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婚約破棄を告げた後

作者: 五珠

 目が離せない


彼は今、自分の婚約者に別れを告げている。


「私は真実の愛を見つけたんだ」


嘘をついて、隣には先程雇った見目の良い女を置いて。


「君との婚約は破棄する」


婚約者だった令嬢は、彼と隣に立つ女を見る。しかし、まったく表情は変わることなく

「分かりました」そう一言だけ言うと

見事なカーテシーをして会場を去っていった。振り返る事もなく真っ直ぐに出て行く。

その後を追いかける、若く凛々しい騎士がいた。


去り行く二人を見つめる彼の目は、なんとも切なげで見ているこっちが泣きたくなった。


 この会場にいる者はほんの数人。

皆は彼の計画を知っている。

知らぬは婚約者であった令嬢と追いかけた騎士だけだ。

今、婚約破棄を告げた彼女の為にフィリップ王子はこの茶番劇を繰り広げたのだ。


 幼い頃からの婚約者、彼女が好きなのは、心を許しているのは自分ではないと気付いてから、彼は父である王に頼んだ。

婚約を解消して欲しいと。

「ならぬ」

王が一度決めた事を覆すことは出来ないと言われた。


ならば、とフィリップ王子は考えた。

いろいろな文献資料や、今巷で流行りの小説を読み漁りこの茶番を思い付いた。


だからあの言葉か……。

私も知っているあの言葉。

何故なら、彼が読んだ小説を貸したのは私だからだ。


皆が帰り、私と二人だけになった会場は、まだ昼間だというのに薄暗く感じた。


王子からの婚約破棄、隣には彼女の知らない女を添えて….これならば婚約者の彼女には何もお咎めは無いはずだ、そう彼は言う。

しかし、自分は王族では無くなるかも知れないな…と、フィリップは辛そうな笑顔を私に見せた。


バカな王子様だ。


一人では生き方すら分からないくせに、

相手の事を考えて、彼女の気持ちを優先して

自分の心は押し殺すのか……


「本当によかったのか?彼女を手放して」

「ああ、いいんだ。私は彼女が幸せになればそれで構わない」

「お前はどうする、これからどうして行くつもりだ」


寂しそうな笑顔を私に向けるフィリップ王子の瞳は潤んでいた。


「お前はバカだ」

「ああ、知ってる」


フィリップは目頭を押さえて苦笑した。


「他の男を想い続ける女とは、一緒になっても幸せになどなれないだろう?」


「結局は自分の為にやった事だ」


掠れた声で彼は話した。


「俺なりに見てもらう努力はしたさ、したつもりだ」


「つもりではダメなんだよ」

冷たく言った私の声は少し震えてしまった。

そんな私をフィリップが不思議そうに見ている。


「なぜお前が泣くんだよ」


私は泣いていた。

彼を想って泣いたのではない。


彼がまだ彼女を好きだということが、辛くて泣いてしまったのだ。


「…フィリップ」

「……ん?」

「私ではダメか?」


今し方、好きな女性と別れた彼に私は気持ちを告げてしまった。


彼は思いの外驚いている。



そんなに驚くことか?

…まったく気がついていなかったのか……

今日だって、この事を聞いて駆けつけて来たのに


「だって…お前」

「私はずっとお前が好きだった」

「…………」


フィリップ王子は驚きすぎたのか固まったように動かない。


「臣下を下されるのならその前に私が貰う、嫌とは言わせない」

「……本気か?」

「こんな事冗談では言わない」


 私は隣国トネリアヌの第一王女だ。そして後に王位を継ぐ。トネリアヌ国は長子が継ぐことになっている。

彼は未だ王子だ。この国の第二王子、夫になるには全く申し分はない。


私は幼い頃、トネリアヌ国王とこの国を訪れた。

その時会ったフィリップ王子に恋をしたのだ。三つ歳上の彼は私の理想の王子様だった。一目で恋に落ちてしまった。


しかし、彼には既に婚約者がいた。

私の恋は初めから叶わぬ恋だった。

諦めようと何度もしたが、私は彼以上の人に出会えなかった。


…だから、彼が結婚するのを見届けてその後に誰かと結婚すればいいと思っていた。

そうしなければ諦めがつかなかったのだ。


「…しかし」

「お前が断れば宣戦布告だ」

「はぁ⁈ ……なんだよそれ」

「冗談だ」

「いや、分かるよ、それくらい」


彼の笑顔の中に困惑した表情がみえる。


「私は嫌いか?」


彼には私がどう見えているのかは知らない。


私だって王女である前に一人の女だ。

出来れば…


「嫌いな訳ないよ」

「ならば受けろ、もうお前の父には許しを貰っている」

「ーーはぁ?何で、どうして」

「お前の計画を知らせてくれたのはお前の父だ、ーー…その…お前の父上は私の気持ちは…知っていたから」


言っていてだんだん恥ずかしくなってきた。

しかし、これを逃せばもう私には後がない。


 はじめにフィリップが婚約破棄をすると知らせてくれたのは、この国の王エドワード陛下だった。

私を幼い頃から可愛がってくれていたエドワード陛下には、私の恋心などお見通しだったようだ。

フィリップは婚約者を好いていた。

その彼が自ら婚約を解消したいと言った時は驚いたらしい。

王が決めたことを勝手に解消するのだ。臣下に下すしかないかと考えた時、私を思い出した。



「ローゼリアはこんな俺でいいのか?この俺が君の隣に立っていいのか?たった今婚約破棄を告げた様な男でいいと言うのか?」


不安そうな顔で私を見るフィリップに、私は余裕ある微笑みで返す。


「そんな事どうでもいいよ、まだ彼女を想っていようとも構わない、いずれ必ず私しか考えられない様になるから」


フィリップは、本当に君には敵わないな…と言って笑った。


背の高いフィリップを見上げる様に、私は彼の前に立つ


少しばかり泣いてしまったからあまり綺麗では無いかも知れないが、国では妖精姫と呼ばれる私だ。


これ以上はない笑顔で彼を見つめた。


「私はフィリップがいいんだ」


その言葉に、泣きそうな笑顔を見せる彼をやっぱり私は好きで仕方ない。



「ローゼリア」



彼は私の国へやって来た。

連れて来たと言った方が正しいか…

私の夫になる為に、今から1年間この国の事を学ばなければならない。



彼が、婚約破棄を告げた令嬢は追いかけた騎士と幸せになっただろうか、その後の事は私は知らない。

しかし、出来れば彼の思いが届いて…幸せになっていて欲しい。



彼は私が幸せにするから…



年月は流れ、私は王位を継いだ。

女王となった私の隣には、もちろん


私を愛するフィリップが立っている。


彼は私と、真実の愛を見つけたのだ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 昭和の要素満点のお作品。早速拝見させていただきました。 元来、異世界物にはあまり興味がわかないのですが、妙に興味深い作品だと思います。 これからも、共に頑張って参りましょう。 お蘭(^^;…
[気になる点] 絶対、相手や周囲の人達ときちんと話し合って、婚約破棄ではなくちゃんと婚約解消すべきだった。 けれども、そう出来なかった王子の愚かさこそが人間らしさである、と見ることも出来るので悩ましい…
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