第9章~寮の中での謎だけは
その後、兄貴が小声で、
「まあ、落ち着こう…とりあえずしーちゃん以外全員俺の部屋に集合な!」
「は~い」
「了解で~す」
兄貴の部屋に入り、皆、各々座ったところで、兄貴がゆっくりと話し始めました。
「雅幸君は廃病院に行ってないんだよな?」
「だから、何度も行かないって言ったよね」
「じゃあ、俺の車の助手席には乗ってないんだよな?」
「まあ、そうだけど…」
そこで、皆がザワザワしましたが、
「まあ、まあ、落ち着いて!冷静にね」
と、兄貴が窘めました。
「でも、寮を出る時、山城さんと下の弟さん以外、誰もいないのを皆で確認したはずなんだけど…」
すると、徳和君が続けざまに、
「雅幸君の部屋を、隅々まで見たけどいなかったけど」
「寮の共同トイレにいたって事はないよね?」
「そこも見たけど、いなかったよ」
「あっ、でも女子トイレまでは見てないけど…」
「女子トイレなら、行く前にひよりんが見に行ったよね?」
「うん、でも誰もいなかったよ」
「まさか、神隠しにあったなんて事はないよね?」
「ある訳ないじゃん」
「じゃあ、雅幸君は俺達が廃病院に行く前どこにいたの?」
と、兄貴が言うと、皆が雅幸君を注目しました。
「実は、そこの中にずっと隠れていたんだよ」
と、言って、兄貴の部屋にある押し入れの左側を指差しました。
「すぐに見つからないよう、押し入れの中の布団にくるまって、身を潜めていたんだよ」
「マジかよ!」
「ちょっと~どんな風にやったか見せてよ」
すると、雅幸君は毛布を被ってから、敷布団の一枚下に潜り込みました。
「こんな感じで15分は動かないで潜ってました」
「う~ん…これじゃ、押し入れを開けても分からないや」
「うん、確かに…」
「皆が寮からいなくなったのを見計らって、押し入れから出たら、下の弟さんがいたので、ここでずっと遊んでいたんだけど…」
「……………」
重い空気の中、弟が、
「雅幸さんは悪くないよ!」
と、庇ったので、その場は解散になりました。
それにしても…、
兄貴の車の助手席に乗った、青白い顔をした雅幸君は何者だったのか?
静音さんが引き寄せられた、廃病院1F廊下の突き当たりにあった絵とは?
廃病院2F以上に上がると、1Fへ下りる階段を見失う?
謎が次々起きましたが、皆が何とか帰って来れたのは、兄貴の決断力が大きかったと思います。
心霊スポットに行った、ひと夏の思い出は、皆の心の中でゆっくりと忘れられたのではないでしょうか。
ただ、心霊スポットに行くという事は、決断した時点で、もう、それが始まっているのかもしれませんね。
最後までお読み頂き、感謝致します。
ご拝読、誠にありがとうございました。
きつねあるき
廃病院に行き、体調を崩した静音さんは、翌日には元気になりました。
あの日の帰り、徳和君の車の後部座席で寝かされていた、静音さんは朦朧としたまま、何度か寛斗君の名前を呼んでいたそうです。
それを後日、酒の席で香緒里さんにバラされて、静音さんは寛斗君が好きだということが分かってしまいました。
心霊スポットに行った時は、散々な目にあいましたが、その後2人は付き合うようになり、悪い事ばかりではなかったのです。
尚、お話の中に、携帯電話が一切出てきませんが、皆が持っていない訳ではありません。(何人かは持っていませんでしたが…)
廃病院の中と車の中は圏外でしたし、実際、何回も携帯電話をかける場面がありますが、内容に深く関わらないので割愛させて頂きました。
長い夏休みに、心霊スポットに行く事があったとしても、建物の奥の奥まで行くのは、お勧め出来ないという事でしょう。
今、思い返しても、何でこんな事が?あんな事が?
と、いうのがありましたが、理屈では分からないのです。
タイトルにある廃病院は、確か、この翌年解体されたと聞きました。
心霊スポットNO、1として、雑誌に大々的に載った事で、多くの方が押し寄せて迷惑行為が問題になったからだそうです。
皆様も、心霊スポットに行く時は、どうかお気を付けて下さい。
何人かで行く時は、1人は入り口で待機させないとダメかもしれません。
このお話の舞台となった、北海道の美唄市にあった短期大学は、45年の歴史をもって2013年(平成25年)に閉学しました。
今となっては、当時を知る者だけによる思い出になってしまいましたが、貴重な体験をさせて頂きました。
夏の思い出は、必ず1つは作らないと後悔するので、何かはしないとね…と思いつつ、これで終わります。