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明美とゆの

さて、本日よりゆののお仕事が始まります。ゆのは、心にブラック―ルを持つ人たちを解放できるのか?ゆの流会話でぐいぐいいきます。どんな展開になるのでしょう。

 -明美とゆの-

 ゆのは派遣社員としてサポートのために入社している。当然、ゆのの名前を全員に覚えてもらい、自分の能力を使ってもらう役割もあるのだ。


「初めまして。今日からお世話になります。春名ゆのと申します。」


 一通り挨拶を終えて明美を見ると、暗く厳しい視線でパソコンを眺めている。明美は、ゆのの挨47,480拶をそこそこに答え、面倒くさそうに書類を眺める。明美の薄茶色の瞳が、突然の派遣社員登場にあからさまな不快感を浴びせる。


(そんな感情を生み出すと、トラブルが寄ってきますよ。明美さん。)

 ゆのが思った瞬間にパソコンがフリーズして明美の薄茶色の瞳に怒りが沸き上がる。

「あー、全てパ―じゃない!」


 朝からプレゼンの資料を詰めて作ってきた明美にとって、パソコンのフリーズは予期せぬ不快なことでしかなく、怒鳴り声をあげて周りを睨んだのだ。その怒りを受けまいとして同僚たちは後退りをしたことに明美は更に怒りを高めていく。


 その瞬間、廊下にあるドラセナの葉が一瞬揺れたような錯覚に陥ったユリアンは、遠目にゆのの聖なるエネルギーを感じていた。


「あのー、フリーズですか?」

 明美は声をかけてきたのが技術部の人間ではなく、派遣社員の新人である事に驚いた。

「ちょっとパソコンをいじらせてもらえます?」


 言うが早いか、ゆのは明美をサクッとどかしてパソコンに向かうと、素早いキーさばきであっという間に再起動、資料を復活させてしまった。


「すみません。これで復活していますか?」

 ゆののあまりに早い手さばきに、明美はあっけにとられ一瞬にして沸き上がった怒りを収束させていた。

 書類の束を投げつけそうになっていたが、パソコン画面に出現した資料を確認するふりをして椅子に座り、自分の狭量さに恥ずかしささえ感じてしまった。


(この派遣、やるね。仕事を覚えたら結構使えるかも)

 明美の無目論見通り、ゆのはサクサク仕事をこなしていく。



「あなたどんな仕事をしていたの?」

「失礼ですが、明美さん。仕事中の私語は派遣会社から禁止されています。ですから昼食をご一緒にしながら少しお話しさせてください。」


 もともと明美は、趣味は仕事。周りの同僚からは休む暇を与えないほど詰め込むのが趣味ではないかとささやかれるほどだ。

 突然、ゆのにお昼を誘われて目をきょろきょろしていると、

「午前中のミッションは片付きましたので昼食に行きましょう。」

 パソコンの前で12時ぴったりにゆのは声を掛けた。手際の速さ、仕事の丁寧さ、トラブル回避の手腕全てに感服し、明美は頷いてゆのについていった。



「見たか? お局が新人派遣に連れられて善光寺参りか!」

 男性社員が互いの目を見合わせて驚いていた。書類もきれいに並び、午前にすべき業務が終わっている。過去にない早技だ。

 女性社員は初の12時休憩に歓喜している。

「ランチ、久しぶりにSビルの高めに行ってみない?」


 そんな会話を聞きながらユリアンは、たった1人のために職場は引っ掻き回されて「不憫極まりなし」ドラセラに言っていた。ドラセラの葉が揺らいだのは気の所為か。

「妖精の粉で全て忘れさせた方が世界平和につながるのじゃないかしら」

 とつぶやきながら、憐みの瞳で社員たちのけなげなお昼休憩談義をぼんやり眺めていた。



「明美さん、今日は何食べますか?」

 社食などいつ以来だろうかと、キョロキョロと見まわしていると、随分と以前とは変わりおいしそうなメニューが増えていた。一品料理も健康を考えて緑黄色野菜盛りとか、食物繊維盛りとか面白い名前がついている。

「そういえば緑黄色野菜なんて食べてないわ。食物繊維なんて朝の野菜ジュースくらいしか意識したことがなかったわ。」

 明美の呟きにゆのは微笑ましそうに笑っている。


 2人は生姜焼き定食とサバの塩焼き定食に決め、納豆や食物繊維盛りを追加して先に着くと、ゆのが徐に話しかける。


「明美さん。私は友達がいないのです。ずっと派遣で暮らしていたのてこのように一緒にお食事をしてくれる人は誰一人いない寂しい人間です。だから明美さん、お友達になってください。私の事を聞いてくれたのは明美さんだけです!嬉しくて。」


(いや、便利に使おうと思っただけなのだけど)ゆのの勢いに明美の瞳は相変わらずきょどっていた。

「まあ、いいわよ。私も忙しいから特に友達はいないし。」


「やはり明美さんには同じ波動を感じたのです!ぜひ、ゆのと呼んでください。私も明さんと呼びますから。」

「いや、そんな呼び方じゃなくても」

 明美が呼びかたに言及しようとした途端に

「え?やはりですか!お友達になるのにさん付けなんて遠い感じがしましたか!ごめんなさい。では、遠慮なく明美ちゃんとお呼びいたしますね。」


(え―――!)明美の心臓は飛び出そうになって飲んでいたお茶を吹きこぼしそうになる。


「やはりいいですね。お友達の呼びあい。ゆの、明美ちゃん!なんか心がキュンとします。初恋ってこういう感覚なのですかね!」

「いやいや初恋の名前呼びあいって意味が違うでしょう。」

 呆れた顔でいやいやと首を振りながら、頬がジーンと熱くなる感覚に、こういうのが初恋なの?と心でつぶやく明美はすっかりゆのワールドに引き込まれていた。


 数週間もすると、毎日ゆのが仕事をテキパキこなす御蔭で社内の雰囲気は変わりつつあり、17時になると全員が退社可能という快挙がやってきた。


「明美ちゃん、夕食に行きたいところがところがあるの。お買い物をしながら行きませんか。」

 この発言に、女子社員は度肝を抜かれた。

 周りの女子たちは下を向き、目をむいてしまった。

(明美ちゃん?チャン付で呼びつける? あのお局を)

 今まで退社後の食事のお誘いどころか、明美に、そもそも17時退社さえもサボりだろうという鋭い視線を投げつけられてきた女子社員は、感極まり泣く者さえ出る始末である。


「この会社大丈夫かしら。」ユリアンの独り言が廊下に響いていた。

「ドラセナも枯れるわね。こんな負のエネルギーしかなければ。可哀そうに。」



 ゆのが明美を気安く呼ぶ姿は自然である。しかし、今まで女子社員がランチに行くのもサボりのように睨みつけていた明美の反応にこっそりと成り行きを目のはじで追っている。



「うーん、仕事があと少しあるのよね。片を付けたいけど」

 明美がいつものように残業モードに入ろうとすると

「でもその仕事は明日も続くのよね。良い考えは昼間の方が生まれるものよ。今日は帰りましょうよ。」


 ゆのの発言は爆弾だ。いつ明美が怒りモードに入るかわからない、ぎりぎりの言葉選択だ。もし、これを男子社員が発言したのなら、営業力なしの無能もの、という視線で射殺す勢いになるのだが、ゆのには違った。


「そうね、たまにはアイディア探しに街に行きましょうか。リサーチもかねて。」

「明美ちゃんは本当に仕事熱心ね」

 ケラケラと笑うゆのを見ながら社員一同、悪魔の微笑みを感じたものだった。

(絶対、洗脳されてるな。あの新人に。)

(逆に怖すぎるなー。新人!)

 様々な感情を後にして二人は街中に消えていった。


お読みいただきありがとうございます。

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