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時刻75 決別、光と影の分かれ道

 ひと段落がついた頃、システィアたちはガーロに誰からあの力をもらったのか聞いていた。


「黒いローブを着た女……背丈はちょうどミリアくらい。証を盗んだ俺の仲間がどうも操られていたみたいで」

「俺がフローレンスの町近くの森で見た奴と一緒、みたいだな」

「私とシグレが追ったのも黒いローブを纏ってたわ。なかなか追えなくて背丈までは確認できなかったけど……多分、同じ人物ね。その操られていた子が見当たらなかったのは、もしかして……」

「その女が言っていたんだ、依り代、元から死んでいたとか。けど、あいつ……ちゃんと生きているように見えてたのに、死んでる人間だったなんて今でも信じられない」


 頭を押さえるガーロに、シグレが左右に顔を振る。


「システィ、このことについてはジョシュア様に」

「……うん、黒の姫君とは完全には言い切れないけど、可能性はある。あっちから手を出してくるのなら今後はもっと気をつけておかないと。もしかしたら交戦することもありえるわ」

「伝えておきます。しかし、無理だけはなさらないでくださいね」


 頷くシスティア。情報はここまでだ、日もそれなりに上がってきている。

 システィアたち、そしてガーロたちも一緒に宿屋を出ると、町の門の方まで向かっていく。システィアとシグレがマーカの町から出る準備の最中、ガーロはミリアとトキヤの手を掴んだ。


「ミリア、トキヤ兄ちゃん。ちょっと聞いてもらいたいことがあるんだ」

「ガーロ?」

「トキヤ兄ちゃんって……俺、そんな呼ばれ方してたか?」

「いいから!」


 グイッと引っ張られ、門から離れると路地裏へと招かれる。そこにはガーロの家族である少年少女の三人もいた。


「で、こんなとこに呼び寄せて話って?」


 ガーロは神妙な顔をすると、自分の中で考えていたことを吐き出し始める。


「今更だろうけど、ミリア、トキヤ兄ちゃん。悪いけど、俺は貴族のことを完全に信用したわけじゃない。確かにいい貴族がいるってのは分かったよ。でも、それ以上に悪い貴族が多いのも知ってる。そこで、俺はやりたいことを見つけたんだ」


 ミリアの表情が曇る。トキヤにも何となく、彼がどんなことをしようとしているのか想像がついた。だからこそ、トキヤは彼らを止める。


「それ以外の方法、真っ当に生きる方法だってあるはずだ。システィなら多分、頼めばなんとかしてくれる」

「そうだね……きっと、なんとかしてくれるかもしれない。けど、貴族の世話になるのはもうごめんだ。ここにいる俺の家族は貴族に酷い目に遭わされてきた連中ばかりだからな」

「だからって言って、ガーロ、お前がやろうとしてるのは……」

「ああ、義賊になろうと思う」


 義賊。金持ちから金品を奪い、恵まれない人たちへ分け与える者のことをいう。言葉上では綺麗だ。しかし、どんな綺麗事を並べたところで、所詮は盗賊と同じ。


「貴族の匂いを嗅ぎ分けられる俺ならなれるはず。それも悪い奴らに絞って、奪うつもりだ」

「待てよ! 危険に晒されるのはガーロだけじゃねーんだぞ、三人だって――」


 ガーロの後ろにいる少年少女を見ると、そこには覚悟を持った三人の顔があった。ガーロはフッと笑い、話を続ける。


「俺には着いてこなくていいって言ったんだけどさ。どうやらみんな、気持ちは一緒らしいんだ。これが家族っていうのかな?」

「家族って……だけどな! っ̶̶あぁ、もう、なんて言えばいいんだ」


 自身のやるせなさにトキヤは頭を抱えていた。みすみす危険な真似をする必要はないだろうと言いたいのに、彼らの顔を見ると、とても言えなくなってしまう。


「トキヤ兄ちゃん、心配してくれんのか? でも大丈夫だよ。普通の商人のおっちゃんとかからはもう盗らないし、トキヤ兄ちゃんほどダセェことにはなんねーからよ」

「お前なぁ……」


 明るく笑うガーロ。

 悪い貴族を相手取ったとしても盗みは変わらない。それどころか相当の恨みを買うことになるだろう。できればやめさせたいトキヤ。ミリアも同じ気持ちだった。


「……でも、そこまで言うのならガーロは諦めないんでしょ?」

「ああ。ミリア、お前にでも止められない。決定事項だ」

「もうわたしは力になれないよ。たとえ家族だったとしても」

「俺らは家族だった、それで充分だ。お前には今の……トキヤ兄ちゃんたちという家族がある。もう俺らとは関係のない話になるんだ」

「それでも̶̶」


 情はある。ミリアは強く訴えかけようとしたが、ガーロの冷たい言葉に阻まれた。


「縁切りだ。盗みが嫌いだったお前の居場所なんて、ここにはねぇ」

「っ……」


 分かった。その一言がミリアは言えなかった。何も言わずに歩いてきた道を、トキヤの隣を通り過ぎていく。

 振り返らない。けれども、路地裏から出る寸前、家族としての最後の言葉を零す。


「……自分の気持ちを大切にね。さよなら、ガーロ」

「ああ、ミリア。さよならだ」


 それは肯定を意味したミリアの強がりだった。

 出会いあれば別れあり。光の道を選ぶミリア、その対極の道をガーロは選んだ。残されたトキヤはミリアの姿が見えなくなるまで見つめていると、入れ替わるようにシスティアがこの場へとやってくる。


「システィ……」

「システィア……さん」

「私は何も聞いてないし、見てないわ。でも……そうだね」


 ガーロの元まで歩み寄ると、手のひらよりも少し大きな皮袋を差し出した。


「ここからは独り言。まず自分がやってきたことに目を向けなさい、迷惑をかけてきた人たちがいるはずよ。その後に君の言う目的を目指しなさい。特にこの黒の領土には汚い貴族や悪いことをしてる貴族は多い。忠告しておくと、そんな連中に関われば無事でいられるかも怪しくなってくるわ。できれば義賊なんてやめて、真っ当に生きるのも手よ」


 しかし、ガーロの瞳から強い意志は消えなかった。それほど貴族が憎いというのもあるのだろう。


「……はぁ」


 システィアは彼らの変わらない意思にため息をつくと、背を向けた。


「それは私からの餞別、恵んだなんて思わないで。そして、義賊であろうがなかろうが、もしも目に余るようになったら誰かが裁きに来るわ。ギルドの賞金稼ぎかもしれないし、もしかしたら私たちかもしれない。それだけは心しておいて」


 固唾を飲み、頷くガーロ。システィアの言っていることは脅しではなく、本気でこれからガーロに起こり得ることを話していた。


「さて、と。あれ、トキヤ君? こんなところで一人(・・)? もう探したんだから、行くよー?」

「えっ? …………あ、あぁ! えーっと、この路地裏すげぇなーって思ってたらフラフラ入っちまって!」

「えぇ? 路地裏がすごいって? 私の感性じゃ分からないなぁ」


 トキヤの意味不明なセリフにシスティアは笑いながら、二人はこの場を去っていく。

 立場上、二人はガーロたちを応援するわけにはいかない。システィアの言葉にも意思を曲げなかったガーロたちにトキヤも止める術はなかった。

 簡潔な――とも言えない程の別れになってしまったが、トキヤは最後に彼らへと手を振っていた。


「ガーロ……あの人たち……」

「システィアさんは聞いていたのにも関わらず、俺たちを見逃してくれたんだ。だから、独り言……そしてこの路地裏にトキヤ兄ちゃん一人(・・)って……」


 先程、システィアから受け取った皮袋を覗くと、ガーロは腰を抜かすほどに驚いていた。


「ガーロ! だ、大丈夫?」

「あ、あぁ……。マジかよ……こんな大金、なんで俺みたいな奴に̶̶」


 すぐにガーロは首を左右に振ると、その意図に気がついた。


「いや、金で償えってわけじゃない。俺らにできることで償う……これはその間、不自由なく過ごせるお金なんだ」

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