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リーダー

 三時間くらい寝て、僕は目覚め、座禅を組み、精神を集中させ、未来の手がかりを感じてとっていた。

 今こうして僕が僕でいられるのはみんながいられるからだ。

 だから僕一人では未来を助ける事は出来ないし、こうして自分をコントロールする事も出来なかっただろう。

 手がかりの足掛けになるのは、みんなを信じる心だ。

 感じるんだと僕は自分に言い聞かせる。

 未来の理科への悲痛な願い、そして理科の溢れんばかりの憎しみ。

 そこで僕は気がつく。

 ここは危険だと。

 すぐに部屋を出て、

「木更津先輩」

 と呼ぶと、

「何よ」

 別の部屋から声がした。

 その部屋に向かい中に入ると、木更津先輩はパソコンで何か操作している。

「どうしたの?」

「ここは危険です。すぐに出た方が良い」

「何を根拠にそういっているのか分からないけど、そうした方が良さそうね」

「早く」

 と急かす。

「ちょっと待って、原島君から連絡が入ったわ」

 僕も気になってパソコンをのぞき込む。

 内容を読んで、すぐにこれは罠だと気がついた。

 原島君は囚われてしまった。

 未来がいる場所は港の倉庫内だと。

「これは罠だよ。残念だけど、原島君は囚われてしまった」

「何で分かるの?原島君を探知することは不可能よ」

「いや、感じるんだ」

「それはあなたの独りよがりの深読みかもしれないわよ」

 確かに木更津先輩の言う通り僕の独りよがりの深読みかも知れない。だから僕は、

「とりあえず、深読みかもしれないけど、原島君の事も心配だし、未来を助ける手がかりが見つかるかもしれない」

「なら慎重に」

 そう木更津先輩が慎重に事を進めようとした時、パソコンの電源が消え、すべての電気が消えた。

「何?」

 と木更津先輩は狼狽える。

「ここはもう危険だ。罠かもしれないけど港の倉庫内に行こう」

「分かったわ」

 はっきり言って罠なのか?どうなのか分からないが僕達は港の倉庫に行くしかない。

 きっと未来と理科につながる手がかりがあるかも知れない。それに原島君の事も心配だ。

 マンションの外に出ると、襲っては来たりはしないが気配を感じる。

「気配を感じるわ」

「気をつけて」

 僕は木更津先輩の手を取り、

「ちょっと」

 と拒まれたが、

「ごめんなさい。力を貸すつもりで、しばらくこうさせてください」

「まったく。分かったわ」

 僕と木更津先輩は手をつなぎ、港へと向かった。

 気配は感じる。

 でも何だろう。

 まるで僕たちを誘導しているような感じだ。

 これは明らかに罠かもしれない。

 でももう行くしかない。

 何だろう。港に近づく度に何か暖かい何か心地良い物に包まれている気がする。

 違う。連中が僕たちを誘導しているんじゃない。未来と僕を心から慕う人達に連中達から守ってくれているんだ。

 その事に気がついて、

「木更津先輩」

 穏やかに微笑む木更津先輩。そんな木更津先輩に一瞬心奪われそうな気持ちになり、つないだ手を離そうとしたが、すぐに掴み返され、

「力は貸すって言っているでしょ。私をそういう目で見てしまうのは仕方がないわ。だから気に病むことはないわ」

 僕の心の中で冷め病まない熱い物があふれ出てきた。

 僕は根拠はないが確信する。

 未来と理科と原島君を助けることが出来ると。

「行きましょう。木更津先輩」

 僕は木更津先輩の手を引いて走り出した。

 未来、僕達は二人だけじゃない。こうして力を貸してくれる人たちがいるんだよ。

 未来と僕とみんなの心を一つにするときなんだ。

 この膨れ上がった憎しみに立ち向かうにはそうするしかない。

 言葉にも心にも思うと、こっぱずかしくなるが、これが愛なんだね。


 港にたどり着き、僕にもう恐れる物はなかった。

 何のためらいもせず、僕と木更津先輩は倉庫へと入っていく。

 強い憎しみの心を感じるが、僕はもう怖くなかった。

「理科、いい加減にいたずらはそこまでにして姿を現したらどうなんだ」

 と僕は毅然とした立ち振る舞いでそう大声で言った。


 すると突然、猪突猛進に立ち向かう覆面をかぶった男が僕に立ち向かってきた。

「理科様を侮辱するな」

 と言って僕に勢いよく拳を握りしめ立ち向かってきた。

 僕はその拳を紙一重でよけ、カウンターで相手の顔面に思い切り拳をたたきつけた。

 男は気絶して倒れる。

 その時だった。理科の憎しみが消えた。

 何だろう?さっきまで感じていたのに理科の憎しみが突然消えるなんて、

「威勢が良いな、巧君」

 誰だか分からないが、覆面をかぶった人間がぞろぞろと現れて、そのリーダーらしい人間が気安く僕の名前を呼ぶ。

「・・・」

 僕は黙っている。

「黙っていられるのも今のうちだよ」

 リーダーらしき男は首をしゃくって、合図を送る。

 するとぼろぼろになった原島君を理科の信者達が連れてきた。

「原島君」

 心配そうに狼狽える木更津先輩。

 僕も狼狽えそうになったが、これは理科の僕たちに最悪ないたずら心だと、そんな理科とそれを取り巻く信者達が悲しくなった。

「あなた達、そんな事をして何が楽しいの」

 悲痛に叫ぶ木更津先輩。

 僕は木更津先輩の肩に手を添え、ゆっくりと首を左右に振りながら、

「感情的になったら奴らの思うつぼだよ。

 木更津先輩、連中はこのような事をして楽しいんだよ。

 そんな悲しい人間なんだよ。

 だから、もうこんな奴らに言葉はいらない」

 木更津先輩は複雑そうな顔をして僕の目をそらしてしまった。

「何をごちゃごちゃ言っている。

 力なき正義の使者の巧君」

「・・・」

 僕は黙っている。

 そこで気がついた。理科に伝えたい事は言葉ではない。かといって力でもない。

 だから僕はもう黙る。木更津先輩も同じように黙る。

 未来は決して力や暴力で訴える女性ではない。

 まして自分がどんなひどい目にあっても、報復とかよりも、本当に相手を重んじて考えるそんな優しい女性だ。

 だから本当に理科を思いやるなら、理科に屈しなければいい。

 原島君を見せしめに痛めつけ、僕たちが苦しむ姿を理科はたしなんでいるなら、もうその理科の思惑に惑わされたりしない。

 原島君も未来を助けるために命を懸けたのだから、このような事になる事は覚悟の上だったのだろう。

 その証拠に原島君は何も言おうとしていない。

 仲間がやられたら悲しいよ。でもそれを憎しみに変えてはいけない。

 その悲しみを一人で抱え込まないで、みんなと分け合えばいい。ただそれだけで思いは強まり、悲しみは緩和される。

 原島君も未来もその事を知っている。

 僕達はもう戦わない。でも決して逃げたりも屈したりもしない。

 だから僕は理科の信者の前で黙っていた。

「何すかしてんだよ」

 激昂する信者のリーダー。感情的になる事はそんな僕たちの反応が面白くないと言う弱さの現れだ。

 僕達の思いは理科とその信者達に届いている。

「何とか言ったらどうなんだよ」

 さらに激昂して、満身創痍の原島君に憤り任せに殴りつけた。

 正直僕の胸は痛む、木更津先輩も同じだ。

 原島君は何も言わずに耐えている。

 でも僕たちは何度でも言うが戦わないし、決して屈したりはしない。

 僕たちは未来の思いを理科達に伝えなくてはいけない。

 未来はその為なら命なんて惜しむような女性じゃない。

 思えば、未来に相談に来た人で、どんな深刻な事情があろうとも、その人が命を失うことは記憶にない。

 だから理科達も、そんな未来に憎しみの淵から一歩踏み出せる勇気が芽生えてくると信じている。

 未来はそんな自分をおごったりもしない。

 僕はそんな未来が彼女で誇りに思っている。

 だから僕たちは今一つになって未来の思いを・・・・。

 何が起こったのか、憎しみの気配が徐々に薄れていく感じに囚われた。

 その思いと同時に信者のリーダーが、

「理科様、理科様」

 と狼狽えながら連呼している。

 今気がついたが、信者のリーダーは何かしらの端末で理科の命令に従っていたみたいだ。

 僕も何か嫌な予感がして、

「どうした?」

 と思わず聞く。

「理科様の応答が消えた」

 何者かが理科を制止したのか?

 理科に何か会ったのは確かだ。

 僕も心配になってきた。

 狼狽える信者のリーダーは、

「理科様」

 と叫びながら去っていった。

 きっとリーダーの後を追えば、理科の居場所にたどり着くと確信した。

 僕がその後を追うが、信者達に囲まれ遮られたところ、倉庫内に僕たちの仲間が入ってきた。

「相沢君、原島君、木更津さん。無事ですか?」

「僕と木更津さんは無事だ。でも原島君が」

 すると仲間が囚われた原島君を助けるために、突っ込んでいく仲間達。

 信者は狼狽えて原島君を離して、逃げていった。

「みんな」

 と思わず言うと木更津先輩が、

「何をしているの巧君。とっとと追いかけなさい。ここは私たちがくい止めるわ」

「分かりました」

 僕は信者のリーダーを追いかけた。

 リーダーは倉庫の外に出て走る。それを僕は追っていく。

 取り乱しているリーダーに追いつくことはたやすいが、きっとリーダーは理科の元へと駆けつけているのだろう。

 ここで捕まえたら、自棄を起こしてその居場所が分からなくなりそうだ。

 だから僕は気づかれないように、ゆっくりと追いかけた。

「理科様」

 と叫ぶリーダー。

 いったい憎しみに染まった理科を慕う理由がどこにあるのか僕には分からなかった。

 でもその真実は直接理科に会えば分かることだろう。

 とにかく僕は追いかける。

 次第にリーダーは疲れてペースを落とす。

 僕も疲れてきたが追跡出来ない程、疲れてはいない。

 港を出て、大通りに出て、リーダーは行きずりの女性の自転車を奪い、乗って理科の元へと行くつもりだ。

 自転車を奪われた女性は悲鳴をあげていた。

 まずいことだ。自転車に追いつく体力は今の僕にはない。

 だから僕も行きずりの自転車に乗っている中年男性の自転車を止め、

「すいません。自転車を貸してください」

 強引だが僕は自転車を奪って、リーダーの後を追った。

「何するんだてめえ」

「ごめんなさい。後で返します」

 と言っておく。

 リーダーは我を忘れているのか、周りが見えておらず、僕の追跡にも気がついていない。

 好都合だ。

 そしてたどり着いた場所は、とある隣町の廃ビルの中だった。

 僕は後を追う。

 中は殺風としていて何もないが、誰か人の気配は感じられる。

 リーダーは地下に行き、地下には電線が通っているのか、蛍光灯の明かりがともっている。

 そして奥の部屋に行き、リーダーは扉を開け、中に入った。

 僕も続く。

 そしてリーダーは悲鳴をあげる。

「理科様」

 と。

 嫌な予感がして僕も中にはいると、中は子供の頃の僕と未来と理科の写真が所々に張り巡らされ、理科と思われる人物はリーダーに揺さぶられているが反応がなかった。

 あれから五年の月日がたって姿も変わるが、理科はまるで骨と皮だけに包まれたような、見るに耐えない姿だ。

 リーダーはそんな理科を揺さぶる。

「理科様理科様」

 と泣きながら。

 どうやら理科は死んでしまったみたいだ。

 先ほど理科の憎しみが消えた事を感じたのは理科が死んでしまったからだと分かった。

 理科のやった事は許せないが、未来の思いが伝わっていればと僕は悔やんだ。

 死因はパソコンで信者達を使って僕たちにいたずらする事に夢中になりすぎて何日も飲まず食わずで餓死してしまったのだろう。

 リーダーは僕に気がつくと、

「お前が悪いんだ」

 おぞましい目つきで僕にそういうリーダー。

 僕は臆することなくその目を見た。

「お前みたいなリア充がいるから、俺たちは憎しみに囚われてしまい、地獄へと誘われ、愛される事なく消えてしまうんだ」

 もはや言っている事が支離滅裂。

 リーダーは抱えていた理科の遺体を投げ捨てるように壁にたたきつけ、僕に襲いかかる。

 僕は軽々とよけ、リーダーに顔面に一撃加えて、リーダーは床に転がりもだえる。

「痛い。痛い」

 あまりの見苦しさに僕は呆れてしまう。

 とにかく僕はリーダーの胸元を掴んで持ち上げ、

「未来はどこだよ」

「僕は昔いじめられていたんだ。いじめる連中は口々に言うんだ。うざいって・・・」

 何か自分の身の上を口答しているが、僕は無視して、殴り、

「未来はどこだって言っているんだよ」

「殴らないで。殴らないで」

 僕は容赦なく、殴り、

「未来はどこだって聞いているんだよ」

「お母さーん」

 わめき散らしてたが、それでも僕は容赦せずに、

「未来はどこだって聞いているんだよ」

 と人体急所の鳩尾や顎に数発入れた。

「僕も知らないんだよ。分からないんだよ」

 とにかく僕は死んでしまった理科を粗末にしたこと、原島君に痛めつけたこと、未来にひどい目に遭わせた事に対して僕は憤り、リーダーの信者を痛めつけた。

 こんな人間、殴る価値もないがとにかく痛めつけないと僕の気が治まらない。

 ここでリーダーを殺してしまいたいが、未来はこんな人間でもその病んだ心の闇から抜け出せるように伝える。

 だからここは未来に免じて命は助けるとする。

 どうやらリーダーにも未来の居場所は分からないみたいだ。

 そこで理科の無惨な遺体に目を向け、これが独りよがりの憎しみの末路なのだろうと悲しみと同時に理科との思い出が頭の中でよみがえってくる。

 理科は本当にかわいそうな人間としか思えない。その気持ちを信頼できる人に打ち明けることが出来たら、このような事にはならなかっただろう。

 でも今は感傷に浸っている場合じゃない。

 そこで僕には聞こえた。

 未来の悲痛の願いが。

 未来は生きている。

 でもどこにいるのか分からない。 

 そのような時、未来は直感で行動する。

 だから僕は理科の隠れ家に設置されていたパソコンを起動させようとすると、マウスを動かしただけでパソコンは起動してモニターが映った。

 そこに映し出されたのは純白のワンピースを着た未来がベットの上で意識はないようで横たわっている。

「未来」

 と思わず僕は叫ぶ。

 居場所はすぐに特定できた。

 この廃ビルの最上階だ。

 僕は全速力で未来の元へと階段を登っていく。

 扉を開け、広場の中央にベットがあって、未来はそこで意識を失っている。

「未来」

 駆けつけようとすると、激しい音と共に、気がつけば足に激痛が走っていた。

 どうやら何者かが僕の足めがけて拳銃を放ったみたいだ。

 立つことも出来ずに、辺りを見渡してみると、斉藤の姿を目撃した。

「待っていたよ。巧君」

「お前」

「お前等の事は、くたばった理科から聞いているよ」

「お前が理科を利用して」

「違うよ。理科と僕とは志が一緒だった。ただそれだけだ」

 再び銃声が鳴り響き、次に左足を打たれて、もはや立つことも出来なくなってしまった。

「・・・」

 痛みにもがく僕に斉藤は、

「楽に死ねると思うなよ。お前等にはこの世の地獄を味わって貰わないと俺が気が済まないからな」

「ううう」

 と、うめく僕。

「苦しいか?苦しいだろ。助けを呼びたければ叫んで見ろ。命乞いをして見ろ」

 そうだ。もうこんな奴らに言葉はいらないんだっけ。

 それが僕の報復だ。

 僕は目を閉じる。

「何とか言えー」

 と感情的になり、銃声が鳴り響いた。

 今度はどこも痛くない。

 その目を開けると、未来が僕をかばって犠牲になった。

 打たれた胸から血が吹き出しながら、未来が倒れていく姿がスローモーションに見えてきた。

 あざ笑う斉藤。

 僕は絶望、悲しみの感情に支配され、もはや理性もなくなりただ慟哭する。


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