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ミィミィ

 見ていて、いたたまれないし、原島に対して恐怖して、本当に僕たちに取り返しのつかない仕打ちをしてくるんじゃないかと危惧して、やられる前にやろうと思って原島の前に出ようとしたが、未来に止められた。

 引き留める未来を見て、未来はアイコンタクトで『落ち着いて』と言わんばかりで僕に伝える。

 何の抵抗もしない野良猫を憂さ晴らしにして殺す姿を見てじっと我慢するのは怖いし悲しくもなる。

 目を背けたくもなるが、未来の方を見ると毅然としていたが一瞬、狼狽えた表情を僕は見逃さず、未来も恐ろしく思っていることが分かる。


 そして原島は逃げるように走り去っていった。

 僕は追いかけたが、すぐに見失い、気がつけば未来も見失っていた。

 原島を追いかける事で気が気でなかったので未来の事を気にとめる余裕がなかったのだ。


 原島の奴どこ言ったんだろう?


 辺りを見渡し後ろを振り返ると、一匹の白い子猫を抱いて悲しそうな表情の未来だった。


 何だろう。そんな未来を見ていると僕も悲しくなってくる。


「未来」


「この子だけだった。生き残っていたのは」


「・・・」


 僕は悲しい顔をしている未来をまともに見ることはできなかった。


「私は巧を・・・」


 僕を何だって言うのか、未来はこれ以上は言ってはいけないと言うように感情的になって口走った言葉をとどまらせるように黙った。


 多分未来は子猫が殺されているところをいたたまれなくなった僕を引き留める事を後悔しているんだ。


 そこで僕は気づいたが、それでも未来は原島の気持ちを大事にしたいんだ。


 あんな最低な人間地獄に堕ちればいいのだと思ったが、それでも未来は原島の気持ちを大事にしたいらしい。


 僕たちは原島に対して何か恨みを買うような事をした覚えはない。それに無惨にも殺されてしまった猫達も。


 僕は未来を見て安心したことがある。


 原島の気持ちを大事にしたいが、それでも原島に対して憤りを感じている未来を一瞬でもみれたことに対して。


 子猫を見ると必死に鳴いている。


 生きる事を渇望するように。


 すると未来は悲しい表情から一転して笑顔で、僕に猫を押しつけ、


「巧、その子を責任もって飼いなさい」


 また理不尽な事を言われて『何で俺が』と不服を言いたかったが、悲しみを押し殺して笑顔でいる未来が何かいたたまれない気持ちになり、とりあえず、未来が抱いている子猫を受け取った。


「本当は私が飼いたいけど、私の家は借家だから猫飼えないんだ」


 先程の気持ちとは一転して明るく振る舞う未来。


 こんな時、どんな言葉をかければいいのか僕には分からず、僕は猫を抱いていると先ほどの原島のした行為が脳裏によぎり、憤りと悲しみの気持ちが同時にわき起こり、この猫だけは育ててあげたいと思った。


 でもどうしよう。母さん許してくれるかな?


 まあそれはそれとして置いといて、


「未来、原島のこと、どうするんだよ。僕はあんな人間に気をかける価値なんてないと思うけど」


「・・・」


 未来も同感なのか?僕の言葉を否定せず黙り込んでいた。


「今度僕たちに何かしてきたら、もう容赦せず、戦うよ」


「とりあえず、今日のところはここまでにしましょう」


 笑顔で振り返り、未来も原島に対して気持ちの整理がついていないのだろう。


 未来と分かれた後、未来の事が心配になったが、一人になりたいと言った感じだった。


 僕も子猫を抱きながら家に帰り、ベットに仰向けになりながら子猫を抱いていた。


 この子猫は目の前で母親を殺された。それに自分の兄弟までも。でも子猫はまだ生まれて間もないのか?そういった物心を持っている様子はないようだ。でも生まれて間もない子が大切にしてくれる親が居なければ生きていけない。


 お腹が空いているのか?子猫は必死に鳴いている。


 牛乳を与えれば大丈夫かと思って冷蔵庫から牛乳を取り出して、お皿に入れて子猫に差し出すと子猫は舌を出して必死に飲んでいる。


 そんな姿を見て僕は安心した。


 ちょうどそんな時、妹の盟が帰ってきて、子猫を見ると、その大きな瞳を輝かせ、


「かわいい、どうしたのこの子」


 と聞かれて、原島が無惨にこの子猫の母兄弟を殺した事が脳裏に浮かび、嫌な気持ちになる。だから僕は適当に、


「捨てられていたのを未来と見つけて拾ってきたんだよ」


「かわいい」


 子猫は必死に牛乳を飲んでいる。


 そんな姿を愛くるしい顔で見守る盟。


 そして子猫はお腹がいっぱいになったみたいでその場で寝転がった。


 盟はそんな子猫を抱き上げて、


「名前は何て言うの?」


「いや、まだ決めていないけど」


 そういえば名前を考える心の余裕なんてなかった。


「じゃあミィミィ」


 と勝手に名前を付けられてしまった。


 まあ別に大したことじゃないから良いか。


 盟は断りもせずにミィミィを連れて部屋に行ってしまった。


 あんな盟を見て、盟は心の歪んだ子ではないことに僕は安心する。




 僕は叫んでいた。


 辺りを見渡して見ると部屋から太陽の木漏れ日が注ぎ込まれて、朝であり、それにベットには盟がミィミィを抱いて僕に寄り添って眠っていた。


 僕はそれを見て安心した。


 怖い夢を見た。


 何でこんな夢を見てしまうんだと原島に対して憤るしかなかった。


 その内容は本当に生々しく、子猫になった盟と未来が無惨にも原島にあざ笑いながら殺されてしまう夢であった。


 何でこんな夢を見てしまうのか?


 もしかしたら、これは何かの警告じゃないかと疑う自分まで存在する。


 妙な汗までかいている。


 盟の方を見るとミィミィと気持ちよさそうに眠っている。


 思えば僕が何か悩む度に、盟は布団に潜り込んでいたっけ。


 昨日、僕はそんなそぶりを見せた覚えはないし、ミィミィに気を取られてそんな余裕すらないように見えたけど、盟も未来のように勘が鋭いのか?


 分からないけど。

 分からないけど。


 僕は眠っている盟を思い切り抱きしめた。


 もちろん盟は起きて、


「お兄ちゃん苦しいよ」


「・・・」


 もはや僕は盟をこうして抱きしめて、今見た夢の恐怖を紛らわせるしかなかった。


 気づけば涙も流していた。


「また、泣いているの?」


「・・・」


 情けないと思うが、こんな風に甘える事の出きる人は妹の盟だけだ。


「大丈夫だよ。お兄ちゃん。盟はずっと一緒にいるよ」


 その言葉は僕の涙を出させる刺激になり、盟を抱きしめる手が強まった。


「苦しいよ。お兄ちゃん」


 ここで我に返り、盟から離れた。


「ごめん」


 涙は見せられないので、盟に背中を向けた。


 どうしてだ。涙が止まらない。


 そこで気がつき、


「未来は?」


 と聞く。


「未来お姉ちゃんがどうかしたの?」


 盟はどうしてここに未来が出てくるのか、不思議に思っている。


 そうだよな。ここに未来が居るはずがないよな。何を言っているんだ僕は。


 そんな時、先ほど見た夢がフラッシュバックして、盟は確認できたが、未来は・・・。


 僕は未来の事が恐ろしく心配になり、即座に着替えた。


 そんな僕を見て盟は、


「どこへ行くの?」


「ちょっと未来のところに」


 走って気がついたが、まず携帯にかければ良いじゃないかと思ったが、そこまで気が回らないほど僕は気が気でなかった。


 何か今一秒でも早く未来のところに行かなければいけない気がして、僕は走る。


 未来のうちに到着して、呼び鈴を押す。


 出てきたのは未来で、その姿を見て僕は安堵して、地面に伏した。


 未来のことが心配で体力の限界を忘れてしまっていたみたいだ。


「どうしたの?巧、こんな朝早くから」


「いや」


 未来の事が心配で来たなんて恥ずかしくて言えなかった。


「ちょうど良かったわ。原島君の事でお話があるの」


 まだ原島に対して、おもんぱかっているのかと呆れながら、僕は未来の家に入った。


 未来はあの後、原島の家に行き様子を伺ったみたいだ。


 その話を聞いて僕は怖くなかったのかと、心配になったが、とりあえず話を聞くことに。


 原島は家庭内暴力を受けているみたいだ。

 未来が原島の家の前で様子を伺ってみたが、その声が聞こえて、原島に対して親は罵詈雑言な事を浴びせられているみたいだ。

 あれでは原島も心を病んでしまっても仕方がないと思っている。


 未来の話を聞いて原島に対する気持ちは分かった。

 分かったけど、もうほおっておくしかないんじゃないかと僕は未来に提案したが、未来はまだ諦めてはいないみたいだ。


 原島に対して誰かが気づいてあげて、そして気づかせてあげて、病んだ心から一歩踏み出せる勇気を与えたいと思っている。


 でなければ、原島は人の心をなくして、永遠の闇に葬られてしまうと未来は危惧している。


 未来の話を聞いて僕は未来の気持ちを大事にする気持ちだけでなく、僕からも何か原島に対してできないことはないかと思い始めてきた。


 昨日の行いは許せないけど、僕も未来に影響されておかしくなってきたのか?とにかく出きる限りの事はしてあげたいと思う。


 それに未来も気がついているようだが、原島は僕たちにまた何かしでかすだろう。


 そうなる前に原島に一歩踏み出せる勇気を与えたいと未来に便乗する。


 それと猫の事だが、盟が大喜びして大事にかわいがられている事を聞いて未来は嬉しそうに笑っていた。





「本当にやるのかよ」


「協力してくれるんでしょ」


 原島の家に僕と未来は待ち伏せする。


 そして原島は出てきた。


 今日も昨日と同じようにサングラスとマスクをして、つばつきの帽子を深々とかぶって出てきた。


 今日も僕や未来に何かたくらみ事を隠している感じだ。


 このまま行ったら、本当に原島に何かされる。


 だから渋々だが、未来の提案に乗るしかない。


 昨日の件も含めて。


 僕たちは原島の後をこっそりと見つからないように、ついて行く。


 今日は未来の予想通り、未来の家の方角に向かっている。


 僕はもう渋々じゃない。


 未来の作戦を遂行する。


 僕は原島の前に立ちふさがり、


「原島君だよね」


 原島は僕を前にしてすごく狼狽えている。


 逃げようとして、その後ろには、


「原島君。ちょっと顔を貸してくれない?」


 ちょっと威圧的に見つめる未来。


 逃げることは予想していたが、ここで予想していない事態になった。


 原島はナイフを取り出して、


「そこをどけ」


 と未来に罵る。


 一瞬未来は恐怖の表情をしたが、冷静な面もちで、その目を閉じて、黙っている。


 すると原島は女性である未来の腕に切りつけた。


 未来の腕から赤い赤い血がしたたり落ちる姿を見て、心の奥底から、とてつもない怒りがこみ上げて来て、気がつけば原島に跨がって、本気で殺すつもりで殴りかかっていた。


「原島、ぶっ殺してやる」


 原島の顔面や腹部などを手加減などせず、僕は本気で殺そうとした。


 原島の事を死んでも許さないと思っている。


 その背後から未来の悲痛の声がした。


「巧」


 と。


 その僕を呼ぶ未来の声が僕の理性が働き、その手が止まった。


 未来の方を見ると、悲しそうな面もちから、次第にいつもの穏やかな笑顔で僕を見た。


 でも未来の腕には赤い赤い赤い血がしたたり落ちているのを見て、また僕は本能に委ねようとして原島に殴りかかろうとしたが、再び、


「巧。もう良いから。やめて」


 未来はその顔を背けながら、僕に訴える。


 未来が泣いているのか?


 思えば未来の涙を、・・・。


 なぜだろう未来の涙を見ると、何か心の奥底から、・・・。


 分からないけど、僕は未来の顔を反らして原島の表情を見ると、原島は何がおかしいのか笑っている。


「ひゃひゃひゃひゃ、殴れよ。そうだよ。俺は最低な人間だよ」


 僕はそんな原島に対して殴る気も失せていて、僕は立ち上がり、けがをしている未来の方へと立ち寄ろうとしたが、未来は、


「来ちゃダメ」


 顔を背けて、僕に訴える。


「お前怪我しているだろ」


「大したことないよ。とにかく巧、原島君と二人きりにさせてくれないかな」


「はあ?何言っているんだよ。もうこんな奴に情けをかけるのはやめろ。それよりも早く病院に」


「病院はダメ」


 病院に行けば警察沙汰になり原島が世間に糾弾されることを未来は避けているように感じて。


「もうこんな人間のクズに情けなんてかける必要なんてねえよ」


 すると未来は瞳に涙を浮かべた状態で僕を見て、


「バカ」


 と言って、切りつけられた腕の血を僕の目に押しつけ僕は失明するのかと言うぐらいの目に衝撃的な痛みを感じて、目が開かず、目の前が真っ暗になった。


「目が・・・」


 何も見えない。


 だから目が使えないなら口を使うしたかった。


「何だよ。未来。いったいどうゆうつもりだよ」


「・・・」


 目は見えないが未来の気配は感じる。だから僕はもう未来の気持ちなどどうでも良く、


「通り魔だよ警察を呼んでくれ」


 と連呼した。


 そうすれば警察が駆けつけ、原島が未来を切りつけたとして警察に捕まる。


 作戦は原島を懲らしめて昨日のことに対して罪の意識を知ってもらう事と、本気でぶつかってくる友達になって原島に病んだ心から一歩踏み出せる勇気を与えたかった。


 でもこんな事になるなんて予想もできなかった。


 もう原島の心は病んでいる。


 様々な環境の中で、その心を真っ黒に染めてしまったのだろう。


 でももうそんな事はどうでも良い。


 未来が切りつけられて僕はもう我慢の限界だ。


 それでも未来は原島の事を大事に思っている。


 もう警察につきだして、その罪を償ってもらった方が原島のためだ。


 それで原島が路頭に迷おうが、そんな事、僕たちには関係ない。


 それと未来の涙を見たのは・・・。


 何だろう?思いだそうとすると、心が壊れそうな感じがする。


 以前にも未来の涙を・・・。


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