1章 21話 護衛って地味だよね
「護衛って意外と暇だよね」
太陽が落ち、野営のためにテントを張り終えてすこしの休憩を挟んでいる時。
手持ち無沙汰になった純司は、既に仕事が終わって休んでいる二人に声をかける。
「そりゃ、オレ達が直接打ち合わせするわけじゃ無いからな。そもそも出来ないし」
「そうじゃなくてさ、もっと、魔物とか盗賊とか出るかなって」
問いに光は、振り向くことなく道具の手入れを続けながら答える。
しかし、純司の言いたいことはそうじゃ無いと言う。
物語にある護衛は大抵襲われたりと言う山あり谷ありなことが多いい。
つまり、漫画のような展開をよそうしていたのだ。
「そりゃ、そのために商隊を組んでるわけだからな。それで襲われてたら意味が無いだろ」
「そうなんだけどさ。本当になんもないじゃん」
光に続き正樹も、同じように道具の手入れをしながら同じ様な感じで答える。
言われた本人も理解してはいる。
しかし、純司がそう言いたくなる様に聖都から出て以来、何事も無くテラクセスの国境付近まで来たのだ。
移動しては野営、移動しては野営といったことの繰り返しだ。
別に戦闘狂とか刺激を求めているわけでは無い、寧ろ何も無いことの方が純司としても望ましいのだが、本当に何も無いのだ。
そんなこともあり、純司に限らずにこんな物か?と疑問に思ったりしている学生が大半だろう。
中には気が緩んで注意散漫な人達もいるくらいだ。
「そりゃ、騎士が引率で一個小隊分いるんだぜ。普通暇だろーが」
「そうなんだけどさ」
「そりゃ、面倒くせえな」
「そりゃ、そうだな」
「二人ともひどく無い?と言うか流行りなの?それ」
話しかけてからからそりゃそりゃ言われ、流石に気になり始めた純司がツッコミを入れる。
「仕方ない、お前がそう思ってしまう理由を真面目に答えてやろう」
「お願いします」
「何で上から目線なんだよ」
「まぁ、前の野外演習が原因だと思うぞ。俺達が聖都の外に出たのはアレ以外ないしな。単純にお外怖いってなってるから必要以上にびびって、あれ?意外と外って大丈夫じゃね?ってなってるのが今だな。要するに集中力が切れたんだよ。エナドリでも補充してこい」
「エナドリなんか異世界にあるわけ無いだろ」
「あるぞ」
「あるのかよ!?」
正樹のボケに、光が茶々を入れると何処からともなくポーション瓶を取り出す。
ポーション瓶以外は完璧な、中身の見た目は黄色ぽい液体をスッと光に差し出す。
「成る程なー。あ、俺も貰っていい?」
「ほい」
目を丸くし、色々な角度から観察する光を見て苦笑いしながら、純司もエナジードリンクに興味があるために求める。
先程と同じように、エナジードリンクを取り出すと投げ渡す。
それを危なげも無く受け取る。
「すげぇな。匂いもエナドリだ…」
「こんなの何処にあったんだ?」
「眠気覚ましを作ってたらモン○ターっぽくなったから、ノリで作った」
「エナドリってノリで作れるもんか?」
そう言いながら瓶の栓を抜いて開けてみると、エナジードリンクぽい匂いが漂い、市販のものと比べると差異はあるが誤差の範囲である。
特に問題は無さそうなので二人とも同時に瓶を煽る。
「あー、ここに居たんですかぁ。美咲先輩こっちです!」
ゴフッ!!
恋詠が声をかけると同時に、二人が盛大にむせ始める。
呼ばれて来た咲が二人を見て大丈夫?と声を掛ける。
それを見て恋詠もどうしたんですか、と聞いてくる。
「二人ともエナドリを飲んで咽せたんだろ。恋詠がいきなり大声出してたし」
「何でエナジードリンクなんてあるんですか」
「オレが作った」
そう言うとまたも何処からとも無く、エナジードリンクを取り出す正樹。
「ほえー。料理得意なのは知ってましたがこんなの作れるんですね」
「へー、凄いね。マサくん、マサくん。私にもちょうだい」
「いいぞ、飲んだら感想聞かせてくれ。ほい、恋詠も」
二人は正樹からポーション瓶を受け取ると、先程から咽せている二人の焼き増しの様に飲むと同時に口から吐き出すのであった。
●
「あ、いたいた。皆んなって、ど、どうしたんだい?」
正樹達を探していたパーシィは、五人を見つける。
しかし、視界に入った瞬間にいつもの笑顔が引き攣る。
それもそうだろう。
何故なら正樹が、恋詠の下敷きになっているのだから。
因みにではあるが、正樹が新しい扉を開いたわけでは無い。
先程、正樹を除く全員が飲んだエナジードリンクが原因だ。
あれ自体は、エナジードリンクではあるのだが、問題は味なのだ。
端的に言ってあり得ないほど不味いのだ。
しばらく悶絶するくらいには。
そんな、エナジードリンクを飲んで悶絶している四人を一人爆笑していたのだがその後にリンチされたのは仕方のない事だろう。
そんな訳があり、現在は恋詠の下敷きに甘んじてなっている。
手足を縛られて。
因みにではあるが、リンチの後に正樹自身もエナジードリンクを飲まされていたりする。
「「「「お構いなく」」」」
「そ、そうかい」
五人とは、何やかんやでこの世界に来て以来からの付き合いな為にパーシィは、苦笑いを浮かべながらも近くに腰を下ろす。
取り敢えずの確認で正樹の意識があるのかと確認をすると、無言で恋詠が人差し指を正樹の背中に強く突き立てると、うごっと反応が返ってくる。
生存確認が取れた所でパーシィが話し出す。
「皆んな元気そうで良かったよ。ここまで来るのに緊張のし過ぎで疲れが見え始めている子たちが結構いるからね。今も警戒がしっかり出来ているのなんて、君達も入れて三グループくらいなものだよ」
そう言われて、あたりを見渡す。
パーシィに言われた通り、気が抜けている学生が多いと考えていた。
一見、正樹達のグループも気が抜けているようには見えるが、全員が軽い防具はつけているし、武器もすぐに手に取れる状態だ。
それに加えて、各々が交代で警戒をしっかりしているのだ。
騎士をしているだけあってパーシィは、そう言うところに気がつくと五人を褒める。
「この調子で警戒を怠らないようにね。ここから先はすこし物騒になるからね」
「何かあるんすか?」
いつもとは打って変わって、真面目な表情を取りながら注意を促すパーシィに、光が尋ねる。
「ここら辺は少し前から盗賊被害が多くなっているからね。これだけ大きな商隊、それも大半が武装した商隊だから襲われる心配は殆ど無いとは思うけど念のためだよ」
そう言うと、いつものような優しげな表情をする。
この商隊はパーシィが言うように、護衛が大半と言う特殊な構成になっている。
教会と繋がりがある行商人と交渉をし、護衛に関わる経費を負担する代わりに、演習に協力すると言った物となっていた。
そのために、学生達が約五十人、引率騎士が十人、商会の関係者が約二十人と言う、本来であればあり得ない構成となっているのだ。
戦力で言えば過剰戦力もいい所なのだ。
そう言うこともあり、本当に念のためだと言う意味が強い。
「念にしては、随分と警戒してるな」
急にかけられた声に、懸念を察せられて少し苦笑い気味になる。
「そもそも、普段のパーシィなら、こう言うのは僕達の仕事だ、君達は安心するといいよ、とか言うのに随分と消極的だ。らしくない。つまり、不安に思う何かあるから来たんだろ」
「困ったな」
パーシィは、頬を掻くという分かりやすい仕草をとる。
このやり取りで、全員が察すると言うものだ。
「これは、僕の勘なんだ。何の確証もないんだ」
「それでも、俺達としては聞いておきたいんだよ。聞いて困ることなんて無いからな」
「そーすっよ。聞いておいた方がこっちとしてもやりやすいですし、今更聞けない方が困りますよ」
やんわりと話したく無さそうなことを言うパーシィに、正樹と光は話すようにと説得する。
二人は、恐らくパーシィが不安に思う要素があり、それを隠そうとしていることを見抜いてのことだ。
「そう、だね。実は、最近この辺りの魔物の数が減っているんだ」
「数が?」
「それなら、いいことなんじゃ無いですか?」
疑問に思った純司が呟くと、釣られるように咲がパーシィに尋ねる。
確かに、咲が言うように普通であれば喜ばしいことではあるのだがパーシィの顔は優れない。
「普通ならね。だけど、ここら辺に騎士団が派遣されて無いんだ。その異変を調べる為に調査隊が派遣されたんだけど、何もなかったんだ。本来であれば、強力な魔物が現れていたり、何かしらの病が流行っていたりする事が多いいんだけどね。消えた魔物の死骸が多く発見されるならわかるんだけど、それも無いらしい」
最後に、教会は魔物の大移動だと言う結論付けたとパーシィは言う。
理由は、群の様な魔物の足跡が幾つか発見されたからだ。
成る程、とここにいる全員は嫌でも理解する。
確かに不確定とは言え、これだけ不安要素があれば忠告くらいは掛けたくなると言う物だ。
「あくまでそう言うことがあったよ、ってだけだ。何があっても騎士として君達を守るから安心してくれ」
全員の顔に少し影が差したのに気が付き、パーシィは胸をドンッと叩くと明るく言う。
すると、皆んなの顔に苦笑いが浮かんだのを見て、苦笑する。
「ところで、マサキ君はいつまでそのままなのかな?」
そう言ってパーシィは、地面の方に視線を向ける。
より正確に言うと、未だに下敷きの任務を果たしている正樹に。
そう、今までこの状態で真面目な話をしていたのだ。
少し耐性が出来た程度のパーシィでは、この状況をスルーし続けるのは無理だったようだ。
逆に、今までスルーできると言うことは相当耐性が付いたとも言えなくもない。
嫌な耐性である。
「いつまでなんだろう。そろそろ良く無い?」
「少なくともまだっすね」
「私の気が治ったと思いますか、先輩?」
あ、さいですか、と言うと諦めた様に力無く項垂れる。
否、最初からであった。
パーシィは困った様な笑顔を正樹に向けたが、すぐに気にならなくなった様で普通に会話を始める。
すごい適応力である?
その後もパーシィは、就寝間近まで五人と雑談をして盛り上がるのだった。
そして、次の日。
いつもの様に準備をして出発して、昼前に国境の関所に到着すると特に問題もなく、オルランテ連邦に入ることが出来た。
最初こそ他国に入ったことにより、学生達の警戒の度合いが上がっていたりしたが、テラクセスと代わり映えのしない旅路にその警戒が続くわけも無かった。
そして、日が落ちる前に見渡しの良い野営地を探していた時の事だった。
「総員、武装準備!」
誰から聞こえたのか。
騎士の一人が張り詰めた様に声を張り上げると同時に、学生達の緊張も張り詰める。
騎士は怪訝な顔を取っていたが、途端に目が飛び出るのではないかと言うくらいに見開く。
「魔物のスタンピードだ!こちらに向かってくる。総員、関所まで急遽撤退する。緊急事の陣形をとれ。移動に邪魔になる物は即時廃棄だ!」
騎士の小隊を任されている隊長は、分かりやすいかつ端的に指示を出すと、釣られるように慌しく全員が動き出す。
スタンピード。
それは、群の大移動のことだ。
これだけ聞くと、そこまで大したことのなさそうに聞こえるが、この世界でこの単語を使うと意味が変わる。
そう、これは魔物の群の大移動であり、災害の一つに数えられる破壊現象。
撤退のために、全員が各自入り乱れる。
そこが空きになったのだろう。
何処からとも無くと、ヒュッと風を鋭く突く音が鳴ったと思うと騎士がバタンと倒れる。
「え…」
騎士のすぐ近くにいた学生は、いきなり倒れたその場に、漏れ出た様な声を出す。
騎士の倒れた地面に視線がいく。
ドロっ。
止めどなく広がる赤い液体に、声にならない絶叫が響き渡る。
そして、追撃の如く数十本の弓が商隊の面々に向かう。
他の騎士の方にも矢が飛んできたが、最初に当たった騎士ともう一人を除いて全員が矢を防ぐ。
「いくぞォォオ‼︎突っ込めェエ!」
そして、何処からとも無く轟く様な号令が響き渡る。
大混乱の渦になっているその時。
何処からとも無く現れた武装した集団が襲いかかる。
これが、学生達に降りかかる最初の試練となることを、この時は誰も知らないのだった。




