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時刻106 ようこそ、落ちこぼれ班へ

 中央の階段で分け、左の席に着いているのは三人、右は……若干一名、突っ伏してはいるが四人だ。

 左からは特にトキヤを威圧するような視線が向けられている。

 クロード・ヴァルヒュリッテ。先日も顔を合わせたがゼフォンの弟だ。


「さて、自己紹介が済んだところで二人をそれぞれの班に振り分けたいと思う。今までは四人で一班だったが、これからは五人で一班だ」

「四人で一班? つっても、あっちは三人しかいないですけど」

「ああ、卒業見込みの奴でな。アイリアという名だが、魔法研究所の方によく駆り出されている」


 お前にはあまり関係ないことかもしれんがな。フリズベルがそう続け、システィアの肩を叩いた。


「システィア、お前はクロードの班だ。今日からお前が奴らのリーダーとなり指揮を執れ」

「えっ? で、ですけど――」

「反対でーす、フリズ先生! いきなり入ってきて大貴族のクロード様からリーダー権を奪うなんて、おかしいと思いまーす!」


 高らかに声を上げたのは、薄い茶髪のピッグテール少女。

 年齢は十四くらいだろうか? 身長もそこまで高くはなく、見栄からの大きな制服はサイズが合っておらず、ちんちくりんな印象だ。

 そんな彼女の言い分を、同じ髪色をしたロングの糸目男が咎める。


「ミランダ、フローレンス家も大貴族だぞ」

「なっ……! そ、そんなこと知ってたし⁉ ただあたしは、いきなり入ってきたこの人がクロード様からリーダー権を奪うのが許せないってだけで。とにかく、あたしより弱いエリオット兄がしゃしゃり出てくるなんて生意気なのよ!」

「なっ! 私はお前とは違って、後方支援なだけで!」

「先生、俺は構いませんよ。システィアさんの実力は知っているんで」

「にゃに⁉ クロード様⁉」


 クロードがそう言ってのけると、フリズベルはもう一度システィアと向き合う。


「だ、そうだシスティア。ま、双方がなんと言おうと私の決定には従ってもらうつもりだったがな」

「せ、先生……。クロード君、なんだかごめんね。こんなことになるとは思ってなかったんだけど」

「俺は構わないと言いました。システィアさん、どうか指導の方、よろしくお願いします」

「はっ、はいっ!」


 差し出されたクロードの手を握るシスティア。その握手を見て、トキヤはなんだか少し面白くない気分になる。


「ちょ、ちょっと! 握手なんて気安いですよ⁉ ……えーっと? システィアさんって言いました? 大貴族だろうが、先生が言おうが、あたしは認めませんから! リーダーはクロード様なんです!」

「え、ええっと……」


 どうやらシグレ役の人間はここにもいるらしい。フローレンスの町の頃とは違って、システィアの立場はトキヤ側に傾いているが。

 システィアと同じ班になることで糸目の男、兄のエリオット・バーンズが自己紹介を始める。続いて、ぶっきらぼうな言動で妹のミランダ・バーンズ。その名の通り、二人は兄妹らしい。二人の自己紹介が終わったところで、トキヤも参加する。


「あーあの、俺の名前はトキ――」

「フリズ先生」


 自己紹介の途中で、トキヤは割り込まれる。もちろん、この男によって。


「システィアさんはともかく、俺はこの男を班に入れるつもりはないです」

「っ……」


 理由は恐らく、昨日のゼフォンとのことだろう。それだけははっきりしていたが、それについて知らないフリズベルもクロードの反対に肯定を示した。


「ああ、いいぞ。そもそもこいつをお前たちの班に入れるつもりはなかったしな」

「えっ?」


 トキヤと離れることをフリズベルから宣告されて、システィアは驚く。


「システィア、悪いがそういうことだ。こいつはもう一つの班に入れる。指揮力を高めるためにも、お前の言うことをなんでも聞く従者では力不足だろうからな」

「そう……ですね」


 理由を告げられれば、システィアもトキヤも腑に落ちる。ただ離れることを考えていなかった二人にとって、この言葉は少し重く感じられた。

 そんな中フリズベルは、未だ席に着いていたもう一つの班の全員に話しかける。


「ケリー、アユム、スロウン、フレイヤ。こちらへ」

「了解。おい、アユム。そろそろ起きないか、また先生に撃たれるぞ」

「むにゃ……」

「フッ、ほっとけケリー。オレ様たちだけで充分だ、待たせたなフリズベル女史」

「ス、スロウン君……。そういうわけにはいかないから……」


 結局、起きてこない一人を置いて、三人がトキヤの前に集まる。


「まったくあいつは……。とりあえず話を進めるがこれからお前たちの班に入る、トキヤ・ホシヅキだ。トキヤも、全員の名前と顔は覚えておけ」

「は、はい! えっと、トキヤ・ホシヅキです! 少しの間ですけど、どうか――」

「……⁉ 手がうずきだした? まさか、貴様……とてつもない力の持ち主だな? ぐっ、静まれ右手よ!」


 うわぁ……。という声がトキヤの心の中で漏れる。確かに『時』という属性の魔法は使えるが、言わない方が身のためだろう。

 それにしてもここまで分かりやすい厨二病の人間が、今までに居ただろうか? トキヤ自身も一時期患ったことはあるが、ここまでではなかったはずだ。


「こいつのことは気にしないでくれ。トキヤだな、私はケリー・シュヴァイサー。よろしく」

「フ、フレイヤ・チルコットです! えっと、魔導士(ソーサラー)見習いです……よろしくね、ホシヅキ君」

「オレ様を無視するとはふざけた奴らだ。名が聞きたいんだろう? だがな、オレ様の名を呼べば――」

「スロウン・アンデオル。まともに言うつもりがないから私が言っておく」

「ケリー! オレ様の名前を許可なく呼ぶとどうなるか分かって言ってるんだろうな⁉ この腕に封印された――」

「やるか? くくく、私ならいつでも構わないぞ!」

「……う、運がよかったな。どうやら腕の暴走が収まってきたようだ」

「そんなこと言って。一度も解放したことないの、知ってるんだから」

「フレイヤァァァ!」


 それぞれの掛け合いにフリズベルは片目を閉じると、苦笑いでトキヤに告げる。


「……とまぁ、個性的な人物が揃う班だ。私に受け持たれた時点で諦めてくれ」

「フリズベル先生も苦労してるんですね……」


 ハキハキとした声で、紺色の短めなアシンメトリーの髪型が特徴の女生徒。まともかに見えたが、その言動からは戦闘狂の雰囲気が漂うケリー・シュヴァイサー。

 胸元まであるロールしたピンクの髪。制服の上から纏った白いローブが印象的な、少しおどおどした魔導士(ソーサラー)見習いの少女。フレイヤ・チルコット。

 そして、強烈な厨二病。赤茶色のウルフヘアに、制服は羽織るだけで腕を通しておらず、その手には厨二病の象徴か、何かを封印する謎の包帯。名はスロウン・アンデオル。

 とりあえず数分は自由時間を取る、その間にちょっとした親睦を深めておけ。といってフリズベルが教壇に戻っていくと、入れ替わりにオレンジ髪の男がトキヤたちの前へやってきた。


「ふわぁ……わり、待たせた。で、なんだっけ?」

「新入りだ。名はトキヤ・ホシヅキというらしい」

「トキヤだ、よろしく。……ええっと」


 トキヤが前に突き出した手を男は握ると、なんとも言えない表情を浮かべる。


「アユム・トウドウだ。ようこそ、トキヤ。落ちこぼれ班へ」

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