1章 16話 すげぇ草ボードのために走れ!
登録を済ませてどんな依頼があるのかを見るために、オストが先程言っていた依頼ボードの前に来たのだが、それを見た正樹は驚いたように呟く。
オストが「驚くよな」と呟きに相槌を打っていることから、これが冒険者ギルドの普通のボードでは無いようで正樹は少し安心する。
これが冒険者の主な仕事ですなど、いくらなんでも考えたくは無い。
いや、それでも酷くね?と心の中で呟くが、そうしたい程にこのボードは異様なのだ。
それもその筈。
ギッシリと張り出されていた依頼の殆どが採取依頼なのだから。
「ここって草刈りギルドだっけ?」
「冒険者ギルドだ」
「本当に草刈りギルドじゃなくて?」
「冒険者…ギルドだ…」
正樹がそう問いたくなるのが痛いほど分かるオストは、苦しげに言う。
何故こんなにも採取依頼しか無いのかと言うと、それ以外に依頼が来ないことに起因している。
そもそも、ここがテラクセスの首都であるため周辺が安全なのだ。
騎士が定期的に、ただでさえ少ない魔物を間引いているために強い魔物など皆無と言っていい。
それなら住人からの依頼はと思うが、それもここが首都であるからと言う理由になる。
初心者冒険者の定番依頼である清掃の類は、景観維持のための専用の部署があるため、冒険者に依頼する必要が無い。
ほかの雑用依頼も同様で、この国の首都なだけあって、多種多様の職業の者がいることもあり、依頼の賃金が安い以外のメリットがない素人同然の冒険者などに頼む必要が無い。
それにより、残るのがある程度腕っ節が必要とされる採取依頼が残るのだが、冒険者を目指す者がそんなことを好き好んでするような人が多いはずも無く、冒険者自体が減り薬草などの薬の材料となる物の依頼が溜まり続けた結果がこの草ボードである。
「マジで草とキノコしかないな。しかも量は幾らでもって、アバウトすぎだろ」
「殆どが薬師とかだからな。安く買いたたけるから幾らでも欲しいんだ。英雄思考な奴らにはキツイだろうが、俺からしたら楽にポイント稼げるから結構うまいぞ」
「よし、じゃあ近場の森まで行きますかぁ」
「ちょっと、マサキ君!君たちはまだ…」
「安心しろ、許可ならもう取ってある」
さらっと聖都から出ようとする正樹にパーシィが注意しようとする。
まだ学生達は許可なしでは聖都から出ることは出来ないからだ。
しかし、正樹は言われることが分かっていたので懐から一枚の紙を取り出すとパーシィに渡す。
そんなまさか、と思い渡された紙に目を通す。
すると、秘密裏にであれば聖都の外に出ることを許可すると書いてあるではないか。
勇者達ですら聖都の外に出る許可はでていないので、これには驚くしかない。
確かに、正樹は学生達の中では上から数えた方が早いくらい強いことをパーシィは知って入る。
だが、所詮学生の中ではの話でさらには正樹より強い学生もおり、これといって特別という訳では無いのだ。
「どうやってこれを?」
「詳しくは、それを書いた人に口止めされてるから無理だけど。簡潔に言うと頼んだらいけた」
「そんな、あっさり…」
パーシィが呆れるのも仕方のないことで、これを発行できるのはこの国の上層部だけだ。
学生達の管理保護しているのは教会なので、これを発行したのは教会上層部となるだろうが、テラクセスは実質教会が運営しているので問題は無い。
正樹が上層部の人間と関わりがあることにも驚きだが、どうやって上層部を説得したのかパーシィ的には気になるところだ。
「お前ら、薬草の見分けつくのか?」
「まぁ、なんとなく?一応ほんで勉強したし」
「僕もあまり詳しくはないかな。簡単なのなら分かるんだけどね」
「はぁ、仕方ねぇな。俺がついて行って教えようか?」
「え、マジ?用事あったんじゃないの?」
「ポイント稼ぎの依頼を適当にやるだけだったからな、ついでだ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。パーシィがポンコツすぎて不安だったから助かる。本当に」
その発言を聞いたパーシィは、抗議の声を隣であげるが正樹は無視を決め込む。
教会の中でも時々不安な行動を取ることはあったが、それでも面倒を見てもらっていたために抜けてるなとは思いながらも敬っていた。
しかし、教会の外に出て化けの皮が剥がれたパーシィに敬いなどいらなかった、と言う結論に至ったたのだ。
そのため、全く信用はしておらず不安であったのでオストの提案はまさに渡船だ。
「そんじゃ早速なんだけど、初心者向きの依頼ってどれ?」
「今から受ける必要なんて無いぞ。ここにある奴は取ってきてから受ける方が楽だからな」
「そういうのありなのか。不正的なので罰則とかない?」
「無いな」
「ふーん、まぁいいか。この辺りの草刈りスポットとかあったりするのか?」
「聖都から少し離れてるが森がある。と言うよりもそこしか無いな。この辺りは開発が進んでいるから人が入りにくいところが殆ど無いからな」
オストが言うように聖都の周りは騎士の巡回や演出などがあるために魔物が退治され、危険が無くなれば村などが起こり開発されている。
現状、テラクセスの国土は魔物が湧き続けるダンジョンの周りを除いて人が住める土地になっているのだ。
そういう理由もあり、聖都の冒険者はダンジョンがある森以外だと薬草取りなどの専門技術を持っている者に勝てず、薬草などが取れない。
正樹的には、森林伐採で動物が世知辛のはどの世界でも似たようなものなのか程度の認識しかないが。
それよりも、冒険者を動物扱いのボケを拾ってもらえなかったことの方が重大で、正樹はツッコミ要員である某金髪イケメンが恋しくなる。
せめてもの救いは、顔に考えが出ない無表情であったことか。
真面目に考えた風を装って「よし、そこにしよう」と言うと、次はどうやってそこに行こうかと言う話になる。
「移動どうする。てか、どのくらい離れてんの?」
「ここからだと馬で行って三時間くらいの距離かな」
「馬で三時間ってピンと来ないな。俺乗ったことないし」
「そっか、マサキ君はまだ乗馬は習ってないのか」
正樹がそう言うとパーシィがそう言えばいった感じで思い出す。
となると馬車にしようかと言おうとすると、オスト申し訳なさげに「すまん」と人声あげ、二人揃って目を向ける。
「俺、師匠に自分の足以外での移動は禁止されてるから二人で馬に乗ってくれ。俺は走って追いかけるから」
「分かった、じゃ俺も走るわ」
オストとしては、少し場の空気が悪くなるかと危惧していただけに驚く。
寧ろそんなことが全くないどころか、まさか自分も走るよとは思わなかったからだ。
パーシィも困ったように、「本当に大丈夫かい?」と聞く。
「多分?一応走り込みはしてるし、身体強化あれば行けそうな気がする」
「それでも、着いてから採取しなきゃいけないんだよ。魔物だって出るからいきなり戦闘になるかもしれないし」
「そうだぞ。俺は師匠の無茶ぶりで慣れてるから気にしなくても大丈夫だ」
「別に気にしてないけど。それにどれくらい体力があるか知りたいからな。あと、何より男と馬のタンデムは嫌だ」
タンデムと出した瞬間に、正樹は嫌そうに顔をしかめる。
それを聞いたパーシィは、落ち込んでいたが特に異論は無いようだ。
ただ単にガチ凹みをしていて、余裕が無いだけかもしれないが。
パーシィから特に何も無いようなのでオストは問題ないと解釈し、正樹に「少しでもキツかったら休みたいって言えよ」と言うとそれに頷く。
そんなやり取りを冒険者ギルドでした二十分後。
男三人で草原を爆走していた。
「なんでいきなり走ってるの!?」
唯一、鎧を着込んだパーシィはガシャガシャと音をたてながらも絶叫する。
「今どきの騎士様は同行者を走らせて自分一人で馬に乗るのか、んー?」
「そんなこと出来ないから走ってるんじゃないか、じゃなくて!」
「じゃあ何が不満だって言うんだよ」
「僕達なんの準備もしないで出てきちゃったんだよ。道具とかどうするつもりなんだい?」
何故そんなことをパーシィが聖都を出た今更になって叫んでいるのか。
パーシィがいくら抜けているとは言え騎士だ。
そこまでポンコツでは無い。
冒険者のことを殆ど知らずとも、採取の心得くらいあるのだ。
パーシィは冒険者ギルドを出てから、道具や袋を買いに行こうとギルド近くの雑貨屋に入ろうと思っていたのだが、二人が示し合わせたように城門に向かったのだ。
最初はオストがおすすめの道具屋を教えてくれるのかなと雑談しながらついて行っていたのだが、そんなことは無く城門を抜けて直ぐに二人がダッシュし始めたために慌てて追いかけて今に至る。
つまり三人は何も持っていないのだ。
そんな状況でどうするのと言っていると。
「さっき言ったじゃん。俺は道具一通り持ってるし、オストもマジックバックあるからそのまま行くかって」
「へ?」
残念、ただのポンコツであった。
狐に化かされた様な顔をしているパーシィ。
そんな、パーシィをマジかよコイツ、これで良く騎士になれたな、と呆れの視線を向ける正樹。
そして、二人の顔を見てパーシィを少し可哀想に思うオスト。
オストはパーシィに出会ってからポンコツっぷりしか見ては居ないが、間違いなく強いことは分かるからこそ非常に居た堪れない。
それこそ、自分よりも強いと思える程に。
微妙な顔になってしまうのも仕方のない事だろう。
「マサキはよくこのスピードに付いてこれるな。パーシィは兎も角、お前が余裕でついてこれるとは思わなかった」
考えると虚しくなるのか、別のことに話題を変えようと正樹に話しかける。
「一応毎日走り込みやってるからな。あれだけやって成果が出ないとかだったら今頃泣いてるわ」
「それは関係ないと思うぞ…」
「え?」
ポカンとした表情を正樹は浮かべる。
二人の会話が噛み合わない原因としては正樹勘違いだ。
この世界でも走り込みなどの鍛錬をすれば勿論速さが上がったり、走る距離が長くなったりする。
だからこその正樹の勘違いなのだが、この世界には魔法と言う物がある。
今三人は魔法を使用して走っている訳なのだが、正樹としては自分の速さを底上げしてる程度としか思っていないのだ。
実際には魔法か絡むと走る速さや持久力に加えて、魔法の制御や調整、魔力量も加わるのだ。
オストから見て調整や制御はわからないが、正樹の魔力量はこの速度に付いてこれはしても、そこまで長くは持たないくらいの量だと思っていたのだ。
だからこそ、オストの意外だと言う発言なのだ。
日本人の感覚が強い正樹は魔法は、所詮補助で走り込みのお陰と言う感覚が強いがための会話のズレなのだ。
会話の途中で異世界人だからこそのズレだと分かったパーシィは、正樹にこの事を教える。
他人から向けられる白い目は気付かずとも、他人への気遣いは出来る男なのだ。
「お前、魔法使えるのに分かってなかったのかよ。どんな田舎に住んでたんだ。逆に良くそこまで強化魔法使えるな」
「マサキ君は最近まで誰にも知られていない集落に住んでいたからね。魔法についても学び始めてまだ一年くらいだし、詳しく知らないのも無理もないよ」
「一年でそんなに魔法つかえるのか。すげぇな。俺なんて最近やっと使えるようになったばかりなんだけどな」
こういう所を見るとまたプライベートでも尊敬出来そうな気がした正樹だが結論は「無いな」である。
何故なら、そこを気遣えるのに鎧のガシャガシャと言う騒音に気遣えてなかったからだ。
パーシィの話を聞いてなるほど、と思いはしたのだが同時に鎧の音が非常に気になるのだ。
一応鎧にはそう言った金属音を抑える加工がされてはいるのだが、それでも話が聞き取りずらくなるくらいにはうるさい。
鎧なのだからそれくらいのことで目くじらを立てるなとは言うなかれ。
そもそも、騎士の正装としてはパーシィの様な鎧姿にも騎士団の団服と言うものがあるのだ。
そもそも普段はパーシィも団服なのだが、外での護衛ならば鎧でなければならないと言う、謎のこだわりが彼にはあるからこの格好なのだ。
因みに、他の騎士は外の護衛の際でも団服である。
非常に浮いているので、パーシィに団服にするように正樹も言ってはいたのだが中々に頑固だったためにそのままに放置することにしたのだ。
それを今後悔することになるとは思いもしていなかった。
好感度の上がり下がりを同時に味わうという、何とも言えない思いに微妙な顔をしていると周囲の光景に変化がでてくる。
先程まで見渡す限りの草原や丘だったのが、遠目にだが森と思われる木々が見え始める。
「ん?なぁオスト。森ってあれ?」
「あぁ、あそこだな」
「本当に休憩無しで着いちゃったよ。マサキ君本当に大丈夫かい、無理してないかい?」
「少し疲れたくらいだし大丈夫」
パーシィが心配するように正樹に問いかけるが、いつも通りの眠そうな顔で問題ないと言う。
一方で、それだけでは心配なようでパーシィの顔は優れない。
少し過保護に思えるかもしれないが馬で三時間の距離を休みなく、馬よりも早く走り続けたのだから無理は無い。
「とりあえず、森に着いたら休憩を入れるぞ。疲れて怪我をしましたなんてわらえねぇからな」
オストの目から見ても特に問題はないように見えるが、元々森に着いたら入口で休憩を入れると言う。
そして、特に問題が起こることも無く森に到着するのだった。




