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魔法自衛隊1964  作者: 秋山 完
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063●第10章●決戦の日本橋へ…1964年6月19日(金)夜①:マメタンの和解

063●第10章●決戦の日本橋へ…1964年6月19日(金)夜①:マメタンの和解




●第10章●決戦の日本橋へ…1964年6月19日(金)夜




 六月十九日、十九時四〇分……イチキュウヨンマル。

 旧赤坂離宮の前庭につながる公園の地下数十メートル。。

 一辺二百メートルの三角外郎さんかくういろうの形をした地下空洞の秘密基地、通称“三角ベース”。魔法自衛隊の都心主要施設の本体がここである。

 地下基地には、国鉄と地下鉄の線路が秘匿ゲートから引き込まれ、スイッチバック方式でより深くへ下ったところに、それぞれのホームが設けられている。必要な物資の補給と、部隊の移動を容易にするためだ。

 その一角、地下鉄ホームに隣接する神女挺心隊《SJT》の車庫では、四輌の六〇式自走無反動砲マメタンが出動準備を終えていた。

 一輌目から“桜一號”、“桜二號”、“菊一號”、“菊二號”だ。

 真っ白な車体の右寄りに二本、水平二連ライフル銃のように並列配置した一〇六ミリ無反動砲はトラベリングロックで固定し、白いカバーをかけてある。また、車体左側の予備砲弾収納箱の上には専用のラックを設けて、九七式自動砲クンナジを一基、搭載していた。これも白いカバーで隠している。

 “マメタン”は全長四・三メートル、幅二・二メートルとコンパクトで、一般車両と変わらないサイズだから、砲熕兵器さえ見せなければ、市民に目撃されてもブルドーザーに類する“建設重機”で通るだろう。“東亰ピューテック”の開催を控えて、都内はどこも工事現場だらけである。

 車体前後には品川ナンバーがついており、後部側面には小さく“(自家用)”と表記してある。赤い七輪紋の隣に、“全虎ぜんとら建設”と書いたベニヤ板を提げれば偽装完了だ。この状態で、魔自の整備員がアイドリング・テストを行っている。発動機はオリジナルの空冷六気筒ディーゼルエンジンをそのまま使用しており、操縦席で神女挺心隊《SJT》の魔法少女が愛用の箒をクラッチに接続することで、魔法力をエンジンに伝達し、必要に応じてパワーアップする仕組みになっている。

 神女挺心隊《SJT》のメンバーが到着した。

 菊組級長の体育少女、はてるかを先頭に、菊組五名が続き、桜組から六名。

 白いベレー帽、白いセーラー服、白い手袋、白い半長靴。

 白いバトルスラックスは、見た目はジャージのようでフィット性が高く、すらりとした脚線美を引き立てている。

 しかし朝夕に学園の前をそぞろ歩いていた清楚な乙女たちと異なる点は、だれもが百式機関短銃モモキを背負い、腰の皮ベルトに弾帯パックを提げていることだ。

 男性の整備員は操縦手ハッチをポンと叩くと、「点検終了チェックリスト・コンプリート、乗車OKです!」と、はてるかに告げて飛び降りる。

ありがとう(ニフェーデービル)!」

 はてるかが南国訛りで礼を言ったところで、桜組の一人が、はてるかに近寄って申し入れた。

「桜組、榛名はなえ、ほか五名、只今より、はてるかお姉さまの指揮下に入ります」

「へっ?」

 ンなこと、聞いてないよ……と戸惑う、はてるか。

 榛名はなえは、「こよみお姉さまの言いつけです。私たち、この“ガチンコ作戦”では、はてるかお姉さまの号令についていきますので」と答えて、右手を差し出す。はてるかが握手を返すと、付け加えた。「こよみお姉さまから伝言です」

「なんて?」

「“今夜は喧嘩しません、絶対に”……以上です」

 はてるかは一瞬、きょとんとしてつぶやいた。

「そんなの、初めて聞いた……今夜は仲直りなの?」

 桜組の、はなえは深くうなずく。驚いて目を点にする、はてるか。

「こりゃあ、隕石が落ちるよ」

「あたしたちも、そう思います」と親しく笑う桜組メンバー。

 はてるかも微笑みを返す。

「わかったよ。|とにかく……よろしくお願いね《ユタサルグトゥ・ウニゲーサビラ》」

「こちらこそ。では、出動のおまじない、願います」

 はてるかは車長席ハッチの後方に立ち、「ゆいまーる」とささやく。名前を呼ばれた箒が、シュッと左手に伸びた。竹箒を掲げ、右手を左胸寄りの心臓の上に当てて敬礼を送る。

 軍隊式の、指を目元にかざす敬礼ではなく、魔自では、男性はこぶしを腹に当てる“ヘソ隠し”敬礼、女性は手のひらを心臓の上に添える“胸当て”敬礼を常としている。首に掛けたロザリオを握る仕草に近いが、宗教的な意味はない。理由はそれなりにあるが、長時間敬礼し続けることがあれば、この方が楽だろう……という、隊司令の思いやりもあるようだ。

 はてるかは唱えた。

苦難を超えて(ペル・アスペラ)

星のもとへ(アド・アストラ)!」と全員が唱和する。

 はてるかは箒を頭上へ突き上げるポーズで、叫んだ。

高みへ(アウフ)!」

高みへ(アウフ)!」と全員が返した。

 この瞬間、マメタン四輌の全員が、はてるかのもとに統率された、一つの戦闘集団となった。

「搭乗!」

 各自が乗車し、配置につく。

 マメタンの乗員は三名、操縦手と射撃手、そして車長が装填手を兼ねる。

 はてるかは“菊一號”の操縦席のすぐ後ろに特設した装填手用の座椅子に就く。

 座ると左ひじの位置には、九七式自動砲クンナジが仮置きしてある、いざとなればこれを発砲するのも、はてるかの役目だ。

 地下鉄ホームと車庫の間を仕切っていたスチールの防護壁がごろごろと動いて、壁面に引き込まれる。プッと可愛い警笛を鳴らすと、四輌のマメタンは発車した。

 キャタピラ音を響かせ、一列となって地下鉄ホームを進む。

 ホームには、三両編成の地下鉄貨物車“メトロカーゴ”が待っていた。魔法自衛隊の特別仕様に改造した車体だ。

 地下鉄車輛の運転台にあたる前後端はそのままで、屋根と左右壁面を取り外し、床面をフラットにしている。

 ただしこの車輛は、丸ノ内線の赤い車体でなく、銀座線の山吹色の黄色い車体、“営団2000形”を偽装している。行き先が銀座線の駅だからだ。

 メトロカーゴの一両につき、マメタンが二輌ずつ載る。超信地旋回ができないので、左右の履帯キャタピラの回転数を調節、普通の自動車のように幅寄せをして、カーゴの床に収まる。

 メトロカーゴの最後の一両には国鉄コンテナが二個積まれていた。予備の弾薬と燃料だ。

「お気をつけて、ご安全に!」と、ホームに立つ整備員たちが手を振る。

 メトロカーゴがこのまま地下鉄の駅を通過すると、なにかと騒ぎになるので、目立たない客車に化けなくてはならない。

  “営団2000形”の側面の窓やドアをリアルに描いた偽装布が、ロールスクリーンの要領で天井の高さまで引き揚げられると、メトロカーゴは地下鉄銀座線の黄色い車輛と、ほぼそっくりの外観となった。ただし天井は吹き抜けで、四周をカモフラージュしただけであり、よく見れば正体のバレる、布製のハリボテといったところだ。

「まるでお菓子箱。小さくしたら、カステラ入れるのにいい感じ」と、ホームで見守る整備員の女性が言った。

「いいねえ。車両型の羊羹でも入れて、“メトロ羊羹”として売り出してみたら? それとも、モナカはどうかな」と、隣の男性が軽口をたたく。

「モナカ、いいかも」と女性整備員も相槌を打った。

「行き先は、赤坂見附駅経由、日本橋駅でよろしいですか!」と、運転手が、はてるかに確認する。

「はい、日本橋でお願いします」と、はてるか。

 車体先頭の行先表示は“回送”になる。

 ピイッ! と鋭い警笛音を残して、メトロカーゴは発車した。

 戦場へ。


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