世界の夕暮れ
誰も茜に勝てないことは、茜自身がわかっていた。私は力でねじ伏せた卑怯者だ。
「これより、世界のネットワークを破壊します。でも…私は、エンジニアではありませんので、完全に破壊できるかは不明です」
暗黒六芒星の一人、斬り裂きのカオスを呼び出すと、海底に張り巡らされた海底ケーブルや地上の主要な通信施設を破壊させる。通信衛星は、超魔導級戦艦大和からの主砲により全て破壊させる。最後に、今では対応済みと言われる太陽フレアを御師匠様の力で作り出す。ただの太陽嵐ではないのだ。魔力を伴い電子基板に触れただけで回路を焼き切るのです。それは厚さ20kmの地下にあっても防ぐことは出来ないのです。
世界から情報という武器を取り上げ、茜が最後にしたかったこと…。
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「東京から転校してきました山田 りんさんです。東京は交通網はあたりまえ、電気もガスも水道も止まり、生活もままならない情況です。この町は自然と共に生きる暮らしを重視しているため、これからも数多くの難民がくるでしょうけど、みなさん、仲良くしてあげてくださいね」
一条 茜、改、山田 りんとして、田舎の高校に転入しました。
「なんでも聞いてね」とクラスの女の子たちも、親切にしてくれた。スマホが使えない世界は、肌で触れ合う距離の本来動物が持つネットワークが活性化されたように思えました。
今は生きることが世界共通の課題です。明日、一週間後、半年後、数年後…。前と異なり、経済活動など、意味を持たないのです。老衰で、病気で、事故で、食糧難で、簡単に人が死んでいきます。
人の命は、儚いからこそ、美しく、綺麗なんでしょう。
友情に、恋愛に、家族愛に、残された僅かな日数を、人々は真剣に生き抜こうとしています。
「もっと早く、人は気付くべきじゃなかったのかな?」
放課後、野山に消え行く夕日を見ながら、校舎の屋上で一人呟いてしまったのです。
「最後の最後で、真実を知ってよかった。ありがとうね、茜ちゃん」
誰もいないはずの屋上。振り返るとクラスメイトの石塚 ねねちゃんがいた。
「いつから、私が、一条 茜と気が付いていたのですか?」
「ふふっ。最初からよ。みんな気付いていたわ」
「それなのに…あれだけ親切にしてくれたのですか?」
「あの”世界の要”は、本当の話なんでしょ? 心に強く突き刺さったわ。命を投げ出す…いえ、ご先祖様たちが、犯してしまった罪を償うため、自分の命を使っても良いと思ったの」
「こ、怖くないのですか?」
「うん。だって、もしも茜ちゃんに戦いで勝てても、それだけじゃ、何も変わらないでしょ? 結局、みんな死んじゃうんだもん」
「確かに…」
「ねぇ、もっと教えてよ。全部知りたいの」
ねねちゃんから、差し出された左手を、手に取ると、「すっごく長いよ?」と笑って答えた。