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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
三章 アレクレア共和国と騎士小隊結成
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4章 138話 突入開始

些細…とは言い難いアクシデントであったが、なし崩し的ではあるものの、どうには話をまとめることができた。

納得の行かない者が多い中、案を無理繰り通したマサキは疑惑の視線を気に留めることなく、話は終わりだとジュンジに耳栓役を止める様に指示する。

耳から手を離されて聴覚が戻ったラシェンダだが、会話の内容が不安で仕方ないのか落ち着かなそうに視線を彷徨わせていた。


「あの…」


「ほれ」


遠慮がちにどうなったのか聞こうとするラシェンダに、マサキは答えの代わりに物を投げ渡す。

急なことに慌てるラシェンダだが、鈍臭いということもなく渡された物を落とすことなくキャッチする。


「これは?」


「ガスマスクだ。効かないとは思うが、中に入ったら薬をぶちまけるから念の為に付けとけ」


「!?私も連れてってくれるの?」


「絶対前に出るなよ」


渡された物に困惑するラシェンダだったが、話の流れ的について行けると分かると顔を綻ばせる。

美形に定評があるエルフなだけありその顔を中々に可愛らしい。

だが、余計なことをしでかしたせいでどうにも憎らしく見えてしまうのは、ヒカルとコヨミの心が荒んでいるのかもしれない。

そんな内心複雑な二人を他所にマサキはオストの名を呼ぶ。


「オスト。俺が出来るのはここまでだ。騎士になったんだから形だけでも責任果たせよ」


「形だけじゃねぇ、完璧に果たす」


やはり言葉足らずではあるものの、しっかりと言われたことを理解していたオストは、迷いなく語気を強くして答える。

ラシェンダを助け出してその願いを初めに聞き届けたい、叶えてあげたいと言い出したのは自分だ。

本来なら到底叶えることが難しかったこの我儘をここまでマトモな形に整えてくれたマサキの尽力に、文句や不満はありながらもしっかりと付いてきてくれている仲間の為にも半端をやるつもりは毛頭無い。

それに口には出せなかったが、出来ることならラシェンダの手で妹を助け出させてあげたいという密かなエゴもあった。

何度も思う既視感のせいでもあるが、やはり自分の後悔を他人もしてほしくは無い。


「みんな」


あまり大きな声でなくとも、隊長の声は隊員全員の耳に届く。

緊張も不安も迷いも、覚悟を決めて不要な物全てを捨て去ったオストに視線が集まる。


「ありがとう。ここまで迷惑しかかけてなかったが、ここからは俺の番だ。お前たちの剣として、盾として全力で頑張る。弾除けでも肉壁でも存分に使ってくれ」


オストは癖になりつつある感謝と共に、柄にも無い演説をする。

せめてこんな時くらいは彼ら彼女らの隊長らしくあろうと。

賢くもなければ立ち回りも下手くそ。

不甲斐ない場面ばかりが目立つオストだが、ここぞという時は我の強いメンバー達であっても隊長として頼りたくなる、期待したくなる。

そんな気持ちにさせてくれる。

これが俗に言うカリスマなのだろうと全員が朧げに思う。


「んだよ。急に騎士っぽいこと言いやがって」


「騎士だからな。少しキザ過ぎたか?」


「いいじゃん、いいじゃん。カッコいいよ、オスト君」


憮然とした佇まいに皮肉るヒカルにオストはおどけてみせる。

決して長い付き合いとは言えないが、濃密な時間を過ごしたせいか転移組の掛け合い方が憑ったのだろうその態度に、周りの緊張が自然とほぐれてゆく。

意図しての発言だが、自分でも少しどうかと思う物語の主人公のようなセリフに少しの照れ臭さを感じるが、ミカはそんなことは無いと楽しげに否定する。


「そうよ。私達の隊長なのだからそれくらい堂々としてればいいのよ。むしろ、普段からそうしてなさい」


「それは難しいな。だが、そうなれるよう努力するよ」


ピリピリとした空気を霧散させたエレナリーゼに普段から思っていたことを率直に伝えられる。

まだまだ実力不足が気になる身としては心の底から胸を張ることは出来ないが、目標としてはそうなりたいと心から思う。


「はぁ、もう弱気なの?折角見栄えが台無しね。もう少し頑張りなさい」


「堂々とするのって難しいな…」


早速自信なさげな物言いにエレナリーゼは方を落とす。

変に見栄を張らないで正直に言えるのがオストの美徳だが、こればかりはどうにかして欲しいと切に思う。


「なら丁度うってつけの場があるから、そこで頼もしい隊長の階段を登ってもらうとしますか」


オストのお陰で険悪な空気は改善されて全員の肩の力も程よく抜けた。

仕込みも終わったところでマサキも軽口を叩くと突入の最終準備に入る。


「合図したら突入だ。二手に分かれるまではヒカルがエルフっ子を運んでくれ」


「リョーカイだ」


「だからアタシの名前はラシェンダ!」


侵入直後は全員で迅速に奥まで行く必要がある。

マサキは足があまり速そうでは無いラシェンダの運搬を無難なヒカルに任せる。

懲りもせずに名前を覚えてもらえない彼女は小さな声で怒鳴るという器用なことをするが、当たり前のようにスルーされ、それから間もなく十からのカウントダウンが始まる。

九、八…と進んで行く途中で、抗議を入れるのに必死だったラシェンダにヒカルはガスマスクを取り付ける様に言われ、焦って取り付け始める。


『二、一…突入!』


手際の悪さに剛を煮やしたヒカルによってどうにか準備を終えると同時に、突入の合図がなされた。

今までマサキが動かず地面手を置いていたのは扉にかけられた魔法の解析以外にも、穴を開けるために魔力を馴染ませる必要があったからだ。

スキル『自変万象』。

効果は周囲に自身を合わせると言ったなんとも分かりにくい代物であり、分かっていることはマサキがよく弱く見られやすい元凶のということともう一つ。

普通は特殊な魔素を多分に含んでいるせいでまともに利用できないとされているダンジョンの壁を、何の抵抗もなく使えたスキルであるということ。

ある日、ならば魔力もとい魔法にも使えるのでは無いか?とマサキは推測した結果、時間をかければ使えるということが分かった。

つまり、この魔法のかけられた壁もダンジョンの壁同様に時間をかければ操作することが出来るのだ。

分厚い鉄の扉は中央を起点に円形の穴が開けられると、最低限の光に灯されたそれなりの広さの通路が姿を表す。

まず初めに中の安全確認のためにオストが飛び込むと間をおかずにエレナリーゼも入る。

傍に武装した者が二人倒れているのは、マサキの撒いた催眠ガスがしっかり効いている証拠だ。


『問題無し』


仮面を通してエレナリーゼが報告をすると残りのメンバーは次々へ中に入って行き、最後にマサキが入ると入って来た入り口を逆の要領で閉じる。

それから打ち合わせ通りの陣形を作ると眠っている見張に構うことなく走り出す。

陣形は何があっても対応できる様にオストを先頭に直ぐ後ろにエレナリーゼに任せ、それから二人分の間を開けてヒカルを中心にマサキとコヨミとミカが逆三角形になるように陣取り、最後の殿にジュンジを置いて展開する形だ。


『次に出てくる分岐は右』


目を瞑るマサキは全員に指示を出す。

催眠ガスに己の魔力を含ませている副産物として、ある程度の構造を把握することが出来ているお陰で、迷って足を止める心配が無い。

ただし、本人が集中と無駄な情報を遮るために目を瞑っているので、後ろにいるミカとヒカルは多少ハラハラとした気持ちで時々確認するくらいには心配である。


『悪人のアジトなだけあって迷路みたいだね』


『ああ、ジュンの家みてぇだ』


『なんで俺の家を引き合いにだすの?古民家だからややこしいだけだよ』


ミカのつぶやきの様な感想にヒカルはボヤく。

謎の風評被害…とも言えなくもないのだが、ジュンジは言い訳がましい反論をする。

必要にはとても思えないほどに多い分岐路は襲撃に備えた造りなのだろうと思わせる複雑さで、それなりに走っていても今だに部屋の一つも見かけない。

良いところと言えば、今の所敵も眠って倒れていることしかないので、戦闘もなく順調すぎて怖いくらいだが、マサキの発言で気を引き締め直す。


『もう直ぐ扉が見えてくる。中に何人か居るから出待ちに気をつけろ』


『『了解』』


先頭を走るオストとエレナリーゼは手短に頷く。

全員が感知系統の魔法やスキルを使用しているお陰で、多少の余裕があったが直ぐ様に戦闘体制に移行する。

角を曲がって直ぐの所に言われた通り扉が見え、減速することなく駆け抜ける途中で先頭の二人は位置を変える。

前に出たエレナリーゼは指輪型の魔導具に魔力を流す。

指輪が小さな光を放ったかと思えば、見惚れるほどに流麗な大剣が手に収まっていた。


「エンペライザー、仕事よ」


己の相棒に一言声をかけるとエレナリーゼは鞘から勢いよく引き抜くと、青雷を纏わせて扉を切り裂く。

目の前の扉も、入り口ほどでは無いにしても防御系の付与魔法が施された代物ではあるのだが、エンペライザーの前には紙切れも同然。

勢いのまま蹴破って中に侵入すれば、予想通り四人が待ち構えていた。

暗器使いが一人と剣士が二人、杖を持った魔導士が一人。

四人の役割を一瞬で把握したエレナリーゼは、手前二人を無視して一番厄介な遠距離と範囲攻撃の可能性がある魔導士を標的にする。

隊内最速は轟ッと風を打ち鳴らす。

その速さは待ち構えていたにも関わらず、武器持ち達にまともな反応をすることを許さない。

進路上に居る暗器使いの腹に掌底を叩き込み、そのまま走り抜けると魔導士へと叩きつける。

遅れてオストは任された手前の敵を倒し、最後の狼狽える敵にはコヨミが対応する。


「よっ、と」


鈍い最低限の動きしかできなかった男を、コヨミは軽い様で鋭い蹴りで敵を沈めるたところで、侵入後初めての戦闘はあっという間に終わる。


『他は?』


『居ないわ。そっちは?』


『同じく居ないな』


他にも伏兵が潜んでいることを懸念して、油断することなく索敵が不得意なオストは他へ尋ねる。

それに索敵能力の高いエレナリーゼとマサキが答えると、一行は手に持つ武器を下げる。


「やっと部屋らしいとこに出ましたねぇ」


「部屋はまぁまぁだけど、大した物はなさそうだね」


「そうでもねぇみてぇだぞ」


「それってどういう…あー…」


地下に入って初めて足を止めた一行は注意深く辺りを見渡すが、ジュンジが言うように備品の保存庫なのか幾つか物が積まれているだけの部屋だ。

あまり重要そうな部屋では無いと観察を直ぐにやめようとする二人へ、ラシェンダを一度下ろしたヒカルはもう一度注意深く見るように言う。

もう一度見渡してみると、戦闘の衝撃で散乱した物を見て理解する。


「随分物騒なチョーカーとか腕輪ですねぇ。犯罪臭がぷんぷんします」


「おおかた、捕まえたヤツらに付けるんだろうよ」


「ラシェンダそうなのか?ラシェンダ、大丈夫か?」


手錠や首輪といった、大凡まともなことに使われいなさそうな道具の数々に眉を潜ませる。

オストは同じ様な物を付けていたラシェンダに聞こうとするも、当の本人はうずくまってそれどころではなかった。

トラウマが刺激されたかと心配になって駆け寄る。


「うっ、気持ち悪い…」


「気分が悪いのか!?」


「酔った…」


杞憂だった。

ただでさえ、種族柄乗り物に乗り慣れていない上に、入り口から長い間走る人間に抱えられていたのだから無理もないことかもしれない。

わざわざここまで運んできたヒカルとしては無茶言うなな話ではある。

本当に連れて来てよかったのかと何人かが思ったところで、ラシェンダは酔いに効く魔法である『アンチ・ドランク』で回復する。


「ごめん、アタシは気が付いたら牢の中に居たから分からないの」


「いや、ただ聞きたかっただけだから気にするな。むしろ、変な事を思い出さなくてよかった」


「普通に考えりゃ暴れられても面倒だし、気絶してる間に運び終えるか」


質問にちゃんと答えられないで申し訳なさそうにするラシェンダに、オストは大して気にしていないことを伝える。

代わりに常識的かはさて置き、ヒカルが考えやすい見解を述べてくれる。


「そんなことより、先を急ぎましょ。扉が三つもあるけど次はどっちなの?」


「そうだな…丁度他に続く通路がいくつかあるし、ここいらで二手に分かれるか」


あまり調査に時間をかけたくないエレナリーゼは先を急かすと、マサキも同意すると作戦を次に移すことにした。

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