1章 17話 初めての冒険?
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昼を過ぎたとは言え、まだ日に照らされる頃。
しかし、日中にも関わらず森の中は不気味な雰囲気に包まれ、草で光が遮られて薄暗い。
森の中には、日本では見ることが出来ないような巨大な木。
これがポツンと一本立っているのならこれは特別な木だと思うところなのだが、周囲を見渡すと同じようなサイズの木々が聳える。
流石は異世界だと最初こそ、この光景を初めてみる正樹は圧倒された。
が、いつもの対応力ですぐに慣れたのか、すでに普段の力の抜けた顔に戻っている。
「これが回復のポーションの元になる草だな。こいつは何処でも引き取ってくれるから、見つけたら採取しといた方がいいぞ」
木の影になるようにひっそりと生えている草を見つけると、オストは採取しながら二人に解説する。
パーシィはメモを取り、羽ペンを世話しなく動かし、正樹ほへぇっと行った感じで各々オストの話を聞く。
返事や態度こそ適当な正樹だが、よく観察したり、オストに葉を触らせてもらったりと積極的に学ぶ。
そんな二人を見て安堵する。
オストは最初出会った時、二人は対極な二人だなという感想を抱いていた。
このまま森に放つのはいかがなのかと不安に思い、ポイント稼ぎも兼ねた提案であった。
いつものお節介で手を貸したくなってしまったのだが、必要のないことだったかもしれないと考え直す。
実際に、来て蓋を開けてみれば対極なりに上手くやっている。
具体的には、こう言う真面目なところなど似たもの同士ではないかとオストは思う。
「余計なお節介だったか」と小さく呟くと二人とも薬草の観察を終えた様で、周囲の警戒をしていたオストに声をかける。
「パーシィのメモが終わったから次行くか」
「流石現役の冒険者。ためになるよ」
「いや、冒険者全体が詳しいわけじゃないぞ。狩専門の冒険者なんかはあんまり詳しくない事が多いからな」
「ふーん、狩専門とかいるのか」
「そうだな。冒険者は大まかに四つの種類があって、戦闘系、冒険系、採取系、探索系に分かれてて、戦闘系が魔物狩りや賞金首狩り。採取系が解体や採取。探索系は調査。冒険系はまぁ何でもだな。基本的には余ってる依頼をこなしてるな。で、俺はこの中だと冒険系だな」
「なるほど、冒険者にも役割分担で依頼をこなしているのか」
「気に入ったやつを適当にやってんのかと思った」
顔つきや雰囲気が全く違うにも関わらず二人は同じ様に感心する。
やはり似たもの同士だ。
そんな風に雑談を交えながら森を進んでいると、不意にパーシィの顔が険しくなる。
腰の剣に手を伸ばし、少し遅れてオストも周囲を警戒し始める。
二人の動きで正樹も警戒をし、「なんかいるのか」と小さく聞くとパーシィが「恐らく魔物かな」と返す。
「これは、群だな。パーシィ、前衛頼めるか?俺は中衛でサポートに入る。マサキは撃ち漏らしの相手と遠距離からの牽制を頼む」
そう矢継ぎ早に指示を出すオスト。
森の採取と言うことで何かあった時の打ち合わせはすでに終わっており、来る途中にお互いの戦闘スタイルは確認済みだ。
冒険者であるオストが指示を出すことを予め決めていたために、すぐに陣形を作る。
「マサキは魔物が見え始めたら先制攻撃を頼む」
「りょーかい」
オストから先制攻撃の指示を聞きスキルを発動させる正樹。
腰に付けた小袋に手を入れ引き抜くと、小袋に入っていたとは思えない大きさの弓と弓筒を取り出す。
次第にカサカサと草や枝をかき分ける様な音が正樹にも聞こえるようになってくる。
そろそろかと、一番音の大きい方にオストとパーシィが構える。
と同時にキャイン!と言う鳴き声が草むらから響く。
不意に聞こえた鳴き声に犬系の魔物かと二人は当たりをつけたと同時に、今の鳴き声から何者かが攻撃を仕掛けたのかと警戒を強くする。
犬系の魔物意外にも他の魔物が潜んで可能性だ。
鳴き声が三度ほどすると、草むらから二匹の魔物が飛び出す。
三人が視界に入ると同時に、犬の高い鳴き声をあげながら突撃してくる。
二人が予想していた通り、犬系の魔物であるレッサー・グレイウルフだ。
正樹は指示通りに無詠唱で魔法を唱えると、レッサー・グレイウルフの目の前に人の高さほどの二本の土柱が迫り上がる。
しかし、迫り上がる速度がそこまで速くない為に、レッサー・グレイウルフは問題がないかの様に横に飛ぶ様にして避ける。
それを見越していた正樹は、横に飛んだ片割れの頭を弓矢で射抜く。
片割れが射抜かれるが、構わずに生き残った方が先頭のパーシィに襲いかかる。
恐らくレッサーグレイウルフは正面の二方向からの強襲により、三人の撹乱を目的にしていたのだろう。
少しでも体勢を崩させるための。
だが、一匹が早々に射抜かれたために、パーシィは問題がないかの様にレッサーグレイウルフの正面に構える。
一閃。
二つに切り裂くかれる。
すると、間髪入れずに四方の草や木の影からレッサーグレイウルフ達が飛び出す。
その数八匹。
先の二匹は陽動で、本命はこちらだと言うことが分かる二段構えの戦法だ。
オストは、これくらいならと考えながら正樹と位置を交代し、後ろから襲って来たレッサーグレイウルフに対処する。
パーシィは、前と左右から同時に迫り来るレッサーグレイウルフを構えた剣を横なぎに一閃する。
オストは正樹の方に漏れた二匹はパーシィがアシストすれば問題ないかと思いながらも、目の前のレッサーグレイウルフを切り捨て、もう一匹を蹴り飛ばす。
そして、安全の確認をするために正樹の方に視線を向けるが、その行動は杞憂に終わる。
正樹の方に向かったレッサーグレイウルフは、既に二匹とも事切れていたからだ。
一匹は頭に片手斧を生やし、もう一匹は今まさに頭を剣で串刺しにされる。
これにオストは驚かされる。
事前に聞いた話と違うと言うのもあるが、オストからみて正樹の物腰はお世話にも戦い慣れてる風には見えなかった。
実際に正樹は中学まで武術をやらされてはいたが平和な日本の高校生だ。
異世界に来て半年以上しか経ってない上に、実践経験もゴブリンと戦った一回のみだ。
逆に戦い慣れてますよ?と言った雰囲気を出している方がおかしい。
それを正樹は話していたわけで、オストも戦闘の素人だと思っていたし、聞かされていたのだ。
兎にも角にも、魔物との戦闘は文字通り秒での決着がついた。
正樹は大きく息を吐くと、レッサー・グレイウルフの頭から剣を抜く。
「流石だね。訓練であれだけ動けるから問題無いとは思っていたけど、想像以上だよ」
「俺もビックリだよ」
戦闘が終わり、張り詰めた空気を解いたパーシィは、先程までの顔が嘘の様に笑顔で話しかける。
本人は素っ気なく驚いたと言うが、表情を見るに余り驚いた様な顔では無い。
いつも通りの気怠げな表情のみなことから、本当に驚いているかが疑わしい。
片手斧を抜く時はうへぇ、と嫌そうな顔を作っていたが。
パーシィからのお世辞攻撃に対する耐性は高くなったが、グロ耐性は未だに高く無いのだ。
パーシィ本人としては、別にお世辞を言っているわけでは無いのだが、感じ方はひとそれぞれだ。
「ああ、本当に驚いた。俺もマサキがこんなに動けるなんて思わなかった」
「僕も実践でいきなり無詠唱で魔法を使うとは思わなかったよ。詠唱ですらパニックになると魔法が使えなくなる人なんてざらにいるのに」
「なっ。魔法はマサキが使ったのか!?」
「まぁ、土を盛り上げただけなんだけど」
正樹は、大したことないと言っているがそんなことは全くない。
パーシィとオストは、魔法は使えてもそこまで難しいことは理解していないからこの程度の興奮だ。
本来、正樹が使うはずだった魔法は『石柱』と言う中級の土魔法なのだが、正樹はそれをアレンジしていくつかの工程を省いての発動なのだ。
そんなことは知らない二人だが、それでも無詠唱の凄さは伝わるもので、オストは話を続ける。
「それでもすげぇよ。俺は無詠唱なんて出来ねぇからな。お前は魔導士を目指してんのか?」
「いや、俺は取り敢えず魔法を齧ってるだけだな。便利そうだし、何より暇つぶしに丁度いいし」
「魔法を暇つぶしって…お前変わってんな」
「憧れとかもあったしな、それに俺の周りは皆んなそんなもんだと思うぞ」
「すげぇな。お前の周りは…」
正樹の話にオストが慄く様に顔を顰める。
因みにではあるが、正樹は学生達の中でぶっちぎって魔法の扱いが上手いのだが本人に自覚は無い。
そのため、オストの中では正樹みたいなやつが沢山居ると言う、とてつもない状況な訳だ。
「二人とも、話してないでこっちを手伝ってくれ!」
「ごめん、忘れてた」
「酷いな!二人が話し始めちゃったから気を利かせて集めてたのに」
いそいそと働いていたパーシィが、魔物の死骸を集め終えたらしく、解体のために二人を呼ぶ。
しかし、正樹の発言が酷かったために苦情を入れ、本人も悪かったと思っているのかバツが悪そうにする。
「だからごめんって。街に戻ったら食べ物奢るから」
「いや、騎士として子供にご飯を奢られるのは問題があるから」
「めんどくせぇな、本当。オスト、討伐証明とかってどこ剥げばいいん?」
正樹のせめてもの謝罪を、それはちょっと、と言った感じに断るパーシィ。
それなりに悪いと思っているからこそ奢ろうと思っていたのだが、またもパーシィの謎の騎士道精神が発動したようで、正樹はうんざりとしたように顔を顰める。
面倒になり、話をオストに話を振る。
パーシィも気になるようでこの話題を掘り返すこともなくオストの方に向く。
「そうだな、レッサー・グレイウルフだと右耳だな。あと牙と爪もそれなりに買い取ってくれるから、取っておくといいな。毛皮も売れるが今日は時間がないから無しだな」
そうオストが指示を出すとテキパキと解体をしだすのであった。
●
「あー、疲れた」
心の底から響く低い声を上げながら正樹はぐだる。
まるで、ブラック企業に勤め続けるオッさんのようである。
だが、それもそのはずで朝早くに教会を出てから午前中は人助けと迷子で潰れ、冒険者ギルドに行ったと思えば直ぐに森まで走って行き、レッサーグレイウルフの群と戦い蜻蛉返りでまた走って帰って来たのだ。
とんでもない過密スケジュールである。
本命だった採取に至っては、採取が二時間未満で殆どがレッサーグレイウルフの解体に費やされたのだ。
日は既に沈み、聖都は一日の仕事を終えた者たちで賑わいを見せる市民街。
そんな市民街をいつにも増して気怠げに歩く。
そんな正樹に不穏な視線が一つ。
「マサキ君。本当に延長の許可は出てるんだよね。本当に大丈夫なんだよね!」
不穏、というか不安な眼差しを正樹に向けるパーシィ。
学生達は外出を許されはしたが外泊を許されているわけではなく、帰宅時間がしっかりと教会により決められている。
そして現在の時間はその門限を大きく超えている。
真面目なパーシィとしては、先ほどまで延長許可が降りていることまで知らなかったので、正樹から聞いた後でも気が気ではない。
「大丈夫だって」
「本当にかい?」
「帰れば分かるから安心しろ。そして、口を閉ざして上司からのお咎めが無かったことを俺に感謝しながら祈れ」
何度目か分からないやり取りに、正樹はうんざりとしたようにパーシィに毒を吐く。
最初こそ、このやりとりを聞いて不安に思っていたオストも、何度も見せられれば問題無いと判断し、特に反応を示すこともない。
そして、パーシィは「確かに、マサキ君が延長許可を取ってくれてなかったらとんでも無い状況だったよ!」と言うとうんうん言いながら静かになる。
本当に祈っているのであろうか。
正樹はこいつマジか、と思うと同時にチョロすぎると苦笑い。
延長に関しては本当なのだが、パーシィが上司に怒られるかは別の話になる可能性が高いが、面倒なので黙っておく。
そんなこんなで最後は問題なく、昼間来た聖都の冒険者ギルドに到着する。
扉を潜ると昼間と全く変わりのない、落ちた雰囲気だ。
ただ一点を除いて。
正樹は扉を潜り、その一点を視界に入れた瞬間。
死を錯覚した。
否。
正樹の持つ勘、恐らくスキルがそれを見た瞬間にとてつも無いほどの警笛を鳴らしているのだ。
瞬時に球の様な汗が全身に浮かび、一歩後ずさる。
唯一の救いは、普段から無表情で居る癖をつけていたおかげで顔に多少出ただけだと言うことか。
それから敵意と言ったものや、悪感情は感じないので、警笛を鳴らすスキルをねじ伏せ、普段通りを装う。
「なんだ、こんなとこでどうした。仕事は終わったのか」
それにオストは少し驚いた様に声をかける。
「いや、取り敢えず休憩がてらにキミがちゃんとやってるか覗き見にきたんだよ。そっちの二人はお友達かな?やぁ、ボクはオストくんの知り合いでシナって言うんだ。よろしくね」
スキルが警戒するそれ、シナは自己紹介をする。
パーシィは特に何も無い様で、お返しににこやかに自己紹介をする。
その後に、正樹も何事もなかったかのように外行の笑顔で自己紹介を済ませる。
オストとシナが話し始めたところで正樹はシナを観察する。
しかし、いくら目を凝らそうとも長い黒髪を三つ編みにし、眼鏡をかけている男性にしか見えない。
黒髪だが、日本人ではないようで顔の作りからこちらの人間だ。
この世界の人にも黒髪の人物がいるとはと、心を落ち着かせるためにどうでもいいことを考えつつも、観察は怠らない。
おかしなところといえば、少し作られたような笑みを浮かべては居るが、これに関しては相手がよく見ると顔が整っている所からいまいち判断がつかない。
それくらいしか、おかしなところはないのだ。
それどころか親しみすら感じる物腰だ。
正樹はそう結論付けはする。
しかし、この警笛には身に覚えがあるために、無視はできないのだ。
そう、アルガードの時と同じなのだ。
あの時は、アルガードから敵意や殺気やら放たれてはいたが、今回はそんな事無い。
しかし、それらが無くても警笛はシナの方が遥かに危険とうったえかけてくるのだ。
「キミ、大丈夫?顔色悪いけど」
深く思考していた正樹に、悩みの元凶であるシナは声をかける。
「今日一日中動いてるてるせいで疲れてて」
内心驚きはしたが特に問題無い様に返す。
「そうだね、確かに朝から動きっぱなしで疲れたね。それに、お昼も大して食べてないからお腹も減ったしね」
「そう言えばそうだな」
「そう言うことなら、ボクが夜ご飯をご馳走するよ。オストくんと仲良くしてくれたお礼にね。近くに美味しいお店があったんだよね」
「それなら、僕達も御相伴に預かろうかな」
「それじゃ、とっとと依頼完了させて行こうぜ。俺も腹空きすぎてしにそうだ」
シナがご飯を奢る事になり、オストが嬉しそうにギルドのカウンターに足速に向かう。
急な状況に正樹は、え?え?と言った感じで話しについて行けずに困惑する。
「因みに海鮮系なんだけど、魚とか大丈夫かな?」
「それは珍しいな。僕は聖都で騎士をやってるけれど、ここら辺に海鮮が食べれる場所があるなんて知らなかったよ。勿論、僕は大丈夫だよ」
「それなら良かったよ。マサキくんは大丈夫かな」
「え、好き嫌いは特には」
「そっか、良かった」
非常にスピーディーに話がまとまって行き、とてもでは無いが断れる雰囲気では無くなる。
(え、マジですか。これと一緒にご飯行かなくちゃいけないの?マジですか?マジですね…)
シナの初見のインパクトのせいで混乱している正樹は、あれよあれよと報告の終わったオストとパーシィ、シナに連れられて冒険者ギルドを出る。
道中に、あれ?こいつ、騎士は施しを受けないものなんだ!、とか言って無かったっけ?とパーシィに視線を向けるが、本当は全く気が付いた様子もなく「海鮮料理楽しみだね!」と声をかけてくるパーシィに、若干の殺意を覚える。
正樹のお腹から空腹のサインが鳴ると、ま、なる様になるか、と思いいつも通りの諦めを決め込むのだった。




