ようこそ!異世界相談事務所へ
ストーリーも何もない話ですが、ご閲覧いただき大変嬉しいです。
「ようこそいらっしゃいました。お掛けください。」
自分の店を尋ねてきた彼女に座るよう促す。彼女は恐る恐るとこちらを伺いながら腰を下ろした。
「俺が怖いんだろうか?」
心の中でそう思った。確かに俺は自分でいうのはあれだが、中々に鋭い目付きをしている。アイツにも怖すぎですよなんて言われたっけ。
....と物思いにふけるのはやめだ。目の前にいる健気な少女は貴重な客なのだからこちらとしても真摯な対応をしなければと俺は口を開いた。
「では今日のご要件はどのようなもので?」
できる限りやんわりとした声で答えたお陰か彼女の顔は先程よりまでは少しばかり明るくなっていた。
「えっと....私の村の畑が最近夜の間に荒らされているんです。そ、それだけならただの獣の荒らしかなと思うんですけど....」
そこまで言って彼女はすぅと息をつき
「村の人たちで畑を見張っていると.....出たんです。あのゴーレムが!!」
彼女の顔が青ざまっていく。もしかしたらさっきまでの俺への対応はゴーレムへの恐怖だったのかもしれない。
「でもゴーレムが出たなら冒険者ギルドとやらが冒険者でも送って解決してくれるんじゃないんですか?」
率直な俺の疑問。
「──駄目なんです。二週間の間、十回ほどはクエストを受けた冒険者さんたちが居たんですけど...どれもクエスト失敗。上級冒険者の方々は他のもっと報酬が高いクエストを受けるものだから...。冒険者ギルドさんでは解決出来ないと....」
「なるほど。だから僕に依頼を...」
彼女はうんうんと頷く。要するに俺は悪く言えば余りクエストの処理を頼まれているわけだ。が、仕事があるだけ有難いし何よりほっとけない。
「分かりました。僕にお任せ下さい。必ずやそのゴーレムとやらは始末します。念の為、今日の夜は村の皆さんには避難してもらいますね。」
優しく優しくと意識しながら作った笑顔でそう言うと彼女は顔を上げて今日初めての笑顔を見せた。
「ありがとうございます!では私はこれで失礼します。ほんとにありがとうございます!」
ペコリペコリと何度も頭を下げて彼女は事務所を後にした。さてここからは任務の仕事だ。俺は腰をあげて荷物の準備を行う。荷物といっても軽い武器と財布ぐらいだが。
「ただいまでーす。リンゴ今日安かったんですよー....って何してるんですか?ウォーカーさん。」
戸を開け一杯の買い物袋を掲げて入ってきたのは俺の唯一の雇い社員であるオリビアだ。
「任務だ、任務。お前もすぐに準備しろ。今回のは結構手強そうだ。何でも冒険者たちでも倒せないゴーレムだとか何とか」
「ゴーレムですかぁ〜、硬そうですね。」
腑抜けた返答が届く。こいつはいつもこうだ。仮にも任務前だというのに気楽で.....羨ましい限りだ。
「んじゃ早く来いよ。もう夕方だ。夜にはもう着いてなきゃならないんだし。化粧だとかすんなよ。別にあんま変わらないんだし」
「んな...!化粧なんてしませんしそもそも変わらないってのは失礼じゃないですか?!ほんとデリカシー無いですね!」
何処に怒ったのか分からないが、オリビアの声は先程までよりも厳しくなっている。
「....だから彼女も出来ないんですよ。あっ今のは禁句でしたね。すみません。ププ」
仕返しと言わんばかりに煽ってくるオリビア。別に彼女は要らないがそれで弄ってくるのは何ともまぁムカつく。
「うるさい。それよりもう行くからな。置いてけぼりにされたって俺を恨むのはお門違いだぞ。」
こっちも仕返しと言えるかは分からないがそそくさと先に目的地へと向かった。アイツまた駄々こねるかなと振り向くと。
「うわぁぁぁ。置いてかないでくださいよぉぉ!酷いですよぉぉぉ!」
......うるさい弟子だな。
俺はそう思いながらも健気に走るオリビアをしばらく見つめ、前を向き、走り出した。
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