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スターダストクロノス―星に願いを、時に祈りを―  作者: 桐森 義咲
第1章 異世界への旅立ち、ナインズティアへ
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時刻4 自己紹介は簡潔に

 裏庭から屋敷内へ。踏み入れた場所はかなりの広さがある部屋で、左はリビングだろうか? L字型のソファが置いてあり、その向かいの壁には暖炉が設置されている。

 逆に右は食堂のようで、長テーブルと数多くの椅子。その奥にはキッチンへと通じる扉が見えていた。


「すげぇ、俺の家とは大違いだ」


 呆然とトキヤはキョロキョロ部屋を見回していると、シグレがじっと睨んでいるのに気がつく。

 物色していると思われたのか、生命の危機を感じて慌ててシグレから目を逸らせば代わりにシスティアと視線が交わった。


「ず、随分大きなお屋敷ですね!」


 声色が若干上がり気味だが、確かに声は出る。


「貴族の家にしては、そんなに大きくないんだよ? その反応は、もしかしてトキヤ君は貴族じゃない?」

「貴族? あ、いや俺の家は特にお金持ちってわけじゃなかったですよ。今は親元を離れ、一人暮らしをしてますけど……」

「親元を離れて一人暮らし? 私とそんな変わらないように見えるのに、自由奔放な生き方をしてるのね」

「いや、そんな自由奔放なわけじゃ……」


 たははと笑うトキヤ。

 そんな彼の話をシスティアは興味深そうに聞いていると、シグレが思い出したかのように、口を開いた。


「あっ、すみません! 夕食の準備を忘れていました! すぐに用意して参ります!」

「そっか。もうそんな時間だもんね……ちょっとしたハプニングもあったし仕方ないわ」


 シグレは申し訳なさそうに一礼し離れていく。しかし、キッチンへ入る前にトキヤへくれぐれも変な気は起こさぬよう……と言った具合に視線を向け、奥へと消えていった。

 その様子を見て、困ったようにシスティアは髪の毛の先を弄ばせる。


「シグレがごめんね? 本当はとっても良い子なんだけど、今はちょっとピリピリしてるみたい」

「いえ、俺が飛び掛かったせいでもあるんで……全く記憶に覚えがないんだけど」


 トキヤは頭を掻き苦笑をする。システィアは頬を綻ばせると長テーブルへと歩を進めた。

 先程、二人が居た場所から一番近い席を残すと、その向こう側へと座り手を差し出す。向かいの席にどうぞ、と促すように。


「そんな固くならなくてもいいから」

「す、すみません。なんだか面接っぽくて……」

「ふふっ、もっと楽にして普通の喋り方でいいよ? ちょっと貴方の事を聞かせてもらおうと思っただけだから」

「や、やっぱ面接ッスか⁉」


 緊張からか、敬語なのか軽い口調なのか安定しない。

 とりあえず落ち着けとトキヤは深呼吸をしていると、それを可笑しく思ったのかシスティアはクスクスと笑っていた。


「じゃあ……緊張を解く為にも私のこと、そしてこの屋敷のみんなの紹介からしようかな」

「お、お願いします……」


 トキヤが向かいの席へと座ると、システィアは自分の胸に手を当て、極力緊張感を与えないよう笑顔のまま紹介を始めた。


「私はシスティア。システィア・フローレンス。この町を治めるフローレンス家の長女よ」

「えっ……って事はお嬢様……」

「あぁぁぁ……そんな! 別にお嬢様とか関係なくって、普通に接してくれていいの!」


 みるみるうちに顔が強張っていくトキヤに、慌ててシスティアが胸の辺りで両手を振ると、咄嗟に言葉を付け加える。しかし、恐縮の態度は変わらない。彼が目を泳がせているままでは、通常の話し合いは難しい。

 このままでは埒が明かないと悟ると、システィアは違う話題でゆっくりと緊張を解していくことにする。簡単な受け答え等、トキヤの緊張がある程度ほぐれたのを確認すると、もう一度自己紹介の話へと戻った。


「ふふ、それじゃ、屋敷のみんなの紹介に戻るね」

「すみません、お願いします」

「まずは……さっきの黒い和装、赤いリボンを付けた子は侍女のシグレ・アサミヤ。裏庭でトキヤ君がさっき話した男の人が私の兄、ジョシュア・フローレンス。今は王都に行ってここには居ないけど、父と母もいるわ」


 システィア、シグレ、ジョシュアと名前を覚えていくトキヤ。特にシグレの名前は初対面が初対面なだけあって、忘れられないほどのインパクトがそこにはあった。

 フローレンス家の自己紹介はこれで終わりだ。「今度はトキヤ君のことを教えて?」と言われ、順番がトキヤに回る。


「俺は星月(ほしづき) 時夜(ときや)。いや……ここで言うならトキヤ・ホシヅキなのかな? えーっと十八歳。見ての通り何の変哲もない男――」

「いやいやいや! 変な服着ているし、謎の歪みから現れた時点で十分変だよ⁉」

「えっ! 俺の服ってそんなに変なのか⁉ た、確かにシスティアさんと比べたら変かもしれませんが……」

「あっ……変って言っちゃった……」


 咄嗟に出てしまう失言にシスティアは口を押さえ、何と弁解しようか目を泳がせる。

 だが、変だというのは見るからに違いない。

 システィアもラフな格好ではあるがちゃんと花がある。対してトキヤはくたびれたジャージだ。この場にふさわしくない格好なのは誰が見ても一目瞭然。とはいえ、面と向かって変と言われればショックを受けてしまうのは普通かもしれない。その例に漏れず少なからず彼もショックを受けているようだった。

 

「あ、や、そんな意味で言ったんじゃないの! なんて言うか、ここではそんな服見たことなかったから……あ、あれ? これ間接的に変って言ってる……?」

「いや! 変で合ってます! 実はこれ部屋着で、外出時とかに着ていくような服装じゃない」


 またもや失言を重ねてしまった⁉ と慌てる彼女にトキヤは助け舟を出してはいたが収拾を付ける話でもない。そんな本題が逸れた無駄話をしていると、ソファが置いてある奥側の扉が開き、ジョシュアが食堂へとやってきた。


「二人で仲良くお喋りかい? 私はそろそろお腹が減ってね……シグレが呼びに来ないのでつい来てしまった」

「兄様ったら、昔から食いしん坊なんだから……」


 ジョシュアの言葉にシスティアは笑うと、トキヤに「話はまた後で」と告げ、キッチンへと向かっていった。


「すみません! ジョシュア様、もうすぐ出来上がりますので! わ、システィア様ダメですよ! 私のお仕事なんですからー!」

「また様つけてるー。私はご飯入れるからねー!」


 キッチンの奥、二人が騒いでるのをよそ目にジョシュアがトキヤへと近づいた。


「お前、この世界の人間ではないな。一体何者だ?」

「えっ――」


 それだけを言い残しトキヤから離れると、笑顔でシスティアとシグレを迎える。


「お待たせ兄様、大盛りにしておいたからね!」

「申し訳ございませんジョシュア様、システィア様。私が至らないばかりに……」

「大丈夫だ、シグレも気にしなくていい。みんなで一緒に食べようじゃないか」

「えっ、しかし――」

「ほらほら、シグレも座って! 様は付けるのなし、いい?」


 三人の談笑が遠くで聞こえる。

 離れた席でトキヤは一人青ざめ、うわごとのように呟いていた。


「俺がこの世界の人間じゃない……?」


 山という高台に居たはずのトキヤ。

 気づけばどうしてか海外にいると思っていた矢先、ジョシュアから告げられた唐突な言葉。理解が覚束ない、頭が働かない。考えることも、物事を整理することすらもままならず、異世界へと降り立ったトキヤの一日はここで終了してしまった。

数ある作品の中から、この物語を読んでいただきありがとうございます。

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