1章 12話 石橋は叩いて叩いてもう一度叩く。
普段とは別の意味で盛り上がりを見せる訓練場は、興奮するように各々話し合う学生達で賑わっていた。
グイネスからの招集の後、その日の訓練と講義は中止となった。
厳密にはそこに聖都に行き、今までの知識を使い、周囲に馴染み、見聞を広めろと言う講義に変わったと言うべきか。
とは言っても、学生達からしたら休日に変わった様なものなのだから、この騒がしさも頷ける。
訓練場に集まった殆どの学生達は、この後すぐに聖都に行くようで、気の合う友人達と担当の騎士で集まり、この後の予定を立てたりする。
あまりの嬉しさに計画も立てずに少人数で忙しなく出ていった者と、訓練についていけなくなった者達を除けば全員がこの場にいる。
年相応のはしゃぎ具合ではあるが、それでも計画を立てるのは腐っても秀才の集まりだからか。
因みに、早々と出て行った者達は性格的に待てないと言うだけで、その途中で計画を練っていたりする。
「どうする、オレ達もこのまま聖都に行くか?」
「予想してた内容と野外訓練が違ったから、とりあえずもう一回集合」
「えー、せっかく外に出れるようになったんですから行きましょーよーぉ」
そんな、和気あいあいとした雰囲気の中、正樹はいつもながらの気怠げな評価をしながら、光の問に答える。
皆で話し合った結果、今回の野外訓練も魔物討伐だと予想していたからだ。
しかし、蓋を開けてみれば護衛という全くの予想外なものだった。
正直準備期間があるとは言え、いきなり護衛をやることになるとは思わなかったのだ。
というのも、魔物討伐も覚束無いような学生達が、いくら騎士達が付くと言ってもハードルがあまりにも高すぎるのだ。
確かに、前回の野外訓練から半年を経て、以前よりも格段に強くはなったが、それは正面からの戦闘に関してだ。
対して護衛は、正面からの戦闘力はそれほど重要ということはない。
それに加えて、学生は正樹達を含めて護衛に関しての知識が無い。
これは、教会が意図的に教えてなかったのではと正樹含め三名が勘ぐるが、その線はすぐに捨てられる。
今までの講義の内容を振り返っても、護衛の知識よりも優先度の高いものしかないからだ。
なら、単純にこの機会に護衛に関するノウハウを学ぶと考えるのが妥当だ。
正樹はこれまた面倒なと、内心で愚痴る。
これが、護衛に関する知識を習った上での野外訓練だったら、正樹もここまで困惑することは無かった。
一件して表向きは学生達のガス抜きを、裏では護衛の知識を学びながら訓練すると言うお題目だ。
それでも、さらに深読みをするなら、わざわざ護衛を他国にまでするのが謎なのだ。
学生達にはどう足掻いても無理難題であり、リスクの方が圧倒的に大きいのだ。
それこそ、テラクセスの街の一つで条件は問題無いはずなのだ。
そういうことからの一旦作戦会議なのだが、恋詠は納得できないようで正樹の肩を掴んで上下に跳ねる。
その被害により、体がガックンガックンすることにより胃袋がシェイク。
朝食べたばかりの物が出そうになると言う二次被害が発生する。
「ちょぉっ、ま、待て!はくぅ、吐くから、やめろ!」
「ヨミ、やめて上げろ。マサも意地悪で言ってるわけじゃ無いから落ち着けって」
いつにも増して顔を青める正樹を見て、これは本格的に危ないなと思い光がなだめ、
とんでもない振動から解放されたが、気持ち悪さからの解放はまだ先のようで、正樹はゾンビの様に呻く。
「お前、なんてことを、うぷっ。してくれてんの」
「いやぁ、職業柄でなんか難しい顔してると笑顔にしたくなっちゃうんですよぉ」
「なるほど、じゃあ今ので俺が笑顔になるとお思いで。ホントのところは?」
「先輩らしくない真面目な顔だったので、いつものアホ面に戻してあげようという思い遣りとぉ。ただ悪戯したかっただけですっ!」
「おーけー、お前覚えてろよ」
恋詠の輝いてすら見える清々しい真っ黒な笑顔に、正樹の頬が引き攣る。
全員が何となくわかっていたことだが、正樹以外に被害はない。
何より、毎度のことなので気にしても仕方が無いので、三人は落ち着いたと見るや食堂に向かおうと訓練場の出口に向かい始める。
それに続き、恋詠も逃げるように後を追っていったのでこれ以上の文句は言えないと正樹は悟り、自身も歩き始めようとする。
「正樹、待ってくれ!」
しかし、踏み出そうとした足は後ろからかけられた声により止められた。
すぐ様、主の声が予想出来ると、少し嫌な顔を作った後に振り返る。
声の主は予想通りの人物。
正樹の幼馴染であり、風の勇者でもある学生達の中心人物、織田勇樹だった。
その後ろには他の幼馴染達もいた。
正樹は不仲な幼馴染が全員集まっているところを見ると、さらに嫌そうな顔を作るとすぐに少し驚いた表情をする。
「珍しこともあるもんだな。そこの協調性なさそうな奴らが自主的に集まるなんて。明日は雪かな」
本当のところは、この面子が揃うこと自体はそれほど意外とは思っていない。
個人個人で仲が悪いだけで、全員が不仲という訳では無いからだ。
しかし、それでも正樹が驚いた表情をしたのは幼馴染達を煽るためにしただけである。
「ああ?喧嘩売ってんのか。根暗ァ」
その挑発に亜蓮は不機嫌そうな顔に青筋を作る。
「一番協調性の無い君に、そんなことを言われる筋合いは無いな」
亜蓮と同じく、不機嫌そうに反応するのは鋭い目付きの三白眼が特徴の黒髪眼鏡の青年、朱音の弟でもある東城大輝だ。
「俺は誰がとは言ってないけど、もしや自覚がおありで?協調性のないお二人さん」
「ゆーき、なんでこんな奴まで誘おうとするの。時間の無駄だよ」
そう言うのは、染めた金髪を揺らし、モデル顔負けのスタイルと顔、勇樹と同じく女子の中心的人物である一色姫乃は、汚物を見るような目で正樹を見下す。
「皆落ち着いて、正樹も挑発は止めなさい。話が進まないでしょ」
そんな険悪な間を朱音は頭痛を堪える様な仕草をしつつも、手慣れた様になだめる。
「ありがとう、朱音。正樹、俺達で町を回らないか。こっちに来てからろくに話もしてないし、しっかり幼馴染同士で話し合いたいんだ」
「え、嫌だけど?」
「どうして!?」
「どうせ時間の無駄だから」
正樹はそう言うと、もう話は無いとばかりに訓練場をでる。
そんな正樹をどうしていいか分からずに勇樹は、「待て!」と伸ばした手をさ迷わせる。
が、他の幼馴染は分かっていたようで、やっぱりこうなったかと諦め顔の朱音が「諦めなさい」と声をかける。
そのやり取りを最後に訓練場を出ると、今のやり取りに気づいたようで先に出ていた四人は出口で待っていた。
「ほら、行くぞ」
「なぁマサ、話くらい聞いてやれよ」
まさか、光達が残っていたとは思わず露骨に嫌そうな顔をすると、ぶっきらぼうに先を急かす。
それを、今のやり取りを覗いていた光は、心配そうな目をして言う。
光としても、正樹と幼馴染達の関係が悪いのは知っている。
光は過去に、ハーフで金髪という容姿の違いに周りに馴染めず、正樹に会うまで日本ではろくに友達がいなかった。
お世話にも人付き合いが上手いとは言えないのに加えて、自分は部外者で口を出すのは間違っていると分かっていたから、今まで深く踏み込むことは無かった。
しかし、今は異世界に転移しているために、明日何があってもおかしくない状況だ。
差し出がましいと分かっていても、さすがに思う所があるからこその発言だ。
それは、言葉にすらしていないが純司、咲、恋詠の三人も同じようで正樹を見る。
「あいつらが話したいのは、昔の俺の話なんだよ」
そんな視線を感じ取った正樹は、面倒くさそうにため息ひとつ着くとポツリと言う。
「あいつら、と言うより勇樹と朱音は昔の俺に戻って欲しいんだよ。だけど、それは無理な話であいつらは、俺が昔の出来事を引きずって、未だにいじけてるからこんな風になってるって勘違いしてる。けど、俺としてはもう折り合いの付いた後なんだよ。だから話が噛み合わないし、お互いにギクシャクする。だから時間の無駄」
「でも、あんな言い方しなくてもいいんじゃない?」
「流石に、あんな感じで何回も来られると面倒臭いんだよ。だから煙たがってるように見えるというか、してるというか」
今まで光同様に首を突っ込むことのなかった咲も、今回ばかりは心配が勝ったのか諭す様に言う。
これには、物珍しさと咲に強く出られないことから困ったと、頭をガシガシと掻き乱す。
しかし、この件に関しては正樹自身に解決する気が無いのも相まって、珍しく歯切れの悪い返答をする。
「それに単純に俺があいつらのことが嫌いって言うのもあるけどな」
「全然乗り越えられて無いじゃん…」
「ちょー引きずってますね」
「乗り越えたのと、人の好き嫌いは別なんだよ。誰が好き好んで印象が悪かったり、性格の合わない奴らと仲良くしなくちゃいけないんだよ。信用がねぇんだよ、信用が」
「女々しいですねぇ」
「一応言っておくと、朱音とは不仲じゃないから俺に女々しさはないからな」
「半年前にめちゃくちゃトラブってたよな?」
「訂正。異世界に来るまではそこそこ仲が良かったです」
光に痛いところを突かれると、喉に小骨が刺さった様に顔を顰める。
すぐ様に訂正を入れるが、言い訳臭く聞こえるのはご愛嬌だ。
そんなやり取りをしていると、目的地の食堂にたどり着く。
普段、自由時間となると少なくはあるが人がいるものなのだが、先程のこともあってか人っ子一人見当たらない閑散としていた。
いつも愛用している窓に隣接していない席に座ると、いつもの様に純司は小声で防音の魔法を唱える。
「じゃあ、切り替えていこう。で、今度の野外訓練だけどなにか裏がありそうじゃね」
「えー。先輩のお悩み相談しないんですかぁー?」
「やめてやれ。オレもおかしいとは思うけど、そこまで筋の通らない話って訳でもないからな」
「俺も特には。元々、外に出たいって要望はあったらしいし」
「私は変に感じたかな」
正樹が言うほど、不自然に感じてなかった二人に対して咲は、思案するように顔を俯かせながら呟くように言う。
「だって、私達がここで学んだのはこの世界の生活知識と戦闘訓練だけなんだよ。それを専用の知識が必要の護衛をいきなりやらせるのはおかしいと思う」
だよなぁ、と正樹は呟くき概ね自分と同じかと思う。
まず、護衛にはサバイバルスキルが必須となってくるだがここも習っていない。
索敵に野営準備、護衛対象との打ち合わせなど上げ始めればキリが無く、現状では全てが出来ないと言っていい。
にも関わらず、他の学生達がここまで楽天的にいられるのも恐らく、今だにこの異世界を現実だと受け止めきれていなかったり、自分は大丈夫などと、心の中で思っていることが関係している。
他にも強い力を得たことによって自分は特別だ、どんなことがあろうとも切り抜けられると言った中途半端な自信をつけたことも一因だ。
ゴブリンの恐怖があるとは言え、目に見える被害は怪我人が出た程度なのだから。
その恐怖をこえる魅力をチラつかせられれば、今までのストレスなどが相まってすぐに飛び付いてしまうだろう。
「私も不自然だと思いますよ。護衛とは関係ないですけど私達、印象操作させられてる感がありますし、なんか嫌な感じがします」
「それは間違いなくあるな。一番それが如実なのがアルガードに対する印象だな」
恋詠のこの発言に、正樹も同意をする様な形で補足も入れる。
他の三人は何のことだと首を傾けると、直ぐにハッとなり驚きの顔になる。
「確かに言われてみれば、俺の印象は真面目な騎士って感じだ…」
「オレも堅物で気難しいおっさんって思ってた」
「私も…」
これには純司、光、咲の三人が驚くのも無理はない。
知らぬ間にアルガードの印象が初対面の印象から大きく変わっているのだから。
会っていきなりとんでもない殺気を当ててきたという人物から、真面目で堅物な騎士と言う印象に変わっているのだ。
これは学生全員に言えることだ。
間違いなく、アルガードの第一印象は誰一人として良かったものがいないと断言出来るのだ。
そして、そのアルガードとはその時以来殆ど会うことはなく、会ったとしても会話をした事はないのだ。
にも関わらず、印象が変わっているのはおかしい。
それほど第一印象とは大きい。
何故と三人は困惑する。
「あぁ、それはこっちでの勉強のせいだ」
「「「勉強…?」」」
正樹はことも無さげに言うと、それを聞いた三人は頭に疑問符をうかべる。
「こっちの常識を勉強する内に、全員の常識がこっちに馴染んだのが原因だな。こっちでは騎士が主を守るのは当然で、手荒なことになることも少なくないっていうのをな」
「なるほどな、確かに言われてみればそうだな」
「でも、俺達の中の常識がそんな少し勉強したくらいで変わるものか?」
「それは部屋に炊かれていたあれだろ。なんて言うのかしらんけど、リラックス効果があるとか言ってたあれ」
「アロマのこと?」
「そうそれ。あれが原因なのと教会の刷り込み教育の賜物だな。どう考えても熱増っぽいのもあったし」
「怖いですよねぇ」
二人はなんでもない様に言うが、クラスメイト全員が気付かずにいた仕掛けをよく見破れたものだと三人は思う。
光の「すげぇな…」という呟きを正樹が拾うと、首をふるふると横に振る。
「いや、別に大したことじゃないぞ。本当に」
「そうですね」
「なんでそこで微妙に謙虚なんだよ。こういう時こそドヤ顔の出番だぜ」
「失礼な。俺の場合はこれがあったのが大きいな」
そう言うと、スキルを発動させると手元に黒いモヤを作るなり、中をまさぐる。
あったあった、と呟くと小さ目の本のようなものを取り出す。
作りが上品に皮でできているその本は少し古ぼけていて、中を簡単に見れないように鍵まで付いているいることから、中には重要なことが書かれていることが伺える。
まさか、そこに洗脳と言っても過言ではない刷り込みを跳ね除けた何かが!
正樹同様に疑り深かったお陰で、不自然さに気が付いた恋詠も、印象操作に関するカラクリまでは分からなかったので興味津々だ。
四人が硬い表情で本を見つめて、代表して光が問う。
「それは…」
「俺の日記帳」
「「「「は?」」」」
これには空いた口が塞がらない。
如何にもと言った雰囲気を放つ本が、まさか日記帳だと誰が思うだろうか。
「いやいやいや、ふざけるのも大概にしろ。なんだよその如何にも見たいな感じの本は!」
「そうだよ。どこの世界にそんな高価そうな本を日記帳にする人がいるの!」
「ここに居るだろ」
そんな馬鹿な!と全員が思うが、よく考えてみれば神宮正樹とはそう言う人間だということを思い出す。
このメンバーは全員がマイペースであり、正樹も例に漏れず、端的に言って感性が普通の人から大きくズレているのだ。
これでいて、コミュニケーション能力がそれなりにあるのだから驚きだ。
しかし、これは親しくない人且つその気があればと言う前提が付くのはご愛嬌だ。
また、正樹の悪ふざけがと信じてくれそうにもないので、仕方がないと言ったような顔をする。
「信じられないなら最初のページをよくみろ」
そう言うと、机の中央に一項目を開き見せる。
「マジか。ホントだ…」
「えぇ…」
「正樹って物臭のくせしてマメだよな…」
「似合わないですよね。あれ?先輩、なんか張り付いてるみたいで次のページに行けないんですけど」
「あぁ、それ魔道具らしくて俺の許可したページ以外見れないから」
「なんですか、その無駄にハイテクな本は」
「それだけじゃないぞ、この本は普通の鍵に加えて魔法でもロックが掛けられる二重構造に加えて、無理に読もうとすると発火して中を読めなくするという優れものだ」
自慢するように本の機能を説明する正樹に、多少のイラつきは感じるのだが、その性能は実際問題すごい。
魔道具自体と機能のひとつひとつは普通なのだが、それが一つの魔道具に複数の機能が付いているというのが異常なのだ。
魔道具は基本的に一つの道具に一つの機能、それも単純なのが普通だ。
それをこの本は、複雑な魔法な上にそれを複数搭載しているのだ。
だからこそ、そんな高価な本を日記帳にするなど、本来なら有り得ないのだから文句のひとつくらい言いたいのだ。
「どこからそんな本が出てきたんだよ」
「それがさー、資料室のゴミ本のとこに置いてあってさ。司書さんに聞いたら開かないし使い物にならないって言うからさ、じゃあこれ貰っていい?って聞いたら、いいよーって言われたから貰った感じ」
「そうなんだ」
色々とツッコミたい所があるのだがここはグッとこらえる。
そもそも、本の話により話が大きく脱線しているのだ。
これ以上別の話をすると収拾がつかないのは、正樹以外の全員が分かりきっているのでこの話題を切る。
「そうか、話を戻したいんだけどいいか?」
「ん?別にいいけど。で、なんの話しだっけ?」
「マサくんが、なんで洗脳を見破ったかだよ」
ああ、そうか、と呟いているところを見るに本当に忘れかけていたのだろう。
光太の脱線した話を無理やり戻したのはファインプレーだったようだ。
「俺が気づけたのは、日記に俺の愚痴を書いてたのが大きいんだ。例えばアルガードの印象とか。まぁ、一番大きいのは単に俺が、疑り深いからだと思うけど」
「それなら俺達も疑り深いと思うけど」
純司の言うことも最もなのだ。
と言うのも、全員が過去に人間関係を非常に拗らせた、エリート不適合者なのだ。
その戦闘力たるや、他の追随を許さない。
「それは俺と恋詠の性格の悪さがお前達と比べ物にならないからな。悪意に敏感なんだよなぁ、これが」
「なんでサラッと私を巻き込んだんですか、否定はしませんけどね!」
そんな正樹に恋詠が講義の声を上げたが、張本人は何処吹く風で気にもとめないのだった。
「まぁ、そこまで刷り込みも洗脳みたいな強制力の強くなさそうで、大したこと無さそうでしたし。違和感を感じにくくさせるくらいのものだったと思いますよ」
「それでも、引っかかってたオレ達としては結構重大なんだけどな」
「そこは気にしても仕方ないだろ。で、印象操作の目的だけど間違いなく、俺達を懐柔して教会の戦力にすることだよなぁ」
ことも無さげに言う正樹の一言に、四人は否定を入れない。
そもそも、このことが分からなくても前々から感じていたことで、全員の共通認識と言うことだ。
「こう考えると前回の野外訓練は、オレ達がどれほど使えるのか測るためなのかもな」
「それ以外にも、使えない奴らを振るいにも掛けも一票」
「それに見せしめも入ってると思いますよ。お陰で皆真面目になりましたし」
「こわいな…」
三人の推測を聞いた純司はブルりとし、咲も同様に顔を青くする。
それはこの中でも二人が、野外訓練の時に最も精神的ダメージが大きかったのも理由だろう。
それに、一歩間違えれば振るい落とされていた側だという自覚もあるのも要因の一つだろう。
「一先ずは、推測を言い合っても仕方が無いし、教会がめちゃ臭いってことだけはよく覚えとけよ」
正樹は心配そうにしている二人に、もっと注意しとけよ、と言ったあとに「まぁ、固くなりすぎないようにな。怪しまれるから」と反応が面白かった用で揶揄うように、矛盾したことを忠告する。
それを聞いた二人はガチガチになりながら首を縦に振る。
(あ、これは不味ったかもなぁ。まぁ、なるようになるか)
そう思うのは光と恋詠も同じなようで、大丈夫かと心配する視線を向けてくるが、正樹にはどうしようも無い。
そもそも、二人はコミュ症であるためにそこまで問題にならないかと結論つけると、空気を変えるためにも次の話題に移ることにする。
いつもの思考放棄である。
「で、本題に戻るけどよろし?」
「「だ、大丈夫」」
「二人とも今緊張してどうすんだよ。そもそも、やることは今までと変わんねぇから、いつもの注意喚起だよ。マサもジュンとサキで遊ぶな」
「そうですよ。要するに野外演習は危ないから気をつけようねって言ってるだけですよ。いつもの先輩の慎重病ですよ」
まさかの、自分で蒔いた種を放置していく正樹に二人はマジかよと、非難げに視線を送るが本人に気にした様子はない。
案の定、挙動のおかしくなる二人に光と恋詠が慌て気味にフォローに入る。
このまま、腹芸が苦手な咲と純司を放置すれば、挙動がおかしいままになるのは目に見えている。
それを聞いた二人はそっかと、胸を撫で下ろして一息つくと、見えない様に光と恋詠は恨めしげに正樹を睨む。
こうして一悶着はあったが、いつも通りのコンディションになると、次の野外演習と聖都外出の話を始めるのであった。




