時刻53 時を遡る秘宝
「それが五年前に起きた事件の真相だ」
ため息をつきジョシュアが話し終えると、四人はそれぞれ俯いていた。
何を言ったらいいのか、誰もがそんなことを思う中、ポロポロとシスティアが涙を零してしまう。
「どうして……どうして兄様は、こんな辛いことを隠してたの」
「母上に口止めされていた。幼いシスティアとシグレには酷だとな……すまない」
「っ……謝るのは私の方、だよ。ごめん……ごめんなさい! 私、そんなこと知らずに隠されるの嫌いってわがまま言って……兄様だって辛かったのに、私を守るために秘密にしてくれてたのに……。痛い、胸が痛いよ……! アルお兄ちゃん……くーちゃんっ……!」
システィアだけではない、すすり泣くのはミリアも同じ。シグレも悲しみの表情を隠せず、俯いている。
トキヤは歯を食いしばりながら、疑問に思ったことをジョシュアへとぶつけた。
「……その後、黒の姫君はどうなったんです。処刑台にベルナルドさんが送ったって」
「ああ。アルが死んですぐ、父上は黒の姫君の魔力の痕跡を追った。そしてその二日後に実際に捕らえている。黒の姫君は俺と対面することなく、そのまま王都行きとなったがな」
けれども、攫われたはずのクレアは見つからなかった。死体も未だ見つかっていない。そもそも攫ったはずの黒の姫君がわざわざ殺すとも思えない。ジョシュアがそう続けると、システィアの目に光が灯る。
「……くーちゃんはまだ……生きてる?」
「少なくとも俺はそう信じている。情報網にかからないのは、クレアとしての身分を隠しているか、もしくは黒の姫君か、それに準ずる何者かの手にあるか」
「じゃあ、黒の姫君はやっぱり死んでない……?」
「刑が執行されたのが想像以上に早かった、恐れた人々が刑を早めたせいでな。だが、刑を執行された人物が死んだという情報は確定している」
「なら、本当に死んだ可能性も」
「無きにしも非ず。だが、お前も信じていないのだろう? 森で奴を見たお前は」
トキヤの顔に怒りが蘇る。本人だろうが、模した人物だろうが、死んだはずの黒の姫君の亡霊に振り回されている以上、その人物を許せなかった。
「俺もそうだ。奴はきっと、どこかで……今も……」
トキヤと同じように怒りを滾らせるジョシュアの顔。
その顔にトキヤはジョシュアの置かれた立場が、今の自分と似ていることに気がついた。
互いに親友を失ったこと。
そして知りたがっていた、もう一つの答えがこのとき出始めていた。
顔つきが変わったトキヤに、ジョシュアが語りかける。
「トキヤ、聞きたいことがあるのだろう? 俺に、特にシグレに」
「いや……もう聞きたいことじゃなくなったんだと思います。俺の中で答えが出たというか」
「聞かせてください」
みんなの視線がトキヤへと集中する。トキヤは全員に一度、目を向けると頷いて、ゆっくりと解答を始めた。
「生き返らせる魔法……蘇生魔法って言った方が良いのかな。ガンズさんや、ジョンさんに強く否定されても、もしかしたら……なんて思ってました。でも、ここにアルフレドさんがいないということは、そんな魔法、ないんですよね。それなのに、シグレはまるであるような口ぶりで話してくれた。けど、それは多分……倫理に反してる。だから、ジョシュアさんはシグレに、アルフレドさんを生き返らせてくれとは頼まなかった」
みんなが沈黙する中、シグレだけがコクリ、コクリと頷く。それはシグレがジョシュアから蘇生魔法について、訊ねられたことがあると同義だった。
「いや、きっと違う。蘇生なんてのよりきっと、もっと酷い。本当は死霊の魂を現世に縛り付けて、無理矢理動かしたりする魔法なんじゃないかって……」
「その通り、です。トキヤさん……」
それが現実だとするならば、あまりにも非道だ。それは生きているとは言えない、死体が勝手に動き回っているだけ。
「少し考えれば分かってたのに、ベア・ザ・クロウが首無しの状態で動いていたのだとか……考えれば分かっていたはずのに……俺は……俺はシグレに……」
「大丈夫です。私は不器用にしか伝えきれなかったのに、トキヤさんが気づいてくださって……私は嬉しいです」
「…………なぁ、もし、この方法で黒の姫君を蘇らせることって、できんのか……? こんな非道な方法で」
ジョシュアの眉がピクリと動く。だが、シグレは首を横に振った。
「私の知っているのは屍を強制的に動かすものです。復活したとしても精神は既に崩壊していて、知性もなく話すこともままならない。模すことはできるでしょうが、魂が同一だったとしても、それが本当に黒の姫君だと言えるかどうかは……」
「つまり、本当の意味で生き返らせることはできないということだな」
「生きているという定義が思考、精神、肉体、共に健常であるとするならば答えはできません」
「…………じゃあ……やっぱりフリッツは……」
「ごめんなさい……。はっきりと否定しておくべきでした……ね」
トキヤの表情が歪む。今度こそ、はっきりとシグレからフリッツは生き返らないと断言されたのだ。
だが、一拍置いた後、ジョシュアはそれについて話を翻す。
「トキヤ、まだ諦めるには早いかもしれん」
「え……?」
ジョシュアは目を瞑り、背もたれに身体を預けると語り始める。
「俺はずっと黒の姫君について調べ、追い続けた。それは今もなお、俺がアルに……死者に魅入られ続けているからだ。黒の姫君が父上によって処刑台へと送られた後も、ずっと……」
ジョシュアは目を開き、前のめりになると真剣な面持ちになった。
「厳密にはシグレの言うとおり蘇生魔法というものはない。だが、一つだけそれを可能にできる道具がある。俺はそれが欲しい、そしてそれがアルを生き返らせる鍵かもしれない」
蘇生。その言葉にトキヤは耳を疑った。死霊としてじゃなく本当の意味での蘇生。諦めていたフリッツのことが頭に蘇る。
「本当にそんな道具が存在するんですか? そんな夢物語みたいな道具が」
「存在します」
トキヤの言葉に返答をしたのは、まさかのシグレ。それにはシスティアとミリア、そしてトキヤも驚きを隠せずにいた。
「この現世に存在します。実際にはどういった効果が起こるのか分かりかねますが、よく伝えられているのは三つ。一つ目は『世界を過去へと遡らせる能力』、二つ目は『今の自分の記憶を過去の自分へと転写する能力』。そして最後、『人物、もしくは物自体の時間だけを遡らせる能力』です」
ナインズティアに伝わるおとぎ話。それにピンときたシスティアは、その正体について口を開く。
「もしかして……それって【時遡】のこと……?」
「シグレお姉ちゃん、本当にあるの? そんな魔法以上にすごいことができる道具が……」
泣き腫らした目の二人にシグレは頷き、続ける。
「とはいえ、いずれもおとぎ話程度のものです。もしかしたら、それ以外の能力……いえ、能力すらもおとぎ話で、実際には何の力も持っていないかもしれません。ですが、私はそれにまつわる道具を見たことがあります」
何の根拠もないはずなのにシグレが見たことのあるというだけで、信憑性が格段に増す。
かつての五年前にもアルフレドから秘宝の単語が出てきたのだ。黒の姫君に渡すな、と。
欲しいと願っていたシスティアでさえ、本当にあるかどうかも曖昧でしかなかった。そんな彼女から聞いたトキヤなら尚更、子ども向けのおとぎ話だとしか思えなかった。
「じゃあ、もしもその能力が本当にあって……死んでしまったフリッツたちの時間を戻せたりするのなら」
「死の運命から逃れられ、生き延びさせることが……俺たちからすれば生き返らせることができる。俺はそれに賭けてみたい」
その言葉の後にジョシュアは上着の内ポケットから、チェスのポーンの駒のような物体を取り出しテーブルの上へ置いた。
頭の部分には球体のガラスがくっついており、その中には一点の方角を指し示す針が浮いてる。
「兄様、これ……」
「時のコンパスだ。システィアとシグレには見せたことがあるな」
システィアとシグレは頷くと、トキヤとミリアは不思議そうにその球体の中身を観察し始めた。
「ちょっと触れてみても、いいですか……?」
「ああ、ガラスに良く似ているが……不思議と傷一つ付かない代物だ。割れる様子もない」
トキヤはコンパスを手に取り、調べるようにくるくると手の内で回しても、針が一定方向を指したまま動く様子がなかった。
「まるで中だけ時が止まってるみたいだ……全く動かない」
トキヤはシスティアに手渡すと、システィアもそれを調べるように全体を見渡していく。そしておかしい所がないのを確認すると、またテーブルの上に。
そうして置かれたコンパスをミリアはじっと見つめ、疑問に思ったことを口に出した。
「もしかして、この時のコンパスが……シグレお姉ちゃんの言っていた秘宝にまつわる道具に反応したりするんでしょうか?」
「ああ、恐らくそれで間違いはないだろう。だが、困ったことに精度がすごく良いわけではなくてな」
ジョシュアの曖昧な言葉にトキヤ、システィア、ミリアは首を傾げると、その疑問にシグレが解答した。
「トキヤさんが初めてこちらへ訪れた時にも、反応したそうなんです」
「お、俺に反応……?」
「厳密に言うとお前にではなく、次元の歪みにかもしれないがな……」
トキヤは腕を組み、考え込むと一つの疑問が浮かんでくる。このナインズティアに来てから、ずっと付きまとっていた疑問だ。
「……もしかして、俺がジョシュアさんやシグレに守られていたのは……これが反応したから……?」
鋭い指摘にジョシュアは苦笑すると、どう話すべきか考えつつ言葉を絞り出す。
「そう、だな……嘘を言っても仕方ないだろう。俺の目的のためにトキヤをここへと置いた。あわよくば利用しようとしていたと言うことになる」
「……私があのとき、貴方を守ったのは、ジョシュア様の命令があったからと言うことになりますね……」
「……そっか、そう……だったのか……」
その言葉に場の雰囲気が暗くなった。
なぜジョシュアたちが見ず知らずの自分にこんなにも優しかったのか、なぜこんなにも好意を抱いてくれていたのか、その疑問にようやく終止符が打たれる。
「本当にそうなのかな……それだけでジョシュア様とシグレお姉ちゃんは、トキヤお兄ちゃんを守ったのかな」
ぽつりと呟いたミリアの言葉に、全員の視線が向く。
「わたし、違うと思います。利用しようと思ってたから優しくした、だから守ったとか、そんなの違うと思います! だって、今日トキヤお兄ちゃんが飛び出していったとき、ジョシュア様は怒ってました。けど、ただ怒ったんじゃない、あれは心配してないとできない怒り方です!」
「それは……そう、だな……」
ミリアの言葉にジョシュアは肯定を示す。今日のトキヤへの怒りは、ただただ純粋に心配していたからだ。時のコンパスが反応したから、そのときそんな理由は頭になかった。
「シグレお姉ちゃんだって、わたしがお屋敷へ助けを呼びにいったとき、すぐに動いてくれた! トキヤお兄ちゃんが大切な人を亡くしてしまったときだって、あまりにも悲しそうだったから言っちゃったんでしょ? 生き返らせる魔法じゃないけど、そういうのがあるって! 話を聞いてたらわたしにだって分かるよ、いっぱい、いっぱい心配してるって」
「心配……そう、ですね……」
息を切らせ帰ってきたミリアのことをシグレは思い出す。トキヤが出て行ったと聞かされたとき、シグレはまさしく心配していた。そして、亡くなったフリッツを想う、トキヤを案じていた。
「システィア様はトキヤお兄ちゃんをすぐに追いかけてくれてた。安静にしてないといけないってジョシュア様が言ってたのに。すごく、すごく心配してたんだと思います」
「そう……だね……。すぐ行かなきゃって、気づいたら体が動いてた」
隣の部屋から聞こえてくる話を聞いて、システィアは居ても立ってもいられなくなりすぐに飛び出したことを思い出す。
ミリアは椅子から立ち上がると、胸に手を当て表情を悲しみと怒りに染める。
「このコンパスが原因なんかじゃない。これがトキヤお兄ちゃんに反応してなくたって、ジョシュア様やシグレお姉ちゃん、システィア様はトキヤお兄ちゃんに手を差し伸べてくれてたと思うんです。だって何の取り柄もないわたしが、このフローレンス家に置いてもらってるんです。そして守ってもらってます!」
あまり出さない大きな声にミリアは息を上げながら、それぞれに訴えかけるように胸元をキュッと握りしめる。
「わたしは隣町で貧民として暮らしてました。食べ物もロクに手に入れられなくて、動けなくなったときもあります。このまま死んでいくのかなって、ずっとずっと思ってました」
悲痛な言葉、ミリアの過去に四人は押し黙ると、続く話を見守る。
「フローレンスの町に来たのは今から一年くらい前です。隣町を出ようとして、商人さんの荷車にこっそり忍び込んで、この町にやってきました。でも、わたし、通行証が必要だとは知らなくて、すぐに衛兵さんに捕まってしまい……そこで助けてくれたのがシグレお姉ちゃんだったんです」
シグレは顔を伏せながら「そうでしたね……」と小さく返答する。
「それからシグレお姉ちゃんが衛兵さんに話してくれて、わたしはフローレンスの町にいられるようになって、たくさん支えてもらいました。身寄りのないわたしを、シグレお姉ちゃんは大切に思ってくれて……気がつけば、システィア様とトキヤお兄ちゃんからフローレンス家の侍女として推薦してもらい、ジョシュア様にはそれを承諾してもらいました」
つい先日のことを振り返り、システィアとジョシュアはミリアがフローレンス家の一員となったことを思い出し頷く。そして、同じくそのときにトキヤも。
「だから……もしも、トキヤお兄ちゃんが特別な存在じゃなかったとしても、みんなトキヤお兄ちゃんを思ってくれてたはずなんです。だって、わたし……みんなが優しいの知ってるもん……どんなことがあっても、ぜったい助けてくれるって知ってるもん」
ポロポロと頬を伝う大粒の涙。顔をくしゃくしゃにしても、ミリアは語り続ける。
「だからジョシュア様、シグレお姉ちゃん! これ以上、辛い言葉でトキヤお兄ちゃんを追い詰めないで……!」
思いの丈を吐き出しきると、ミリアはその場にへたり込み、わんわんと声を上げ泣き出してしまった。
ジョシュアは顔を手で拭うといたたまれない表情を作り、シグレはミリアの肩に触れ、「ごめんなさい……」と耳元で何度も呟いている。
――こんなにまで想われていたのに、俺はなんて馬鹿なことをしたんだ。
トキヤは自分よりも遙かに小さく、幼い少女の言葉に、勝手な行動や喚き散らかしてきたことを恥じる。
「すまない……ミリアの言うとおりだな。何があったとしても、トキヤ、お前はフローレンス家の一員だ。コンパスが反応していなくとも、俺たちはお前を守っていた」
「すぐに飛び出していったシスティ、ミリアは私たち以上にトキヤさんのことを真っ直ぐ見ていたのですね……」
「ジョシュアさん、シグレ……」
不意に取られたトキヤの右手、システィアの柔らかな手に包まれ、視線が交わる。
「あのとき……トキヤ君が私のところに現れて、何かが大きく変わるんじゃないかって予感してたんだ。……ううん、きっと変わったんだよ」
「システィ……?」
システィアはニコリと笑うと、少しだけ頬を染めながら、ミリア、シグレ、ジョシュアの順に目を配り、言葉を紡いでいく。
「トキヤ君がいなかったら、みんなこういう風に話をしてなかったかもしれない。兄様は今でも五年前のことを話せずに、私はクレアがいなくなったことを知らないままだったかも」
「けど……けどよ! 俺がいなかったら、死ななくてよかったかもしれない人だって――」
「確かにいるかもしれない。だが、それは誰にも分からん。お前がいたことで、もしかしたら悲惨な未来を変えられた可能性だって否定はできないだろう?」
「それは……」
自分勝手に動き回り、喚き散らかし、心配ばかりかけてしまった。トキヤは俯くと、胸の内に秘めた想いを吐露していく。
「俺は……ここにいてもいいんですか。俺みたいな奴がこんな温かい場所にいても……」
ジョシュアは立ち上がると、トキヤの頭に手を置く。
「フッ――違うな。お前が何者であろうと、元の世界に戻れる日が来るまでは俺はここにいて欲しいと思う。ここにいる誰もがそう思っているさ」
トキヤ以外の全員がコクリと頷く。そして同時に、トキヤの頭の中に、彼が生きてきた現代の世界が思い浮かんだ。
「いずれ俺が秘宝を手に入れる。能力が本当だったとするならば、お前を元の世界へ戻すことも可能になるだろう。だから、もう無理なんてしなくていい。今まですまなかったな」
それはジョシュアがつけた、トキヤへの鍛錬全てに対しての謝罪。ジョシュアは俯いたままのトキヤから離れると、ソファに腰を掛ける。
「そんな……俺は!」
「トキヤ。お前は本来、このナインズティアに強く関わるべき人間じゃない。危険なことはするべきじゃないんだ」
それはトキヤの身を案じて。ジョシュアの意図に気づいたトキヤは、これ以上の言葉を続けることができなくなってしまった。
「話はこれで終わりだ。皆、遅くまですまなかったな。特にシスティア、明日は早いのに」
「ううん、とても大事な話だったから。兄様のためにも、私も私なりにクレアの行方を捜すわ」
「すまない……クレアのことを頼む」
システィアは頷き、応接室を後にする。
「それでは、私たちも」
シグレはテーブルの上に置いてあったグラスやポットを手に持つと、ジョシュアへと一礼する。ミリアはトキヤの様子を気にしていたが、同じく一礼し、シグレの後を追う。
残されたトキヤとジョシュアと、互いに目を合わせられずにいた。
「……どうした? 何か話したいことでもあるのか?」
「…………いえ、なんでもないです」
「……こんな言葉が聞きたいわけじゃないかもしれんが、安心しろ。もしも【時遡】を手に入れられたのなら、俺がお前たち全員を救ってやるさ」
トキヤにとってはそうだったかもしれない。そんな言葉を聞きたいわけじゃなかった。
ただ紡がれた言葉にはトキヤやシスティアたち、そして死んでいったアルフレドやフリッツが含まれている。
深い悲しみの蒼。その瞳は一体何を見つめているのか。そんなジョシュアを尻目に、トキヤは応接室の扉を開けた。
「それとトキヤ、屋敷から出るなと言ったが撤回する。お前にも娯楽は必要だろう。心配をかけるような真似をしなければある程度は許す」
「あ、ありがとうございます……」
「悪いな、お前を守るためだ」
それがジョシュアの最大の譲歩だった。
――守るため。俺がシスティを守ることは……できない。
これ以上のわがままを通すわけにはいかない。トキヤはジョシュアを部屋に残したまま扉を閉めると、重いため息をついた。
「浮かない顔してる。トキヤ君、兄様に何か言われた?」
「わ、シ、システィ……」
不意に掛けられた声。階段の手すりに腰を預けたシスティアがトキヤの方を見つめている。
「いや……屋敷から出るなっていうのを撤回してもらったくらいかな」
「良かったじゃない。でも、不満そう? もしかして、また獣と戦いたかったり?」
「そ、そのことは勘弁してくれよ……。流石にもう行かないって」
なーんて冗談冗談、と笑うシスティア。階段を二段、ぴょんと飛び降りるとトキヤの前へ歩み寄った。
「じゃあ、外出解禁ってわけで。裏庭で少し話さない?」
「え? でも、大丈夫なのか? 明日早いんじゃ……」
「うん。けど、今日、いろいろなことを聞いて頭がパンクしちゃっててさ。このままじゃ眠れそうにないから……ダメ、かな?」
少しだけ寂しそうな表情を含ませたシスティアの笑顔。それを前にすれば否定の言葉はもはやない。
「俺なんかで良ければ、喜んで話し相手になるよ」
そう告げれば、寂しそうな表情は少しだけ緩和する。
「ありがと、それじゃ行こ」
「ああ」
交わす僅かな語り合い。ふわりとスカートを翻したシスティアの後ろを、トキヤは追っていった。
数ある作品の中から、この物語を読んでいただきありがとうございます。
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