け。

コンコン。

ノックの後にひょこっと扉から顔を出すのはコヨミだ。


「ジュン先輩終わりましたぁ?」


「ちょうど終わったところ」


「え、意外ですね。って、あぁそう言うことですか」


聞いておいてなんだが、予想外なことにコヨミは驚いたように手を口元に当てる。

そんな訳が!と思ったが、片付いている部屋に死体が!?

いや、ぐったりとしているだけでその正体はオストだった。

それを見て何があったのか納得がいくと、ご愁傷様でしたと心の中で冥福を祈ることにした。


「ところでどしたの?」


「シナさんがそろそろ集まれーって言ってたので呼びに来たんですよ」


「もうそんな時間か」


そう言われてジュンジが窓の外を見れば、確かに夕暮れ時に差し掛かっていた。

熱中しすぎて時間の感覚が早くなっていたが、反比例するように長く感じたオストはやっとかという思いだ。

あの片付けは彼の人生史上最も苦戦したと断言できるほどには苦労した。

呼びに来てくれたコヨミを含めた三人は、最初に通された居間へと移動する。

中には知らない顔を含め、全員が既に見えるのでオスト達で最後だった。

そのタイミングでシナがパンパンと柏をついて全員の気をひく。


「全員揃ったね。それじゃあ夜ご飯!の前に今いる残りの住人を紹介するねー。隣にいるのが右から順に妻のラナ、娘のエレナリーゼ、息子のジルドだよ」


「初めまして、シナから話は聞いているわ。妻のラナです」


「エレナリーゼよ」


「ジルドです」


最初に妻と紹介されたラナは、冴える青髪に綺麗な佇まいをする物腰の柔らかそうであり、見た目の若さも手伝い良いところの令嬢を思わせる。

息子と紹介されたジルドは、暗い緑髪に母親譲りの垂れ目が特徴であり、言葉や雰囲気こそ大人びているが予想していたよりもずっと幼く十代なのかすら定かではない。

そして…


(あれがシナの言ってた問題の娘か)


オストは失礼にならない程度にエレナリーゼを観察する。

父親譲りの吊り目に、母親譲りであろう水色の髪。

美人ということばが真っ先に浮かぶほどに整った顔立ちをしており、ラナと並んでいると正反対の見た目はかえって双子の姉妹にも見える。

クールビューティーという言葉がぴったりでよく言えば芯が強そう。

悪く言えばプライドが高そうというのが第一印象だ。

しかし、シナが言うほどの問題があるのかと聞かれればそうでは無い。

気は強そうではあるが、言葉に棘がある訳でもなく態度も普通。

予想ではメルが常時怒っているような暴君を想像していただけに、肩透かしな気持ちを抱く。

オストが考え事をしている間に、シナがざっくりとした紹介を家族にし終えていた。


「紹介も終わったし夕食しようか。今日は同居人が増えるお祝いということで、親睦会を兼ねてビュッフェ風にしてみたよ」


そうして運ばれてくる美味しそうな多くの料理達。

昼を軽くしか食べていない面々なだけに、誰からともなくお腹の音が鳴る。

シナの指示のもと食器や料理を机に並べればすぐに乾杯の音頭を取り終える。

見たこともない食事を前に、オストはエレナリーゼのことは一先ず置いておくことにした。

最終的に目に入った入っものから食べていけば良いかと盛り付けて食べ始めれば、マサキとヒカルが近づいてくる。


「ジュンの手伝いはどうだった?」


「中々骨が折れた」


「おつかれさん。アイツ整理整頓が出来ないから、どの道誰かが助けに行くことになってたから助かったぜ」


「そんなに…でもないか」


ヒカルに言われてフォローをしようとするが、片付けの風景を思い出せばあれは誰かが手伝わなければ終わらなかったと思い出す。

まさか、いつ買ったかも分からない食べ物が出てくるとは思わなかった。

あの時ばかりは顔が引き攣った。

なんだか、ご飯の味が変わったような気がしてくるような気持ちがし、オストの眉がピクリと動く。


「この話やめないか?」


「もうトラウマになったのか…まぁ、メシの時にする話でもないか」


ヒカルも同じようになんとも言えない顔になる。

確かに、ジュンジの掃除手伝いはご飯の時にする話題としては不適切だった。

そもそも、そんな話をするために声をかけてたのではなく、しっかりとした話題があったのだ。


「俺達もゴミの話に来た訳でもないしなぁ。で、所感だけど思ってたより普通だよな?」


急な話題転換かつ、主語が抜けていたが何のことかはすぐに見当がつく。

三人もと一点に視線を送れば、シナと談笑?をするエレナリーゼの姿を捉える。

談笑と断定できないのは、シナは普段通りにニコニコしているがエレナリーゼは逆に難しい顔をしているからだ。

真顔だけしか見たことがないが、それでも分かるくらいには顔がこわばっている。


「そうだな。シナの話だと傲慢で我儘なヤツだと思ってたからな」


「俺も似たり寄ったり。さっき少し話したけど、別に不自然なこともなかったし」


オスト達がシナに雇われることになったキッカケ。

問題児としか詳しい説明をされていなかった娘だが、実際に会ってみた三人の印象は普通だった。

厳密に言えばシナの娘なだけあって間違っても一般的では無いのだが、想像以上にマイルドであった。


「猫は被って無さそうだったな。まぁ、俺は何となくシナさんの言う問題が分かったわ」


「流石、自称人間観察が趣味な変態」


「マサキ…その趣味は言わない方がいいぞ?」


「言わないし、人間観察が趣味なんて言ってねーよ?」


「よく人を見てるって言ってただろ」


「コミュニケーションのコツだろ、それ。そんなことより、エレナリーゼはエリート思考が強いんだろ。自信に満ち溢れてますってオーラが出てるね」


「分からなくはねぇけど、偏見すぎるだろ」


「自信は態度に出るし、そういう人は我が強くて他人にも厳しいことが多い。見てみろ、ジュンジとシュウタが近くにいるけど霞んでるというか消えてるぞ」


「最後のただのディスじゃねぇか」


気にも留めていなかったが、よく見てみれば確かに二人の姿が!

ヒカルはともかく、オストは本気で気がついていなかった。

何だか申し訳ない気持ちが湧くがそれはひとまず置いておくとして、マサキの言うことについても一理ある。

人の性格はある程度は行動など目に見える何かに現れやすい。

勿論、気をつけていたり訓練を積めば隠せるようにはなるが、エレナリーゼからは取り繕っている雰囲気は無い。

オストはマサキの肩を叩く。


「なぁ。シナはエレナリーゼのことを強いって言ってたが、実際どう思う?」


オスト自身、かなりの実力を短期間でつけることに成功はしたが、他人の力量を測るなどの直接戦闘に関わらない技能はまだ疎い。

何となくであれば強さが分かるが、残念ながらエレナリーゼのは読み解くことができない。

そのために、そういうのが一番得意なマサキに耳打ちするように聞く。


「俺達より強いっていうのはシナさんの贔屓目じゃ無いな。多分、パーシィと同じかちょっと強いくらいか?戦ってるところを見ないと正確なのは分からんけど」


「そうなると上級、それも超越級手前か」


「魔力量だけならパーシィ以上。てか、サキを除けば俺達の中でぶっちぎりに多いな。あれ」


マサキのおおよその予想を聞けば、シナの親バカ目線での評価では無いと分かった。

凡才であればどれだけ鍛えようとも上級、中には中級程の強さで一生を終える者も少なくないのだ。

十代で中級程の強さに至っているだけで天才と言われる世界。

話に聞いた歳は十九歳。

話と第一印象を合わせれば間違いなく気弱な性格では無い。

その年齢にしてあれほどの力を持っているならば、多少天狗になっていても不思議はなかった。


「他者を寄せ付けない才能に加えて親は元騎士団長。マサの言うこともあながち偏見じゃないってことかよ」


これらの情報をまとめれば、確かに最初にマサキが出した結論になるとヒカルも認める。

オストも大体似たような結論に至り、気の強い女性に慣れているからと楽観的な思考を捨てる。

なにしろ、この頼み事はあの食わせ物のシナからの頼みなのだから。

一筋縄ではいかないと気を引き締め直す。

この心構えをしておいてよかったと思う瞬間は意外にもすぐにやってくることとなる。

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