ちょっと待った!
夜中に変なテンションになって書いてしまいました。 だが反省はしていないです。
「よいではないか」
「いやいやいやいや」
「よいではないか」
「いえいえいえいえ」
わたしは尻もちをつき、前を隠したまま後ずさる。
なんだこれ、なんだこれ。
日本で平穏無事な日常を送っていたはずなのに。
なぜにわたしは全裸で、豚のごとく太った半裸の知らない男に迫られなければならないのか。 それして見たことのない部屋、ここは何処、わたしは誰?
状況も、目の前の半裸の男も異常すぎるが、最もおかしいのはわたし自身だ。
つるぺたの胸を隠す自分の腕が異常に細い。 というか幼い。
腕だけじゃない、股もふくらはぎも足の指の先まで、自分の知っている自分じゃない。 ザッツ幼児体型ビバ。
そりゃあ子供の頃に戻りたいと思ったことはある。 大抵の人はそうだろう。
夏休みの宿題が最大の悩みだったあの頃。
いやだが待って欲しい。 本気で戻りたかった訳ではないからね?
なにが悲しくて超絶苦労して大学に入り、死んだ目で就職戦線をさ迷った上にたどり着いた新入社員の座を巻き戻されなきゃいけないのだ。
そんなこんなの自問自答をする間もなく、男はわたしとの間を詰めてくる。
「ち、近寄らないで下さい!」
「ふおっふおっふぉ」
だめだこいつ。 聞いてない。
どこか勤め先の糞社長に似ているのが嫌悪感を助長する。
それなのに強くでられない自分が嫌になる。 いや、それだから、なのか……
豚に丁寧語とか、どれだけ飼い慣らされているのだろう。
だが神はわたしを見捨ててはいなかった。
「何事ですか!?」
部屋のザ・ヨーロッパな重厚そうな扉が開かれ、剣を携えた若い男が険しい顔で入ってきた。 そして豚とわたしを見て固まる。 そうだろうそうだろう、これってどう見ても逮捕案件だよね!
「無礼者! 邪魔するでない!」
「はっ、失礼しました! それでは我が王よ、ご存分に!」
若い男は一礼をすると退出し丁寧に扉を閉める。
はっ? 帰っちゃうの? この状況を見てスルーしちゃう?
神様なんていなかった。
しかもこいつ「我が王」とか言われちゃってたよ。
豚のくせに王? いや、王のくせに豚なのか。 つまりこいつはオークの王、オークキング。 あっ、わたし今うまいこと言いましたね。
そのオークキングさんは扉を睨みつけていたその目をこちらに向ける。
おっさんこっち見るな。
「そそるのう、そそるのう……」
じゅるり、とその歪んだ口元から吐き出された吐息。
焦点が合っているのかいないのか判らない濁りきった目。
四つん這いになってそろりそろりとわたしに近づいてくる。
スーパーギャラクティカマグナムピーンチ!
しかし、豪奢な天蓋のついた巨大ベッドの周囲を後ずさりながらの逃避は終わりを迎える。 ベッドと壁の間に追い詰められたわたしは行き止まりを宣告された。 ちなみに腰は抜けている。 シャカシャカと後ずさろうとしても足は空回りし、男はそれを見て四つん這いから更に姿勢を低くする。 それはもうふかふかの絨毯をなめるように超低空飛行。
「おおう、絶景かな絶景かな」
「ひいいぃぃぃ」
慌てて下も隠す。 ああもう、なにもかも手遅れだ。
そして半裸の王はニタリと笑うと、ゆっくりと立ち上がった。
その王子も立ち上がっていた。
そう、半裸。
上が服で下が裸。 大事なことだから二度言う。
上が服で下が裸。
いわゆる変態さん。 いわゆる『(半)裸の王さま』
街の人達は本当に笑ったのだろうか。 実は目をそらし、見ちゃいけません、と自分の子供の視界を塞いでいたのではあるまいか。
わたしも目を背けたいです。
そして変態王は近づいてくる。
そして王子も近づいてくる。
わたしは生まれて初めて、心の底から全力で祈った。
「神様、助けて!!」
その時時代は動いた。 いや違う、空間が固定され、時が止まった。
目の前の変態王は凍り付いたように固まり、部屋の風景はセピア色に染まる。
セピア~♪……
歌うのはやめておこう。 ホゲラック様から著作権徴収されてしまいそうだ。
一度歌えば彼らは異世界までも追いかけてきて、ついでに吟遊詩人からも集金するに違いない。
そんな現実逃避をしていると、景色はさらに変わり、真っ白な部屋になった。
「これはしたり。 少しばかり投入時空がずれてしましました」
なんかいる。 真っ白で、壁がない果てしなく白い空間になんかいる。
真っ白なそいつは輪郭もよく判別できないけれど、大昔に流行ったケサランパサランのような、毛玉のような細い光の糸で構成されたような球状のなにか。
それがふわふわと目の前に浮いていた。
「どちら様で……」
「ああ、申し遅れました、まぁあなた方の観念で言うところの神様のようなものです」
「はぁ……ということは、あなた様があの修羅場から救い出して下さったということでしょうか」
「まぁそうですね。 その修羅場とやらの原因も私ですが」
「なにぃ……」
そういえば投入時空がどうこう言ってたような。 こいつのせいか。こいつの仕業なのか。
ふつふつとわたしの中に怒りの感情がわいてくる。
幸い体は成人の体に戻っているようだ。
今ならギャラクティカマグナムファントムパンチが繰り出せるはず。
「あっ、私は純粋知性体なので物理干渉できませんから悪しからず」
「開き直るとは……まぁどうでもいいですから元の世界、日本に戻して下さい」
「ああ、ちゃんと補正して再投入しますから安心していいですよ」
「いや、人の話を聞いていますか? 戻せと言っているのですが」
「今度はちゃんと赤ん坊の状態で王妃の部屋に落とし込みますからまかせなさい」
だめだこいつも人の話をまったく聞いていない。
「トラックに轢かれ命を落としたあなたは、魔法が支配する異世界に転生し、そこで数奇な運命を……」
「いやいやいや、ちょっと待って頂きたい。 わたしは日曜日に自室でテレビを見ていたのですが」
「窓から飛び込んできたトラックに潰され命を落としたあなたは……」
「うちはマンションの六階」
「空から降ってきたトラックに……」
「どんだけトラック好きなんですか」
「細かい……細かすぎる。 そんなことでドラゴンが倒せるとは思えません」
「普通ドラゴンとははなから戦わないから」
「ああ神よ」
「自分に祈ってどうする」
本当にだめだこいつ。 人の話を聞かない上に、常識もない。 純粋痴呆体だ。
「大体、あのまま王の相手をしていても第二王妃としてうまくことは進んだのですよ?」
第二王妃ホジションでもストーリー的には問題なかったのに、なぜに、WHY? と毛玉はのたまった。
ここは人間の尊厳にかけて断固抗議するべきであることに気づく。
このままでは第二、第三の犠牲者がでるだろう。 それだけは避けなければ。
原子一個分も妥協する気がないことを知らしめるため毅然とした態度で宣言するのだ。
わたしは男であると。
ピンポーン。 おやこんな時間に誰か来たようだ。 まさかホゲラック!?