083●第13章● 〃 1964年6月20日(土)~2024年6月16日(日)?②:朝
083●第13章●覚めやらぬ夢…1964年6月20日(土)~2024年6月16日(日)?②:朝
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あそこに戻りたい、還りたい、戻らなきゃいけない……
わけもなく煩悶し、混濁する意識の中で、泣いていたと思う。
体はここにあるのに、心が彼方のどこかに、置き去りにされている。
それは……あちらにこそ、僕を必要とする人たちがいるからだ! だから!
ベッドの中で、目が覚めた。
身体がじっとりと汗ばみ、目尻に涙が伝った跡が感じられたけれど、いつもと変わらない朝の光が、窓のカーテン越しに訪れていた。
自分の部屋だった。壁のカレンダーを見る。西暦二〇二四年。
時計の時刻は午前十時頃、寝過ごしてしまった。スマホを探す。見当たらない。
キッチンへ行く、鏡に映る自分は、あの朝と同じTシャツを着ていた。
食卓のテーブルに、母から一枚のメモ。
“仕事に行きます、ゆっくり寝てていいよ”。
メモの上に、自分のスマホが伏せてあった。手を伸ばして、横にある新聞に目を取られる。新聞は四つ折りで、日付は二〇二四年の六月十六日、日曜日。
あの日の朝だ。
そうか、夢か。長い夢を見ていたんだ。一九六四年の“東亰”という別世界へ転がり込んだ夢だ。
それにしてもリアルな夢だった。
新聞の見出しを、何気なく目でなぞる。
“東亰&パリ・ピューテック実行委員会事務局に、収賄容疑で東亰地検が家宅捜索”
ふーん。
取り立てて感慨もなく、スマホを取り、ケースを開けようとして、あるものが視界の片隅に入った。食器棚の一番上、天井との隙間部分、幼いころの自分の写真とか、捨てる気になれない記念の小物類を入れた菓子箱の隣に、それがあった。
手に取る。
うっすらと埃がたまったビニール袋に入ったそれは、古臭いビデオカセットテープ。パッケージには、Bの字体に似たロゴマークがついている。
ビデオテープなんて、昔、そんなものがあったことは知っているけれど、実物を見るのは初めてだ。どうしてこんなものが、僕の家に?
市販の映画作品だ。特撮怪獣映画で、いかにもB級めいたタイトル。
“怪獣大作戦・東亰ウルトラC”
Cには、“コンバット”とルビがふってある。
カバーの写真は、恐竜型と大蛇型の怪獣を背景に、機関銃を構える、真っ白なセーラー服の少女たち。怪獣のさらに背景には夜空、その足元に突撃砲みたいな戦車? そして上空には水平尾翼のない、グライダーみたいな戦闘機?
制作:四谷プロダクション。
たぶん、“招和”の昔、ビデオとして売り出したけれど人気が出ず、DVDに再販してもらえなかった不幸な作品なんだろうな……と考えたところで、久は立ち尽くす。
思考が止まった。
これ、撮影したことがある……
というより、それは僕だ、僕は、その場にいた!
思い出す。夢じゃなかった。
記憶の洪水がドッと脳に押し寄せてくる。
制作年はいつ、出演者は、そして撮影者は……と、ビデオのケースを裏返して確かめようとしたとき。
ふわっ、とカーテンが揺れた、隙間風だ。
数本のひびが走り、部分的に割れたガラスが見えた。
そしてドロドロの汚れがこびりついたサッシの向こうに、普段ならそこにあるはずの、向かいの団地の建物は無く……
真っ黒な廃墟の群れ、血のように赤く染まった空。
焼けただれた荒野が広がっている、冷えた静寂の中、果てしなく。
えっ? と息を呑み、足がすくむ。
言いようのない恐怖が背筋を凍らせたとき。
スマホが鳴った。
画面に発信者のナンバーが輝く。
66-66-66。
マジ? 首をかしげる。まさか、西暦2024年に? 電話に出る。
「はい」
『キュウさんですね?』
脳に直接響き、字幕が走るような、そんな聞こえ方だが、確かにそう呼ばれていたような気がする。
「え? ええ、まあ……」
……僕が声を返した電話の主は、玉を転がすような、まろやかな声で、たしか、社内アナウンスで聴いたことのある……そうだ、電話交換手の……
声は、流麗な調子で、告げた。
『こちら、魔法自衛隊です』
【魔法自衛隊1964…邂逅編… 了】
【魔法自衛隊1964 第二部 …怪獣編… に続きます】




