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魔法自衛隊1964  作者: 秋山 完
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048●第8章● 〃 1964年6月17日(水)午前④:開け胡麻

048●第8章●四矢女学園、白き魂の少女たち…1964年6月17日(水)午前④:開け胡麻




「がさつなよね」

 耳元で、不気味な声が囁かれた。

 わっ!

 久はまたまた緊張した。そういえば、こよみがまだそこにいた。静かなること背後霊の如し。

 久に並び、ちらりと一瞥を送り、追い抜きながら、しっとりと湿った唇がひそやかに動く。普通の人間には聞こえない声……妖精語フェアリッシュだ。

 こう聞こえた。

『あんな、はしたないと、おつきあいしちゃダメよ』

 同時に、ふふっと冷たい笑み。

 ぞわっ。

 襟元から氷水を投入されたみたいに背筋が鳥肌立つのを感じて、久は身を縮めた。

 なにしろ浴衣姿で鋼鉄ヌンチャクと鉄下駄キックをお見舞いする美少女である。

 にしても、しとやかに登校する“学園のお嬢様”たちの間には、目に見えない、一種複雑な人間関係がありそうだ。しかも全員が、戦闘力旺盛で破壊力抜群な魔法少女ときている。

 指先を優雅に動かして校門のゲートを開けると、四矢女学園高等部の筆頭級長、東風こちこよみは白いベレー帽から左右にこぼれる太い三つ編みの髪を清々しく揺らし、白鳥の優雅さで校章の輝くアーチをくぐる。

 そのとき……

 くるっとターンして、指先の念動力で、ゲートをからからと閉じた。

 その動作は完璧だった。ゲートを閉じることよりも、身体の回転で浮き上がったフルスカートに流麗なドレープを作りながら、美脚を見せる動作が。

 見せたのは膝上数センチまで。しかしそこには、はてるかには無いものが存在していた。

 もう一枚の薄いスカート。純白のスリップの、きらきらと光沢あふれるレースの縁飾り。

 見てはならぬ対象の、あまりの美しさに、久は息を呑む。

 ほんの一瞬だけ、内気な青少年には蠱惑的すぎる乙女の秘密を垣間見せて、絶大な戦闘力を誇るこの魔法少女は、ふわりと校舎の陰に姿を消していった。

 ……これって、アニメの“サービス、サービスぅ”ってやつ……じゃないよな?

 久は自分の目を疑い、そして悟る。……これも、わざと見せた!

 “はしたない”って、自分のことはしっかり棚に上げてるじゃないか!

「さてキュウ君、われらが禁断の魔法学園に潜入してみよう。といっても、校舎の中は校長先生を兼務している隊司令以外、男子禁制だから、運動場を横切って終わりだがね……おっと」

 と、閉じたゲートの前で急停止した万城は唱えた。

開け胡麻(オープン・セサミ)

 するすると、重々しいスチールフレームのゲートが、地面のレールを滑らかに動いて開く。

「すごい! イリュージョンだ」

 久は声を上げる。さすがに見事な念動力だ。ただ力任せに押すのでなく、レールと車輪の摩擦を消すことにも魔法力を配分している。

「なるほど、未来では魔法マジックのことをイリュージョンと言うのか」と、万城は歩を進めようとする久を手ぶりで止めると、今度は自分で魔法をかけた。「閉じよ胡椒クローズ・ペッパー!」

 ゲートは閉じ、万城は久に指示した。

「キュウ君、やってみろよ。君の念力魔法で扉を開けるんだ」

 ええっ……?

 と、困惑して、「僕に魔法なんて……」とつぶやくと、万城に突っ込まれた。

「何言ってんだ。君は霊写技師サイコグラファーだろ。念写だけでも立派な魔法だぜ。臆せず試してみれば、他にもいろいろとできるようになるものさ。……為せば成る、為さねばならぬ何事も、たまには為して成ることもあり」と、それなりに励ましてくれる万城。

 いつやるんですか、今じゃないよ、明日だよ……といったフレーズで“あすなろ人生”を過ごしてきた久にとって、いささか唐突なオーダーだが、やって損するものでもなし、ちょっと恥ずかしいが、アブラカタブラ……な魔術師ポーズで、校門ゲートに手をかざす。

 念じてみた。……開け、開け、開け、開け!

 眉間にしわを寄せ、念を放射する。

 ゲートは、びくともしない。

「がんばれ、もう一息!」と万城の激励。

 ええい、開け開け、オープン・刺身!

 呪文を少し間違えた気がしたが、すると……

 するすると音もなく、ゲートが開いた。

 しかも、自動ドア並みに滑らかな動きである。

「や、やった! できましたよマンさん!」

 思わず歓声が口をつく。まさか自分に念動魔法が発現するなんて、思いもよらなかった。

 ああ、できた……と力を抜いたところで、万城が横を向いて呼んだ。

「さ、出ておいで、花売り娘の嬢ちゃん」

 かさこそと、門の脇の南天の植え込みが揺れた。

「てへ」と舌を出して、照れ臭そうに顔を出したのは、小柄な金髪美少女、青葉くるみ。

 こっそり一部始終を見ていただけでなく、魔法もしっかり使った様子だ。

 あっ……

 久の歓喜は悲嘆に変わる。そういうことか……

「こういうときは、代わりにしてあげなくても、いいんだって」と苦笑して、くるみをたしなめる万城。

「ごめんなさ~い。キュウさまが、あんなに一生懸命だったから、つい」

 くるみは茶目っ気一杯に、白いベレー帽の上から、自分の拳骨で、こつんとこづくと、「ダメななの、あたし」

「いやいや、いいから、いいから」と万城ははぐらかして、落胆する久の肩をポンと叩いて、校内へいざなう。と……

 久の全身に、ぴりっと、痺れるような刺激が広がって通り過ぎた。

 まるで、静電気をたっぷり蓄積したカーテンをくぐり抜けるかのような、違和感。

 直感した。……これは力場結界門フォースゲートだ。この学園は霊的なバリアに包まれている。それも堅固な。

 今の刺激は、侵入者である僕の正体を探って、自動的にスキャンしたに違いない。 

 あくまで霊的な刺激だから、普通人ふつうじんには何も感じないだろうが。

 空港の金属探知機をくぐる心境で、校門ゲートの中に足を踏み入れる。

 舗装でなく、玉砂利の道だ。一歩ごとに、じゃりじゃりと音がする。防犯効果あり、だ。

 木造二階建て、鎧張りの外観もレトロな白亜の校舎に左右から挟まれる形で、まずは、車両が擦れ違える広さの前庭広場。真ん中に八角形の水盤と噴水があり、その背後には大きな桜の樹が低く枝を広げて、鬱蒼とした緑で視界を遮っている。

 足を止めた。何者かに左右からじっと監視されている感じがしたからだ。

 前庭広場を左右から挟む校舎の、それぞれの玄関前に高さ一メートル半ほどの石の基壇があり、その上に、小さな子供ほどの大きさの石像が立っていた。どうやら、戦前の小学生の男の子の像らしく、粗末な着物姿で、背中には細いたきぎの束を背負い、手には本を持って、読みながら歩くポーズだ。

 でも、たしかに睨まれている。左右の石像は、魔法的な防衛装置じゃないか?

 そう感じたとたん、瞬間的に石像が動いた。

 はっと気づいたら、それは足を広げてボディをねじると、背負った薪の束の一本から重光子ヘヴィフォトンの弾体を発射していた。

 シュバッと発射音が聞こえると同時に、学園の門扉にとりついて飛び越えようとしていた一匹の犬……ドーベルマンらしい屈強な犬種らしいが、そいつに、左右二体の石像が放った光のミサイルが命中し、爆散させていた。

 犬の肉体は粉々の黒く乾いた肉片となって、その場に崩れ落ちる。まるで、自分が食べたカリカリのドッグフードに変身したみたいで、久は唖然とするばかり。

「まいったな!」振り向いた万城が驚いた。「一級魔犬じゃないか! ここまで接近したとは、尋常でないぞ」

「そのようですな」と低く落ち着いた声が湧くと、南天の茂みに囲われた守衛所の小屋から、作業着姿の用務員が現れた。目立たない仕草だが、その顔は、スクールバス“かるがも号”のドライバーを務めていて、レッドと呼ばれていた人物だ。

「昨夜からこの辺りを徘徊しておった野犬ですが、やはり魔物が取り憑いておりましたか。警戒レベルを一つ高めておいたのがよろしかったようで」

「野垂れ死にした野良犬の屍体に、乙種魔物が憑依したケースですね。学園を狙っていて、俺を尾行して侵入を試みたのかな」と万城。

 憑依していた魔物が祓魔弾エクソス弾頭によつて粉砕されたので、取り憑かれていた犬はミイラ化した屍体に戻ったのだ。

「ああ、こちらは赤倉虔あかくらけんさん、みんな、赤倉レッドさんと呼んでいる」と、万城は久を引き合わせる。

「レッドです。ここの用務員こづかいとバスの運転手を拝命しておりまして、時々勝手に社員食堂の板前を預からせていただいております」

 二十一世紀のオトナには見られないほど、完璧に穏やかな物腰で久と握手する赤倉レッド氏。やや骨ばった手は暖かく、優しい握り方だった。

「そしてさらに、四谷女学園の最強の用心棒でもあられる魔法士だよ」と付言する万城に、赤倉レッドは、「いやいや、最強の用心棒は、あちらの金次郎さんと銀次郎さんですよ。本日も超小型ミサイルで学園防衛ご苦労さまです」と石像をねぎらう。

 学園の前庭左右に配された二体の石像は金次郎と銀次郎、背中にしょっているのは薪ではなくて、ランドセルサイズの六十六連装ミサイルランチャー。横向きに発射するということだ。赤倉レッドはすでに、書道の筆に似た超小型重光子ミサイルの予備弾を用意していた。石像のランチャーに装填してやる。

 万城と久も感謝を込めて「ご苦労さまです」と金次郎と銀次郎にお辞儀した。二体の自律型魔動迎撃ミサイルシステムは口元で笑って頷くと、ふっと気配を消して、ただの石像に戻る。

 後始末はやっておきますので……と、赤倉レッドは箒と塵取りで魔犬の成れの果てである乾燥肉ミンチを片付ける。万城と久は学園の見学を続けることにした。

 警戒厳重な学園。しかし無言のお地蔵様と化した石像の前を通り過ぎて運動場に出ると、そこは何の変哲もない、平坦な乾いた土の広場だ。野球のバックネットや、バスケやサッカーのゴールポストも見られない。

 そのかわり、グラウンドの真ん中にあるのは……

 “七輪紋ヘブンズセブン”だった。

 車輪のついた箱に白い消石灰の粉を入れ、コロコロところがして白線を引く“ライン引き”を使って、少女たちのだれかが描いたのだろう。直径二十メートル以上の円の中に、六つの円環を三角形状に並べた紋章。東亰ピューテック大会のシンボルマークであり、魔法自衛隊と神女挺心隊の隊章でもあり、四矢女学園よつじょの校章でもある。

 なぜ、ここに描いてあるのか、意味はわからないが、いかにも魔法の学園らしい形だ。魔法陣の一種なんだろう……と久は思う。

 今さっき入って来たばかりの、外堀通りに面した学園の正門は、南北に長い四角形の校地の、北東の角……北を上にする地図ならば右上にあたる。敷地は校舎にぐるっと囲まれているので、中央の運動場を貫いて、南西の角へ対角線を延ばすと、そこには……


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