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巧と未来

「お兄ちゃん。お兄ちゃん」


 盟の声が聞こえる。それにミィミィの鳴き声も。


 その目を開けると、僕の肉眼に映ったのはミィミィを抱いている盟の姿だった。


「盟」


 その名を呼び意識を取り戻した感じだって事が分かった。


 辺りを見ると、僕はどこか路地裏に倒れていたみたいだ。


 そこで僕は重大な事を思い出して盟に、


「未来は?」


「・・・」


 盟は僕の質問よりも、僕の身を心配しているようで、無言で僕に抱きついてきた。


 そして盟は言う。


「未来お姉ちゃんなら大丈夫だって」


 それを聞いて僕は気が付いた。


 未来に血を目に突きつけられ目がふさがり、原島を通り魔と叫んだ僕を気絶させ阻止したかったんだ。


 未来はどうなったのか心配になったが、盟の言うとおり、大丈夫なのだろう。


 どうして僕は気絶したのか分からないが、とにかく盟がこうして僕の側で寄り添っていることで僕は安心して、僕は立ち上がり盟と共に帰った。

 




 その後未来は全治三日で命に別状はない。


 原島は行方が分からなくなっている。


 でももうどうでも良い。


 未来に一言言って、もう未来とは縁を切った方が良いと思って病院を訪れたが、未来を慕っている人たちに囲まれていて、入る隙もなく、もう僕は何も言わず未来と距離をとっていればいいと思って次第に未来と離れていった。


 きっと未来はあのような事をされても原島の気持ちを大事にするだろう。


 そんな未来の気持ちを大事にしたいと思っていたが、未来の気持ちが気が知れなくなり、日々距離を置いているうちに心の距離も離れていくように、未来のことが気にならなくなってきた。


 学校ですれ違っても、未来は多くの人に慕われて、挨拶をする隙もない程の人気ぶりだ。


 そんな場面に直面する度に切なくもなったりもしたが、次第にその気持ちもなくなってきた。


 相談部も行かなくなり、僕だけの時間が出来て、僕はその時間で小説を書くようになっていった。


 内容は未来とは決別したと言ったが、未来の事であり未来に教えられたことを描いていた。


 なぜ僕が小説を書き始めたかは、軽い始まりであり、ぼんやりと考えながら何となく日記を読み返していたら、紙とペンを持って、ペンを走らせるように物語を描いていた。


 僕はあまり友達も居ないし、勉強だって別に一番になれなくても、それなりにやっていれば良いと思っている。


 ふと、思うとこうして小説を書き始めることが出来たのは未来に教えられた事だ。


 未来とは、あんな別れ方をしてしまったが、未来に教えられたことは教科書に載っている事よりも百倍大切な事だと言っても過言ではないと思う。


 未来は僕に言った。


『巧、汝自身を知れ』


 と。


 言われる度にしゃくに障ったが、それは生きていく上で大切な事だとも気がついた。


 汝自身を知れ。


 それは言葉通りの意味で自分を知ると言うこと。


 そして自分を知った上で何をしたいのか?どうしたいのか?それを色々な物を見て色々な人たちと出会い、ふれあっていく中で気づいて自分自身を確立させていくことだと僕は思う。


 僕の考えに間違いは何一つないと思っている。


 それにテスト用紙の空欄じゃなく答えは一つじゃない。


 もしテストに『汝自身を知ることは?』と問いに僕は未知を表すアルファベットのxと僕は回答する。


 なぜそう書くかと言うと答えは分からないし、それは追求して行くものだから。




 そして夏休みに入り、僕は僕の物になって、朝起きたら、小説を描いている。


 たまに、ふと未来に原島が何かしでかさないか心配になったが、未来は一人じゃない。


 その人たちがいる限り、未来は大丈夫だろう。


 未来とは心は離れたとは言っても、なぜか、ふと未来の事を考えて、何をしているのか体は大丈夫なのか?元気にしているのか?気になったりするが、そう思う度に、『僕は未来がいなきゃ何も出来ない人間じゃない』と言い聞かせ小説を書く事に没頭する。


 実を言うと小説を書く事は誰にも言っていない僕だけの密かな夢だ。


 こんな大きな夢が叶うほど、世の中甘くないが、僕はやってみたい。


 何の為にと自分に問われる時があるが、そのたびに僕は、それは僕が僕であり続けるためだ。


 小説を書き始めてから、一人になる事が多いため、家族や妹の盟にもあまり会話をすることはなくなった。


 ちなみに僕と未来が拾ってきた子猫は盟の世話のかいあって元気だ。


 猫を見る度に原島に憤り、恐怖に気が狂いそうになる時もあるが、それも次第に落ち着いてきた。





 とにかく今の僕に立ち止まっている暇などないくらいに小説に没頭している。


 夏休みの宿題もすぐに終わらせて、僕は小説を書く時間に費やしている。





 そしてある日の事だった。


 小説の息抜きに、ちょっと町に出て、ある商店街を歩いて、ふと喫茶店の中を何となく見ていると、未来と盟が楽しそうに語り合っている姿を目撃した。


 ちなみに盟は猫のミィミィを抱いている。


 そんな盟を見て、「もう未来とは関わるな」と言いたい所だが未来は悪い人間じゃないし、盟の交友関係に口出しするのは良くないことだと思って、ほおって置くことにした。


 そんな光景を見て、少し時間がたって気がついたことだが、もしかしたら盟と未来は僕の事を語り合っているんじゃないかと思ったが、理由は何であれ、僕は未来とは決別するべきだと整理はついているので、気にする事はないと思っていた。


 そう思っていた。


 気にせず小説の続きを書こうと机に向かうと、先ほどの光景を見たせいか、未来の事が気になってしまい小説を書く事に集中できなかった。


 そんな自分にいらだちそうになったが、僕はすぐに気を取り直して、すぐに集中できるようになった。


 そうもう気にすることはない。


 未来と僕の心には大きな齟齬があるので、これ以上関わると、あまり良くないし、僕が僕でいられなくなりそうなので・・・。


 本当にそうなのだろうか?


 なぜか未来の事を考えてしまう。


 未来とは決別させた。


 もう答えは出た。


 でも、何か未来とこのまま距離を置いて決別させて良いのかと自問自答してしまう。


 小説に集中したいのに、未来の事を考えてしまい集中できなくて、苛立ちを感じてしまい。


 未来の言葉が僕の脳裏によぎる。


『巧、汝自身を知れ』


 と。


 ますます苛立ちを感じて、もうこれは先ほど盟が未来と何らかの関わりがあるところを目撃してしまったせいだ。


 もう未来とは決別させると決めたのに・・・。


 未来の事は忘れて僕は僕の物になって自分だけの夢を見ていたいのに。


 ここで気持ちを落ち着かせ、僕は盟とも距離を置いた方が良いと思った。


 最近、盟は僕になついてこないし、もう十歳だし年頃だろう。


 そう思うと正直寂しくも思うが、仕方がないことだと割り切った。


 とにかく僕は僕で小説に集中したいときに、ノックの音がして、盟が猫を抱いて僕の部屋に入ってきた。


 盟が何かそわそわとした感じから、未来の事で話があると言った感じだと言うことが一目見て分かった。


 僕は知らない振りをして、


「どうした盟」


 用件を聞く。


 盟はその目を泳がせながら、


「最近、未来お姉ちゃんとはどうなのかなって?」


 すごく白々しいことを聞いてくることに僕は呆れる顔を隠すように、


「別に何もないよ」


「そう」


 話は終わってしまった。いや終わらせたかった。きっと盟は未来に何を吹き込まれたかは分からないが、もうこれ以上未来の事に関して聞きたくなかった。


 盟は何か僕に未来のことで何か言いたい感じで辺りを見渡してそわそわとしている。


『用がないなら出て行け』


 と言いたいところだが、そんなきついことを言うのは良くないから、心の中で『用がないなら出て行け』と言うようなオーラを放ち続けていた。


 盟も幼いながらも未来のように鋭く、そのオーラを感じ取ったみたいだが、引き下がらず、盟は思い切った感じで、


「今度、未来お姉ちゃんとお兄ちゃんと盟と、それとミィミィと遊びに行かない?」


「行かない」


 即答。すると盟は、


「どうしてどうして?」


 僕は盟のその双眸をしっかりと見つめて言う。


「悪いが盟、もう僕の前で未来の話はしないでくれ」


 すると盟は言葉をなくして、視線を俯かせ、涙がこぼれ落ちそうになる。


 そんな盟を見ていると、何かいたたまれない気持ちにもなって、未来と遊びに行った方が良いと考えたが、僕はここは心を鬼にして、そんな盟には酷だと思うが、


「もう用がないなら、出て行ってくれ」


 と冷たくあしらった。だが盟は引き下がらず、涙声で、


「未来お姉ちゃんはお兄ちゃんの事が必要なんだよ」


 盟の涙を見ていると、ついこの間見た未来の涙と重なり、何か心壊れそうな思いが心の奥底からわき出そうな感じで苦しくなった。


「どうしたのお兄ちゃん」


 僕のところに身を寄せる盟。気まぐれに鳴くミィミィ。僕はかんしゃくを起こして、


「うるさい。未来の話は僕の前でするな。話はそれだけだ。出て行け」


 盟の襟首をつかんで、部屋の外に追い出した。


 盟は泣きながら出て行ってしまった。


 盟の鳴き声が聞こえる。


 感情的になり僕自身正直嫌になる。


 もう小説を書く気にすらならない。


 未来とは決別したのに、また未来の事で悩む自分が嫌になる。


 未来の事は決別させた。


 盟の涙を見たら、未来の涙と重なり、心壊れそうな思いがこみ上げてきそうになった。


 未来とは決別させたいのに、どうして僕にまとわりつくんだ。


 もうやめてくれ。


 未来と僕は価値観が違うので合わない。


 もう未来のいない世界に行きたい気持ちになり、僕は外に出て走った。


 どれだけ走っても頭から未来が離れない。


 まるで未来にとりつかれているような感じだ。


 そして誰もいない河川敷にたどり着き、僕は叫んだ。


 叫ばずにはいられなかった。


 叫ばないと追いつめられておかしくなりそうだからだ。


 僕は倒れて、星を眺め、何かが見えてきそうな気がしてきた。


 未来の事だと言うことは分かっている。


 でも何なのか分からない。


 僕の本能が探せと言っているのか?


 僕は立ち上がり、とにかく気まずいけど家族の元へと帰る事にする。


 帰ると母親が心配していて、すごく怒られた。


 母親の態度を見て分かったが、先ほど盟を怒鳴りつけて泣かせてしまった事は知られていないみたいだ。


 盟は心配かけてはいけないと思って自分の悲しみを打ち明けたりはしないから、部屋で今頃泣いているかもしれない。


 盟に一言謝って置こうと思ったが、どんな言葉をかければ良いのか分からず、とりあえず心配だから部屋から盟の部屋をのぞき込んでみると、案の定、盟は泣いていた。


 本当に心が押しつぶされそうな程の罪悪感に囚われそうになって、一言謝って置こうと思ったが、やはりどんな言葉をかけてやれば良いのか分からず、そっとドアを閉めて盟にやってしまった事は戒めとして、胸に焼き付けた。


 夜は眠れなかった。


 盟を泣かせてしまった罪悪感。未来に対する心の奥底に見えそうで見えない僕の未来の本当の気持ち。


 未来とは決別させたい。


 でもそれはダメな気がする。


 でも決別させたい。


 未来と僕は大きな齟齬が生じている。


 でも何なのか見つめて行かなくてはいけない気がする。


 そうしないと僕は前に進めないような気がする。


 僕はその心の奥底に隠れている本当の心を見る事を知っている。


 だから僕は自転車で海に出かけた。


 海に到着して、広大な海に空。


 ただこうして黙って見つめているだけで、何かが見えてくることを未来曰く『汝自身を知れ』と言う言葉に僕は知っている。


 広大な海に空。それはまるで心の奥底を映し出す広大な鏡だと僕は思ったりもする。


 眺めていると何かが見えてくる。


 吹きすさぶ風に吹かれて、今心に思いかんでくるのが未来の事だった。


 未来はいつも僕が悲しい時、その背中を押してくれて、困難を乗り越えてきたことが数え切れないほどある。


 未来の周りには友達がたくさんいて、独りぼっちで遊んでいる僕をその小さな手で掴んで輪の中に入れて一緒に遊んでくれた。


 それでよく言われたっけ。

 

 お前は未来がいなきゃ何も出来ないのかよって。


 そこで僕は気がつく。


 いなきゃ出来ないのが当たり前だと。


 未来もそんな僕をエスコートして自分自身の生き甲斐だったかもしれない。


 そうだ。未来は僕にとってなくてはならない存在。


 未来も同じだったんだ。


 そこで僕は気がつく。


 未来の心はもしかしたら僕を求めているんじゃないかって。


 何か気配を感じてその目を開け、気配のある方向に振り向くとそこには未来がいた。


「巧」


 僕を目にしてその表情から、未来は僕を追いかけてきたのではなく、どうやらこれは偶然のようだ。


「未来」


 僕は立ち上がり、未来の目をじっと見つめてしまう。


「どうしたの巧、こんなところで」


「未来こそ」


 そこで僕と未来は見つめ合った。


 心なしか?未来を見つめていると、これは偶然ではないような気がしてきた。


 じゃあ何なのか分からないけど、未来の目を見て何かが通じ合った気がした。


 未来もそれに気がついている感じがする。


 言葉には、どのようにたとえて良いのか分からないこの気持ち。


 僕にとって未来はなくてはならない存在だった。


 未来もそう感じているみたいで、唇をほころばせて微笑んだ。


 胸が激しく高鳴る。


 すると未来はその目を閉じ、唇をせがんだ。


 未来とは決別させた。未来と僕は心に大きな齟齬がある。


 もうそんな事はどうでも良い。


 僕は未来の良いところ悪いところ気に入らないところ、それらを含めて好きになりたい。


 でも僕は未来の事を幸せに出来るのか、不安になり、ためらってしまう。


 でも未来は目を閉じて、その桜色の唇を差し待っている。


 ここで行かなければ一生後悔してしまいそうになるから、僕は勢いで未来を抱きしめて、その唇を重ねた。


 僕と未来の胸が密着して未来の激しい鼓動を感じる。


 いつもそういった感情は表に出さない未来だけど、彼女もか弱い女の子なんだ。


 聡明で誰よりも優しく、自分の事を犠牲にしてまで相手の背中を押してあげようと賢明な未来。


 そんな未来と一緒に入れて本当に幸せだ。ずっと、この気持ちを絶え間なく続けていきたい。


 未来とどこまでいけるのか分からない。


 将来結婚して子供を持って円満な家庭を築くのか?いやもしかしたら、すぐに別れてしまうかも知れない。


 でもそんな先の事をあれこれ考えるより、今こうして未来と抱き合っていたい。


 僕が僕であるために、未来が必要だ。


 同じように未来も未来であるために、きっと僕が必要なのだろう。


 それはお互いのためであり、このお互いの力がいつか誰かの為になるような気がする。




 その後、僕と未来は広大な海と空を眺め吹きすさぶ風に包まれ、肩を寄せ合って座った。


 二人で時を忘れて、ただぼんやりと広大な海と空を眺めた。


 未来の目をちらりと見ると、うっとりとした目をして僕の肩にもたれ掛かっていた。


 そんな未来が、

「巧」


「どうした?」


「巧がよければ私としてみない」


 未来の言葉を吟味すると、顔中が熱くなり、心臓が破裂しそうなほど高鳴り、とにかく僕は、


「冗談はやめろよ」


「私が冗談を言う女だと思う?」


 頭が熱くなり、顔から火が出そうな感じだった。だから僕はもう何て言って良いのか分からず黙るしかなかった。


 そんな僕に未来は、


「巧がよければ、いつでも良いからね。巧が路上や教室で欲情したら、いつでもどこでも私は待っているからね」


「やめろよ」


 僕は本気で怒った。


 未来はフフッと笑って「冗談よ」何てからかわれて、僕と未来はたった先ほど交際したが、前途多難な気がしてきて不安になり、軽々しく口づけなんてしなければいいと思ってしまった。


 そして未来は立ち上がり、ローファーと靴下を脱いで波打ち際に立つ。


「冷たーい」


 身をきゅっと縮こませる未来はキュートでなんかかわいく思う。


 そんな事を言っているつかの間に、未来は波を蹴り海水をかけられた。


「うわっ」


 と声を上げ、


「巧のリアクション面白い」


 何て笑われて、僕もローファーと靴下を脱いで未来に反撃した。


 本当に心から楽しめた。


 これから未来と生きていくんだね。


 未来と僕との間には今まで様々な思い出がある。


 これからも未来と、そんな思い出を作っていきたい。


 楽しい事、嬉しい事、悲しい事も、辛い事も、時にはぶつかり合う事も。


 それは今まででも合った事だ。


 でももっと良い思い出を作りたい。


 心がほっこりするような、すばらしい思い出を。

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