違和感
夏休み色々な事があった。
まず、原島の件だが、未来の信じたとおり、原島は改心して、両親との隔たりを解消して和解していったと聞いた。
僕は思うんだ。
未来は本当にすごいなって。
そんな未来が僕の彼女だと言う事に誇りにさえ思ってしまう。
そして原島はそんな未来に距離を縮めてこようとする。
未来には僕という彼氏がいるというのに、未来は未来で原島に「原島君だってチャンスはあるんだよ」って。
それって今後未来と別れてしまうんじゃないかと懸念して、未来を失う事に大きく動揺してしまったが、それはきっと未来は僕に『私の心をちゃんととらえておきなさい』と言っているようにも思える。
だから僕がしっかりしなきゃ、未来は誰かにとられてしまう可能性だってなくはない。
でも未来がその気なら、僕も未来よりも良い女性にあって見返してやるなんて思ったりもする。
まあまだ僕たちは付き合って半月だ。
この夏休みで、僕と盟と未来で海水浴なんかしたりして、本当に良い思い出になったと思うよ。
盟は盟で僕と未来が結ばれた事に、大いに喜んでいた。
考えてみると盟は未来と僕を結んだキューピットのような存在かも知れない。
猫のミィミィはこの半月ですくすくと育ち、小さいながらも、機敏に動き部屋の中で盟と戯れて遊んでいる姿を見て何かほっこりとしてしまう。
そして新学期は始まった。
在校生は夏休みぼけで気だるそうな人もいれば、夏休み中も部活に闘志を燃やして生き込んでいる人もいる。
僕と未来は、気だるくもなく、闘志を燃やすではなく、夏休みの間も相談に来る人にその背中をそっと心の手で押してあげ、前へと促し喜びを感じていた。
誰かのためになることって、未来を通して僕は生きる喜びを感じている。
その喜びを僕は小説に描いている。
未来は僕のそんな事を知る由もないだろうが、僕が何かしている事には気がついている。
僕も小説家になって、生きる喜びを伝えられたらと、これは誰にも未来にも言えない僕だけの秘密。
僕は小説でこうつづったことがある。
もしすべての夢が消え、残された残酷な真実に苛むなら、誰かの為に生きる事を僕は伝えたい。
目の不自由な人の目になり、足の不自由な人の足になり、ただそれだけで生きる喜びを感じられるんじゃないかと思っている。
まあそれはそうと、相談部は新学期初日からも活動している。
未来が相談者の話を聞き僕はその書記を勤めている。
最近では未来だけではなく僕からのアドバイスも取り入れ、その効果は発揮されている。
恋の相談。将来の相談。家庭の相談。勉強の相談。それとお金の事と、ただ相談に来るだけで自分から何もしない人も。とにかくそんな人たちでも、未来は全力でその背中を押してあげる事に人力を尽くしている。
たまに教師に、そんな小娘に人生の何が分かるのかと反論してくる人もいた。
でも未来はそんじょそこらの小娘とは違い、その討論に打ち負かせて、相手を屈服させてしまうほどの話術の持ち主。
本気で誰かの為に役に立ちたいと言う気持ちは伊達じゃない。
まあそれはともかく。そんなある日の事、未来が相談者の話を聞いている時、僕は書記をしている。何となく開きかけたドアをかいま見ると、斉藤の姿が目に映り、僕は動揺してしまう。
「巧」
未来の声がして僕はその同様に囚われ我を忘れていた事に気がついた。
「あっ、うん」
「ちゃんと聞いている?」
とちょっと未来は怒り気味だった。
斉藤の姿を見て動揺してその気持ちに囚われていたなんていいわけも出来ずに僕はとりあえず。
「ごめん」
と謝っておいた。
「しっかりして」
と怒られてしまった。
とにかく今は相談者の悩みに真剣に聞き入っている事をちゃんと書記としてまとめなきゃいけない。
集中しろ集中しろ。
と自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、斉藤の事が頭によぎり、
「巧」
未来は僕を心配するような口調で僕に言う。
心配させたくないので、とりあえず、
「大丈夫だから」
と笑って見せた。
相談に来ていた人も「大丈夫ですか」と心配してくれた。
次に来たのは木更津先輩だった。
「水島さん。今日も良いかしら」
「どうぞどうぞ」
「聞いてよ。未来」
木更津先輩は水島ではなく未来と呼ぶようになり、そんな未来とお近づきになりたいと思って入るみたいだ。
木更津先輩のグチはもう書記に書き記しても仕方がない。
何て頭の中をぼんやりとすると、やはり先ほどの斉藤の姿が脳裏に浮かび、僕を苛ませる。
何か嫌な予感がして怖い。
斉藤が僕たちに何か逆恨みで、何かしてくるかもしれない。
目の前に未来がいる。
その未来がもろいガラス細工のように粉々に砕けていく姿が目に映り、僕は思わず叫んでしまった。
すると、そこには未来と木更津先輩が「何」と言いたげな感じで僕をみつめていた。
そんな二人を見て、僕は思いきり罰が悪くなり、とりあえず「ごめん」
未来は僕をさっきから様子が変だと言いたげに僕を見つめていた。
「巧君、大丈夫」
と木更津先輩にも心配をかけてしまった。
そこで木更津先輩が、
「いつも未来にはお世話になっているから、もしよろしかったら召し上がって」
と朱色の包み紙を未来に差し出した。
「お礼だなんて良いのに」
「たいした物じゃないから気にしないで」
包みを開けると手作りクッキーだった。
「おいしそう」
「お茶会の時に私の友達と作ったのよ」
「ありがとうございます」
「お礼が言いたいのは私の方ですから。それと良かったら巧君も召し上がって」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、今日はこの辺で失礼します」
と木更津先輩は去っていった。
未来は息をついて、さてそろそろ終わりかな。
時計を見ると十七時半を回っていた。
「せっかくだから、木更津先輩が持ってきてくれたクッキーでも食べようか」
「ああ、うん」
未来は口に入れ、
「おいしい」
僕も一口。
すると程良い甘みとバタークリームの風味がマッチしてとてもおいしいクッキーだった。
未来も僕も疲れたから、活動の後の木更津先輩のクッキーはこんな時にもってこいという感じの物だ。
日が沈みかけた頃、僕と未来は下校した。
やっぱり未来に話した方が良いだろうと思って僕は、
「未来、」斉藤の事を話そうとしたら、やはり聡い未来は、
「斉藤先生の事でしょ。大丈夫よ」
未来にそういわれて僕は安心してしまう。
未来に話して良かったと僕は思っている。
もしこのまま隠していたら、僕は眠れない夜を過ごすところだった。
夜机に向かいながら小説を描いている時、やはり未来は斉藤の事、大丈夫って言っていたが、やはり、何か嫌な予感がする。
未来を信じたい。
ここで僕は気がつく、未来に頼ってばかりの自分に。
未来は大丈夫だと言っていたが、僕は僕で心に銃を構えるつもりで用心した方が良いと思った。
それに僕は一人じゃない。
でも頼ってばかりではいけない。
とにかく嫌な予感はするが、多少その事で後込みはするけど、前へ進むしかない。
だから僕は今出来ること、小説を進めるのである。
次の日、教室に入るといつもの同級生達が友達同士色々な話題を繰り広げ語り合っている。
僕はあまり人となじむのが苦手で、いつものように一人席に座り、本を読もうとした時、何か違和感がした。
気にすることないと思って、再び本の世界に入り込んで空想を繰り広げようとするが、やっぱり何か違和感がして、そんな気分にはなれなくなる。
気のせいかな?それとも斉藤が何か仕掛けて来たんじゃ。いや斉藤に対して、きな臭い感じがして僕はちょっと神経質になっているんだ。
だから僕は気持ちを整えるために深呼吸して気持ちを切り替え、小説の世界にどっぷりはまった。
授業は始まり、気のせいだと感じていたが、やはり何か違和感がする。
それは本当に根拠のない事。
お昼休み、未来のクラスに向かい。
お昼、食べるがてら未来にその事を話してみた。
「巧も感じていたんだね」
未来がそういうなら、僕の気のせいではなかったかもしれない。だから僕は、
「じゃあいったい」
「確かに私も何か感じたよ。何か不穏な気配が。でもまだ分からないわ。とりあえず気を引き締めながら様子を見ましょう」
やはり未来は心強い。
斉藤が動き出したのか?
今の僕たちには分からない。
でも気をつけた方が良いと思っている。
そして午後、何だろう。この学校に未来と僕が二人そろって孤立したような感じだった。
放課後相談部の部室では、いつものように未来と僕は悩みを打ち明けにくる相談者が訪れにくる人に話を聞いたり、アドバイスをしたりといつも通りだった。
そして夕暮れ時、僕と未来が帰宅する。
校舎を出て僕は未来に、
「気のせいじゃないかな」
「・・・」
未来はどこか遠くを見つめて、黙り込んでしまった。
そんな未来を見ると、また今夜眠れない夜が始まることを恐れて、
「未来」
何とか言ってくれと言った感じで呼ぶ。
「まだ分からないけど、気をつけた方が良いわ」
気をつけるか。
何に気をつけるのかが分からない。それが怖い。
斉藤が何か仕掛けて来るんじゃないかと思ったが、憶測を巡らせるべきではない。
じゃあ、何なのか?
恐れる気持ちに翻弄されそうになるが、僕は一人じゃない。
だから僕は誰にでも訪れる朝の光を浴びて、気を引き締めて行くしかなかった。
次の日、事件は起こった。
教室に入ると違和感がするものの、衝撃的なニュースが話題になっていた。
木更津先輩が万引きで捕まり、今自宅謹慎を受けている事実だった。
僕は気が気でなく、クラスメイトの坂下に、
「坂下君、それ本当なのか?」
「ああ、まさかあの木更津先輩が万引きに手を染めるなんて以外にも以外で」
木更津先輩は優しすぎるあまり、誰にでもひたむきに接するから、心が疲弊して、万引きに手を染めてしまった。
それを阻止するために、未来は全力で木更津先輩のその鬱積した心のゴミを捨てさせるゴミ箱になってあげるって、それで木更津先輩は心を疲弊して悪魔に取り入られることはなかった。
そういえば昨日は木更津先輩は相談部に来なかった。
クラスメイトの人は木更津先輩のことを話題にして「失望した」とか「ああいう人間程危ない人はいない」とか。木更津先輩の事も知らずに僕は憤って怒ったら負けだと思って、深呼吸して気持ちを切り替えた。
お昼休みになり、早速未来の元へと駆けつけようとした時、廊下で斉藤を前にして、その顔を見て証拠はないが確信した。
斉藤の仕業だと。
斉藤が僕の目を見た時、その唇を少しだけ、ずらした事に、僕の頭の中で人が悪さをして、ほくそ笑む姿が脳裏に浮かんだんだ。
証拠はないし確信したと言ったが、また僕の思い違いかも知れないので、とりあえず未来とは相談した方が良いと思っている。
本当に怖い。
未来がいる教室にたどり着いて、未来の姿を見た瞬間に僕の心は安堵する。
屋上に行き、未来にこの事を伝える。
「未来、確信はないが、多分木更津先輩があんな風になったのは斉藤が何かしたんじゃ」
「・・・」
黙り込む未来に僕は不安になり、
「未来」
と、ちょっと大きな声で。
「とりあえず、木更津先輩の心のケアーが必要だわ」
未来の言葉に僕は改めさせられる。
そうだよな。犯人はどうより、とりあえず木更津先輩の心のケアーが先決だよな。
木更津先輩は自宅謹慎中と言う事で、僕と未来は木更津先輩の家に向かう。
「ここね」
未来が木更津先輩の住む、高級マンションを見上げ、中に入り込む。
外観もそうだが、中も立派だ。
木更津先輩からのグチから聞いたが、お金は合っても両親は共働きで、彼女は両親に迷惑をかけられないみたいだ。
それに自分に厳しく、人に優しくて、自分を犠牲にしてまで相手に尽くして、心のゆとりがなくなり、万引きの犯行に至ってしまった。
それを未来は見抜き、木更津先輩は心真っ黒に染まる事はなくなった。
それで木更津先輩が先輩らしくあるために、未来は木更津先輩の心のゴミ箱になってあげ、相談部にたびたび訪れて、未来に日頃の鬱憤をはらしていたんだ。
そんな木更津先輩に何が合ったのだろうと、オートロック式の扉の前で、僕と未来は立ち止まる。
機会音痴の未来はこのような事は苦手だと思うので、僕は木更津先輩の家の番号を入力して、呼び出しボタンを押した。
しばらくして、画面から木更津先輩が映り、それには僕も驚いた。
「未来」
木更津先輩の顔を画面で通してみてみると、今にも死にそうな顔をしていた。
僕は気が気でなくなるが、ここで未来が冷静に、
「木更津先輩、お話良いかしら?」
「私はあなたに会う資格なんてないわ」
と言ってぷっつりと画面から消えて行ってしまった。
僕は心配で、
「未来」
と呼ぶが、未来は目を閉じて黙っている。
僕はこの未来を知っている。
この時の未来は考えている時の未来だと。
ここで考えるのは、通行人のじゃまになると思うので、
「行こう未来」
自分の思考の世界に入ると何も見えなくなる未来をマンションの外に連れ出し、近くの公園に連れ出した。