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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
一章 社会不適合者達と異世界転移
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1章 15話 異世界での定番観光地は冒険者ギルドと相場が決まっている。

ここから1日投稿頑張りますん。

「やばいな…」


「こんな事になってしまうなんて…マサキ君、すまない!」


薄暗い道。

野生の鳥の鳴き声が、薄暗さに相まって不安を掻き立てる。

そんな中、パーシィは膝から崩れ落ちると、絞り出すかのように謝罪する。

正樹は困った様に眉を八の字にすると、ゆっくりと首を横に振る。

そして、片膝を付くと「いいんだ、俺にも責任がある」と言うとパーシィの肩に手を置く。


「こんなミスをした僕を、許してくれるというのかい…?」


「やめてくれ、いいんだ。だって俺たち…」


迷子になってるだけだから…


(改めて迷子だと思うと悲しくなるな…)


昨日光達と騎士を連れて買い物をしたのだが、正樹としては自分の見たい店を探すと言った散策の色合いの方が強かった。

そして、既に店の目星をつけて満を持して一人で回るために朝から教会を出たのだ。

しかし、外出をするには担当騎士のパーシィを護衛もとい監視として連れ歩かなくてはならない。

そういうこともあり、朝からパーシィを連れて聖都に繰り出していた訳なのだが、出発して早々に問題が発生したのだ。

それは、パーシィの人が良すぎるということだ。

これがただのお人好しの範囲に収まれば問題となら無かったのだが、パーシィのお人好し加減がずば抜けていたのが大きな問題だったのだ。

困った人を見かけると放っておけずに、飛んで助けに行ってしまうのだ。

今回も例に漏れず、腰を悪くしたおばあちゃんを見つけてしまい、家に送り届けようとなった。

正樹としても、困っている人を助けるのに否定的な訳では無いのでおばあちゃんを送り届ける事になったのだが、その後に問題が発生したのだ。

というのも、おばあちゃんの家は聖都の端の入り組んだ裏路地にあったのだ。

帰りは、土地勘があるからとパーシィが先導して来た道とは違う道を選んで進んでいたのだが、すぐに雲行きがあやしくなってくる。

いくら進めど大通りには出られず、アリの巣の様な裏道は来た道すらも迷わせて、見事迷子となり今に至る。

こういった経緯のもと、正樹は面倒くさそうに、生真面目なパーシィを慰める羽目になっているのだ。

パーシィは正樹がこんな情けない姿を見てもなお、こちらに気を使ってくれるなんてと、感動した様な反応をしているが内情は違う。


(なんで俺、休日返上してまで野郎の痴態に悩まされてんだろ。てかこいつクソめんどくせぇ…)


聖都の端は集合住宅街となっており、この世界風のアパートの様なものが乱立しているため非常に複雑な裏道となってはいる。

しかし、幸いと言うべきか不幸と言うべきか治安の悪い場所では無いために、昼ということもあり疎らではあるが人通りはある。

つまり、いい歳した野郎の痴態が付近の奥様方の目に留まるわけで。


「分かったから、取り敢えずそこら辺の人に聞けば解決するから頭を上げて」


「そんな、騎士とは市民の見本にならなくてはならないのだ。そんな恥ずべきことは出来ないんだ!」


(いや、おめぇは既に恥の塊だよ)


このやり取りで既にパーシィに対する尊敬などは既に無く、どの口が言ってんだと珍しく正樹は青筋を浮かべる。

一年近い付き合いから、言葉遣いこそフランクになったが一応は師匠なようなものだ。

一定の敬意を払っているつもりだが、こうなると流石に罵倒したくなる。

正樹の心情が伺えるというものだ。


「あー、はいはい、分かった。取り敢えず近所迷惑だから行くぞ」


罵倒をグッと堪えると、パーシィを引きずる様にしてステステと足早に歩き始める。

普通の人ならば困り果てて怒ったり、困ったりするだけで状況が前進する事はないのだが、生憎こう言う手合いの処理は慣れている。

人生は切り替えの速さが大切だ、を心情にしているだけはあるな、とは光の談。


「マサキ君、そんな適当に歩いたらさらに道に迷ってしまうよ」


「いいから、騙されたと思って着いてこい」


流石に引きずられるのは嫌な様で、しっかりと歩き始めるパーシィ。

困惑顔で心配事を言いつつも正樹の後を付いて行く。

そんなパーシィにピシャリと「うるさい」と一言言うと、しょんぼりした顔文字の様な顔になる。

そして、歩くことたったの十分程度で、広めの道に出ることが出来た。

パーシィの案内で、体感一時間くらいさまよったのが嘘のような速さで出れたのだから唖然とするのも仕方がない。


「道を知ってたのかい!?」


「いや、何となくこっちの方かなって道を選んだだけ」


「いや、でもいくら何でもはや過ぎない?」


「勘が一番大きいんだが、適当じゃないからな。すれ違う人達の荷物を見て大体の当たりを付けてきたからな」


「?」


「その如何にも分かりませんって顔やめい。買い物袋を持った人を見てたんだよ。時間帯的にそこまで多くなかったけど、それでもヒントにはなるし。実際、この商店街に近づくほどに荷物を持ってる人が多かったからな」


「なるほど!よくそんなことに気がついたね」


「ただの豆知識だから大したことないな」


「マサキ君は謙虚だな」


パーシィが褒めるが、正樹は聞き流す。

迷子を脱却できたはいいが、依然として正樹は今の現在地が分からないのは変わらない。

どうしようかと考え、パーシィにここは何処かと聞いてみるも、案の定分からないとの事。

最初から期待していなかったので問題は無いが、いよいよもってこの騎士使えないなと思い始める。

この騎士に付き合ってこのままグダグダしていると、今日のうちに済ませようとした予定を殆ど達成出来そうにない。


(買い物の予定はほぼキャンセルで、時間の掛かりそうな冒険者ギルドの観光だけでも済ませるか)


「よし」


「どうしたんだい?」


「そこに歩いてる冒険者風の人に道を聞きに行く」


「そんな!見本となるべき騎士の誇りにかけて市民に迷惑をかけるなど」


「お前の誇りはゴミ箱にでも入れとけ」


「そんな!」


ひとまず、騒ぎ立てるパーシィの抗議を切り捨てる。

彼にも敬うべきところはあるが、それはそれ、これはこれ。

正樹はついつい心の声を漏らしてしまうが気にしない。

そして、ちょうど目の前を歩いていた冒険者風の腰に剣を差した赤髪の青年に声を掛ける。


「ちょっとすみません」


「なんだ?」


「俺たち冒険者ギルドに行きたいんだけど道が分からなくて。どの辺にあるか教えて貰えません?」


正樹が青年に聞くと怪しむような表情をする。

疑問に思い、青年が見ている方に目を向けると、しょぼんとしたパーシィがいる。

青年の疑問と言うのも、聖都で騎士を連れて歩いている正樹が道に迷ったなど有り得るのかということだ。

正樹としても、まさか護衛のせいで道に迷うとは思っていなかったので、そう思われると悲しくなるというものだ。

聖都の教会勤めの騎士でも迷子にはなるのだ。

ソースは正樹の隣だ。


「あぁ、この騎士方向音痴で今迷子になってるんすよ」


「マサキ君!?」


「俺はもう一時間近く迷子になりたくない」


ぐぅの音も出ない言葉にパーシィは再びしょんぼりした顔になる。

どうやら疑問は当たりのようで、青年は納得したような顔をする。


「ああ、それなら俺もちょうどギルドに向かってるから案内してやるよ」


「助かります」


「すまない、騎士である私が不甲斐ないばかりに君に迷惑を」


「気にすんな。言ったろ、俺もギルドに用事があるって」


そして三人でギルドに向かうために青年を先頭に歩き始める。


「せっかくだし、自公紹介しないっすか?俺はマサキって言います。で、こっちが騎士のパーシィ」


「よろしくお願いします」


「よろしく、俺はオストだ。それとその変な敬語いらないぞ」


「そんじゃ、お言葉に甘えて」


「それで、聞きたいことがあるんだが、なんでまた冒険者ギルドなんかに行くんだ?お前ら教会の関係者だろ」


青年-オストがそう疑問に思うのも無理はない。

聖都にも冒険者ギルドと言うものは存在するが、主な仕事である魔物討伐や周辺の調査は教会の騎士がやってしまうため、実質支部をとりあえず置いているだけというのが現状なのだ。

冒険者ギルドに行っても大した仕事は無いので、そんな場所に行こうと思うのが不思議なのだろう。

そもそも、教会の関係者であれば尚のこと冒険者ギルドに行く必要などないのだ。


「冒険者って言う職業がとんなもんなのか興味があるからな。まぁ、観光だよ」


「お前、物好きだな。聖都の冒険者ギルドなんて人が全然いねぇから見てもあんま面白くないぞ」


「え、マジ?」


「ああ、聖都だと冒険者の仕事の大半を騎士がやるからな。高ランクの冒険者はここを拠点にはしないな。ここで冒険者やってるのは駆け出しか、熱心な創神教信者だけだな」


「ふーん、でも元々冒険者ごっこしたかっただけだから別にいいか」


「ギルドに行きたがるにしてはあっさりしてるな」


冒険者ギルドを見たがる者は、憧れの高ランク冒険者を見たがったり、冒険者ギルドの雰囲気を知りたいなどの者が多く、正樹の様な反応は珍しいとのこと。

かくいうオストも冒険者ギルドに初めて行った時は興奮したと言う。


「着いたぞ、あそこだ」


「うーん、どれ?」


目を凝らしてみているように正樹は目を細めるが冒険者ギルドらしき建物は見えない。

オストが苦笑しながら、分かるぞと言った表情をする。

そうして、ひとつの建物の前で止まる。

その建物は、三階建てのお店なのは分かるのだが、周りの建物も同じような物なので違いがないのだ。

これを冒険者ギルドと言われても異世界人の正樹としては、想像と大幅に違うと言わざるを得ない。


「安心しろ、俺がここの冒険者ギルドに来た時も思った」


冒険者ギルドってこんな感じなの?と言うように正樹が何とも言えない驚きを抱くと、オストが苦笑いを作りながら補足を入れる。

どうやら、ここの冒険者ギルドが質素過ぎるだけのようだ。


「ここで立ちっぱなしは通行の邪魔になるから入ろうか」


異世界のカルチャーショックを受けている正樹の背中をパーシィが押す。

それを合図に気持ちを立て直すと、中に入って見れば外装とは違うのでは?と期待する。

が、正樹の希望はものの一歩で粉砕される。

そこは、想像していた喧しい冒険者の姿は無く、少しガタイのいいおっさん達が仲間と迷惑にならない程度に談笑しているだけだった。

冒険者ギルド定番の酒場は無く、代わりに談笑席とも言える、机と椅子しかないのだ。

ここは役所の団欒スペースだろうかと、正樹はここが冒険者ギルドかと疑いを持ち始める。

勿論、冒険者ギルドのお約束である新人いびりなど起こるはずもなくオストに案内される。


「あそこが受付だ。主に登録に使ったり、依頼の受注があそこだな。であそこが依頼ボードで、依頼が貼られてる。字が読めないなら受付で斡旋してもらうこともできるが、出来るだけ納得出来る依頼にした方がいい。命がかかってるからな」


「死ぬなら、自分で選んだ方がいいか。そりゃそうだな」


「それから、あの大きめなカウンターが買取所だ。買取以外にも、納品系の依頼品なんかはあそこだな」


「うん」


「で、あっちは資料室だ。おもに魔物とか植物とかの依頼に関係する資料が置いてあるな。依頼内容で分からないことがあったら使え」


「うん」


「それと、ここのギルドには無いが酒場や賭博なんかもあるな。どうした?さっきから気のない返事だな」


オストが一通り紹介し終えてみると、途中から正樹の返事がおかしな事に気が付き、顔を見てみるが特に変わったところは無い。


「いや、聞いてはいたんだけど、ちょっと考え事を」


オストの不思議に思っている事が分かったので返事を返す。


「どっか分からないことでもあったか?」


「ん?分かりやすかったけど」


「うん、私も冒険者ギルドがどう言ったものか知らなったが、思ったよりしっかりした組織で驚いたよ」


「なんでお前が知らないんだよ。冒険者ってそんなマイナーな職業じゃないだろ」


「いままで聖騎士になる事しか考えて無かったからね。そこまで詳しく知らないんだ」


そう言うと、タハハと笑いながらパーシィは照れながら頭を搔く。

本来、騎士と冒険者は仕事が被ることが多いのに、冒険者についてあまり知らないと言うことは無いはずなのだが。

そこはパーシィだから仕方ないかと思うことにして、呆れたような視線を向けるだけに留める。

オストもこの人大丈夫か、と言った顔をしているので正樹の浅い知識も的外れでは無いのだろう。

こうしていても時間の無駄なので、正樹は紹介された受付カウンターに向かう。

受付にいるのは可愛らしい受付嬢。

では無く、普通のおじさんだ。

本当にコメントは無い、普通のおじさんだ。

そんなおじさんは、正樹が向かって来るのを見て姿勢を正す。


「すみません。冒険者登録したいんですけど」


「登録ですね。最初に登録費として銀貨一枚をお願いします」


そう言われると、斜め後ろに控えてる絶賛信頼度が急転直下中のパーシィに集るように手のひらを向ける。

お金に関しては協会からの支給で、基本的に騎士が管理しているために、持ち合いが無いのだ。

パーシィも差し出された手の意味を理解すると、硬貨の入った袋から銀貨を取り出す。

そして銀貨を受け取ると、そのままカウンターに置く。

一見、カツアゲ現場に見えなくも無いが正樹はそれくらい気にしない。

それよりも気になっていたのは、銀貨一枚という登録費だ。

この世界の貨幣を日本円に戻すと、銅貨が十円、大銅貨が百円、銀貨が千円、大銀貨が一万円、金貨が十万円、大金貨が百万円、光金貨が一千万円、虹貨が一億円、大虹貨が百億円、黒貨が一兆円と言った感じだ。

それに照らし合わせると、千円程の登録料になる。

ここで何に疑問を覚えたのかと言うと、この世界の物価は日本に比べると驚くほどに安い。

出店であれば大抵一食あたり銅貨数枚で食べられたり、安宿であれば大銅貨五枚あれば朝飯付きで泊まれるとこもあると言う。

そんな中、登録の為だけに銀貨一枚とはかなり高いと思ってしまうのは仕方の無いことだろう。


「では、こちらの用紙に名前と年齢、使用する武器、魔法、それから自分の得意なポジションの記入をお願いします。文字が書けないようでしたら、こちらで代筆することもできますが」


「大丈夫です」


そう言うとスラスラと書き始める。

文字は日本語では無いが、テンプレである何故か知ってる異世界言語による恩恵により問題なく、正樹はスラスラと書き進める。

特に問題も無く書き終えると、用紙を受付おじさんに渡す。


「はい、不備は無いようですね。それでは少しお待ちください」


そう言うと受付おじさんはカウンターの奥の部屋に向かう。


「なぁオスト、登録料高くね?」


「そうでもないぞ。この後に貰える冒険者カードって言うのがあるんだが、それが魔道具だからな。どうしても高くなるんだ」


「なるほど、魔道具なら仕方ないな。むしろ安い」


「なんでも、ギルドカードを作る魔道具があるらしいからな。素材さえあれば量産出来るって聞いたな」


「それなら教会にもあるから間違いないよ。僕達騎士も身分証明の為に全員もってるからね」


「へー、意外としっかりしてんだな」


気になっていたことが知れて、ほへーと感心する。

三人でそんなやり取りをしていと、先程の職員が戻ってくる。


「お待たせしました。それでは最後にこちらのカードに魔力を流してください」


そう言うと職員は、冒険者カードを正樹に差し出す。

言われた通りにカードに魔力を流すと、カードの中の回路のようなものが薄く光る。

それに少し驚いた正樹は「うぉっ」と言う変な声が出てしまう。

職員の「もう大丈夫ですよ」と言う声で魔力を流すのを止める。


「これで登録は完了しました。次に冒険者の規則の様なものを軽く説明します。

まず初めに、冒険者にはランクという物があって、ランクはFからSSSまでの九段階あります。ですがSSより上は国からの認定になりますので事実上の最高位はSランクとなりますね。最初ですとFランクからのスタートとなります。

次にランクの上げ方ですが、ランクに応じた条件を満たしていただくことにより昇格することが出来ます。条件の内容につきましては時期などにより変わるので、昇格を希望される時、職員に尋ねてください。

依頼に関してですが、依頼には難易度が設定されていてF~Aの六段階になります。そして依頼を受けるには相応の依頼を受けてもらうことになりますのでご理解ください。それで基本的には、自分よりランクの高い依頼は受けられない決まりとなっています。

最後の注意事項ですが、市民へ危害を加える行為、冒険者同士の殺し合いはご法度となっており、ペナルティーとして冒険者カードの剥奪とギルドからの永久的な追放となります。

他にも細かい注意事項がありますがそれは資料室に置いてありますのでそちらをご覧下さい。

以上で説明を終わります。では改めて、ようこそ冒険者ギルドへ。あなたの活躍を期待してます」


そう締めくくると、職員は笑顔で新しい冒険者を迎えたのだった。


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