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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
二章 貧乏鍛治師と始まりの出会い
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2章 67話 炎剣と銀剣

燃え盛る炎剣。

赤い尾を引いて、剣は敵を切り裂かんと振り下ろされる。

ハーヴィスは即座に剣を己との間に滑り込ませるて、燃え盛る魔剣を受け止める。


「ゴミが、調子に乗るなァア!!」


「ハァァァア!!」


舞い散る火花。

あまりにも遅い全力。

この勝敗を分けたのは経験の差も関係あるだろうが、一番は傲慢さだった。

歯を食いしばり押し返そうと力を込めるが、オストの一刀はそれを決して許しはしない。


「ハッ!!」


「ガァァォァア!?」


剣は押し込まれ、ハーヴィスの体を炎剣が通り過ぎる。

左目から腹にかけて切り込まれ、獣の様な叫び声が響き渡る。


(浅い!)


仕留め切るはずが、途中で斬撃をずらされてしまったオストは焦りを覚える。

実力で言えばラフスとの差よりも広く、この一撃かもしくはこの機に押し切れなければ勝利はは無い。


『ゲイル・カッターァ!!』


急ぎ追撃を仕掛けようとするが、複数の風の刃が四方八方に放たれる。

オストは当たりそうな物だけを弾くと、強引に斬りかかろうとした時。

ブレるハーヴィスの手元。

嫌な予感を抱いて剣を引き寄せる。

重く響く金属音。

魔剣に巨大な何かが突撃された様な衝撃を受けると、堪えきれずに吹き飛ばされる。

本日だけで何度も味わった背中への衝撃に、慣れないなと顔を顰める。

今のは一体。

分かるのは、痺れる腕から予想するに強い一撃を貰ったこと。

痛みとは別の理由で冷や汗が流れ落ちる。

それはつまり、魔剣を引き戻していなければ体を両断されていたということだからだ。

気を抜いていたわけではないが引き締め直すと、オストは睨む様に集中する。

その視線の先には、俯き顔を押さえてその場から動く気配のないハーヴィス。


「クソッ!クソッ!クソガァァ!!」


バッと顔が上げられると、鬼の形相で一直線に伸びる火傷跡を押さえていた。

切られた所は焼かれて血は噴き出していない。

それを引き換えに地獄の様な苦痛があり、顔が歪めながら殺気を叩きつけていた。

感じたことのない圧力。

間違いなくオストの人生の中で一番の怪物の殺気を前にして、体をすくませて喉を鳴らす。


「殺すッ!楽に死ねると思うな!!」


一瞬にして前に現れるハーヴィス。

轟ッと空気を切り裂き近づかれると、繰り出される斬撃をスレスレで防ぐ。

しかし、力が先ほどまでとは比べ物にならず、地面に転がされてしまう。

顔を上げるが既にハーヴィスの姿は無く、背後を斬りつけられる。

それだけに終わらず、横蹴りがオストの右腕をへし折りながら吹き飛ばす。

どうにか左手で魔剣を手放さなかったが、あまりの痛みに視界がチカチカとさせながら歯を食いしばる。


「死ね『ゲイル・カッターァ』!!」


怒声で紡がれる短縮詠唱。

それも複数の風の刃が、オストごと周囲の建物を切り刻む。

千切れる右腕。

鈍痛の鳴り響く頭。

目だけを動かして見ると建物はゆっくりと崩れ、自分も腕だけで無くバラバラに刻まれていた。


(死んだのか?)


風属性『ウィンド』の上位属性である暴風魔法の『ゲイル』。

それを乱射されて直撃したのだから、耐えられる道理などなかった。

死んでしまう。


(ふざけるな…)


死んでしまうのが嫌な訳ではない。


(まだ死ねないんだ…)


メルを助ける前に死ぬなど認められない。


(治りやがれ!!)


奇跡でも神でもなんでも良い。

自分が何故ラフスに切られても無傷だったのかはわからない。

何故こんなにも強くなったのかも謎だ。

だが、よく分からないながらも何が自分の中にあることだけは分かる。

何だっていい。

今力をよこせと強く思うと、オストの思いに応える。

バラバラだった体は、逆再生される様にくっ付く。

それだけに収まらず、今までですら過剰だった力が更に熱となって押し寄せる。

邪魔な物を力だけで振り払い瓦礫の雨から抜け出すと、目を見開いたハーヴィスはたじろぐ。


「はぁ!?」


「行くぞ、ソボック!!」


異常な熱さ。

そんな気がしていたオストだが、本人が気がつかないだけで体の至る所から火が漏れ出ていた。

炎をありったけ魔剣に注ぎ込む。

体から漏れ出ていた炎は燃え移る様に魔剣に移動すると、赤光を強めて燃え盛る。

己の敵を焼き払わんとして。


「ゴミが!いい加減に死んどけ!!」


確かに切った感触はあった。

風の刃も間違いなく切り刻んでいた。

なのになぜ立てるどころか、さらに魔力を強めて立ち向かってくるのかハーヴィスには意味がわからなかった。

理解不能な現象と思い通りに行かない現実にドス黒い怒りを沸き立たせると、諸悪の根源に斬りかかる。

撃ち合う炎剣と銀剣。

重撃がオストの体力を奪い、炎がハーヴィスの肌をチリチリと焼き撫でる。

オストが物を焼くと、ハーヴィスが切り裂く。

一進一退の攻防は互角…ではなかった。

鋭く力強く振るわれる銀剣の一撃。

オストは炎剣で打ち返すが、力負けしていたために体が引っ張られて足に切り傷を作る。

二度目の超強化を経てなお、ハーヴィスの身体能力に勝てていなかった。

一応動きは確認でき、吹き飛ばされていた攻撃を耐えることは出来る様にはなったがそれでも届いてはいなかった。

さらに、一番大きな差として技術の差が明らかに出てきた。

攻撃や防御の一つ一つの隙がほとんど無いのだ。

どうにか食らいついて剣を打ち合っているが、実情としては防戦一方なのは変わっていなかった。

にも関わらず、ハーヴィスが倒しきれ無い訳があった。


「バケモノが!早く死ねェ!!」


「お前の方が化け物だろうが!」


剣の間を縫った突きがオストの肩を抉る。

痛みで一歩下がり、剣が引き抜かれると傷口から火が噴き出す。

少しの間燃えて消えると、刺し傷までもが消え去っていた。

そう、これがハーヴィスが勝ちきれ無い理由。

いくら攻撃しようとも勝手に回復されてしまうのだ。

勿論、これには種があり恐らくはスキルによる物だろうと当たりをつけていた。

スキルにも色々あるが、どんな能力にも必ず限界というものが存在する。

地力で勝っているならば、力尽きるまで削り切るまでと致命傷は無いながらも、確実にオストにダメージを入れていた。

だが、いつまで経っても限界が来る気配が無い。

ハーヴィスが知る限り、背中の切り傷と『ゲイル・カッター』による攻撃で致命傷を二回。

戦闘能力が下がる様な大きな傷が数度。

細かい切り傷なら無数に与えていた。

有名なスキルとして『再生』と呼ばれる自動回復スキルがあるが、これは魔力を消費する。

更に言えば、致命傷を治せるほどに強力だとしても、普通ならば一度が限界なのだ。

それほどに、傷の治療には魔力を消費する。

オストと同系統のスキルを所持していると睨んで持久戦に持ち込んでいるのだが、今も尽きるどころか魔力が火になって体から漏れ出ていた。

間違いなくオストにあそこまでの魔力は無かった。

それこそ、一般人の魔力より多少優れているくらいだった。

それが今は、戦闘階級が超越級のハーヴィスを超えると思える魔力を持っていた。

魔法は補助程度で、近接戦を得意としているために魔力は高い方ではないが、それでも上級の魔導士と変わらぬ量の魔力はあった。

現在のオストの魔力総量は魔法特化の超越級と遜色がない。

果ての見えぬ持久戦。

先に我慢の限界が来たのはハーヴィスの方だった。


「アァァァァア!今すぐに死ねェエ!!」


怒り狂っているとは言え人外の一人。

感情とは裏腹に冷静に動く思考は、力押しによる短期決戦が有効だと判断した。

その目を血走らせるハーヴィスは、身体強化の段階を一つ上げた。


(まだ強くなるのか!?)


轟ッと空気を切り裂く剣は、避けたはずのオストを切り裂く。

それだけでなく、切り返しの速度も速くなっており、避けてできた余裕が一瞬にして持っていかれる。

ぶつかり合う剣。

ハーヴィスはすぐに次の太刀を振るっているのに対して、オストは剣が大きく流されてしまう。


『ゲイル・スラッシュ!』


ハーヴィスは剣を縦に振るうと、暴風で作られた極太の刃が一直線上の全てを切り裂く。

間一髪で避けるオストだが、斬撃の後を追う様な暴風に切り刻まれて体が宙を舞う。

『ゲイル・スラッシュ』が通り過ぎ、崩れ去るスラムの一角。


(なっ!?)


空中に打ち出されたオストは、身体中に切り傷を作りなその威力に戦慄する。

直撃していれば自分もああなっていたのかと。

そんな宙に舞うオストを見て、ハーヴィスは盛大に舌打ちをすると次の魔法を準備する。


『ゲイル・カッター!』


(まずい!早く落ちろ!)


打ち出される風の刃達。

魔法の気配を感じ、オストは空中で体を捻って避けようとするが数が多すぎた。

避けられない物は魔剣で対応するが、それでも無数の傷が体に刻まれていく。

長く続く刃の嵐。

やっとの思いで『ゲイル・スラッシュ』に薙ぎ倒された廃墟の上に着地すると、体を燃え上がらせて尚夥しい血液が流れ落ちる。

ゼェゼェとする息を一呼吸で整えようとするも、極度の疲労がそれを許さ無い。


「ソボックは…」


顔を上げてハーヴィスのいた場所に視線を向けるが、既にそこには何も無い。

姿を探そうとすると、背中を指す様な殺気に体を動かされる。


「ぐぁぁァ!!?」


「クソが!!」


その場から飛び退くも、銀が視界の端で鈍く光ると左腕が空に投げ出される。

腕を落とされたオストは、激痛を堪えることが出来ずに悲鳴を上げる。

切断面から火が噴き出し、これが痛みによる熱さなのか火の熱さなのか見当がつか無い。

奇襲を避けられたハーヴィスは悪態を吐くも、確実に仕留めるべく次の斬撃を放つ。

オストは汗を吹き上がらせ、ながらも魔剣を振るうも苦し紛れの剣は弾かれてしまう。


(しまったッ!)


手の中からスルリと消える魔剣。

踏ん張りが効かずに尻餅をついてしまい、完全な無防備となったオスト。

それを見たハーヴィスは口元を歪めて笑う。


「いい顔ダナァ!」


半ば終わった殺し合い。

完全有利な状況に嬉しさと憎悪が止めどなく溢れ出ると、ハーヴィスは剣を振り下ろす。


「まずは右腕ェ!」


左腕と同じように斬り飛ばされる右腕。

限界まで酷使された喉が叫びを上げる。


「右脚ィ!」


体重を乗せた剣は太腿に止まらず、その下の地面まで深く刺さる。

パチパチと爆ぜる何か。

喉が焼ける様な痛みを訴えるが、それ以上の痛みに襲われる。


「左脚ぃ!」


ハーヴィスは剣を引き抜くと乱雑に振り下ろし、オストの左脚を深く切りつける。

切られた場所から火が漏れ出るが、最初に出ていたものに比べれば頼りない。

それを見てやっと限界が近づいていることがわかる。


「まだまだ頑張ってくださいよォ!ハハハハハ!!」


痛ぶる様に振り下ろされる剣は、オストの体に深い切り傷を刻んでゆく。

獣の様な叫びをBGMにして、ハーヴィスは高笑いをしながら続ける。

次第にオストの血で当たりが染まり上がる。

火も今では殆ど溢れ出ず、血まみれで倒れ伏していた。


「そろそろ飽きてきましたね。もう死んでいいですよ?」


高く掲げられる銀剣。

月光に照らされて怪しく光ると、魔力を纏ってオストを両断せんと振り下ろされる。


「それは困るよ」


ピタリ。

音もせずに渾身の一撃が止まると、横から聞き覚えのある声をかけられる。

剣の下には模様があしらわれ、布に巻かれた少し湾曲した棒が一本。

オストはまだ残っていた意識を使い、ハーヴィスが目を見開いた場所を見る。


「シィ…ナ…!?」


「大丈夫?じゃなさそうだけど安心してよ」


そこにいたのは、重傷を負っていると言われたシナだった。

いつもの軽薄な雰囲気とは打って変わり、落ち着きをはらって優しげに微笑む。


「毒はどうし…!?」


「ちょっとあっち行ってて」


何故ここにいるのか問おうとするが、いつの間にかハーヴィスの胸の上に手の平が添えられる。

次の瞬間、ハーヴィスの姿が掻き消えると先にある建物が爆ぜるのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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