2章 74話 閑話 ゲテモノ三人クッキング
「トゥルルっトゥっトゥっトゥ。トゥルルっトゥっトゥっトゥ」
不意に始まるお昼の某有名料理番組のオープニング。
音声は完全口再現かつ、勢いに任せた音程により超低クオリティな音楽。
口のハイテンションと表情のローテンションが、やる気があるのか無いのか不安とさせる中。
マサキは入りのみ歌い終えると、「はいっ、始まりましたー」と棒読みの挨拶を始める。
気分はお料理番組MCだ。
「ゲテモノ三分クッキングのお時間でっす。司会進行のマサです。そして、ゲストのアルマークス兄弟のお二人でーす」
「それで、今日は何作ろうか?」
「そうですねー…」
しかし、この場にこのネタが分かる人は一人もいない。
当たり前であるが、ツッコミも不在なために当たり前の如くスルー。
いきなり訳のわからない奇行に走れば、何かしらのアクションを取りそうなものだ。
しかし、シナは奇行など気にもしておらず、ルナエルに至っては聞いてすらいない。
入りは駄々滑りな結果に終わるが、マサキは何事も無かったなかっかのように突き進む。
時は日も登り切らぬ早朝。
朝ご飯の当番になった為に、こうして朝早くから活動するマサキにイレギュラーな事態が起こった。
本来の朝食当番はマサキとシナの二人であったのだが、そこにルナエルも加わりたいと言い出したのだ。
この時、普段関わりの無い(と言うよりも基本寝ているのに加えて無口、考えが読めない)ルナエルと料理をするというクソデカハードルが出現したのだ。
そもそも、「やる」という一言かけられただけであり、え?と固まっていたマサキにシナが意味を教えてやっと理解できる会話からのスタートだ。
訳もわからずに何故?と疑問符を浮かべてしまうのも仕方がないことだ。
気になったことは取り敢えず聞く主義なマサキは、一先ず思った疑問を聞くことにした。
すると、またもシナが理由を説明することになる。
元々料理が趣味ということで、マサキが以前おふざけで作っていたゲテモノ料理に興味があるからそれに加わりたいとのことだった。
それをシナから聞いた時、理由を聞いても理解できな過ぎたのに加えて、信じられない気持ちからルナエルの方を見るとコクリと頷かれる。
驚きのあまり、ゑゑっ!と珍しく歪む顔。
あのシナさんに介護されて生きている様な三重の意味で人外なこの人が料理が趣味!?と、かなり失礼な感想を抱いて。
そもそも、ゲテモノ料理に興味を抱くことにも驚きだが、自分も同じ穴のムジナなのでこの際は置いておくことにする。
そんな訳で、特に断る理由もなく強制的ゲテモノクッキングが始まることになった。
「今日は森グラタンにしましょうか」
「普通…」
悩んだ末にポンと出した案。
それを聞いたルナエルは、変わらぬ表情ながらもつまらないと不満な声をあげる。
「俺のモットーは最低でもそこそこ美味しく食べられるゲテモノですからね。食べれない物は料理とは言いません」
「それもそうだね。全員に出すんだし、ボクも朝ご飯抜きはイヤだよ」
「安心してください。中身はしっかりゲテモノで行きます。材料紹介でーす」
パチンと指が慣らされて机の上に現れる食材達。
肉に芋、大小さまざまの数種類の木の実、キノコ、草そして…
蠢く芋虫。
「これ本当に大丈夫なの?ボクとかルナは大丈夫だけど、芋もキノコも草も毒だらけだよ」
そのあまりにもひどい食材の数々に、シナは苦笑いしながら心配そうに言う。
相対的に、小さく感心した様に息を吐き出すルナエルは心なしか目を輝かせる。
他の人が居れば間違いなく触れられたであろ芋虫なのだが、ここにまともな人は居ないので割と普通の食材に分類される。
芋虫を普通に食べものとして認識してる美男美女は、控えめに言っておかしい筈なのだがマサキも昆虫食は食べられるので疑問にすら思わない。
「安心してください。全部解毒できる物ですし、最悪毒にやられても薬があります」
「たしかに毒性はあまり強く無いしね。これならいけそうだね」
心の中で食い合わせについては考慮してませんが…と呟きながらも平然と答える。
もし当たったらどんまいの精神で行くつもりだ。
安全性が分かったシナはにっこりと笑いながら言うが、最後の言葉が不吉だ。
「それじゃ、最初は石窯から作りましょうか」
そこから!?
初っ端からおおよそ料理の工程とは思えない工程を指示する。
他人がいれば驚きのあまり振り返ってしまうかもしれない。
しかし、グラタンを作る窯などないのだから仕方がない。
そうして出来上がるのが、制作時間一秒未満で出来る石窯ならぬ土窯。
ルナエルによる匠の技だ。
「これでいい?」
「おぉ、完璧ですね…土というか完全に石だな」
強度確認と中の様子を確かめるために中に手を入れるマサキ。
その出来栄えに嘆息を上げるが、褒められ本人はそんなこと気にもせずに服を引っ張って先を促す。
「じゃ、グラタンをちゃっちゃと作っていきますか。まずは下処理としてポテトとキノコの解毒から入りましょう」
そもそも、グラタン作りの下処理に解毒作業は無い。
そんな当たり前など無いかの様に、さも普通の工程ですよ?と言わんばかりに迷いのない下処理を済ませて行く。
一先ず、煮る晒すなどの簡単作業を二人にも振りつつサクサクと進めていく。
やっている事は完全に薬師のそれなのなが、1人も疑問なく黙々と作業をする。
そうして、一時間もせずに全ての食材が一応食べれる段階まで行く。
「はい。じゃあ、ここからは普通のグラタン作りですから、適当に具材をカットしていってくださーい」
じゃ、これお願いしますとマサキがシナとルナエルに食材を振り分け、自身はホワイトソースの製作に着手する。
「なに?」
「小麦粉と油ですね。バターじゃないですけど、まぁいけそうな感じがするんで」
「変」
「今は臭いですけど、調味料と匂いの強い木の実入れるんで多分大丈夫ですよ。と言うかルナエルさん、食材のカットは?」
マサキはまさかの初っ端からホワイトソースでは無い何かを作っていた。
料理を趣味としているだけあって、ルナエルもグラタンのレシピは知っている。
工程こそホワイトソースなのだが、それが本来の物と違うからこそ疑問。
そんな短いと問いだが、マサキは早くも慣れた様に意味を汲み取ると、頭の中で調理工程を組み立てながら説明する。
その途中、うん?と逆に疑問を覚える。
カットを任せてまだ数分も経っていない筈なのだが、まさかやっていないのかと。
まぁ、元々二人で作る予定だったのでそれでもいいかと思いながらも聞くと…
「終わった」
「結構量ありしたけど」
ん、と言ってルナエルの指差す方を見てみると、そこには下処理の施された食材が入ったボウルと優雅に寛ぐシナの姿があった。
早過ぎないかと一瞬驚くが、冷静に考えれば身体能力オバケ達の作業スピードだと思えば普通だと思い直す。
そうこうしているうちに纏まりが出てくると、牛乳の代わりに果実ジュースを加えていく。
完全にお菓子作りの様な甘い匂いが漂い始め、これは何?と聞かれてもグラタンとは答えにくい物になっていく。
そんな調理工程が面白いのか、ルナエルは手元をじっと見つめる。
とは言っても、それが出来たのはここまで。
マサキが調味料を加え始めると、ルナエルも面白半分にアレンジを加え始め、二人であれよこれよと遊びを交えて数分後。
「うん。中の色は少し変だったけど、見た目は完全にグラタンだね…」
出来上がった会心の一皿。
まろやかな香りに少し焦げたチーズが食欲をそそる。
やっていたことは薬物実験の様な物だった筈なのだが、何をどうしたらこれになるのか。
人智を超えた力である魔法をさらに超えた魔法を人は奇跡と呼ぶ。
そんな摩訶不思議な力によって生み出された、グラタンという名の何かを前に苦笑いを禁じ得ない。
その中には、マッドサイエンティストルナエルの手綱を握り切ってマサキの功績が大きい。
なにせ、途中から気分で材料を足していったのだから、その調整の苦労は計り知れない。
とは言いつつも、マサキも割と楽しんでやっていたので、本人的にはいうほどの苦労でも無いのだが。
「それじゃ頂きます」
小さな器によそられたグラタン。
人に出すのだから、最低限身の安全の補償くらいしなくてはとのことで試食を始める。
スプーンで掬い上げると、露わになるのは茶色味があるホワイトソース。
コンセプトとしては海老ポテトグラタンのそれは、一見そうとしか見えない完成度である。
作った張本人達であるために、中に入ってる食材は知っているのだが、三人とも特に躊躇なく口に放り込む。
数度の咀嚼後。
「普通に美味しいね。なんて言うか、新しいグラタンかな?」
「そうですね。グラタンかって聞かれるとグラタンなんですけど、なんか違いますね」
「美味しい」
総評としては美味しいグラタンが出来た。
マサキとしても食べられる物には調整する様にしたのだが、まさか普通に美味しいものが出来ようとは。
ウッソだー…と思いながらも、まぁ美味しいならそれでいいかと思い直してスプーンを動かす。
そうして提供されたゲテモノグラタン。
全員からそれなりに好評な評価をもらい、何事もなく新しい一日をスタートさせた。
しかし、そのグラタンが何で出来ていたのか。
それを知るものは、調理をした三人以外誰も知らない…
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