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魔法自衛隊1964  作者: 秋山 完
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062●第9章● 〃 1964年6月17日(水)午後~18日(木)⑪:猛虎発進

062●第9章●秘密基地の人々…1964年6月17日(水)午後~18日(木)⑪:猛虎発進




「ヤー!」

 戦車男タンクメン半須はんすが操縦席のハッチから身を乗り出して、住職が座る仏前座布団に透明な防水カバーをかけたものを、ヒル先生に渡す。

「まあ座れ、全くいい日だぜ(シェーナー・ターク)! そうそう、そのハッチに足を入れればいいわよ」

 猫なで声のヒルデガルトは車長用ハッチを開いて下半身を入れ、久は座布団に腰かけさせられ、その両足は、開いた装填手用ハッチの穴から掘りごたつ式にぶらつかせる。

 あまりの歓待に度肝を抜かれた久だが、座布団はふかふかで収まりがよく、これで戦車が動けば、周りの眺めは最高だろうな……と思いながら、尋ねる。

「で、でも、どうして“六甲おろし”をパンツァーリートで歌うんですか?」

「サマになってるだろ? 虎のうたと虎の曲だ。タイガー戦車の砲塔に相性がいいに決まってる」

「そりゃまあ、そうですね……」

 確かに、全然、違和感はなかったなあ……と、久は“六甲おろし”の本来のメロディを思い出そうとしたが……

 え?

 パンツァーリートの“六甲おろし”しか出てこない。メロディの記憶メモリが、この無敵の戦車ソングで上書きされている。

 え、ええっ?

 “洗脳”って、このことじゃないか? まことに恐るべき曲である。

「カントク! ひとつ伝えておくことが」とヒル先生は声を上げた。上機嫌な声。手でメガホンを作って喋る。

「真幌場さんと打ち合わせたんだけど、今度の日本橋の作戦さ、こちらから敵に“制動”をかけるのはなるべく自粛して、すべての魔法力を攻撃に集中せよ。ダイハチを尻尾の先まで穴から引きずり出して、前後から叩き、殲滅を期する……とのことですワ。かーなりブッ壊しますわヨ! ご了解いただけますね?」

「おうさ!」と答えるカントク。「戦いはあんたらの領分だ、後片付けは俺様たちに任せてもらおう」

 良好グート! とばかりに、ヒル先生は大音声を張り上げた。戦車男タンクメンたちに号令をかける。

「喜べテメーラ! 防戦レシーブなしの全力攻撃フルアタックだ、やりたい放題にやりまくるぞ! やりたい放題だ!」

 ヒル先生は魔法で矢立を出して、二メートルばかりののぼりにすらすらと墨書すると、砲塔の雑具箱ゲペックカステンに立てた。

 “槍対砲台”

「よーし、今度こそ日本橋で心ゆくまで八十八ミリ(アハトアハト)を撃たせてやる! 当てろよ! そして間違っても七発目を撃つんじゃねェぞ!」

「ヤー!」と拳を上げて答える戦車男タンクメンたち。 

 TS特車隊が使用する八十八ミリ魔弾フライクーゲルは、祓魔弾エクソスであるが、ちょっと変わった仕様になっている。自律誘導弾なのだ。ボヘミアのザミエル商会が製造する特殊魔弾で、弾頭に誘導用の小悪魔が内蔵されているのである。七発ワンセットで特製の木箱に収められており、六発目までは小悪魔の正しい誘導により、目視で狙った目標にほぼ必ず命中する。ほぼ……というのは、目標の力場結界フォースシールドのパワーが異常に強いとか、敵の躯体が霧状であるといった場合に、命中はするがダメージを与えにくいという事態が考えられるからだ。とはいえ、まず例外なく命中そのものは保証されていると想定していい。

 ただし、“七発目”は要注意だ。これは小悪魔に“誘導を外れる自由”が与えられており、撃ったら最後、小悪魔の気分次第で、どこへ飛んでいくかわからない。たいていブーメラン弾道で自爆する恐れがあるので、七発目は発射せずに、そのまま木箱に残しておくことになっている。

 “七発目は木箱に残せ”というヒル先生の指示は、特車隊が発進するたびに何度も聞くことになった。よほど用心しているようだ。

 ヒル先生は久を見やって言った。

「な、未来少年、こういう闘いって、未来語でなんて言うんだい? 問答無用の、力と力の、正面からのぶつけ合いさ」

「えっと……“ガチンコ勝負”です」と久。

「そうか、ガッ! チンコ勝負か! 腹に気合いの入る、よい語感だ」

「ガとチの間は、隙間を空けない方がいいです」と久はヒル先生に助言する。

「いいねえ、二十一世紀では、“ガチンコ”かい」

 カントクも調子よく乗せられたみたいに同意する。万城は、はいはいと楽しそうにうなずくばかりだ。

「おーっし、正式名、“ガチンコ作戦”。キュウ君、その節は撮影よろしく!」

 え、ちょっとちょっとお姉さん……と、あまりにも安易な命名をたしなめたくなる久だが、上司である丹賀司令や真幌場女史に却下されたことなど一度もないのだろう。ヒル先生は自信たっぷりに、にっこりとうなずいた。反論は魅惑の微笑みで無視しますということだ。

 この時代の人たちは、不思議と軽いノリと、どことなく無責任なアバウトさを兼ね備えているようだ。二十一世紀の感覚からしたら、ズボラの一言で片づけられそうだが、細かいことは気にしない鷹揚さと言うべきか。それはそれで時代の空気に沿った、楽しい生き方かもしれない。

「ようし未来少年、これから日本橋の手前まで一緒にドライブってのはどうだい。本番移動の下見だよ。いい眺めだぞ」

 ほぼ絶世の美魔女に誘われて、断れる立場にないし、一九六四年の都心を見物できる貴重なチャンスである。久は万城を見る。

「かまわんぞ、行ってこい!」と快く承諾する万城。

 カントクが改めて、「力場結界門フォースゲートオープン!」と命じると、今度は特撮ステージ棟から外へ出る、二重の大型シャッターが開いた。併せて、久の背筋にビリッと、魔法の結界が開閉する際の、静電気に似た刺激が走る。

 魔法自衛隊の秘密基地でもある四谷プロダクションの敷地は、透明な結界で二重三重に囲われていたわけだ。

 ちなみに、ヒル先生のTS特車隊は全八輌にそれぞれ愛称がつけられており、一号車のアリス以下、バーバラ、クララ、ドロシー、エルザ、フレイヤ、ゲルダ、ヒミコとなっている。

 一号車アリス号は履帯キャタピラのキュラキュラ音ととに、パンツァーリート版の『六甲おろし』をエンドレステープで鳴らしたまま、都道に乗り入れた。

 たちまち乗用車やトラックが、装甲して八十八ミリ砲を振り上げた路上の邪魔者をあわてて避けながら、不満と罵倒のクラクションをけたたましく吹鳴する。ヒル先生は平然として、マイクを手にスピーカーで答えた。

「ペナントレース、今やたけなわである! 去年はグタグダだったが、今年は必ずライバルを蹴散らすぞ! 絶対に優勝だ! 日本一だ!」

 自信に満ちた予言の半分くらいは当たりそうだっただけに、いたずらに都民を刺激したことも事実である。久が心配したとおり……

 四方八方から石つぶてが飛んで来た。






※作者注……

“阪神タイガースの歌〈通称:六甲おろし〉”の《《歌詞》》は、作詞者が1942年に逝去、著作権保護期間の五十年が過ぎ去り、現在はパブリック・ドメインに帰属しています。



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