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高橋

 とにかく僕は未来について行く。

 思えば、未来とつき合って散々な目にあったが、その先に見えたのは高い壁を上ったような爽快感だった。

 だから僕は未来について行く。

 未来は何に気がつき、何をひらめいたか、僕は確かめに行く。

 未来について行きたどり着いたのは、未来の家だった。

「巧、入って」

 未来の家に戻るなら、早退する理由もないと、つっこみたいが、未来は思いたったらすぐに行動するタイプで、それは無茶はすぎるが無謀な事ではない。

 未来は突っ走ると周りが見えなくなるから、僕はそれにブレーキをかける役としても未来とつき合う理由の一つでもある。

 未来の部屋に入り、早速鞄を放り投げて、一冊のアルバムを本棚から取り出して広げた。

 それは僕と未来と理科の写真だった。

 理科の写真を見た時、少し動揺したが、僕は気持ちを落ち着かせて未来と共に写真を見た。

 そんな未来に僕は、

「やっぱり理科が?」

「まだ確信はないけど、感じるわ。こうしてアルバムを見るだけでも、何か見えてきそうで」

 理科が映っている写真を見てみると、理科は明るく笑っていて、心を和ませてくれる。

 この笑顔を壊したのは僕だが、自分の事を攻めたりせずに、この件に関して理科が関わっているなら、僕と未来は本気で向き合う。

 未来はそういえば言っていた。

 理科は生きていると。

 その事を聞いてみたが、未来の口から「そう感じたから」と証拠にはないが根拠はある。

 それは僕も感じている。

 理科の強い憎しみが。

 手がかりがないなら、心を研ぎ澄まし、行動して行くしかない。

 だから僕は未来に一つ思いついたことを提案して実行した。

 それは写真に写っている場所である、子供の時によく遊んだ公園だ。

 

 公園に赴き、僕たちが遊んでいた時の情景は全く変わっていなかった。

 理科はこの公園を出た道路に飛び出して事故にあった。

 それから未来は理科の消息を絶ってしまったと今初めて聞いた。

 事故にあって、どうして消息を絶ったのか?そして今に至る時に、理科の強い憎しみ。

 事故にあった道路を見て、僕の頭にフラッシュバックしたが、こらえようとして我慢したら、僕の手を未来がさりげなくつないできた。

 未来はこの件に関して僕が向き合えたのは分かっているが、それでもトラウマを引きずっている僕を気遣っている。


『巧は未来がいなきゃ何も出来ないの?』


 理解にそう言われた。


 そして、

 僕は未来の手を握り返して、続きを思い起こした。


 そして僕はつい、はたいて。

 

 そのショックで理科は飛び出して車にひかれた。

 その先の記憶を思い起こそうと、その事故現場の道路を見つめる。

 でもその先の記憶は真っ白だ。

 そこで僕は未来の目を見て、

「理科が事故にあった。その先の記憶が真っ白かのようにないけど、未来は何か知っているか?」

 未来は遠くを見つめ黙り込む。

 その仕草は何かを隠しているようにも思える。だから僕は、

「未来、僕たちの間で隠し事はなしにしようよ。そうしないと、この件について解決しないんじゃないか?」

「それもそうね」

 すると未来は僕の手を両手でギュッと握りしめた。

「未来」

 きょとんとする僕。

「巧、力を貸して」

 そこで分かったんだ。

 未来も思い出すだけで、恐怖にかられる自分がいるみたいだ。

 だから僕はその小さな手を掴み。

「分かった」

 すると未来は人目もはばからず、僕を抱きしめた。

 完璧超人の未来だって人間で、か弱い女の子なんだ。

 そんな彼女だって一人になったら我を失い、何も出来なくなる。

 でも未来には相談に来る人や、その人たちのためにと未来は動いている。

 たとえそれが未来の生き甲斐であっても頼られすぎて、心のエネルギーが疲弊して、精神的にも肉体的にも疲弊しかねない。

 だから僕が入るんだ。

 だから未来、僕は君の彼氏だ。最大限の力を貸すよ。

 抱き合う僕たち、公園にはのどかな鳥のさえずりや、子供たちがにぎわう声が聞こえる。

 そんな中で、きっと未来の心は嵐が吹きすさぶような激しい葛藤が巻き起こっているのを感じる。

 心は誰にも見えないもの。それに安易に人にさらすものではないと僕は思う。

 でも未来は僕の彼女だから、その気持ちを知り、力になってあげたいと思っている。

 人は一人では立ち上がれない。夢も叶えられない。人間独りぼっちになったら、その心は曇り、人であっても人ではなくなってしまうだろう。

 未来は僕に強く抱きついている。

 こんな華奢な女の子にどこに、これほどの力が合るかと言うくらいに強く。

 その力は未来の心の中で激しい何かが、ひしめき合う葛藤が起こっている証拠だ。

 そして未来は僕から離れて、少し疲弊した表情をしていた。

 そんな未来に僕は近くの自販機に立ち寄り、ミネラルウォーターを購入して未来に差し出した。

 未来はすかさず受け取り、勢いよく飲み干した。

 飲み干して息を切らしている。

 ちょっと休んだ方が良いと思って、ベンチに向かって一休みさせた。

 未来にも思い出したくもない過去の記憶があったんだ。

 未来を今はそっとしておいて、気持ちが落ち着いてきたら、話を聞くことにする。

 すると未来は立ち上がり、

「巧、行くわよ」

「行くって」

「分からない時は直感に頼るしかないわ」

 そんな未来を見つめて無理をしているのが分かった。だから僕は、

「そろそろお昼だし、せめて何か食べてからにしようよ」

 すると未来は、

「それもそうね」

 と疲弊しきったその顔から、笑みが出たことに僕は安心する。

 とりあえず僕たちはとある、お蕎麦屋で昼食をとることにした。

 小食の未来は小さめのざるそばを頼み、僕は男だから、普通の量の一・五倍くらいの量を食した。

 お腹が膨らんで未来は生き生きとした表情をしていた。

 未来は事情を話してくれた。

 この不穏な気配の正体は理科だと確信したと。

 どういう経緯でそういった事になったのか詳しく聞こうとすると、未来は、

「行くわよ巧。また一歩踏み出して行くよ」

「行くってどこに」

「さっきも言ったでしょ、分からない時は直感に頼るしかないわ」

 またやれやれと未来に振り回される事にうんざりしそうだが、もう何も言わない。僕は未来について行くだけ、いやついて行くだけじゃなく、未来をサポートするのが僕としての役目でもある。

 そうやって僕と未来との関係は保たれている。


 未来の直感を頼りに僕は未来について行く。

 未来はどこに行こうとしているのか、黙ってついて行くと、僕たちが通っていた小学校に向かっていた。

 そこに何か見えない手がかりが隠れているんじゃないかと僕も予感した。

 僕達が通っていた小学校にたどり着き、丁度、学校は全校生徒授業が終わったところだ。

 僕たちはここの卒業生として、とりあえず中に入り、生徒達はランドセルを背負って下校している姿がちらほら見えた。

 校庭に出て、校庭開放で遊んでいる生徒達の姿を見て、僕は昔の事を思い出してしまう。

 僕も未来も理科も、その他の生徒と混じって遊んでいたっけ。

 昔を懐かしんでいて、何となく未来の方を見ると、同じように校庭開放で遊んでいる生徒達を見ていた。

「僕たちも、あんな風にして遊んだな」

 しみじみとした気持ちで未来にそういう。

「ええ」

 そういって未来は花壇の方へと向かい僕もそれについて行く。

 花壇には朝顔や昼顔、ひまわり、ホウセンカ、露草、夏を代表する花が植えられている。

 花壇の奥はちょっとした森みたいな感じで、杉の木やケヤキ、桜の木が昔と変わらずに、そこにそびえていた。

 そういえば僕たち三人はこの森を僕らの秘密基地にしたんだっけ。でも賢明に作ったのも空しく、次の日に大人達に壊されてしまったんだよね。あの頃の悔しさで僕は早く大人になりたいと思ったりもしたんだっけ。

 本当に懐かしい。

 その時、何かじっと見られている気配に気がつき、その方に僕が振り向くと、主事さんの高橋さんだった。

「高橋さん?」

 僕が聞くと、高橋さんは驚いた顔をして僕たちを見て、

「相沢君に、水島さん?」

「「はい」」

 と僕と未来の返事がハモる。

「いやー二人ともでかくなったね。相沢君は美青年って感じで、水島さんはえらくべっぴんさんになったね」

 感心したように高橋さんは言う。

「そう?」

 未来は浮かれていて、僕もほめられて浮かれてしまいそうだ。

 それよりも主事さんの高橋さんとは、およそ七八年ぶりだ。主事さんの高橋さんは一目見て、典型的なダンディーなおじさんで昔とまったくと言って良いほど変わっていない。

 高橋さんが僕たちを見て、何か言いにくそうな顔をしていたことに、僕は悟った。理科のことだと。僕よりも聡い未来も気がついている。

 僕は理科の話はしないほうが良いと思って、高橋さんから、立ち去ることを未来にアイコンタクトで伝えたが、未来は分かったと言うような顔をしていたが、

「高橋さん。理科の事でお話良いですか?」

 って、おい僕のアイコンタクトはそうじゃない。僕は言葉には出せないが心の中で困惑していた。

 未来の事とは心通じ合っているとは言え、このように互いに齟齬があると、とりあえず整理が出来て、未来は高橋さんと理科に関する事を何でも良いから語り合いたいと思っている。

 忙しいし、高橋さんに迷惑をかけてしまうんじゃないかと思ったが、それでも未来は理科の手がかりを探そうと必死になっている。

 まるで僕達は探偵か刑事じゃないか。

 高橋さんとお話しする事で僕と未来は学校内の業務室に案内され、とりあえず席に座って高橋さんのおもてなしである、お茶を待つことにする。

 冷たいお茶が運ばれて、僕と未来は炎天下の外を歩き回っていたので、喉がからからで一気に飲み干して、すごくおいしい緑茶だった。

 未来も気がついているが高橋さんは理科の話にあまり言い顔はしない。きっと高橋さんの中に理科に対する何かあるのだと僕は感じた。

 無理に話させるのはあまり良いことではないが、とにかく何でも良いから手がかりになるなら語り合うことで何かが見えてくる。

「高橋さん。知っている?理科ってあまり勉強は得意じゃないけど、絵とか作文とか、何かを想像することが得意な子だったわ」

「確かにそうだったね。絵も県で入賞したのを覚えている。それと作文も秋の読書感想文だっけ、それも県に入賞したよね」

 僕は二人の会話をメモしておく。

「自分の世界にどっぷり浸かっていて、何かに没頭すると周りが見えなくなるぐらいに集中しちゃうんですよね」

 それは未来、お前もだ。

「確かにそんな子だったな。

 まあお前さん方三人は面白いトリオだと、今でも印象に残っているよ」

 そうだ。僕達は周りから、いつもの三人組とか言われる程、有名だった。

 未来と高橋さんと会話は続く。

 主事さんの高橋さんは三十年この学校の主事としてやってきて色々な生徒を見てきたが、一番鮮明に記憶に残っているのは僕たちだと言っていた。

 それはなぜか。

 その事を未来は追求しようとすると主事さんの高橋さんは、思い出したくないような顔をする。

 僕と未来はそれがこの件に関する手がかりだと感じた。

 僕は未来を横目で見て、アイコンタクトで『これ以上はまずいだろ』と伝えると、今度はちゃんと伝わったようだが、未来は高橋さんの手を取りその双眸を真摯に見つめ。

「高橋さん。高橋さんにそれは差し支えがあるかもしれないけれど、私たちがそれを知らなくてはいけないのです。知らなければ、誰かが傷つくのです」

 高橋さんは辛そうに、思い切り目を閉じて思案している感じだった。

 きっと高橋さんの中で、激しい葛藤が生じている。

 僕たちの事、特に理科の事に対して、何か残酷な真実が眠っているようにも感じる。

 僕も何かその真実を知るのが怖くなってきた。

 でも知らなくてはいけない。

 でも怖い。

 僕の中でも葛藤が生じる。

 逃げるのか?立ち向かうのか?

 答えは簡単だ。

 立ち向かうに決まっている。

 でも心が壊れる事を恐れる自分。

 そこで僕の心の引き出しから、乗り越えれば、何かすばらしい何かが生まれてくると、未来に気づかせてくれた事を思い出し、僕も未来と同じように、激しい葛藤に見舞われている高橋さんの双眸を見つめた。

 そして高橋さんは語ってくれた。

 理科の母親とその担任が、理科の交通事故を良いことに、保険金の為に、薬物を投与して、殺してしまおうと。

 高橋さんの話を聞いて僕は後悔しそうになった。聞かなければ良かったと。

 でもこの件に関して僕たちは向き合わなくてはいけないと隣にいる未来と共鳴するように心を鼓舞させた。

 それと高橋さんも、理科に対する真実を誰にも語ることが出来なくて、たびたび思い出しては心つぶされそうな気持ちにもなったんじゃないかと僕は想像した。

 だから僕達に話したことによって、高橋さんは気持ちが、だいぶ楽になったし、僕達は手がかりを一つ手にした事でお互いに良かったんだと心の整理がついた。

 まあ、それはともかく、本当に大の大人である高橋さんが頭を悩ませる真実は僕が思った通り残酷だ。

 真実を聞いた時、おぞましい夢を見ているんじゃないかと本気で願ったが、これは紛れもなく夢でも幻でもない現実に起こったことだ。

 僕があの時、癇癪を持って理科をはたかなければ何て未来に後悔の言葉を呟いたが、未来は、

「過去を変えられる事は決して出来ない。仮に出来たとしても、理科にまた違った残酷な真実を見いだす何かに襲われていたわ」

 と。

 考えてみれば、未来の言っている事は正しいし現実的だ。

 さらに未来は、

「過去を変えられないなら、未来を変えるしかないのよ」

 本当に未来にはかなわない。そんな未来が僕の彼女であることに密かに誇りに思ったりする。

 未来は未来を変えるしかないと言った。

 未来の話を聞いて、残酷な真実を聞いて、心が真っ黒に染まっていた心が、枯渇した砂漠に潤いの雨が降るかのように心が潤い、まだ僕はこの件に関して行けそうな気がした。

 そして真実を受け止め、心を研ぎ澄ましてみようとすると、激しい憎しみの先に、独りぼっちで泣いている理科が見えてきた。

 その思いを確認するために、未来の方を見ると、未来も感じているみたいで、

「急ぎましょう」

 僕と未来は高橋さんにお礼を言って立ち去ろうとすると、高橋さんは、

「話を聞いてくれてありがとう。大分気持ちが楽になったよ」

 と高橋さんの表情はすっきりして、見間違いじゃなかったら、高橋さんは十歳ぐらい若返った感じがする。

 それで僕達も、こちらこそ、とお礼を言っておいたのだ。

 学校を出て、時計を見ると、午後二時を示していた。

 これから学校に戻って相談部の活動をみんなの為に、しなくてはいけない。

 未来には未来を頼る生徒達が何人かいる。

 だからとりあえず、この件に関してはとりあえずおいといて、学校に戻った。


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