指定上級国民
お師匠様は長岡くんを抑えながら説明する。
「いいか、茜。お前のその態度が駄目だ。お前は…これから…日本を…。世界を、相手に戦っていくことになる。そのとき弱みを見せるべきではない。敵が弱みを見つければ、徹底的にそこを叩いてくるのは当たり前だ。そうならないためにも、超上級国民としての振る舞いや意識をしっかりと身に付けろ。例え10万人の犠牲を出すことになろうとも、平然と、最初の被害と言えるぐらいの…心を強くするのだ」
ぽいっと長岡くんを放すと、今度は七海ちゃんの体を固定する。
「次は七海だ。女の場合は、あそこに指を突っ込んで、血だまりを押し付けろ」
ボロボロと涙を流しながら…声を出さないように…心で七海ちゃんに謝りながら…お師匠様の指示通りに実行する…。
「大丈夫だよ、茜ちゃん…。今、言われたばかりでしょ…。弱みを見せちゃ駄目…。私は平気。強くならないと…」
指を入れて、押し付けると、ガクンと悲鳴一つ上げずに、七海ちゃんは気絶した…。
「茜。良い女を選んだな。おい…私のSPで、この二人を保健室に運んで寝かせてやれ」
必死に涙を止めようとするのだけど、全然止まらない…。これじゃ…七海ちゃんに怒られる…。
お師匠様はぎゅっと私を抱きしめると、「すまなかったな」と小さな声で言った。
「私は、これで帰るが、詳細は校長から聞いておけ」
SP30名と飯島さんを従えて、お師匠様は校長室を後にした。
私はソファーに座ると校長先生の話を聞く。
「長岡 涼と月下 七海は、指定上級国民となりました。もうご両親とは会うことはないでしょう。また二人の仕事内容については、直接お二人にお話します。それと、お二人が目覚める前に説明しておきますと、お二人の思考は、脳内通信のように、いついかなる時も一方的に受信できます」
「わかりました…ちなみに指定上級と最上級では、最上級の位が上で?」
「はい。超上級、最上級、指定上級、上級、中級、下級となります」
教室に戻らず、保健室で二人が目覚めるのを待つことにした。
本当に…七海ちゃんを巻き込んでしまって良かったのだろうか?
と、悩みに悩んで、不安な表情をしていたからだろうか? SPの相田さんが声をかけてくれた。
「通常、下級国民が、指定上級国民になれません。私たちから…言っても…いえ、月下が目覚めれば、わかってしまうことですから言ってしまいます。SPチームの事前調査によれば、月下は指定上級国民になりたかったという調査報告が上がってきています」
「七海ちゃんが? 何で?」
「恐らく、父親が多額の債務を抱え、母親が詐欺容疑で逮捕される寸前でしたから…。月下の身も、どうなることか…という背景がありました。続きをお聞きになりますか?」
「いいえ…。もういいです…。聞きたくありません…」




