2章 50話 詐欺師は善人を演じて人を騙す
祝50話!!
正直、この時点で三章は行く予定でした。
行って欲しかった。
文書を縮めるのはむずかしいですね。
下まで降りると狭苦しい空間であった。
壁に空いた穴から水がチョロチョロと流れ落ちる音と、鼻が曲がりそうな匂いがここが下水道だと主張する。
幸い、魔道具らしき薄く光る灯りがあるので真っ暗と言う訳ではないが、視界が良好とは言えない。
「よくこの隠し通路を見つけましたね」
「あの建物が革命派の持ってる倉庫だって知ってたからね。隠し通路の一つくらいあると思ってたよ」
「だからって、そう簡単に見つかる訳ないだろ。断言は出来ないけど、俺たちが気絶してからあんま時間は経ってないはずだ」
「あー、もしかしてボクのこと革命派の回し者ってあやしんでるー?」
革命派の回し者と言う点は怪しんでいないが、シナのことを疑っていることは間違いない。
オストはお人好しだが、決して人を疑わないわけではない。
むしろ、スラムで生活しているために人一倍に警戒心はある。
だからこそ、革命派に関わっていなくとも魔導書に関わっている可能性く、トサカ男の発言からも予想できることだ。
何より、この男は非常に胡散臭い上にオストと合わない。
私情ですかと言うかもしれないが、経験上気に食わないと思う人物は大抵腹に一物を抱えているので、あながち馬鹿にも出来ない。
「革命派じゃないって言うのは分かる。けど、なんでこの隠し通路を知ってるんだ?革命派の構成員でもないのにおかしいだろ」
「地下の地図は持っていたからね。キミ達が連れられた場所も分かってたし、探知系の魔法を応用すれば簡単に見つけられるよ」
「なるほどな。だが、それだけじゃないだろ。なんで俺達を助けた?お前には何か目的があるんだろ」
オストは視線に虚偽は許さないと込めて睨みつける。
それを受けたシナは、依然として飄々とした態度を崩しはしないが、肩を下げて降参のポーズをとる。
なんともわざとらしく、演技がかった動きは余計に胡散臭さに拍車をかけるが、何も知らないことには見極めることもできない。
「分かったよ。けど、ここに留まるのも危ないから歩きながらでもいい?」
「それで構わない」
「分かりました」
確約が取れればオストとしては問題ない。
シナが「こっちこっち」と声とともに手招きをしてから歩き始めると、ソボックと共に後ろについていく。
「どこから話せば良いのかなぁ。ボクも途中参加だから難しいな。取り敢えず、話は戻るけど魔導書の話をしようか」
嘘か本当か、シナはうんうんと唸って悩ましげに呟く。
頭の中で纏まり終えると、先程も話題に出た魔導書に戻ることになる。
「キミが革命派に勘違いされた理由は、その魔導書だって言うのは分かるよね」
「ああ」
「まぁ、簡単に言うとその本が革命派が企ててる計画のキーアイテムなんだよ」
「この本がか?凄い魔導具ってのは分かってが、それでも魔法が使える様になるだけだろ」
オストには、この本にそれだけの価値があるとはとても思えない。
別に魔導書のことを軽んじているわけではない。
この本があれば即座に魔導士に早変わりになると言われば、確かに凄いとは思っている。
しかし、それでも言い方は悪いが魔導士が一人増えるだけであり、そこまで重要性を感じない。
「さっきも言ったけど、魔導書に保存されている魔法はどれも強力なんだよ。それなんて特にね」
「そんなに凄い魔法なのか」
「凄いなんて物じゃないよ。その魔導書に記される魔法は死霊魔法。死体を操り、万の軍勢を作ることもできると言われている禁忌の魔法」
「死霊魔法って本当ですか!?」
「死霊魔法?なんだそれ」
死霊魔法と聞いた途端、ソボックは今までで一番の驚きを見せる。
そんな信じられないと言わんばかりに体を恐怖で震わせる。
逆に、死霊魔法を知らないオストは、ソボックのその驚きかたの方が驚きだ。
「死霊魔法って言うのはですね、自分の魔力で呼び出した死霊を死体に憑依させてゾンビを生み出す魔法です。これを歴戦の騎士なんかに憑依させれば、その騎士を駒として使うことが出来るんです。ほかにも、広範囲にかけてゾンビを大量に呼び出すこともできるんです」
「それは凄いがそんなに驚くほどか?」
「この魔法は過去に国を滅ぼしたと言われてるんです」
「国を!?」
そう言われれば、流石にオストもその凄さが理解できる。
手元にあるただの本が急に、いつも爆発してもおかしくない爆炎石の様に思えてくる。
なんていうものを拾ったんだと、自分の不幸さに辟易するとふと、ある仮説が思い浮かぶ。
「おい、待てよ…確か、これが革命派のキーアイテムだって言ってたよな…」
「さて、そんな極悪外道魔法が使えるようになる魔導書だけど、これはどんな風に使われるでしょうか?」
クイズを出す様な気軽さで、核心とも言えるシナの質問。
その口頭無下な予想と、それが可能になるという重大さにオストとソボックは、言葉にすることすらできない。
革命派の計画とはつまり…
「正解は、国取りだよ」
あまりにも現実味の無い答え。
革命派が大きな組織とは言っても、相手はあくまでも国だ。
それは、今のリキシア王国の王家が代わっていないことから、国取りを出来るほどの力はないとことの証明だった。
だからこそ、今まではただの危険分子程度の扱いであり、オストの認識もその程度だった。
しかし、この魔導書があればそのパワーバランスが崩壊することは、誰であろうと容易に想像出来る。
国取りを可能とすることも。
ソボックが言ったゾンビとは、死体の魔物で強さはピンキリではあるが、平均的な強さでいえば一般人を大きく凌駕する身体能力を有している。
一体であれば、知能の低さが仇となりそれほどの脅威では無いが、これが群れとなれば途端に話は変わる。
知能の低さを補って余りある身体能力の高さに、痛みを感じない体。
部位を破壊されようとも問題なく動きは続けるタフさ。
これを兼ね備えた魔物が徒党を組めば、どれほど厄介かなど語る必要も無い。
もし、ソボックの言うようにゾンビを万単位で出現させる代物がこの国で使われれば、パニックでは済まない。
オストは鼓動が速くなるのを感じ、背中を脂汗でびっしり湿らせる。
驚愕の推測にパンクしそうな脳を回転させるが、考えがまとまることはない。
今までそこそこハードな人生を送っているつもりだが、間違いなく最上位の問題だ。
「それで、ボクの目的に繋がってくるんだけど、他国の工作員?スパイ?まぁ、心優しいボランティアでいっか」
「なんで、悩んだ末がボランティアなんだよ」
「ぶっちゃけここに居るのは仕事半分、私用半分だからね。勝手にやってる事だから、これ自体に給料でてないんだよ…」
何故だろうか。
事はかなり重大な話だったのが、シナが話していると何とも締まりがないのが悲しい。
給料の下りで初めて少し沈んだ表情をしているところからも、今までの話が急に大したことがない様に思える。
あまりの落差に、オストが気を取り直してツッコミを入れてしまう程だ。
「とにかく、仕事で死霊魔法の魔導書とクロフォード教団っていう組織の調査で潜入してるんだよね」
「クロフォード教団?」
「世界的に指名手配されてる犯罪集団だと思っとけばいいよ。他でも大体そんな認識されてるから」
「そのクロフォード教団って言うのがどう関係してくるんだ?」
「その魔導書を革命派に売ったのがクロフォード教団なんだよ。で、ついでに革命派を探ってたらなんがバレちゃったんだよねー。廃れた王国の田舎組織だって思ってたら、結構情報網しっかりしてて驚いたよ」
ハハハと笑って流すシナだが、話からして工作員のようだがそんな適当に仕事をして良いものなのだろうか?
所属する国がどこかは知らないが、オストはその国が心配になる。
だが、これでシナが何故革命派から追われていたかは分かった。
白い目を向けながらも、頭の中で今出た情報を整理し終えると次の質問を飛ばす。
「お前の仕事は分かったが、俺達を助けた理由は?肝心の目的はなんだ?」
「あれ?思ったより頭が回るね」
「お前みたいなのは詐欺師に多いからな。それらしいことは言ってるが、答えになってないんだよ」
「詐欺師は酷いなぁ。こう見えて人を騙した事はあるけど嘘はついた事ないのに」
それはどう違うのだろうか。
なんなら、オストとしては嘘を付くよりも人を騙す方がタチが悪いと思う。
「さっきも言ったけど事前活動だよ」
「お前が言うと胡散臭さしか無いな」
「酷いな!ボクくらいボランティア精神あふれる人はなかなか居ないよ?」
「本当にボランティア精神が豊富な人は、そんな事言わないと思いますよ?」
「いや、言うね。なんたって、ボクは客観的第三者の目で自分のことを見れる自信あるし」
「そんな自信捨ててしまえ。ボランティア精神あふれる人はお前みたいな胡散臭さは普通はねぇよ」
どこの世界に人を騙すボランティア精神豊富な人がいるのだろうか。
それに、その謎の自信は何処から湧いて出てくるのか。
二人からの口撃を受けよよよーとと泣き真似のポーズを取るがこれがまたうざい。
怒りよりも呆れが勝ると、オストはため息を一つ吐く。
「で、本当のところは?」
「本当もなにも慈善活動っていうのは言葉どうりだよ。ただちょっと物騒な慈善活動だけども」
「それは慈善活動とは言わねえ」
「この国の面倒ごとという名の清掃活動は、立派な慈善活動だよ。まぁ本当は借りを返しに来ただけだよ、大きな借りをね…」
そう言うシナはニッコリと笑い、想像以上に物騒なことを口走る。
なんてふざけた事をとも思うが、その横顔には今まで浮かべていた薄ら笑いでは無い笑みが浮かべられていた。
それがまるで本心からの言葉かの様に。
初めて見る真剣な表情にオストは息をを呑む。
「まぁ、正直なところキミたちを助けたのには理由はあるよ。一つ言えるのはオストくんが魔導書を持っていたから。今詳しく言えるのはここまでかな。理由も話したし疑いは晴れたかな?」
まるでオストの心中を見透かした様な物言い。
そもそも、警戒心は誰から見ても強かったので見透かすも何も無いが、シナと会話をしているとそんな風に思えてならない。
「一応はな…お前が胡散臭いのには変わらねぇが、少しは信用してやる」
「ありがたいねぇ。それじゃ、ポイント稼ぎにちょっと頑張りますかね」
シナの思惑については全く分からない。
しかし、どれだけ胡散臭かろうがオスト達を助け、その上に何の義理もなく情報まで教えてくれたのだ。
現在進行形で助けられているのだから、少しくらいは信用してもいいくらいには良いと思っていた。
それを口に出して伝えると、返って来たのはいまいちよく分からない返答。
オストだけでなく、ソボックも「?」を浮かべていることからその言葉の意味は理解できない。
いや、その意味は直ぐに分かることになった。
遠くの方から響く複数の足音。
「なっ、もう追手が来たのか!?」
「え!?ひ、引き返しましょう!脇道ならいくつかあったので隠れられ…」
「いやいや、そんなの面倒だよ」
それに気がついたオストは身を固くすると、革命派の動きの速さに驚きを隠せない。
それを聞いたソボックは、隠れてやり過ごそうと提案しようとするが、シナが遮ってそのまま先に進む。
「ここは景気付けに強行突破と行こうか」
笑顔で無謀な提案をするシナ。
相手はそこら辺にいるゴロツキでは無く、多少なりとも鍛えられた兵士達だ。
それに、前身に騎士団の一部が入っていることから、騎士に匹敵する実力者が居るという噂は有名だ。
オストとソボックを一人で救出出来たことや、革命派の追手から軽々と逃げ回っていたことからそれなりの実力はあるのだろう。
それでも、多勢に無勢なのは間違いが無く止めようとするが、シナから滲み出る自信のような圧力がそれを阻む。
そうして、止める間もないままに革命派の構成員が姿を見せるのであった。




