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沢村

 ここはどこだろう?

 身動きがとれない。

 僕は手足を拘束され、イスに座っている。

 僕は理科の回し者と思われる二人組に連れられ白いワゴン車に未来と乗ったのは覚えている。

 そして未来の事が恐ろしく心配になり。

「未来」

 と叫んだ。

 だが、この声は届いていない。再び、

「未来」

 と叫んだ。

 何だろう?気のせいかもしれないが、何の返答はないが、僕の声は何者かに届いているような気がした。

 だから僕は、

「未来」

 と大声で連呼した。

 声を出している内に何か、不穏な何かを感じて、これ以上叫んではいけない気がして僕は黙り込んだ。

 とにかく自分に言い聞かせる。


 冷静になれと。


 でも未来の事が心配だ。

 僕はこうして意識はあるが、未来はどうだろう?

 焦る気持ちに駆られる。

 でも焦ってもいけないし、僕の理性があるなら、冷静になれと自分に言い聞かせる。

 手足は動かないが、呼吸は出来る。

 だから何度も落ち着かせるために深呼吸を繰り返した。

 未来の安否が確認できない不安。

 とにかく落ち着け。

 すると目の前に映写機で映されたような映像が映し出され、未来がイスに手足を拘束され下着姿の未来に、僕は気が気でなくなり。

「未来」

 と冷静さを忘れて叫んでしまった。

 映写機に映し出された未来を見て、これは未来の今の状況を僕に見せているのが分かった。

 これは理科の悪質ないたずらだ。

 冷静になれと言うのは分かっている。でも頭の悪い僕は、冷静さを失い。

「理科、こんな事をして楽しいのか?言いたい事があるなら聞いてやるから来い」

 僕の声は理科に届いている。

 続け様に僕は、

「理科」

 と叫んだ。

 すると映写機に斉藤の姿が映った。

 斉藤は僕がこの映写機を見ているのに気がついているというか、見せしめに未来に何かをしようとする。

「何だよ。斉藤。どうしてお前が」

 斉藤の汚れた手が未来の清らかな体にふれた瞬間、

「斉藤、てめえ」

 思わず叫んだ。

 未来は気は確かだが、そんな事で毅然とした面もちを崩したりはしない。

 すべて理科がしくんだ憎しみのシナリオなのは気がついている。

 さらに斉藤は未来の下着に手をかけ、ブラにその手を入れた。

 僕はもうあまりにも卑劣な犯行に言葉など、いらないと思った。

 理科や斉藤やその理科を取り巻く連中に必要なのは、一生消えない苦しみもがくような傷を負わせてやりたい。死ぬことよりも苦しい、常に慟哭していないといられない拭いきれない傷を。

 斉藤は未来の乳房をなめ回し、未来は目を閉じ動じず黙っていた。

 こんな時に不謹慎だが、そんなやりとりに欲情の念が生じる。

 そして斉藤は嫌らしい下品な目でこちらを見て、次に下着に手をかけた。

 さすがの未来もこれほどの屈辱はないと言いたいようにその瞳が潤んでいた。

 僕の命よりも大切な物、未来。同時に僕が僕であり続けるには未来と共につながっていなければいけない、そんなかけがえのない存在の未来が、その女性として大切な貞操を壊そうとする。

 未来はきっと貞操を壊される事はあまり気にしないかも知れない。

 未来は自分を犠牲にしてまで、それでもその憎しみから一歩踏み出せる勇気を与えるなんて言うだろう。

 でも未来は許しても、未来を傷つける奴をどんな事情があろうが僕は許さない。

 僕は未来のようなお人好しではない。

 僕はもう怒りを通り越して、もはや憎しみにかられた理科達に言葉など通じないと思っている。

 だったら何が通用するかと言うと、すぐに答えは出た。

 それは未来を傷つけおとしめた僕の憎しみを理科達に身を持って味わってもらいたいと思っている。

 このような状況で何も出来ないかもしれないが、僕は許さない。

 聞こえるよ。

 理科の憎しみが。

 僕はそれを身を持って感じている。

 理科は僕たちを精神的に追いつめようとしているのだ。

 じゃあ、理科君にもう言葉は言らない。君に僕からの贈り物をあげたいと思う。

 それは僕の憎しみの念だ。

 僕たちは君の憎しみにここまで導かれ、このような状況に陥れられた。

 憎しみで答えるには念じるだけではダメだ。念じ、そして行動に移さなければいけない。

 それはもう黙る事だった。

 僕達はここで殺されてしまうかもしれない。

 でも理科達に待っているのは、筆舌しがたい慟哭を強いられる憎しみの罰だ。

 それはどこへ行ってもつきまとわれ逃げる事は出来ない。

 理科は憎しみに染まり、憎しみに殺される。

 そう考えがまとまった時、斉藤の下品な奇声と共に殴られるような鈍い音がして気になって目を開けると未来が殴られる音だった。

 僕の心が壊されていくような感覚に囚われる。

「見ているかよ。巧君、君の大事な女のこの様を」

 と斉藤はあざ笑いながら言う。

 未来はそれでも毅然と目は生きていた。

 未来はそれでも、こんな人間でも、何とかしようとしている時の目だった。

 何だろう。もう僕はどうでも良くなって来た。

 理科達は憎しみに殺される。

 もうそれで良い。

 その目を閉じようとした時だった。

「巧、諦めてはダメ」

 未来の悲痛の声が僕の耳に入ってきた。

 その目を開けると斉藤に汚され傷つけながらも毅然と達振る舞う未来の姿だった。

「未来」

 思わず叫んだが、どうやらこの声は未来に届いていない。

 でもこちらから未来の声と様子が確認できるのを未来は気がついている。

「巧、本当の敵は理科じゃない事を忘れないで」

「何ごちゃごちゃ言っているんだよ。お前のせいで俺の人生はむちゃくちゃにされてしまったんだよ」

 と斉藤は未来を痛め、その汚れた手で未来にふれる。

 それを目にしながらも未来の悲痛の願いは僕の心に響いた。

 諦めてはいけない。

 どんな事があっても、諦めてはいけない。

 どんな事があっても諦めて、未来との絆を断ちきってはいけない。

 僕達はお互いに通じ合っている。

 今こそ未来と心を一つにする時なんだ。

 だから僕は未来が無惨に痛めつけられている姿をじっと見つめた。

 そしてこのわき起こる怒りを声にならない叫びに変えた。

 聞いた事がある。

 怒りは絶望を打ちひしぐ力があると。 

 この怒りの叫びが理科に届いているなら、届け。

 もしかしたらそんな僕を見て楽しみあざ笑っているのかも知れない。

 でももうそんな事を気にしている余裕もない。だから僕は怒りを込めて叫び散らした。

 人は一人では立ち上がれない。もし未来の声が僕に届かなかったら、僕は諦めて、僕も未来も憎しみに染まった理科も斉藤も、その取り巻き達も永遠の闇に葬られていただろう。

 どうして人は憎しみに染まるのか?

 誰だって人を憎しむ心は持っている。

 憎しみは他者の心ない思いから生まれるもの。

 でも、その憎しみから生まれる悲しみを心通わせる友達でも親類でも恋人でも分け合えば、思いは強まり、悲しみを前向きな気持ちへと転換でき、明日が見えてくるだろう。

 だが、悲しみを一人で抱え込むと、その悲しみは憎しみに変わり、すべてを敵に回して、心を歪ませ人ではなくなる。

 理科はそのような状況に陥っている。

 理科の側に誰でも良かったのだ。

 心通わせる人が一人でも入れば、理科の暴走を止めることが出来たのかもしれない。

 だから僕と未来が、過去の腐れ縁でも良いから、理科に僕たちの思いを伝えて、その死に至る心の病から一歩踏み出せる思いを伝えたい。

 そんな事、欺かれ笑われるかもしれない。

 それは嫌だけど、同じ思いを持つ未来と共に笑われるなら僕は怖くない。

 理科は言ったね。


『未来がいなければ何も出来ないの?』


 って。

 そうだよ。

 出来ないんだよ。

 出来なくて良いと僕は思う。

 だって人は一人では生きていけないんだから。

 認めてやるよ。

 でも理科、僕は君には言われたくない。

 君は一人で何人もの取り巻き達を操って僕たちに復讐しているようだが、君は自分を見失い独りぼっちのただの弱虫だ。仮に僕たちを葬ることが出来ても、君は死ぬよりも恐ろしい残酷な現実に目の当たりにする。

 だからそうなる前に、未来と僕の思いを理科に伝えたい。

 それは誰のためでと聞かれたら、『自分が自分であるため』と僕と未来は何のためらいもなく言うよ。

 カッコつけている訳じゃない。

 でもちょっとそんな自分がかっこいいなんて舞い上がっちゃうけど、それでも理科に伝えたい。

 だから・・・・。


 何だろう怒りに翻弄されていた心が、何か心温まるような気持ちに染まってきた。

 でも未来は斉藤にナブられ続けている。

 僕の怒りが理科に届いたのか?

 すると映写機が突然消えて、何事だと不安に思っていると。

 僕がいる部屋にうちの相談部に来る生徒達三人が入ってきた。

「大丈夫か相沢君」

 三人の一人の沢村君だ。

「どうして?」

 と僕が聞くと、

「助けに来たに決まっているじゃないか」

「僕達には関わらない方が・・・」

 そこで現れたのが、

「良いとでも言いたいのでしょ」

 聞いた事のある女性の声に、その声を思いめぐらしていると、木更津先輩だった。

「木更津先輩も?」

「も?とは何よ」

「すいません」

 と何か悪いと思って謝っておいた。そこで僕は縄をほどいてもらい、未来の元へと駆けつけようとしたら木更津先輩に、

「待ちなさい相沢君」

「ごめんなさい。急いでいるので」

「未来がどこにいるのか私たちも分からないのよ」

「でも行かないと」

「感情的になって焦って無謀な判断で行けば、失敗は必須よ。とりあえず、私達も協力するから話し合いましょう」

 その言葉を聞いて僕は心強かった。

 未来も僕も誤解していた。

 未来と僕だけじゃない。みんなもいたんだ。

 僕たちを助けてくれたのは未来にいつも助けられているからだろう。

 こんな危険な橋を渡ってまで、命を懸けてまで僕たちを助けてくれることに、思わず涙があふれ出た。

 でも僕は、

「やっぱり僕たちに関わらない方がいいよ」

 と言ったら、木更津先輩の蹴りが腹部に直撃した。

 もがく僕。

「どうしてあなた達はそうやって抱え込むの?こんなにみんな心配しているのに。

 私の三つの内の一つの目的は今果たしたわ」

「何ですかそれ?」

「あなたに叱咤激励の蹴りを浴びせたこと。後二つ目は同じように未来にも叱咤激励をしなきゃ私の気が済まない」

「三つ目は何ですか?」

「それはあなたと同じよ」

 と唇をつり上げ、得意そうに笑った事に、何か安心してしまい、テンションが上がって、僕の仲間は未来だけではなく、みんなが入る事に心強くなり。でも僕は、

「僕達は危険な橋を渡ることになるし、もしかしたら命を落とすかもしれないけど、その覚悟はある?」

 すると木更津先輩は、

「覚悟はあるけど、命をかける気なんてないわ」

 その言葉に心が燃えるほどのテンションが上がった。

 だからもう何も言わない。

 未来がどこにいるのか分からないが、僕たちは助けに行く。

 それと理科に僕と未来の思いを伝える事も。


 建物から外に出ると、空は真っ暗で午後九時を回ったところだった。

 木更津先輩は未来にはいつも世話になっているよしみで力を貸してくれた。

 木更津先輩が未来と僕の危機を知ったのは偶然だった。

 斉藤に退学しても良いから一発ぶん殴るつもりで謹慎中にも学校に行き、斉藤の後を付けた後、携帯で僕と未来をつぶす会話をしていたという。

 それで気が気でなくなり、木更津先輩は斉藤の後を付け、みんなの協力を得て、この場所は特定できたが、未来の居場所は特定できなかった。

 ちなみに未来の居場所は以前、僕たちの敵であった、原島が追跡しているという。

 それを聞いてますます胸が熱くなってきた。

 とりあえず作戦会議と言うところで僕達は木更津先輩のマンションに向かった。

 僕たちは迂闊に手が出せないし、どこで誰に狙われているのかも分からないので、会話は言葉ではなくノートで会話をすることになった。

 携帯の電波も関知できないので、無闇に連絡を取ることも出来ないので今、原島がどこで何をやっているか分からない。

「安心して巧君、未来は私達が助けるわ」

「ありがとう」

 僕と未来はみんなの事を侮っていたのかもしれない。

 未来と僕はみんなを巻き込むわけにはいかないと言ったが、みんなそれほど弱い人間じゃない。

 とりあえず作戦は今日は遅いので木更津先輩の家に泊まることになった。

 先ほどは精神的にも肉体的にもダメージをおってかなり体力が消耗していた。

 その為に少し体を休める。


 感じる。

 未来の悲痛の願いと、溢れんばかりの理科の憎しみが。



 こんな悠長な事はしていられないのかもしれない。

 でも焦ってはダメだ。

 落ち着いて考えるんだ。

 未来を助けるにはみんなの力が必要だ。


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