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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
三章 アレクレア共和国と騎士小隊結成
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4章 112話 アホな勘違いほど苦労は無い

「アリーダは今ファーゲで起こっている連続失踪事件に巻き込まれたと予想されている。これに異論を挟む気は無い。姿を消したのが誘拐にしろアリーダ個人の判断にしろ、この前提が崩れれば辺境伯が何らかの目的でシナさんかアレクレアに何かを企んでることになるからな。この可能性も無いと見ていい」


マサキは話が絡まったり途中で出るであろう疑問点わ少しでも減らす為に、まず前提条件から話し始める。

いきなり本題とは少しズレた話だが、オストやジュンジ、エレナリーゼはこういった考察があまり得意では無いので誰からも異議が出ることはない。


「辺境伯の説明がどこまで真実なのは分からないが、誤魔化したことはあっても嘘はないな。わざわざこっちを騙してシナさんとの関係を悪くするようなもんだし。ね、ウィンさん」


「うんうん、娘が拐われたなんて醜態もいいところだし、ベックスが嘘をついてるってことは私も無いと思うよ」


ここで辺境伯邸から無駄口以外はずっと傍観の立ち位置に居たウィンベルに話しかけると、自分の意見も添えてマサキの仮定を保証する。


「ありがとうございます。で、まず俺が気になったのが差異だ。あんまりに絵画と写真のアリーダが違い過ぎたからマルケンにどっちが本当に似てるか聞いておいたんだ」


「部屋から出た後にマルケンと話してたな」


「そういや」と呟いてからヒカルは辺境伯邸を出る前にマルケンとマサキの姿があったと証言も兼ねて皆に言う。


「写真の方は間違いなくここ最近の物なのは間違い無かったが、問題があったのは絵画の方だ」


「辺境伯の話だと絵師に描かせたって言ってたな。貴族は見栄えを気にして美化したのを描くから当てにならないんじゃ無いか?」


オストはベックスの話を一部抜粋しながら、自分の経験則も交えて意見をする。

オストの常識に照らし合わせた貴族とは大体そういうもので、実物とはかけ離れた銅像母国では幾つも見たことがある。

絵画は見比べる機会など無かったが、噂話などを聞けば同じような物だった。


「それがそうでもなかったんだ。アリーダは数年前まであの絵そっくりだったんだと」


「「本当(マジ)か!!?」」


アリーダの姿を見比べたオストとヒカル言葉に信じられず大声を上げる。

それくらいに、アリーダの姿はかけ離れていた。

他の者達にはその酷さがピンとこないが二人のリアクションを見る限り相当な物なのだろうと予想することしかできない。


「マルケンの話が長かったから端折るが、アリーダは三年くらい前まで騎士を目指していたらい。それをベックスに猛反対されたんだと」


「どこかで似たような話を聞いたな」とマサキが言うと、エレナリーゼが気に食わなそうに「フン」と鼻を鳴らす。

この世界にも性の差別と言うのは一定はあるが、それでも地球に比べるとかなり少なかったりする。

理由としては男は身体能力、女は魔法能力が優れているとされていて、実力至上主義の世界では差別の対象になりにくい。

だから、女でも騎士を志す人は普通に居たりする。

それでも女性が身体能力的ハンデを背負っている事に変わりが無いので、貴族の中にはよく思わない人々は一定以上居る。

ベックスが何を思ってアリーダの騎士になる事に反対したのかは定かでは無いか、ベックス自身が騎士ということを踏まえれば否定的なことは不思議じゃない。


「で口論になった末、夢を諦めさせられて引きこもったんだと。食生活が運動していた時のままだとすれば、あんだけ太るのも納得できる」


「それは太るよね…」


自身も過去に引きこもりになったことのあるミカは同情的だ。

引き篭もりの体型は環境の変化の影響か変わりやすく、殆どの場合が二パターンに当てはまる。

食生活を前と変わらずにしていて太るパターンと逆にお腹が減らずに食べない事による痩せるパターンに別れることが多い。

ミカの場合は前者で、同じ引き篭もり仲間だったジュンジは後者だ。


「お前らは親バカと言う生き物を舐めている」


「なんだ、藪から棒に」


「別に舐めちゃいねぇよ」


ドォンと効果音でも付きそうなキメ顔をするマサキ。

話が飛んでる上に急なおふざけ気味な態度にオストとヒカルは戸惑ってしまう。


「分かると思うか?」


マサキはキメ顔をやめてぐでんと椅子に体重を預けると、またまた話が飛んで脈絡の無い問いかけをする。


「何がだ?」


「マサ、そうやって勿体ぶるのは…あ…」


当然全員の頭上をクエスチョンマークが浮かび上がり、オストが代弁するように聞き返す。

それにヒカルも苦情を添えて追随しようとした時、何かに気が付いたように動きを止める。


「補足だが辺境伯の娘は極秘調査ということで護衛を一人だけ付けて一般人に紛れていたそうだ。数年の引き篭もり、大きな外見の変化」


「「「あ…」」」


「?」


「それが何だって言うの?」


これが最後のヒントだとマサキが羅列していくと、ミカ、コヨミ、ジュンジの三人も流石にある可能性に行き着く。

未だにマサキの言うことの意味が理解できないオストは難しい顔をし、エレナリーゼは苛立たしげに答えを聞き出そうとする。


「さっきオストが答えたろ。あの絵画を見てアリーダを探すのは無理だって。もし誰かがアリーダを拐ったとして分かると思うか?」


「あ」


「…」


確かに。

納得がいくと同時にオストでも分かることがある。

あまりにかけ離れすぎた姿のアリーダは、犯人に貴族の娘だと認識されていないのでは無いかと。

そうなるとアリーダを拐っておいて何の要求も変わった動きもない事の理由も分かる。

だって辺境伯の娘だって分からないし、仮に本人がそう言ったところで信じるかと言われたら怪しいのだから。


「まぁ、これは人が関わっていることが前提だし、そうじゃ無いことも充分にありえるけどな」


とは言え、これはあくまでも可能性の話と言うことをマサキは付け加える。

さらに言えば、スキルや魔法の超能力に悪魔や幽霊と言った人外が闊歩する世界なのだから、「悪魔とか神とかインチキ生命体が関わってればまた話が変わってくるし」と過信は禁物だとも言う。


「しかも、これの厄介なところは身近な人程気付きにくい。なんせアリーダの変化の過程を実際に見てるわけだ」


「ちょっと待ちなさい」


呆れ果てて手足をぶらぶらしているマサキへ、傍観に徹しきれなくなったエレナリーゼが口を挟む。


「アナタの言い分には無理があるわ。予想が本当だとしても辺境伯邸には何人もの使用人や部下が居るのよ?その人達が全員そんなことに気が付かない訳ないでしょ」


ファーゲにある辺境伯の邸宅は本邸だ。

ハンマーグ辺境伯家は他に比べて使用人の数は少ない方だがあくまでも貴族の中ではの話だ。

あの邸宅は有事の際に拠点の一つとなるように設計されているので中々な大きさの屋敷であり、そうなると必要最低限の人員でもそれなりの人数になる。

そのことを知っているエレナリーゼからすれば、いくら勘違いしやすいとは言え誰も気が付かないなんてことは無理があるとしか思えない。


「あり得るから笑えないんだ。辺境伯はこの事件の調査を命じてる人員は十名ほどだと言っていた訳だが、秘密裏に調べている事件のことで箝口令を出してないと思うか?」


「辺境伯の娘が居なくなれば騒ぎにもなるでしょ」


「あまりならなかったんだなぁ。辺境伯邸に居る使用人は高い実力が求められるせいで数が少ないのはお前も知ってるんだろ。結構有名な話らしいし」


「ええ」


ハンマーグ辺境伯家数十年前までは元々凶悪な魔物や他国からの侵攻を防ぐ役割を担っていた家系。

その名残で未だに辺境伯家に使えるためには最低限の自衛が必須になるのは割と有名な話だったりする。


「アリーダの身の回りについてだけど基本専属の護衛と従者が二人ずつしかいないらしい。その内一人はお嬢様と共に行方不明だ。引き篭もりのお嬢様の姿が見えなかった所で他の使用人は不思議思わないだろうし、この三人の口をさっさと閉ざしておけば騒ぎにはならない」


「それも予想の話なの?」


次々と気怠げに質問に対する答えを言っていく様が気に食わないエレナリーゼはぶっきらぼうに問う。

仕事モードの皮が剥がれたマサキは確証と共に質問答えた。


「半分は。アリーダの従者と箝口令が出てるのはマルケンから聞いた情報だ」


「はぁ、そんなことがありえるなんて…」


ここまで情報を出されてしまえば、少し馬鹿げているマサキの推論にも信憑性が湧いてくる。

彼のことが気に食わないエレナリーゼだが、こればかりは一考の余地があると信じられない思いだ。


「被害者の父親が一番の戦犯とか親バカって言うかただの馬鹿だろ」


マサキは推測の話を終えると、天井を仰いだまま愚痴を言う。

部外者は居ないとは言え、貴族に対してやって良い物言いじゃないのだが誰からも非難の声は上がらない。

唯一他人事なウィンベルは随分前からクスクスと机に伏して笑っている。

そりゃあ他人事として聞けば大層な笑い話なのだろう。

しかし、依頼を受けた当事者達としてはとても笑う気にはなれないし、冗談であってほしいと願うばかりだ。


「なぁ、マサキは何でその事を辺境伯に言わなかったんだ?」


悶々とした空気を破ったのはオストだ。

アリーダ誘拐が人の手によるものだった場合、犯人が彼女に気が付いていないから何の要求がないのでは?とベックスに可能性の一つとして説明しておいた方が良い。

あまり学の無いオストであるが情報の有用性については多少なりとも理解している。

だからこその純粋な疑問なのだが、マサキは呆れ果てるような大きな溜め息を吐く。


「逆に聞きたいんだが、そのことを今日会ったばっかの人に言えるか?無理だろ」


「確かに…」


オストは当たり前過ぎることを言われて顔を渋める。

可能性があるとは言え推理は推理。

しかも内容はベックス側のアホな勘違いを指摘する物であるし、さらに言えば「お宅の娘さん、デブり過ぎて原型留めてませんよ?」と真正面からは言うのは例え貴族で無くても難しい。


「どうすんだ…コレ」


「さぁ…?」


あまりにもコメディチック過ぎる推理だが、集めた情報などを加味すれば笑い飛ばすことも出来ない。

ヒカルが困り果てて呟いた独り言に、ミカも同じ顔で曖昧な相槌をする。

頭を抱えたくなる気持ちは皆同じだ。


「裁判長、これでも俺が悪いと思います?」


唯一、もう頭を抱え終えた後のマサキは本来の目的であった己の審議を気にする。

権力者に向かって一歩間違えば刑罰を受ける程のことをした彼であるが、今は最初とは違い誰からもバッシングが飛んでくる事はない。

一同の視線がなんちゃって裁判長に注がれる。


「判決…」


裁判長の口が重々しく開かれる。

最初の張りのある良く聞こえる声はどこえやら、納得が行かないと言わんばかりに苦渋が滲み出ている。


「被告人マサキは無罪とします…」


「いぇーーい」


判決が下されるとマサキはさして嬉しそうにも見えない万歳をする。

冷静に考えればどこからどう考えても有罪であるのだが、交渉を丸投げしているオスト小隊の面々は文句を言う筋合いは無い。

腹いせ混じりとは言え数少ない情報からベックスの人柄と性格、考え方をある程度までまとめ、捜索についても被害者が見つからないという無駄足を踏むと言う最悪の事態は避けられたのだから成果としては充分。

この席での話し合いがどれほど大変なものだったのかを考えれば、要らない綱渡りをしたことを考慮しても同情込みで許せる範囲だ。

非常に遺憾ではあるが。


「はい、これにて裁判終了。続いて皆んなが良い顔になってる原因の作戦会議に入りまーす」


そんな空気を感じ取っているマサキは無理やり主導権を握って、自分の断罪場を早く打ち消そうとする。

全員言いたいことはあるのだが、それなりの正当性を得てしまったマサキを言い負かすのは骨が折れる。

それに任務について何の手掛かりもなく初っ端から手詰まりな状況を早急に解決する必要があるのも事実。

徒労に終わる可能性が高いのだから、渋々ではあるが誰からも異論が出ることもなく任務の話しへと移ることになった。

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