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第一話【視点:シルリア・ライゼント】



「彼女さえいなければ、彼は私だけのものだったのに……」


 これは私の醜い嫉妬。


「どうして彼女ばかり見るの……お願い、私を見て」


 これは私の願望。


「彼を手に入れるためなら、私、なんだってするわ」


 これは私の自己満足。


 私はただ彼に自分を見て欲しかった。そして、私に愛を囁いて欲しかった。

 ただ、それだけだったのに……。


「シルリア・ライゼント」


 彼が私の名を呼ぶ。その声はどこか冷たく、こちらを見下ろす視線は私を蔑むものだ。


 どうして私をその目で見るの?


「ルシュール王国の反逆者とし、今ここで死刑を言い渡す!!」


 彼が周囲に聞こえるよう声高々に言い放つ。


「……反逆者……?」


 口から漏れた声が空間に溶けるようにして消えていく。

 一体私が何をしたというのだ。

 彼に相応しい女性となるため、勉学に励み、女の身でありながらも武術も学んだ。

 これまでの人生を彼のためだけに費やした。

 そして、彼に相応しい女性へと成長した。

 なのに……。


 彼の隣で嬉しそうに微笑む女は誰? 


 どうして彼を私から盗るの?


 当たり前のように彼の隣にいる女は、教会が異世界から召喚した聖女で、とても尊き存在なのだとか。

 でも。

 聖女というだけで婚約者のいる男を奪っていいのか?

 聖女だからという理由で、何をしても許されるのか?

 そんなの間違っている。誰だって分かることだ。

 それでも、私は堪えてきた。

 彼が私には向けないような優しい笑みを浮かべ、彼女に愛を囁くのを。

 私に見せびらかすかのように彼と手を繋ぎ、女神の前で口付けをしていた彼女のことを。

 私は信じていた。

 いつか彼が私の下に帰ってきてくれると、ただひたすらに……。

 だが。

 それは叶わなかった。


 そして今日、私は民衆を前に処刑される。

 罪状は『国の宝である聖女に害をなした』である。

 そんなのでまかせだ。民衆も知っている。

 戦場が怖いからと城の奥深くで身体を震わせていた彼女とは違い、シルリア・ライゼントは真っ先に先陣をきり、戦場を駆け巡った。背中に一生消えない大きな傷を負いながらも……。

 そんな私を民衆は温かく迎え入れてくれた。

 しかし、彼は違った。私と対面するや否や「穢らわしい女」と呼び捨てたのだ。私は何が何だか分からなかった。


 それから一週間後、私は突然王宮に呼び出された。

 そして、突きつけられたのが婚約破棄と死刑宣告だ。


「どうして私が婚約破棄しなければならないのですか? どうして国を救った私が死刑宣告を受けなければならないのですか?」


 私は彼にそう問いかけた。彼の答えは簡単だった。


「お前が聖女である彼女を害そうとしたからだ。それにお前は王家よりも民衆の支持力があり過ぎる。それは王家にとって毒にしかならない」


 私は言葉を失った。

 同時に私の中で何かが崩れ去った。彼への淡い恋心と共に。


 私は今、静かな趣で処刑台へと歩を進める。

 路上では多くの人々が涙を流し、この処罰を下した王家を非難している。中には神に祈りを捧げる者さえもいた。

 これは何かの間違いだと。神よ、どうかシルリア様をお救いくださいと。

 一方の私は、これから死ぬというのにどこか落ち着いていた。多分民衆が私のために涙を流してくれていたからだろう。

 それだけが唯一の救いだった。


「シルリア様、何か最後に言い残すことはありますか?」


 処刑人の男が私に問いかける。


「最後に一曲だけ歌わせてください」


 私がそう言うと、処刑人の男はどこか悲しそうに顔を歪ませた。


「ッ……分かりました」


 ここにも私の死を悲しんでくれる方がいた。


「ありがとう、ございます」


 私は目を瞑り、静かに歌い出す。



 純白の翼を広げ 汝は空を駆ける


 聖なる剣と盾を携え 汝は国を守る


 白き光の下 汝は国を導く


 蒼き炎を胸に 汝は民を愛する


 汝の灯火が消えたとき 


 汝は今、静かに眠る


♦︎


 歌い終えた私は、再び民衆に目を向ける。


「民よ、どうか気に病まないで下さい。私はこの国を……いや、あなた達を守れたことを後悔してはいないのですから……」


 そして、私の首にギロチンの刃が落とされた。



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