魔法の使いみち
「えっと、言い辛いんだけど、師匠になったからには、きちんと説明します」
すごく怖い…心臓が張り裂けそうだ。
「目次を見ての通り、人を殺したり、混乱させたり、死体を操ったり…と、ショッキングな内容だと思います。うーん、私説明下手かも…。行き着くところは…。茜ちゃんは、国から暗殺依頼とか来ますので、人を殺さなければなりません」
「えっ!? そ、そんなの無理です。絶対に無理。無理…」
「よく聞いて。この国では人を殺したら犯罪者です。でも、遠くの国では、当たり前の様に人が殺されています。政治であり、宗教であり、お金であり、権力であり…。それも罪悪感を感じないで人を殺す人が沢山いますよね。昔もそうでしたよね。戦国時代、世界大戦…。人が決めたルールなので、良いときもあれば、悪いときもあります。茜ちゃんは国に依頼されて実行するのです。悪いことはありません」
ふぅ〜。と言い切った風なお姉さんが、どうだ? と言わんばかりに見ています。
「えっ!? だから、無理ですって…」
「時間がかかるのもわかりますが、良いですか? 国は、ありとあらゆる手段で、茜ちゃんに人殺しを強要します。お父さん、お母さんが脅されることもあるでしょうし、最悪、捕まって拷問されることもあるでしょう。私が師匠に向かないと言って、殺されることも考えられます」
「で、でも日本には、100以上の魔法使いや魔女がいるんでしょ? 何も…私だけに…言わなくても…」
「その通りですが、茜ちゃんの魔法は、超絶、そっち系なんです。他の魔法など、足元もにも及びません」
お姉さんが狂っているの? SPを見ると、SPも従うしか無いよ。と顔を背けた。
怖い…人を殺すなんて…怖いよ…できないよ…。
体中から血の気が引き、ブルブルと震えだす…。涙も鼻水もお構いなしに泣いた。
「茜ちゃん、一人じゃない。師弟関係を結んだ、私と茜ちゃんはずっと一緒だよ」
お姉さんはぎゅっと抱きしめてくれた。
「私…お父さんや、お母さん、友達から…、人殺しって言われちゃうよ…」
「そんなことは言わせません。決してっ!!」
お姉さんは、”心の安息”という魔法を使ってくれた。
温かい春の草原…ゆっくりと静かに流れる雲…少し弱い日差しに伸びる草花、追いかけっ子する蝶々たち…。
お姉さんの膝枕で、意識が遠のいていく。
「ねぇ、美羽、茜、大丈夫かしら?」エレンが美羽に尋ねる。
「確かに、とてつもなく強い精神力がなければ、茜ちゃんは、闇に囚われてしまうでしょう。でも、そうはさせません。私が、神聖と光を手にしたのは、きっと…、茜ちゃんを導くためでしょうから…」
美羽は、茜のショートボブを撫でながら、空いた左手で握りこぶしを作り覚悟するのだった。