時刻20 君の魔法は何色魔法?
次の日の朝、けたたましい叫び声を上げるトキヤの姿が裏庭にあった。
「ふぉおおおぉぉおおおおおおおおおお! どうだ!」
「はい、ダメ。やり直し!」
「ぬぉぉぉおおおおぉぉぉぉおぉぉおお! どうだ⁉」
「うん、ダメ。やり直し!」
システィアとの修行。今日は魔法の特訓をする予定だったはずなのだが、トキヤはなぜか付箋のような紙を両手で潰しては開いて叫んでいる。
それは、今から少し前の出来事からなる――
システィアが付箋のような白い紙を持って、トキヤへと一枚手渡した。
表裏と見回してはみるが、特に変哲もない普通の紙。首を傾げ、トキヤが尋ねる。
「これは一体?」
「普通の紙に見えるかもしれないけど、魔法紙と呼ばれるものなの。手で握って念じると自分の内に秘められた魔力に応じて色が変わるのよ」
火ならば赤く、水なら青く、風ならば緑に、土は黄色。闇と光もあり、真っ黒に反応すれば闇で、紙がほんのり輝けば光属性に適性があるというわけだ。
「まずは私がやってみるけど、ちょうどこんな風に――」
システィアは手の内に魔法紙を握りしめた、と思えばすぐに開く。すると、魔法紙はピカピカと光り輝いた瞬間に、ボワッと燃え尽きてしまった。
「あ」
「ちょ、燃えたんだけど! さっき言ってることと違――」
「ち、違うの違うの! 魔力が強くなると紙は更に影響を受けちゃって、燃えたり、水だったら濡れたりするの。一瞬だったからあんまり分からなかったかもしれないけど、今のは光と火で、私の属性は特に光と火に秀でてるということになるわけ。もちろん、秀でてなくても使える魔法はあるけれど……」
たとえばこのように風、とシスティアが手の内で燃え尽きてしまった灰を渦巻かせる。
とにかく今は言葉よりも試してみてと言われ、先ほどもらった魔法紙をトキヤは握った。システィアと同じように数秒経ってからすぐに開いてみるが、紙の色は白から変わらず、何も起きない。
「こ、これって……?」
魔法の才能がないのか……? と急な不安に陥りそうになるが、システィアからすぐにフォローを入れられる。
「もう少しゆっくり。とりあえず、魔力を込める感じでやってみようか」
「魔力を込めるってどうやって……」
魔法という概念がなかった現代で生きてきたトキヤにとって、魔力の込め方など知るよしもない。右も左も分からない状態では、どうしても教えを請う以外に他はなかった。
「そ、それは……。えっと……ごめん! 無意識でやってるから分かんないや……」
「なんだってー!」
驚愕の真実が告げられる。
魔法を使う前にいきなり躓いてしまう始末。システィアはどうしたものかと考えつつも、こればかりは慣れと言うしかなかった。
「と、とにかく! 自分の色だーっていうのをイメージしながら、力を込めてみて!」
困ったように笑いながら助言する。そして、これの一時間後が先の、現在の出来事である。
「俺は火だ……水だ……風だー土だー雷だー闇だー光だーっ! とあぁぁぁぁっ!」
「こらっ! トキヤ君、雷魔法っていうのはないからね⁉」
「えぇ……? で、でもよ、勇者とか英雄とかって雷のイメージがないか? 天空から稲妻を呼んで敵をやっつけたり、雷を剣に纏わせて打ち砕いたり」
それはゲームの話だ。ゲームの勇者を取り上げて、トキヤはそう感じていただけ。実際、主人公が他の属性を使うことなんて多々ある。雷属性だけが特別ということはない。
が、それらについて知らないシスティアも、なぜだか納得するように頷いていた。
「ん、英雄……か。確かにトキヤ君のその発言は、もっともかもしれないわね。そのイメージは私にも強くあるし。でも、電撃を司る属性は風で――」
「らいらい雷らい! らい雷らいらい!」
「もーっ! だから雷魔法っていうのはないんだって!」
システィアに叱られながらも、本人は至って真面目にやっているつもりだ。同調された嬉しさで言っていただけ。……恐らくは。
そんな上手くいかない修行を続けているトキヤの元へ、二人の少女がやってきた。
黒い和装の上に前掛けを施し、後ろ髪に付けた赤いリボンが特徴的なシグレと、ボロ服やシスティアからもらった私服とは一転した、メイド服に身を纏ったミリア。
二人の手には盆が握られており、その上には数多くのおにぎりが乗っている。
「休憩ですよシスティ、トキヤさん。今日は握り飯を作ってみました」
「わ、わたしも頑張って作りました……! 良かったら食べてください!」
おぉぉ! とミリアの元に駆け寄るトキヤ。
肩周りから足下まで、前面を防備できるひらひらした白いエプロンと、首元にあしらわれた幼い可愛さを象徴する大きな黒リボン。そして、主の華やかさを阻害しないように作られた黒いドレス部は、動きを阻害しないようにロングスカートと若干の振袖が備えられている。
ヴィクトリアンメイドと呼ばれる種類の衣装だ。反転色を基調としシグレによって用意された侍女服は、幼いミリアでも本物のメイドと見間違うくらいに良くできていた。
「すげぇ、ミリア。メイドさんみたいだ! 可愛いぞ!」
「えへへ……でも、一応侍女なので、メイドさんと同じ括りなんですよ?」
「シグレに仕立ててもらったの? よく出来てるわねー。どれどれー?」
まるでお人形のような可愛さのミリアを抱き上げると、システィアは感動したように頬ずりを始めた。侍女の域を通り越し、まるで妹ができたような喜びようだ。
「本当に可愛い! あぁ、シグレがミリアに夢中になるのも分かるわぁ……」
「ひゃぁっ⁉ シ、システィア様、お盆が落ちちゃいまひゅ! ひゃめてくらさいぃぃ!」
「む、夢中って……もう、システィ! これでも一応仕事中なのですから、ミリアを離してあげてください!」
助け船を出されつつも、ミリアは満更ではなさそうで嬉しそうに頬を染めていた。
一時は瀕死の重傷を負ったシグレだが、新しく侍女となったミリアの助けもあり完全とまではいかないがこうやって業務に戻れている。
システィアはひとしきりミリアを愛でると思い出したかのように「休憩休憩!」と手を鳴らし、トキヤと共にテラスへと向かった。
少し遅い朝食だ。
「んー……にしても、全然ダメだな。燃えたり濡れたりするどころか、色も変わんねぇし、上達の見込みすら立たねぇ……」
「まだまだ始まったばかりだもの、そう焦らなくても大丈夫よ。ゆっくりやってさえいれば、自分の属性はきっと見つかるから」
落ち込むトキヤをシスティアは明るく励ます。
とりあえずは、「お腹が減ってちゃできるものもできないから」と食事を促すが、その片手間でもトキヤは魔法紙を握っていた。
手をグーパーグーパー続ける彼を見て、ミリアは首を傾げている。
「トキヤお兄ちゃん、その紙は?」
「ん? これか? えーっと……これは魔法紙って言って、握ると自分の秀でてる属性がどんなもんか分かるんだってさ」
「へぇぇ……わたしもちょっとやってみたいです!」
システィアはもぐもぐと食べていたおにぎりを喉の奥へと押し込むと、笑顔で一枚、ミリアへと魔法紙を手渡した。
「え……でも、これ頂いてもいいんですか? 高価なものなんじゃ」
「ううん。特殊な魔法紙ならともかく、これは一般的に使われている魔法属性を調べるものだから。普及もしてるし、安価なものなのよ」
魔法紙については子どものお小遣い程度でも買える品物だが、今のミリアにとってはまだまだ高いものと感じてしまう可能性があるので詳細は伏せられた。
代わりに、「ミリアがどんな属性の魔法に秀でているのか私たちも気になるから」と続けられる。それについて、同じく思っていたシグレも頷いた。
秀でている魔法属性を調べる、そんな物があるなんて知らなかった。
ミリアはもらった紙のお礼を述べ、姉のシグレから使い方を教わると、トキヤがやったように魔法紙をキュッと握りしめる。
ミリアがどんな属性の魔法と相性がいいのか。彼女を含めたこの場にいる全員が、まだ開かれない手の先にある答えを待つ。そして――
「ん……はっ!」
パッと開いた手の中で驚きの反応が起こる。
紙が緑色に染まったかと思えば、カミソリで切られたように四分割され、更に黄色へと変色し、土埃が付着する。
その様子を見たトキヤは先を越されたショックで「なんでだーっ!」と叫び声を上げた。まさか、自分よりも幼いミリアに先を越されるとは思ってもみなかったのだ。
「強い魔力ね、それに珍しいわ。風と地は互いに反属性で、普通は同時に扱えないのだけど……もしかしたら、ミリアは優秀な魔導士になるかもしれないわね」
「え? 本当、ですか?」
驚くミリアに、システィアは頷いてみせる。
幼いミリアでも魔導士という言葉は知っている。
このナインズティアで、魔法の力というものは偉大だ。その魔法のスペシャリスト、国に認可された魔導士となれば必然的に扱いは変わってくる。
「でも、わたし、魔法なんてぜんぜん使えないのに……。それに魔導士についてもすごく知ってるわけじゃなくて」
「そうね。それについてちょっと説明しましょうか。トキヤ君も魔法についてとか知らないだろうし」
「うっ、勉強か。でも、魔法のだよな……。数学とかよりは全然マシか!」
勉強嫌いではあるが、自分の興味を持ったものにはトキヤは全力だ。特に、このナインズティアにある魔法についてはよく知っておきたかった。
システィアは「それでは――」と魔法についての説明に入る。
剣に秀でた者は主に一から二属性の魔法、希に三属性を使う者もいるが、魔導士には明確な条件が決められており必ず三属性以上扱えなければならない。どんなに魔法を上手く使いこなせようと、それ未満は見習いだ。
ナインズティアにおいて生活などで使われる便利な魔法と呼ばれる無属性を除き、攻撃や回復などあらゆる場面で使われるのは地水火風の四種と、扱いの難しい光と闇。これらが主な魔法の六属性と呼ばれ、それぞれに反属性が存在する。
火ならば水、風ならば地が、光と闇は言わずもがな。その反属性同士は互いに弱点となりうるが、火と水が相対すれば一方的に水の方が強い――ということにはならない。攻撃側ならば魔法が透過しやすく、防御側ならば対処が難しくなるというくらいだ。
しかし、その弱点を補うためにこの反属性を扱おうとすると相当なデメリットを要することになる。
仮に火属性に秀でた者が水の魔法を使おうとしようものならば、己の中にある火属性の源は変質してしまい、無理に使い続ければ最終的にどちらの魔法も使えなくなるだろう。
だが、ミリアのように『反属性の魔法に適性を持っている』と、それだけで魔導士への才能がある。なぜならば、それは反属性の使用に対するデメリットがなくなるのと、それ以上に大きいものがもう一つ。
通常の魔導士 にはある一定の限界があり、デメリットの関係上どうしても三属性までしか魔法を極めることができない。ところが、反属性同士が使えるとなると必然的に四属性の魔法が極められることになるのだ。これは努力では変えることのできない、生まれ持っての才能。故に反属性を使える者は、ほぼほぼ魔導士である。
だが、間違いのないように言うなれば三属性も使えるだけで優秀だ。魔導士を志望する者が一、二属性しか魔法が扱えないのであれば、剣の道へ進むか、見習いとして一生を過ごすかしか道はないのだから。
「とにかくこんな感じよ。ミリアが次に行うべきことはどの属性を重視していくかね。火と水のどちらにするか、闇と光のどっちを取るか」
その言葉に割り込むように、トキヤが手を上げた。
「ちょっと質問。反属性のデメリットなんだけど、たとえば今のミリアが火と水を交互に使うっていうのはどうなんだ? まだどっちも属性の源はできあがってないんだろ?」
そうね、とシスティアが一言。だが、これには前例があった。できあがってない頃から使ったとしても、やはりどうしてもデメリットは免れない。
過去に後天性でも反属性の魔法を使うことは可能かもしれない、というある実験をシスティアは小耳に挟んだことがある。しかし、残念ながら成功の試しはなく魔法の才能を著しく損なわせる危険性が高いため、実験はやむなく中止させられたのだとか。
「そんなわけで後天性となるとちょっと難しいの。それを聞くってことはトキヤ君が知りたいのは、五属性を扱うことも可能なのか? ってことよね。それについてはイエスよ、そんなとんでもない魔導士は実在したわ。だけどその上の、六属性を極めた魔導士というのは歴史上にも存在しない。四属性を使えるだけでも充分過ぎるほどなの、王都でもほとんどいないんだから」
「そんなことよりもトキヤさんは自分の心配をするべきですね」
「うぐっ……まだ魔法の属性も分からない俺に対しての当てつけですかね。シグレさん」
シグレはそんなことは知らないと言いたげに、ミリアの方へ向き直る。
優秀だと聞いて鼻が高いです。そう笑顔で彼女の頭を撫でていた。
「えへへ……あっ、そうだ! あの……シグレお姉ちゃんは魔法を使えるんだよね? もし、属性とか教えてもらえるなら聞きたいなって」
「私ですか? 得意な魔法は水と風ですよ」
システィアがまた一枚、魔法紙を渡すとシグレはそれをミリアに見せた。
青へ変わった後、水でふやけたと思えば緑色に変わり、散り散りに切断される魔法紙。
すごい! と目を丸くしてはパチパチとミリアは手を叩いていた。
ミリアの場合は付箋が四分割にされただけだが、シグレの場合だと細切れ。それは同じく見ていた、まだ魔法のことに詳しくないトキヤでもシグレが水と風の使い手だとはっきり分かる程度に。それほど顕著に、魔法紙は色と影響を醸し出していた。
「それじゃ、わたしは火の魔法を覚えていきたいな。シグレお姉ちゃんができないことをわたしが補ってあげる!」
「もう……ミリア、それなら……お姉ちゃんはミリアのを補わないとですね」
火が使えないなら水を、水が使えないなら火を。健気なミリアを見て、シグレは潤む瞳を隠すように顔を伏せていた。
トキヤにとって、ミリアの影響力は強い。
ミリアはトキヤと同じく魔法にすごく詳しいわけではないはず、慣れていないはずだ。それなのに、魔法紙には彼ができないくらいの影響を及ぼしている。
産まれがナインズティアかどうかで、ここまで変わるのか? 年端もいかない少女とここまで。
悔しい、まだ属性の頭文字すら出ていないのに。そんな悔しさを隠すように、おにぎりをバクバクと頬張っていった。
「本当に二人は姉妹みたいね。それじゃトキヤ君も魔法が使えるように頑張りましょ!」
自棄食いに入っていたトキヤ。未だ使えない魔法のことを触れられると、急に彼の容態が変わる。おにぎりを喉に詰まらせたのか、みるみる内に顔が青ざめていく。
「んぐっ⁉ み、水を!」
「え? ちょ、トキヤ君⁉」
「なにやってるんですか。ミリア、こちらを」
「は、はい! トキヤお兄ちゃん、はい! 水だよ!」
何の因果か、宿敵……ではないが、ミリアから渡された水によりトキヤは窮地を脱すことになった。
そして朝食を食べ終えた後、トキヤは先を越されたことにより触発されたのか、今まで以上に真剣に魔法の修行へと取り組んだ。
まるで飛ぶように過ぎていく時間。休憩を挟みつつも修行は何時間にも及び、終了を告げられたのは夕暮れ時だ。
費やした時間の甲斐もなくトキヤが握っていた魔法紙は、自身が色を変えられることを知らぬようで未だ真っ白のまま。
「くそ……結局、何色にも染まらねぇ……」
「魔法の才能がないわけじゃなさそうなんだけど、どうしてなんだろう……」
「いや……ここまでできないんじゃ、才能なんて一欠片もないんじゃねーかな。そもそも俺ってこの世界の人間じゃないんだし」
仕様が違えば使えないのも納得がいく。
魔法を使いたい気持ちはある。こうは言ったが才能がないと信じたくない。だが、これ以上続けても成果が得られるとも思えない。
魔法を使う以前の属性を確かめる段階で躓いて、トキヤはシスティアの時間を無駄にさせるのが嫌だった。
「もう、魔法は諦めるよ。無理だぜ、俺には」
そう進言してはみるが、彼女は首を横に振っていた。もうちょっとだけ頑張ってみようよと、私は大丈夫だからと。
優しくされると逆に辛いものだ。トキヤは芝生の上に座り、顔を背けていた。
「ねぇ、トキヤ君。少し昔話でもしようか」
「なんだよ、急に」
魔法の属性すら分からないとふてくされてしまうトキヤのため、少しでも気分を紛らわせるようにシスティアはとある昔話を始める。
それはトキヤとシスティアがいる、このナインズティアのお話。
「ずーっとずっと昔ね。この世界にはすっごく大きな隕石が落ちて、ほぼすべての生物が死滅したって言われてるの。それから時を忘れるくらいの長い年月が経って、こうやって生命が溢れる世界へと戻ったんだけど、ナインズティアを除いた他の大陸は全て水に沈んじゃったんだってさ」
「そう、なのか……」
唐突なことにそれしか言葉を返せなかった。
トキヤにとってこのナインズティアと呼ばれる場所が、どの程度の大きさを誇る大陸かは分からない。しかし、他の大陸が全て水に沈んだという話が本当であれば、他のなんてものは文字通りなくここが世界の中心だということだ。
システィアは続ける。
「人々は空から降ってきたものについて調べた。隕石ね、実はこれがナインズティアの発展に繋がった。なんと豊富なマナと呼ばれるエネルギーがあるってことが分かったの。その後、降ってきた小さな隕石や、空中で燃え尽きた隕石からも、全て同様のマナが観測された。そして、魔法の根源はそのマナであると言われてるわ」
「……? つ、つまり?」
うーんと、少しだけ悩むシスティア。そして、一つトキヤの世界のことについて尋ねてみる。
「トキヤ君のいた世界で歴史上、一つの文明が滅ぶほどの隕石って落ちたりしたことはある?」
トキヤは記憶を辿る。勉強は得意な方ではなかったが、誰もが知っているであろう一つの答えに辿り着いた。
「落ちてる。恐竜が絶滅したって言われてるときの隕石だ。それ以外にも多分……地球ができてからは相当長い時間が経ってるし、小さいのも、それ以上にデカいものも落ちてると――」
「それだよ!」
システィアは笑顔のまま、それを指摘した。自分の考えは間違いじゃないという顔だ。宇宙から降ってきた隕石が、同じようにマナを含んでるとすれば答えは決まる。
マナがあるのに、魔法が使えないのはおかしいのだ。
「トキヤ君の世界では、ナインズティアと違って魔法は発展しなかった。それはトキヤ君の世界で、人が隕石からマナを見つけられなかっただけだったからかもしれない。けど、同じ空から飛来した隕石なら、もしそれにマナがあったとすればトキヤ君にも魔法は使えるはずなんだよ。それに、トキヤ君の世界ではまったく魔法は使われていないんでしょ? だったら、マナは潤沢にあるはずなの! 問題はどうして魔法紙が反応しないのか……」
「ま、待て待て! そもそも、ここは俺にとっての異世界で……まったく世界の作りが違う場合も――」
「……信じられない? でもね、魔法は信じないと使えないんだよ」
そう。トキヤにとってここは異世界である。だが、システィアはもう信じ込んでいるのか唇に親指を当て、どうしてトキヤが魔法を使えないのか考え込んでいた。
なぜトキヤが六つの属性のどれも使えないのか、体に貯め込める魔力の量が極端に少ないと魔法は発動できないが、属性だけなら調べることはできる。それは魔力貯蔵のほとんどない産まれたばかりの赤ん坊からだって採取することはできるのだから。
「無属性はともかく、主となる六属性は魔法紙に現れない……。だとすると、もしかして今、使われているような属性じゃない……?」
ハッと思いついたのか、システィアは屋敷へと走り去って行く。
「トキヤ君、ちょっと待ってて! あれなら……もしかしたら属性が分かるかもしれない!」
「あ、あぁ……」
そう言われ、呆然と立ち尽くすトキヤ。
魔法は信じないと使えないんだよ。その言葉が頭の中でリフレインする。信じてないわけじゃない、だが、頭の片隅のどこかでトキヤは信じ切れてなかったのかもしれない。
彼の世界では、魔法なんて使うこともできない世の中だったのだから。
数ある作品の中から、この物語を読んでいただきありがとうございます。
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