1章 22話 命の危険
見渡しの良いひらけた丘。
少し進めば川が流れており、野営地として最高とも言える場所。
商隊の予定であれば、日が沈みかける時間はここ何日か繰り返していた野営準備をし、ご飯を食べて寝るだけであった。
本来であれば。
そこは、本来とはかけ離れた様子を見せる。
「アアアア!!」
「何なんだこいつら!?」
「キャァァァ!!」
響き渡る絶叫。
普通であれば、非常に目立つであろう声は今この状況においては、ありふれたただのBGMでしかない。
幾人もが入り乱れ、怒号と狂騒が場を支配する。
人は、それを戦場と呼ぶ。
学生達も知ってはいた。
そして、今理解した。
戦場とはこう言うものだと。
いきなり現れた武装集団は、商隊に突撃するや否や武器を抜き放つ。
そして、すぐ近くにいた人に切りかかったのを合図に乱戦が始まる。
騎士は何とか対応して、最初の奇襲によって倒れた二人を除いて奮闘する。
しかし、それが出来たのはあくまでも騎士のみだ。
学生達は逃げ惑ったり、恐怖に膝を折ったりと、まともに迎え打てる者は殆どいなかった。
だがそれは、仕方の無いこととも言える。
本来戦いも知らない世界から来た子供が、いきなり殺し合いを覚悟して戦えるわけもないのだから。
確かに、魔物であれば短い期間で危なっかしくはあって戦うこと出来る様になった。
しかし、それだけで知らないのだ。
奇襲を受けた時の対処を。
知らないのだ。
目の前で急に人が倒れた時の動きを。
知らないのだ。
人に襲われた時の行動を。
知らないのだ。
人の殺し方を。
惑うばかりの学生達にさらなる事態が襲いかかる。
辺りに爆破音が鳴り響く。
それも複数で、武装した集団の誰が爆破石と言われる石を投げ込む。
混沌として戦場が入り乱れ始め、幾度の混乱により馬車の周りに人がいなくなると、一人の男が馬にのるとそのまま走らせる。
ここでようやく武装集団は盗賊であることがわかるが、その事に気をまわせる者は少ない。
「ジュン!サキ!しっかりしろ!」
乱戦の中。
光は、挙動のおかしい二人に怒鳴りつけながら、無造作に振られた剣を受け止める。
「純、足を狙え!咲は結界を張って安全確保!」
正樹も、狼狽えて何もできていない二人に怒鳴るように手短に指示を出す。
ピィーーッ‼︎
森の方角から笛の音が鳴ったことに、幾人かが意識を向く。
盗賊の合図か何かと一瞬思った正樹だが、盗賊の動きに変化は無い。
先程、騎士隊長が言ったスタンピード。
正樹は、ズキズキと痛む頭で嫌な予想を立てて冷や汗をかく。
そして、考える暇も無く証明される事になる。
「マジかよ…」
多くの足音がなり始め、そちらに視線を向ける。
その先には、砂埃を上げて突撃してくる数種類の魔物の群。
「ひゃっ!」
今度は何だと、目を向けると咲が仰向けに倒れていた。
すぐ様に純司が駆け寄り、大丈夫⁉︎と声をかけて立たせようとする。
「二人とも逃げろ‼︎」
咲の声を聞いて振り返ったであろう光は、二人に走ってくる盗賊を見て大声を出す。
大きな声に気がついた恋詠は、二人を助ける為に全力で走り出す。
そして、よそ見をした光が対峙していた盗賊に蹴り飛ばされる。
ぐっと痛みを堪える様に体勢を立て直そうとするが、すぐ様に距離を詰められて地面に膝をついた状態で迫り来る剣を受け止める。
二人の声に気が付き純司は、すぐ様に振り返ると手に持ったハンドガンの様な魔導銃を構える。
照準が盗賊に定まり、後は指を引くだけ。
パァン‼︎
乾いた音が鳴り響く。
しかし、盗賊が倒れることはない。
外れたからだ。
覚悟が足りなかった。
恐怖で手が震えて外してしまった。
それにより、純司の頭は真っ白に包まれる。
俺が外した?
普段ではありえないようなミスをしてしまい、命の危機を前に体が硬直する。
そして、迫る剣をただ眺めだけとなってしまう。
それは隣にいる咲も同じこと。
棒立ちとも言える純司は手に握られた銃を盗賊に蹴り上げる。
「やめろぉぉお!!」
殴られるような声量。
そこで純司は正気に戻る。
目を少しずらせば、見たこともない形相で恋詠が二人を助ける為に走っている。
だが、あまりにも距離が離れており異世界に来た事により身体能力が飛躍的に上昇しているとは言え、駆けつけられる距離ではない。
(美城さんのあんな顔初めて見た。あれアイドルがしていい顔なのかな)
そんな状況をみて、現実逃避気味に考えてしまう。
今はそんなことを考えている場合では無いが、おかげで思考は戻った。
が、戻るのが遅すぎた。
男は既に、剣を振り下ろす為の溜めを終えて、切り裂かんとしている。
もし、銃を蹴られる前であれば、純司は盗賊の男の眉間を打ち抜くどころか、振り下ろされた剣すらも当てられる自信も実力も持っていた。
しかし、もし、の話だ。
今、それは出来ない。
だが、思考が戻ったおかげで体を動かすことは出来る。
なら、せめて出来ることをと、咄嗟に盗賊から背を向けて咲を抱き寄せて身を丸める。
(あぁ、こんなとこで終わりかよ、ちくしょう…)
強く目を瞑る。
しかし、衝撃はおろか、痛みが来ることはない。
代わりに、背中に生暖かい感触が広がるのみ。
切られたのかな、と呑気に思う純司。
これが走馬灯というやつなのだろうか。
非常に伸びた様に感じるなか、昔の記憶とやらはいつくるのだろうかと考えていると、ゴスッ!と大きな音が頭から鳴る。
「痛い!?」
頭を殴られて、純司は勢いよく地面を転がる。
自身が元々居たであろう場所に目を向けると、驚いて目を見開く咲。
純司の銃を足で蹴飛ばして拾う正樹。
そして、先程二人を斬り殺そうとしていた男が胸から剣を生やして倒れていた。
状況を理解できずに目を白黒しそうになったが、正樹が構えた魔導銃を撃った事によりその事態は避けられた。
光の上を取る様に鍔迫り合いをしていた男の肩あたりが撃ち抜かれると、追撃の如くよろめいたところにもう一撃を胸に入れて男は倒れる。
走ってきていた恋詠が美咲に近寄ると、飛び込む様に抱きつく。
鍔迫り合いをしていた光も大慌てでこちらによってくる。
「おい、純司」
純司は安心のために肩を落とそうとするが、地の底から響く様にかけられた声に肩を上下させる。
そちらに顔を向ける。
そこには、深呼吸するように深く息をを吐き出す正樹がいた。
普段ならまず見ない、正樹の反応に目を外すことが出来ない。
「あとで話があるから時間作れよ?」
先程と変わらない声音で流し目を向けながら告げる正樹。
ガチギレである。
引き攣り気味に、はい、と純司が言う。
「なんでこっちに!?」
「魔物がッ‼︎」
ただでさえ混乱していた戦場に、さらなる混乱が招き入れられた。
見えていた魔物の群れが押し寄せて来たのだ。
「もう着いたのかよ、早えな」
正樹は、一人呟くと吐き気を我慢する様な仕草をとる。
純司は立ち上がり、大丈夫かと声をかけようとして倒れてる男に目が行く。
(そうか、正樹は人を殺したのか。俺が、あの時、撃てなかったから…)
そう思うと色々な感情がごっちゃ混ぜになり、下を俯くしか無い。
正樹が苦しんでいるのは紛れもなく、自分の所為なのだから。
ただただ、不甲斐なさが溢れる。
「次、余計なこと考えたら俺が殺す。いいな?」
顔をふと上げると、顔を青くしながらも普段から悪い目つきを極悪人のレベルまで悪くさせる正樹は、俯く純司にドスの聞いた声で言う。
ギィイ‼︎
魔物の声が聞こえ、すぐ様に腰に差したもう一丁の魔導銃を構え、声のした方向に間髪入れずに三発。
全てを近づいて来ていた犬型の魔物を撃ち抜き、命を奪う。
今は考える時じゃ無い。
謝る時でも無い。
そして何より。
(正樹怖すぎるぅう!何あれ怖えよぉ⁉︎)
恐怖の対象が塗り替わると、ようやくいつもの調子を取り戻す。
極度の集中をはじめて切り替えをした純司は先程とは打って変わって、他の考えを捨て去る。
これでもう大丈夫だと正樹は判断すると、持っていた魔導銃を純司に投げ返す。
「光、前に。恋詠はそのアシストと後ろのカバー。純司と咲はその後ろで援護。一番後ろが俺。賊も魔物も一匹一匹は大した事は無えから気負うなよ。意見は?」
正樹は指示を出しながら、またも来る魔物を光の方に押し付ける様に位置替えする。
そして、魔物を光が切り捨てるころには陣形が完成する。
意見は無い様なので、商隊の集団と合流するように、関所の方に向けて行くように指示を出す。
何故そうしたかと言うと、単純に騎士がそちらに逃げる様に誘導し始めているからだ。
何よりも、盗賊達がこのゴタゴタを利用して撤退し始めている。
バラけて撤退しているところを見るに、スタンピードの群をこちらに押し付けようとしていると予想できる。
しかし、それなら魔物に盗賊が各自撃破されるのではと思うところだが、正樹は盗賊の近くに寄った際に変な匂いに気がついたのだ。
その証拠に、今魔物達とぶつかり合っているにも関わらず、盗賊が魔物に襲われていなさすぎなのだ。
これが無関係とは考えらない。
つまり、盗賊達はこのまま安全にこの戦場から脱出できる算段があるのだ。
それなら無意味にこちらに攻撃を仕掛けてこないはずだ。
お陰で騎士に余裕ができ、指揮を取る事ができるようになり、商隊のメンバーが一塊になっている。
この辺りだと次の街までは距離がある上に、このまま魔物を引き連れた場合、外交問題になる可能性がある。
そうなると、正樹達学生が知りうる逃げ先は消去法で国境にある関所のみだ。
「うわぁぁぁぁあ、くそがぁあ‼︎」
最初に崩れて以降、正樹達は問題なく陣形を維持して魔物を順調に撃破していた。
この場では至る所から上がる悲鳴だが、一際目立つ声が上がる。
目の前に二人の学生が犬型の魔獣に襲われていたのだ。
「マサ、どうする!」
この場合のどうするとは、どう助けるかと言うこと。
では無い。
恐らく光は、見捨てるかを聞いてきたのだろう。
他人が聞けばとてつもなく非道に聞こえるかもしれない。
しかし、正樹達には人を助けられる力があるか怪しいのだ。
こんな不安定な状況で、荷物を拾った場合は間違いなくこのパーティーの全滅を意味するからだ。
それを理解するほどに、光は冷静かつこの状況を客観的に見れている。
光が言うように本来であれば見捨てるのが正解だ。
それに、普段の正樹なら四人は間違いなく見捨てると思っていた。
「いや、助ける。純、撃ち殺せ。スペース空いたら光が前に出てフォロー。拾ってすぐに移動する」
これには、全員が驚く。
全員の評価として、正樹はデメリットがある場合はより大きなメリットが無ければ動かない、リアリスト寄りの人間だと思っていたからだ。
だが、今そんなことを考えてる暇も茶々を入れる暇もないので、言われた通りすぐに行動に移す。
純司が二人に襲い掛かろうとしている魔物を撃ち抜き、そこへ光が滑り込む様に前に出る。
「よぉ、二人ともモテモテだな。端的に言うぞ。俺のパーティーのお手伝いするか、しないで別行動するかどっちにする?」
「正樹ー、ありがとー!マジで助かったわ!!」
顔を青くして涙目になりながらも感謝を伝える、長身で体格の良い男、上条秀太。
そして、同意するように首を縦にブンブンと振る小柄で眼鏡をかけた童顔の少年、三浦真一だ。
「で、どっち?早く行きたいんだけど」
「も、勿論手伝う。な、三浦もいいよな」
「う、うん。二人だけじゃ生き残れそうに無いですしね」
普段から正樹と交流のある二人は、普段通りのノリで声をかけてきた正樹に安心しそうになった。
しかし、正樹に言葉遣いとは裏腹にそんな余裕がないので、結論の遅い二人に普段通りの喋り方で威圧的に言う。
それを感じ取ったことにより、揃ってどもりながらも着いていくことを言う。
「上条は純が撃ち漏らして敵が近づいてきたら、土属性魔法で陣形の側面に壁を作って光に回すようにしろ。それと、光と恋詠が漏らした奴の撃破。三浦は索敵系のスキルで見えにくい敵の捕捉と報告。戦いには参加しなくていいが、漏れそうな魔物を上条には伝えるようにしろ。指揮はバラけると困るから俺がする。あと気になったことは報連相しろ。以上、行くぞ」
普段から仲良くしていた二人に会えたのは行幸であった。
学生達の得意分野を把握していた正樹は、二人の情報を引き出すと役割を与えていく。
四人は秀太と真一の力をあまり知らない。
正確に言えば興味がなかったので、知ろうともしなかっただけであるが。
知っている人からすれば、この二人の能力はこの状況に置いては据え膳物であった。
そう、正樹は何も仲が良かったなどといった理由で助けたわけでは無い。
勿論多少ないとは言えないが、それは正樹の言う事を聞くだろうと言う打算ありきでのことだ。
一番の理由は、この二人をパーティーに加える事によって、全員の生存率が飛躍的に上がるからこそだ。
上条秀司は、スキルによる高い持久型のオールラウンダータイプで継戦能力が非常に高い。
さらに、得意としている魔法が土属性といいこともあり遠隔発動も可能で防御性能が高いのに加わえて、本人自身もタフだ。
近接も魔物相手であれば問題なく活躍すし、
難点をあげるとすると判断能力の遅さだが三浦から事前情報をもらう事によってある程度はカバー出来る。
そしてもう一人の三浦真一は、超索敵特化。
彼は学生の中で随一の探知系スキルを持っている。
それに加えて、本人がさらに長所を伸ばしたために、魔法も土と風の探知系を複数習得しており、本人の頭の回転が非常に早く、臆病な気質も相まってこれらの能力を一段上の物としているのだ。
正樹自身の見落としのカバーも期待できる。
(正直、二人を拾えたの幸運だな。流石にこの悪運はドン引きだな)
心に余裕ができた事により、そんな益体もない事を考える正樹。
そして、早速仕事をしていた真一は、顔をギョッとして正樹に言う。
「正樹君、後ろの方から敵意がある人がすごい速さで来てるよ!!」
「分かった、俺がどうにかする」
その事を聞き、後方に集中する様に構えながら進む。
直に、真一が言うように高速と言って差し支えない速さで接近するかすかに気配を感じる。
嫌な勘と共に。
敵意まで探知できるスキルに内心驚きながら、拾えたことを再び幸運に思う。
これは真一で無ければ気がつくことが出来ないほどに気配を消されていたのだ。
正樹もかなり近づかれれば、スキルの危険感知に引っかかったであろうから気が付けただろう。
ただ、この気配の消し方と移動速度を考えると急の対処は難しいと言わざるを得ない。
それこそ、恋詠か光、純司ほどのスペックが無いと無理だ。
取り敢えずこの時点で、接近してくる人物を敵と認識する。
ここからの行動は、早かった。
気が付いた三浦に、後ろに気が向かないように注意をし、体内で魔法を発動させる準備をする。
●
とある一室。
そこに三名の人が身動ぎ一つせずに、膝を折りながらも規則正しく並ぶ。
そんな者達の主人は、一つの命令を下し終える。
それに、長が主人の命令に了解の意を示すと、副官の男一人を除き退出させる。
「貴方には特別任務を任せます。この男を盗賊の仕業となるように殺してください」
男はとある組織の暗部を務めていた。
いつもなら、主人からの命令が下された時に声を聞くことしか出来ず、長を除き個人に話しかけられることなどない。
普段であれば声のかけられることがない様な雲の上の方が、男だけを引き止める。
そんな異常事態ではあるが、慌てることも無く速やかに傅くき、上司からの言葉を待つ。
そして、任されたのは暗殺であった。
職業柄、感情の起伏が殆ど無い男であったが、歓喜に打ち震えた。
男だけに特別な命令をすると言うことは、忠誠心と実力を認めてもらえたとのと同義だ。
時は立ち、任務の日。
同僚の手筈により盗賊を商隊に誘導して、魔物の群れを誘き寄せられた。
男は、盗賊に紛れる様な格好をしつつも魔物の影に隠れながらも気配を消して移動する。
これだけの混乱の中で隠密に長けた男が発見されることは無い。
極力周りに合わせる様に速度を落としてターゲットを探し続ける。
乱戦になり間も無くして、針穴の様なかすかな隙間から発見する。
ターゲットである神宮正樹を。
そこからの行動は早かった。
男が調べた前情報の通り、高い精神力に冷静さを駆使してパーティーをまとめ上げていた。
しかも、この乱戦の中で周りの状況を的確に理解して、騎士達がまとめ上げてる集団に合流しようとしている。
このまま合流をされると、あのパーティーの役割的に集団の中央部に配置される可能性が非常に高い。
そもそも、目撃者が多いと言うのは致命的だ。
そうなると、最善は今すぐに後ろから仕掛ける事だ。
今は乱戦中だ。
戦闘訓練を積んで一年立たずで、指揮に至っては学んですら無い。
にも関わらず、これだけのことが出来るのだから男は素直に称賛する。
だが、所詮は素人だ。
一番後ろが一番安全だとたかを括っているのだろうと思う。
証拠に、周りには後衛をひたすらに守らせている。
そして、自身は後ろの警戒が前の警戒に比べて雑なのだ。
今も、後ろからの魔物の接近に遅れて対処している。
そして、大した確認もせずにすぐに前を向く。
殿として致命的では無いが、それでも甘いと言わざるを得ない。
これを好機と見て、周りに気がつかれないように気配をさらに薄めて速度をギリギリまで上げる。
まるで縫う様にかけ、目標がしっかりと見え始める。
そこで少し速度を落とす。
失敗は許されない。
少しの隙を見せた時が最後だ。
その時はすぐに来る。
三匹のゴブリンが正樹の背後から強襲をかけたのだ。
それに気が付いた正樹は、一匹は魔法による風球で弾き飛ばし、二匹は飛びかかった所を剣で切り裂かれ、次に貫かれる。
好機。
男からしたらとても大きな隙が。
ゴブリンが襲いかかると分かった時にはすでに駆け出していた。
正樹がゴブリンを切り捨てて、前を確認する。
敵を倒した事による安心感と前から目を離してしまった不安。
これが致命的な隙となる。
正樹が後ろから目を外したと同時に、物陰に隠れる事をやめて最短でかける。
既に距離はあと数歩となったところで貰った!と、任務の成功を確信する。
その首を落とすために武器を構えたその時。
地面が男に向けて炸裂する。
それにより、男の体が一瞬強張るがそこは腕利きの暗部。
それを見てから横に体を流す事で土礫を躱す。
しかし、次の行動に移そうと体を動かした時に再び驚く。
体が動かないのだ。
急な事ではあるが瞬時に体を確認すべく、意識を体に向けて目を見開く。
体に四本もの針が刺さっているのだ。
しかもそれだけでは無い。
一瞬目を向けだけだが、針には何かが塗られていた。
毒が塗られている。
暗部として訓練を積んだ男は、そういった毒に対する耐性を持っている。
だがそれでも、即効性の麻痺毒を完璧に無効化出来るわけでは無い。
不味いと思い、一瞬逸らした目線を再び正樹に向ける時。
だが、全てが一歩遅れており、剣を持っていた腕に激痛が走ると、同時にゴッ‼︎と言う音が男の首元から鳴り響く。
男は正樹と視線が合う。
目が合っているにも関わらず、まるでこちらを見ていない様な暗い瞳に男は恐怖する。
その瞳を最後に、男は意識を手放した。




