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スターダストクロノス―星に願いを、時に祈りを―  作者: 桐森 義咲
第1章 異世界への旅立ち、ナインズティアへ
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時刻30 少女からの逃亡

 § 六日目 フローレンス 屋敷 シグレの部屋


「うぅ……ん……」


 カーテンから朝の日が漏れ出し、ミリアが眠そうな目を擦りながらベッドから起き上がる。ふと隣に目を配るといつもは先に起きているシグレが眠っていた。


「シグレお姉ちゃん、昨日は遅かったのかな……今日はもう少しゆっくりして貰おうっと……」


 ミリアはシグレを起こさないようにそっと布団から抜け出すと、部屋の後にした。

 廊下へ出ると、窓から差し込む朝日がミリアの目を眩ませる。


「いい天気……今日は絶好のお洗濯日和になりそう。シグレお姉ちゃんが寝ている間に済ませちゃおーっと」


 そう言って、廊下の窓を次々に開いていき、脱衣所へ向かっていく。

 脱衣所の扉。鍵がかかっていないことを確認し開けると、上半身だけを裸にしたトキヤがミリアの瞳へと映り込む。


「きゃっ……と、トキヤお兄ちゃん?」

「わっ、ミリア⁉」


 どうやら彼は風呂に入っていたようだ。

 気づいたトキヤは慌ててバスタオルを肩から羽織らせると、恐る恐るミリアに弁解を図る。


「ご、ごめん……鍵かけるの忘れてた」


 ミリアは自身の後ろへと両腕を回すと、顔を赤らめては恥ずかしそうにトキヤから視線を逸らしている。


「う、うん……気を付けてね、それと……おはよう」

「おはよう、以後気を付けるよ……それじゃ、俺はそろそろ行くから!」


 トキヤはミリアの隣を、そそくさと通り過ぎ、扉から出ていこうとする。

 が――ミリアに呼び止められた。


「トキヤお兄ちゃん、こんな朝早くにどこか行くの?」

「ん……ああ、森に槍を置き忘れちまってな……ある場所はわかるから、今のうちに取ってこようと思ってる」


 トキヤは小刻みに体を揺らしながらミリアへと話す。

 異常な震え。寒さから来るものではないことにミリアは気づくと、不安そうにトキヤの顔を見上げた。


「大丈夫だ、行ってすぐ帰ってくるだけ! 行けるさ!」

「危ないよ……。もう少ししたらシグレお姉ちゃんか、システィア様が――」

「――ッ!」


 二人の名前、その後者を出した瞬間、トキヤは執事服の上着を持って飛び出していく。

 待って! ミリアはそう声を上げ、後に続き、玄関の扉が開いたのを確認すると、同じく外へ飛び出した。


 辺りを見回す。

 いた。しかし、トキヤはもう石畳の坂を下っている。

 ――このままじゃ間に合わない。

 ミリアは彼の辿った石畳の坂を下り、人通りの少ない商店街を駆け抜け、噴水広場へとその足を踏み入れる。だが、もうその頃にはトキヤの姿を見失っていた。

 全力だった、全力で走った。けれども、子どもの足ではトキヤには追いつけない。

 肩を上下させながら立ち止まると、ミリアは頭の中を整理する。

 トキヤは森へ行くと言っていた。だったら――

 町の出入り口へ近づいてくるパジャマ姿の小さな少女。その様子を見ていた門衛は、彼女を呼び止めた。


「お嬢ちゃん、どうかしたのかい? おや、君はフローレンス家の――」


 ミリアは彼の言葉を遮り、大きな声でトキヤのことを尋ねる。


「あ、あの! トキヤお兄ちゃん……いえ、執事服を着た男の人が外に行かなかったですか?」

「ああ。それならさっき、忠告も聞かずに通行証を持って出ていったな」


 この先に行ったのは間違いない。ミリアは頷くと、門衛に願い出た。


「わたしにも通行証を発行してもらえませんか⁉ お兄ちゃんを追わないといけないんです!」


 その言葉に君もか! と門衛は驚き、否定を示すように首を振った。


「彼は大人だったから通したけど……いくら領主様のところの侍女さんでも、君のような子どもを町の外で一人歩きさせるなんてとんでもない! シグレさんが同伴ならともかく、それにジョシュア様から聞いていないのかい? 森ではベア・ザ・クロウの死骸が消えた件の調査を……いや、とにかく、今は少し危険なんだ」


 森でベア・ザ・クロウの死骸消失。ミリアはその単語の全てを理解できたわけではなかったが、背筋に冷たい何かが通ったのは理解できた。

 嫌な予感が警笛を鳴らすように、ミリアの頭の中で駆け巡る。


「トキヤお兄ちゃんは、森へ向かったんです! このままじゃ――」


 君の心配ごとはそれか、と門衛は笑った。


「多少危険だと言っても、森には調査隊が派遣されているんだ。それもベア・ザ・クロウに後れを取らないほど強い人たちだよ。君が言うお兄さんもすぐに連れて帰って来てもらえるさ」

「で、でも……」

「ごめんね。悪いけど、僕らも忙しくて……仕事に戻らせてもらうよ」

「っ…………わかり……ました……」


 門衛はそう告げると、ミリアを追い払ってしまう。

 ミリアは無理やり自分を納得させ、踵を返し、ゆっくりと来た道へ戻って行くしか選択できなかった。

 頭の中には不安と嫌な予感だけが渦巻き、トキヤの顔を思い出させる。


「すごく嫌な予感がするのに……結局、わたしだけじゃ何にもできない……。無理にでもシグレお姉ちゃんを起こした方がよかったなんて……」


 自身の取った行動が裏目に出たことを後悔する。だが、今は一刻も早くと地面を蹴り、屋敷へと走った。そして後にミリアの悪い予感は的中することになる。

数ある作品の中から、この物語を読んでいただきありがとうございます。

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