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魔法自衛隊1964  作者: 秋山 完
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076●第11章● 〃 1964年6月20日(土)未明④:反撃、トリプルジャック

076●第11章●“ガチンコ作戦”…1964年6月20日(土)未明④:反撃、トリプルジャック




「見て見て、キュウさま」

 くるみのはしゃぎ声で、下界に目を向ける。

 地表の眺めは、まるでドローン撮影だ。

 日本橋から南西へ延びる中央通りを、八重洲通りの手前まで占拠してうごめくダイハチが、視界に横たわる。ダイハチの躯体は七色の燐光を放ち、その薄明りを受けて、八重洲通りの上空にSJTと“営業部隊トリプルジャック”が集結していた。

 全員が飛行箒に搭乗している。

 六〇式自走無反動砲マメタンや国会高角砲などに配置されたメンバーを除いて、SJTは二十三名。

 営業部隊は三十三名。

 SJTが前衛に、営業部隊が後衛となって、それぞれ三列縦隊を組んで飛行箒フライブルームに乗り、空中に整列する。

 くるみと久の飛行箒“シベール”は降下した。

 中央通りの東側に沿って並ぶビルのすぐ上で、空中の隊列に高さを合わせる。

 前列の先頭には、こよみ。白ベレーに白セーラー、白いスラックスと、他のSJTメンバーと同じ姿だが、戦場を前にする彼女は、ひときわ眩しく闘志のオーラを放っている。

 両肩のショルダーループに通した長い三つ編みの黒髪が少女っぽい反面、その眼差しは鋭く、口元には鬼よりも冷たい笑み。

 ちら、と、その視線が久を射る。久はぞっとして、息を殺す。

 人としてよりも、猛禽類の餌として認識されているような気がする。

 こよみは、にこりともせず、声を投げる。

「キュウ君」

 は? と注意を向けたところで、こよみは、これ見よがしに、右腕を前方へ掲げる。

 その手に神楽鈴が現れた。音もなく。

 こよみの後方に続くSJTの少女たちも全員、同じポーズをとる。その手にも神楽鈴。

 つん、と鼻っ柱を立てて、こよみは命じた。

「シャシン」

 あなた、何ぼさっとしてるの? と、皮肉なニュアンスを含む語調だ。

「……さあ、撮って、撮るのよ、キュウさま」

 くるみのささやきが耳元を熱くくすぐり、久は、はっとしてミコンFZを構える。

 こよみは手首を一振り。

 そこに、氷柱のようにきらめく神楽剣が空気を押し分けて、ぶんっ、と延びる。長さ十メートルを超す、重光子の剣。いや、その見た目と迫力は出刃包丁だ。

 それが二十三本、夜空に林立する。

 久はシャッターボタンを押す。何度も押した。出撃前の集合写真だ。

 あたりは暗く、露出不足だが、神楽剣の光が松明たいまつとなって、こよみたちSJTの乙女の横顔を凛々しく照らす。

 久は知った。こよみも含めて全員が、カメラ目線だ。

 そして、こよみ以外の全員が、にっこりと微笑んでいた。何人かは顔の横に指でVサイン。

 居心地の悪さは一瞬で消えた。みんなが、撮影を喜んでくれている!

飛行騎兵隊(F・トゥループ)、編成完了です!」

 誰かが大音声で叫んだ。営業部隊トリプルジャックのチーフリーダー、田山修造だ。後列の先頭で箒にまたがり、片手で箒の柄をつかみ、もう一方で百式機関短銃モモキを構えている。よく通る男っぽい声の持ち主で、日本橋から八重洲通りまで、肉声でもかなり明瞭に聞き取れる。

 青銀色のバイクヘルメットにコバルトブルーのつなぎ服(ジャンプスーツ)、左胸に黄色いイナズマのエンブレム。昭和の特撮戦隊ものを思わせるコスチュームの面々は正式名トリプルジャック。通称“営業部隊”の初陣だ。

 田山修造の申告に応えて、司令所のラウドスピーカーがカリカリと鳴る。真幌場の声がビルの谷間に木霊した。

「投光器を三基、これより点灯する。SJTの“おまじない”を合図にダイハチを照射する。視界を確保次第、突撃せよ」

「了解!」と返して、田山は命じた。「営業部隊トリプルジャック、総員、バヨネット着剣!」

 田山たちの箒の柄に提げている鞘から、槍が滑るように突き出した。バヨネットと呼ばれるそれは十メートルあまり前へ飛び出すと、軸を半回転して、少し膨らむ。雨傘をねじりながら閉じたような形だ。

 ただし、布ではなく、細長いドリル状に巻いた、薄く、しなやかで鋭いはがねの傘である。それなりに危険な武器なので、ぎりぎりまで鞘に収めていたのだ。

 SJTの剣と営業部隊の槍が、ダイハチを睨む。

 カッ、と光芒が目を射る。

 通りの手前、東側のビルの屋上で修理を終えた投光器が三基、点灯したのだ。

 アーク灯のスパークが煌々と閃き、三本の光の柱が上空へ立ち上がった。

 天を指す光の列柱を前にして、こよみが朗々と唱える。

聖なる魂の騎士よザント・スピリト・カヴァリエ

 なんて美しい声なんだ、と久は驚いた。これは……天使の喇叭ラッパか?

 乙女たちが闘志の雄叫びを返す。

聖なる魂の騎士よザント・スピリト・カヴァリエ!!」

 その声に合わせて、三本の光の柱が、斜め下方へ振り下ろされる。

 こよみが告げる。

高みへ(アウフ)!」

「SJT!」

 全員の叫びを響かせ、空飛ぶ騎兵隊は突撃した。

 投光器が空中に引いた三本の光のスロープを、三列が一気に駆けくだ

る。

 光のつるぎが列をなして、空中を疾走する。

 まずSJTが七人か八人、それに“営業部隊”の十一人が続く。これが三組ある。

 そのすぐ上を、くるみは久と一緒に箒に乗って飛ぶ。

 久が覗くファインダーの中で、魔物に対する人類の反撃が展開された。

 SJTは神楽剣を下方へ向け、再生途中であるダイハチの胴を一直線に切りさばく。

 うろこが千切れて飛び散り、ゼリー状の肉に、十、二十の切り込みが走り、ぱっくりと傷口が開く。投光器の眩しい光に暴れる触手も、ついでとばかりに、すっぱりと切り落とされる。

 そこへ、“営業部隊”のバヨネットが次々と突進する。

 ドリル状のカミソリが、ダイハチの背をえぐり、液体とも固体ともつかない怪物の肉を切り飛ばす。その威力は、豆腐の塊に、泡立て器を差し込んでかき回すようなものだ。

 小間切れになって舞い上がる肉塊の吹雪を衝いて、二列目、三列目の騎兵隊が押し通る。

 たちまち対岸のビルに達したSJTは、ビルの壁を足で蹴り、反跳はんちょうすることで手前のビルに飛び戻る。しかし、この時はダイハチを攻撃せず、バヨネットで突撃する“営業部隊”の様子を横目で確認している。神楽剣に続いて、バヨネットがダイハチの肉体をえぐり取る瞬間、この世とあの世の位相差が気圧差となって襲い掛かるからだ。“この世”と“あの世”はそれぞれ、その世界に固有の空間震動とも呼ぶべき“震え”を有している。その振動の性質の差が、バヨネットによってえぐり出されるのだ。

 爆発に近い突風と乱気流が渦巻き、砂塵や瓦礫が打ち付けてくる。SJTは“営業部隊”のメンバーが体勢を崩すと、ただちに念動力でサポートし、墜落や衝突を防いでやる。

 そして手前のビルの壁に戻ると、SJTの一団は十数メートルばかり位置をずらして跳び、同じ攻撃を繰り返す。

 したがって、攻撃は常に東側から西側へ加えられる。これが今回の作戦の原則で、魔法自衛隊の戦力は島高屋しまたかや屋上の司令所をはじめ、火器も投光器も中央通りの東側に重点的に配置して、西側へ向けて攻撃することになっていた。同士討ちを防ぐためである。

 そもそもダイハチがこれほど巨大化しているとは夢にも思っていなかったので、丹賀や真幌場は、主な戦闘を島高屋しまたかや百貨店よりも北側で行うつもりだった。しかし予想をはずれ、島高屋しまたかやの正面が主戦場になってしまったのは二人の誤算としかいいようがない。それでも魔法自衛隊は戦力を立て直し、猛烈な反撃をダイハチに浴びせている。

 その修羅場の中、撮影する久も、くるみに助けられていた。くるみの念動力が、久を襲う破片類を跳ね返し、乱気流を飛び越え、百式機関短銃モモキの射撃で、撮影の邪魔をする触手や肉塊を砕き去る。

 三列の騎兵隊は互いに気配りし、眼に見えない魔法力で助け合い、見事に統制された破壊作業を継続する。

 その先頭に立つのは、こよみ。彼女の神楽剣の動きに応じて、あるいは手振り、首の向き、掛け声に反応して、全体がスムーズに動く。

 攻撃は、中央通りのダイハチを挟むビルとビルの間を跳躍しつつ、南から北へとジグザグに移動する。ダイハチの胴体上面がぐしゃぐしゃに切り刻まれる。

 フィルムを交換しながら全体を見渡して、久は、この情景に似たものを思い出していた。

 ハモの骨切りだ。

 こよみたちの攻撃法の意味がわかった。ダイハチのうろこに覆われた皮膚の下には、肉体組織の再生をコントロールする神経線のようなものが走っているのだ。それを切断すると、細胞分裂の手順が乱れ、再生途上の組織が崩れてしまう。

 そうやって、ダイハチの成長を阻止する。

 南から北へとダイハチの背中を一通り切り刻むと、方向を逆にして、今度は北から南へとジグザグに機動しながら破壊を続ける。ダイハチの背中はダイヤ形にカットされ、バヨネットで乱切りされた肉塊が宙を舞う。

 立ち並ぶビルとビルの間を滑るように飛び交う、空飛ぶ騎兵隊。まるでスノーボードのハーフパイプを集団でプレイするような姿だ。ただしそのボードには剣と槍が備わっている。その破壊の妙技を、久はひたすら撮影する。

 ……これが対魔白兵戦。

 カメラのフレームの中に展開する、残酷だが美しい光景に、恐怖と歓喜の入り混じった思いにとらわれる久だが、そこで……

 首筋にかかる汗の飛沫と、ヒイヒイと喉を鳴らす荒い吐息に気付く。

 振り向くと、くるみが汗びっしょりで金髪を頬にからませ、精一杯の笑みを見せた。

「へへ、キュウさま、そんな顔で……見ちゃいやよ。あたし……汗臭い?」

「そんなことない! ごめん、無理させちゃった。一度、どこかへ降りよう。その方がいい」

 考えてみれば、飛行箒の“シベール”は本来、二人乗りではない。そして、くるみの体力も限られている。魔法少女とはいえ、筋肉隆々のスーパーヒロインではないのだ。久を守る! と宣言した手前、小柄な身体で相当に無理をしてくれたはずだ。

 しかし、くるみは休憩など頭になかった。

「だめ、キュウさまは……シャシン、撮らなくちゃ……ええっと」と、あたりの闇を見回す。

 そのとき箒がふらついた。くるみの浮揚力が落ちて、久のペイロードを支えきれなくなっている。

 くらっ、と落ちかかったところに……




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