表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スターダストクロノス―星に願いを、時に祈りを―  作者: 桐森 義咲
第1章 異世界への旅立ち、ナインズティアへ
2/120

時刻1 ゴミはゴミ

 夜空に星々が舞うこの地球。どんなに手を伸ばそうが、地上の人間にその輝きは掴めない。しかし、観測することは可能だ。

 この星々をどこかで違う誰かが見ているかもしれない。過去、現在、あるいは未来において。

 星がよく見える高台、ある青年が黒い単車を乗り回しここへとやってきた。

 排気ガス噴き出すマフラーから出る音は暴走族などと違い、けたたましいものではない。乗っている人物がやんちゃではないことが窺える。


「久々だな、この山……」


 彼は単車から降りると、黒いヘルメットを外し高台から雑草が生い茂る中腹まで降りていく。

 中肉中背、ツンツンとした黒髪。右前髪はたれ下がっているのに、左前髪は意思を主張するようになぜかしら逆立っている。

 服装は単車に乗ってきたにもかかわらず、完全防備とは言い難い上下ねずみ色のジャージ。自宅から近いこともありこの姿で来たようだ。


 彼はこの高台を山と呼んでいるが、実際にここは山というほど標高があるわけではない。どちらかといえば丘と呼んだ方がしっくりくるだろう。

 それでも彼が『山』と呼ぶのは、小学生の頃から呼び親しんでいた名残から。小さい子が遊ぶには少々危ないところだが、特に閉鎖されているわけでもなかった。


「変わんねぇな……あの頃と。麓に見えるスーパーも同じ。昔は買い物に行くとき、よく駆け下りたっけ」


 懐かしむように息を吸い込み、ベンチというにはおこがましい岩へと座る。


「高校卒業して、大学に行かず……行きたかった専門学校も金がないから行けず終い。運良く工場の正社員にはなれたけど、派遣さんには社員だからと嫌味事……歳がそんなに偉いかね」


 小ぶりの石ころを手に取ると、下り坂になっている草むらへ放り投げる。特に何が起こるわけでもなく、石はそのままゆっくりと転がっていき、やがて止まった。


「……人が少ねぇからマシンは回らねぇ、休憩もロクに取れねぇ。無理やり後ろの休憩と合わせたら、サボりだどうだの。頑張ってるところは見ねぇくせに、違うことをしたらすぐサボりサボり。あーあ……ようやく高校の頃からの変な事件から開放されたってのに、どうしてこうなった」


 高校生活で彼を襲った事件。

 学校のアイドルと呼ばれる存在。その少女と仲良くなった結果、彼はあるストーカー被害に悩まされていた。しかし、この事件は彼が社会に出て終結することになる。一人の男が警察に捕まったことによって。


「……もし、時間が戻せたら。あの子と付き合う選択をしていたら……変わったのか? いや、まさか……どうせ上手くいかなかったさ」


 自問自答。過去は過去で、過ぎ去った時間を戻すことはできない。

 高校で特に目立たなかった彼が、学校のアイドルと釣り合うわけがない。何かの手違い、仲良くなってしまったせいで、付きまといの被害に遭ってしまったのだから。


「終わったこと終わったこと。いつまでもこうしちゃいられねーわな。明日も元気に工場で嫌味を言われながら働きますかねー」


 何もない、何も持ってない。


「……勇者とかそういうのはゲームだけの世界なんだ。誰も世界を救おうなんて考えちゃいねぇ、偉くなったとしても誰も見ていないふり」


 伝説の剣も、鎧も、盾も。彼の生きている世界(ここ)では何の役にも立たない。そんなもの身につけていれば、変人扱い、銃刀法違反で即警察行きだろう。

 腰をかけていた岩から彼は立ち上がると、麓が見渡せる場所へと赴く。

 人の営みの明かり、スーパーマーケットが見えるが、この高台には街頭がなくとても暗い。しかし、時に暗闇は空に満天の星空を写す。

 闇の中に輝く光。手を伸ばせば届きそうな淡い光に彼は無言で手を伸ばした。


「…………」


 ――届かない。それでも彼は手を伸ばし続ける。

 だが、何度やっても何億光年と離れた星に届くはずもない。伸ばした手を胸に戻し、グッと握りしめた。


「何やってんだか……こんなことしたって何もならねぇ。俺はゲームの主人公でも勇者でも、特別な人間でもないんだ。ただのモブで、活躍してる人たちからすればゴミ同然。俺がいなくなったところで誰も困りゃしねぇ――」


 ゴミはゴミ箱に。今までも、そしてこれからも。

 リサイクルできないものがゴミであることから覆らないように。生きていても、死ぬ日が来たとしてもゴミはゴミで変わらない。

 もし覆すことができるとするならば、それを変えることができる場所がここでないのなら――


「っ……⁉」


 世界を、自分があるべき場所へと移す必要があるんじゃないだろうか?


「うわ――ああああああぁぁぁぁぁ!」


 一瞬の出来事。彼だけを狙ったかのような漆黒の穴が足元に現れ、ダストシュートのように飲み込んだ。

 叫び声は誰の耳にも届かない。

 この日を境に、彼は世界から姿を消した。


数ある作品の中から、この物語を読んでいただきありがとうございます。

もし良かったと思っていただけたなら「いいね」を。めんどくさくなければ下部にある☆☆☆☆☆からのお好きな評価とブックマークをしてくださると励みになります。

惹かれないと思ったら、低評価とかBADボタン……はないので、そのままブラウザバックしてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ