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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
一章 社会不適合者達と異世界転移
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1章 1話 念願の異世界転移なんだけど、なんだかなぁ

爽やかな風が吹く朝。

今日はいい一日になりそうだと思わせる始まり方だ。

鍛錬がなければだが。


「ハッ!ハッ!ハッ!」


手にできた豆が潰れる感触、それに伴う痛みを堪える。

元々痛みには強い方ではない。

むしろ、弱いとすら言える。

個人的に好ましくない朝の迎え方だと内心愚痴をこぼしていそうな顔で素振りを続けている青年、神宮正樹は寝起きで酷い髪を揺らしながら独り言をこぼす。


「あ〜疲れた。最悪だわ。あー頭痛い、手も痛いぃ…」


内心愚痴をこぼしていそうではなく、本当に愚痴をこぼし始める。


「そもそもなんで朝から剣振ってッんだよっ、キャラじゃねぇーよッ、あの惰眠を貪る死んだ目のをッ、真っ黒にに腐らせたと定評のッ、あるマサキくんはどこ行っちゃったんだァーっ、ハァハァハァ…」


溜まりに溜まった鬱憤を独り言で晴らす代償に体力を使い果たしてしまい、それは見事にズザァ…と地面に倒れこむ。


「ハァー…。もう無理っ、俺頑張ったよ。超頑張った。二ヶ月も良く訓練と早起きをやったよ。もう上出来だよ!サボりてぇぇ…」


「じゃあ、サボればいいだろ」


なおも愚痴が収まる様を知らない正樹に声をかけるものがいた。

隣で未だに素振りを続ける金髪の青年、灰原

光は言う。


「サボれるならサボりたいわ。だけどサボったら周りからの白い目が飛んでくるからサボれんのよ」


「そうかよッと」


続けていた素振りを切りやめ正樹の隣に腰を下ろす。


「てか、もう二ヶ月も経つのか。早いな」


「そうだな」


腰を下ろし休憩を始めたかと思ったら、遠くを見つめ黄昏始める友人に適当な相槌を返し当時のことを思い出す



「おぉ、成功です!」


そんな声が聞こえて目を開けてみると、フード付きのローブを纏う、儀式でもしていそうな人達が。

まるで怪しいオカルト集団のような者たちに囲まれていた。

惚けていると一人のドレスをを着た女性がオカルト集団たちの中から前に出てくる。


「よくぞいらっしゃいました、異世界の勇者様方」


(なんだ、このザ・姫さまみたいなやつ?ラノベの読みすぎでよいよ夢にみるレベルになったか)


正樹はそんなことを思っていると、はぁ?と誰かが小さく声を上げたことではっとする。

そのことでようやく周囲のことに気がつく。

下は石畳で壁も石壁、まるで西洋の地下室を彷彿とさせる場所。

周囲がざわつき始めたことによって、そこに自分だけではなく教室にいた面々がいることに初めて気がつく。

最初は現実感がなく夢かと思ったが、それにしては意識がはっきりしすぎているしなにより石畳の感触がリアル過ぎる。

だが、それだけで特に何が分かるわけでもないので、正樹は深く考えることを諦め前のドレスを着た女性に集中する。

決して考えるのがだるくなったのではないと自分に言い聞かせながら女性、姫さま(仮)の次の言葉を待つ。


「落ち着きください。皆さまが困惑するのも理解できますが、まずはわたくしの話をお聞きください」


「落ち着けって、こちとら意味のわからん演劇に付き合う筋合いなんてねぇんだよ、出口はどこだ!」


「そうよ、こんな意味不明なことして何がしたいのよ!」


姫さま(仮)に罵声を飛ばし始めるクラスメイト達。

だがその罵声はより大きい声によってかき消される。


「貴様らァァァァア!このお方を誰と心得る。この国の第四皇女様にして聖女の一人であらせられるセレン様の御前だぞ!!」


姫さま(仮)が姫さま(本物)に変わった。

それに聖女まで付いているのだから、ラノベであればありふれているが、実際に目の前で聞くとキャラの盛りすぎである。

だがそんなことはどうでもいい。

今の怒声をあげた男からくる圧迫感が部屋中に行き渡る。

現代を生きてきた現役高校生が味わうことの無い、恐らく山で熊に出会った時のような状況だろう。

実際にはそれを遥かに超えると思われる圧倒的な存在感を前に、ただの学生は震えることしかできない。

先程までの威勢など今の一声で吹き飛んだ。

そして、この場にいる全員が悟ったことだろう。

それはこれがお芝居やドッキリ、ましてや夢では無いということが。

これが非常で非情な現実であると。


「アルガード、やめてください」


そんな張り詰めた雰囲気の中。

似つかわしく無い綺麗な声音が響く。


「セレン様しかし」


「この方達も悪気がある訳では無いのです。急な状況に戸惑って居るだけなのですよ」


「出過ぎた真似を、申し訳ありません」


「いいのです。私ことを案じての行動ですから」


先程怒声を上げた短い金髪の四十代くらいの男、アルガードはセレンに咎められ頭を深く下げ、後ろに控える。

それを見たあとセレンは、申し訳なさそうな顔を作った後に頭を軽く下げ始めた。


「私の護衛が失礼しました、ただこちらも悪意がある訳では無いのです」


「い、いえ、こ、こちらこそ失礼しました」


皆が震える中、クラスで学級委員をしている男、織田勇樹はセレンの謝罪に声を上ずらせながらも返事を返した。

ただ、この状況で詰まりながらでも返事を返せる胆力は相当なものだ。

勇樹自身も顔は蒼白であり、体も震えているのにも関わらず対応出来たのは奇跡と言ってもいいだろう。

勇樹の返事を聞いて申し訳なさそうな顔から出会った時のような微笑みを作りポツリと「良かったです」と言い、姿勢を正す。


「では皆様落ち着かれたので、今の状況を私から説明させていただきます」


そう切り出すと顔を引き締め一泊置いて続きを語り出す。


「まず初めに知って欲しいのは、皆様の居た世界とは異なる別の世界にいらっしゃるということです」


周りからどよめきが広がる。

異世界など空想上のものをいきなり言われて、しかもそれが自分達の見に起こっているなど。

普通、そんなことを言われても一笑するところだ。

実際先程のことが無ければ、間違いなく野次を飛ばしたり馬鹿にするものがいただろう。


「次に何故皆様が急にここに来てしまったのかを説明させていただきます。ですがその前にこの世界には神が居るということを知ってください」


「神、ですか」


誰かが戸惑いがちにこぼす。

またもや、現実から離れた単語が出たことによりより一層の困惑がおきる。

しかし、困惑やどよめきが起こる度に話を切っていては話が進まないとばかりにセレンは続ける。


「そして、この世界には人の脅威として魔物と言われる生物が存在しており、人類は魔物に脅かされて生活しております。そんな状況を良しとしない我らが崇め、信仰する神、セフィラトラ様が我らの救済のために異界から魔物に対抗するための戦士を呼ぶのです」


ここにきて理解の遅い人でも把握出来てきただろう。

自分たちが所謂異世界転移に巻き込まれたということに。

まだ魔物を見た訳では無い、ましてや神を信じている訳でもない。

では、皆が何故ここが異世界だと信じることが。

それは、セレンの後ろに控えるアルガードと呼ばれていた男。

その男が放っていた威圧みたいなもの。

あれは間違いなく普通ではなく、間違っても人間に出せるものでは無い。

証拠にまるで何かが吹き付けていたような感覚すらあったのだ。

逆に地球であんな芸当をしていました、と言われるよりもしっくり来るというものだ。


「それが異世界人である皆様です」


「貴方達が呼んだんじゃないの…」


「はい、私達に異界に干渉する力はありませんので」


「そ、それじゃ私達が帰ることは…」


「申し訳ございませんが、異界渡りを使える者は人では存在していないのです」


勇樹が発言出来たのがきっかけで隣にいた女子、東城朱音が感情を押し殺すような、震える声で聞く。

それにセレンは俯き、つらそうな声で答える。

それを聞いた多くが唖然としたり中にはすすり泣くようなのも現れた。


「つまり、皆様は魔物に人類が対抗するため、神により呼ばれた戦士なのです」


「俺達にこんなよく分からんところで戦えって言うのか!?」


自分たちの中から二人が発言したことによりある程度落ち着いたのか、はたまた自分は安全と思ったのかピアスなどのアクセサリーをした男子、檜山誠が声を荒らげる。

それに反応するようにまたアルガードから圧が発せられ、誠はヒュッと変な呼吸ともとに尻もちを着く。

それを感じ取ったセレンが、手を横に上げるとアルガードが再び圧を消す。


「皆様にはこの世界の問題に巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思っています。しかし、神が皆様を遣わしてしまった運命を変えることは出来ないのです」


「そ、そんな…」


「巻き込んでしまった以上私達に責任があります。勿論皆様の安全や生活も私の名に誓って保証させていただきます」


申し訳なさそうな顔をしていたセレンは、真剣な顔つきに変えて一息入れてからまた話し出す。


「それから、これは現実味のない話なのですが皆様が帰還できる可能性はあります」


「さっきは無理と」


「はい、人には不可能です」


「なら…」


勇樹の疑問を最後まで聞かずにセレンは被せるように続ける。


「この世界に存在する七体存在する魔王達の頂点。七大魔王の討伐です」


魔王という単語に辺りがどよめく。


「七大魔王を全て討伐した暁には、皆様がこの世界に呼ばれた理由は無くなります。これにより我らが神、セフィラトラ様は皆様に課した試練が達成されたとされ元の世界に帰ることが可能です」


セレンが帰還に関する可能性を話し終え少しの間が空く。

皆がこの状況について理解させるための間を用意し、自分で思考する時間を与えて全員の視線が自分に向いたことを確認する様に皆の顔を見渡す。

この場にいる全員がある程度理解し自分の次の発言を待っていることを理解し、セレンは話を進める。


「私達は皆様を全力で導き、支援するとことを約束させていただきます。どうか私達に力をお貸しください」


セレンは、そう言い終えると手を前で組んで懇願するように、皆に申し訳なさそうに、目の端に涙をうっすらと浮かべて、転移していた少年少女に頼むのであった。



大きなガラスの窓から注ぐ陽光。

照らされる幻想的な白亜の廊下。

そんな場所を制服を着た学生達が列を為して歩く。

なぜ、こんな場違いとも言える場所を歩いているのかと言えば、それは、あの場所が地下室みたいではなく地下室であったのと、抜けた先がこの様な神殿であったからだ。

その影響もあり、皆が辺りをソワソワと見渡すせいで余計場違い感が増している。

しかし、学生でソワソワするだけに留まっているのは、周りの雰囲気というのもあるが自分たちの周りにいる騎士が居るからだろう。

アルガードと呼ばれていた騎士は、セレンの護衛と言うことで今は居ないのだが、あれの同僚と思うと警戒してしまうのも仕方が無いというものだ。

あの後説明と出迎えをしに来ただけのセレンは、一通り話が終わると案内をそばに居た神官に頼んだ。

話によるとセレンは皇女だけでなく創神教と呼ばれる宗教の聖女と呼ばれる地位にいるらしく、そちらの業務もこなしている為に中々時間が無いとの事だ。

そして、セレンが去った後に神官から詳しい説明を聞き、まず転移してきた者の適正というものを見ることになった。

そんなことがあり、クラスの中心人物であり先程も先陣を切って発言していた勇樹を筆頭に神官に連れられて、適正を調べるための部屋に案内されていた。

そんな落ち着きのない周りに反して一人だけ、まるでいつも通りかのようにダラダラ歩く者がいた。


(しかし異世界でしかも適性検査ねぇ…)


クラスメイトが落ち着きがなかったり、露骨に警戒し緊張している中、正樹はおそらくこの中で唯一と言ってもいいだろう。

普通にしていた。

そう、普通だ。

最初こそ驚いており周りのクラスメイトと同じような状況だったが、今はいつも通りボケーっとしながら考え事をしていた。

これだけ聞くと大物だとか、非常に優秀な人物だとか称されるのだろうが残念ながら正樹の場合諦めが物凄く早いだけなのだ。

それも人格が変わったと言われてもおかしくないくらいにキッパリと諦める。

それこそ、周りからは異常と称されるほどに。

そんな彼は、この状況に既に慣れてきている。


(まるでラノベやゲームの世界だなー。マジかー、読んだり見たりするのは大歓迎なんだけど実際に俺がやるのは違うな。うん、ダルい)


こんなことを考えるくらいには余裕だ。

周りが今後のことを考えていたり、中には異世界転移したことにより今後の身の振り方を考えていたりと皆が次の事を、進むことを考えている。

それにも関わらず、正樹が考えているのは如何に自分が戦わずに、また周りに見放されずに面倒を見てもらえるくらいに頑張ることを考えているのだ。

所謂、寄生中プレイのための算段をつけているのだ。

そんな感じにどうすれば自分が働かない為に、楽をするためにどうすればいいか考えを

していると、先頭を歩いていた神官であるグイネスと名乗る男が扉の前で止まると振り返る。


「皆様、目的の部屋に着きましたので先頭の方から順番にお入りください」


「分かりました」


そう勇樹が答えると続々と部屋に入って行く。

そうして最後尾にいた正樹たちは部屋に入った時少しの驚きを感じる。

よくあるファンタジー物だと検査室はなにか特別な装置がある部屋かと思っていたのだが、実際に通された部屋はまるで図書館のような場所だ。

ただ予想が外れて気を落とすということは無かった。

それはその余りにも多い本とこの神殿の雰囲気に圧倒されたからだ。

天井は高く十メートルくらいだろうか。

そんな天井まで伸びる柱と本棚。

御伽噺の一コマをくり抜いたようなそんな光景に多くのものが正樹のように驚きを見せる。


「では皆様、三つの列を作ってもらって順にこちらに用意してある水晶に手を乗せてください」


皆が呆気に取られている中、グイネスは手を叩き視線を集めたあと指示を出す。

そうして指示された通りに三つの列を作り、先頭にいた最初の者が水晶に手をかざす。

今回の場合は先陣を切って進んでいた勇樹が、おっかなびっくりと言った風に指示に従っていた。

次の瞬間、勇樹が水晶に手を置くと辺りが緑色に照らされるのであった。

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