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魔法自衛隊1964  作者: 秋山 完
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038●第6章● 〃 1964年6月16日(火)深夜から翌未明⑤:敵とは

038●第6章●優しい治療と密談と夢…1964年6月16日(火)深夜から翌未明⑤:敵とは





「“敵”の兆候が見えましたか?」と真幌場は身を乗り出す。

「科学センターのふくべ教授と、“鬼象庁きしょうちょう”の怪獣《BEM》課から得た分析を組み合わせると、“新潟地震は人為的な霊的事故によって引き起こされた”と結論づけてよさそうだ」

「やはり、そうですか。ヒル先生とも話していたんです」真幌場は驚くことなく答えた。「昨日午後一時過ぎに新潟で地震が発生し、その衝撃波が地脈を攪乱しながら指向性のレーザー光線のごとく上野公園の科学博物館まで到達したこと、そこで恐竜のアロサウルス標本に霊的特異点スピリチュアル・シンギュラリティを与え、怪獣化してスケルタルドンに変容させた、そのタイミングはなんだか意図的な感じがするのです。まあ、科学的根拠のない “魔女の予感”にすぎませんが」

 “怪獣《BEM》”とは、“境界凶獣”…ボーダーイーブル・モンスター…の略称で、日本政府の闇政庁である“鬼象庁”が用いている、魔物の識別分類のひとつだ。“あの世”すなわち三大霊界のひとつである魔界から空間境界を越えて“この世”へと侵略し、恐怖と脅威を与える魔物を総称している。

 象庁は日本国内の霊脈や気脈の変化や変異を観測し、大規模魔物すなわち怪獣《BEM》の発生状況を把握、脅威の出現を予測して国家の危機管理に寄与するのが使命だ。象庁の一部局である“気象庁”は霊脈・気脈観測の結果として得られた気象データを“天気予報”と称して国内に流布する業務を担っている。

「いや、真幌場くんの言うとおりだよ。たぶん、あれはすべて、“敵”が仕組んだことだ。女神アフロディテが国立西欧美術館の“地獄門”をお通りになる時刻を狙って、我々、魔法自衛隊の戦闘力を試すために、敵のやつらが甲魔級の怪獣《BEM》で襲撃してきたのだ……と考えられる。しかし、もうひとつ、別の見方もある」

 真幌場は、はっと思い至った。そういうことですか……とばかりにうなずいて言う。

「ターゲットは、女神アフロディテ様でなく、キュウ君だった?」

「そう考えることもできるのだ」と丹賀。「敵のやつらは、キュウ君が我々の時代に招喚しょうかんされてくる予兆を察知して、そのタイミングで新潟地震を引き起こし、怪獣《BEM》スケルタルドンをキュウ君の出現地点に差し向け、待ち伏せ攻撃をかけたのかもしれん。確証はないが、可能性として配慮すべきだろう」

「ということは……」真幌場は丹賀を見つめた。彼の想いを確かめるように。「“敵”は気付いているのですね、キュウ君の存在に」

「うむ、しかしまだ、キュウ君という人物まで特定できたわけではなかろう。“一九六四年六月十六日十三時十三分十三秒”に国立西欧美術館のゴミ箱近くに、未知の霊的特異点スピリチュアル・シンギュラリティが発生した。そこまでは敵さんも、それに米軍のU2偵察機を飛ばしたセイレム魔女団ウィッチズも、察知している。しかし、その霊的特異点スピリチュアル・シンギュラリティがキュウ君自身であったことまでは突き止められていないようだ。なにぶん、これといった特徴のない、ただの少年なんだからね。彼が魔法自衛隊の重要な賓客であることは、秘密にしておこう。ただの、四谷プロの新入社員ということでな」

「了解しました。偽装し、彼を守ります」

 丹賀は深々と頷き、重々しく述べた。

「念を押しておくが、キュウ君が“敵”のスパイである可能性も、消えたわけではない」

「承知しております」と真幌場。「見守ることは、監視することでもありますわ」

「その方向性で、頼む」

 よろしく……と丹賀、かしこまりました……と真幌場。

 阿吽の呼吸で声なき言葉を交わし、目と目を合わせる二人。

 薄暗い社長室、信頼感で結ばれた美人秘書とその上司、そして二人が共に抱く親近感を囲むのは、深い宵闇のみ。

 しっとりとした沈黙を味わう真幌場がさらに何か囁こうとしたとき、ビーッ、ビーッとブザーのアラーム音、続いてオルゴールで戦車進軍歌パンツァーリートの一節が鳴り響く。

 音源は、丹賀が掛けている社長席のテーブルに固定してある目覚まし時計つきの電話台だ。ちなみに台の上に載っているのはダイヤル式の黒電話である。

「わっ!」

 真幌場は尻を蜂に刺されたかのように、パイプ椅子から飛び上がった。あまりのタイミングの意地悪さに、もうサイテー! と顔をしかめ、社長席とはいえラワン材にクッションをフェルト地で覆っただけの安物椅子からあわてて立ち上がって、机の脇に避難する丹賀に手を貸す。

 がたん、と、丹賀の椅子が後方へ移動してのけぞるように傾くと、机の下にぽっかりと、レール付きの傾斜路が開いた。

 本来なら、丹賀がこの椅子に乗ったまま地下の秘密基地“三角ベース”へ滑り降りる緊急シューターなのだが、今回は逆に傾斜路を駆け昇ってきた銀髪魔女が「いい夜ね(グーテナハト)」と顔を出した。

「丑三つ時ですよ」と、近道だからといってこの秘密通路を勝手に常用するドイツ魔女を迷惑顔のしかめっ面で迎える真幌場、「よい子なら滑り台を逆に登ったりしません! 基地から上がってくるときは、掃除用具ロッカーにつながる螺旋階段をお使いください」

傾注アハトゥンク!」それどころじゃないぜ、とばかりに人差し指を立てたヒル先生は、すたっ、と床に立つと緊急事態を報せた。

「ダイハチが動きだしたよ! 銀座へ“夜回り”に出ていった、こよみちゃんと、あいちゃんから電話が入った。日本橋の麒麟と獅子がダンスを始めたってさ!」



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