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水島未来

 宮城県仙台市の北之宮高校は、どこにでも存在する普通の県立高校。

 そこに通う僕、相沢巧はどこにでもいるごくごく一般的な高校生である。

 それと人の相談に乗り、その人に一歩踏み出せる勇気を促す事を生きがいとする水島未来は自分のスキルを学校の為にいかせるじゃないかと思って、わが高校に相談部という部活を作った。


 僕、相沢巧はその彼女の幼馴染で強制的に協力させられ本当に迷惑になっている。


 勉強はおろそかになるし、いつも「勉強があるから、今日は抜けるね」と部活をパスしようとするが、彼女はいつも「巧は何のために勉強をしているの?」と聞かれ、僕は言葉に詰まり「え~と」言葉に迷うと「巧は成績はかなり良いし、とにかく勉強よりも大切な事を私と探しに行こうよ」と言われ僕はいつも強制的に、付き合わされてしまう。


 未来は相談部として人の相談に乗り、その人に一歩踏み出せる勇気を促している。


 そんな彼女はろくに勉強をしていそうにないのに僕よりも成績が良い。悔しくも思うし。遠まわしに皮肉な言い方になってしまうが「僕は未来と違ってバカだから」と言うと、未来は「それは違うよ」と否定され「じゃあ何が違うの?」と参考の為に聞いてみると、いつも決まって未来は。


「巧、汝自身を知れ」


 と言う。

「意味が分からないよ」と言うと、彼女はそれ以上言わない。

 とにかく僕は彼女と頭の出来が違うから、もっと努力が必要だと思って、相談部が終わり、毎日夜中の一時まで勉強している。


 相談部は放課後、終わったらすぐに始まる。最初は強制的に渋々だが、未来に負けたくないと言う気持ちで、いつも参加をしている。僕はそんな未来の事が好きなのか?と周りから言われる時があるが僕は強く否定する。

 本当にそんなんじゃない。

 さっきも言ったが僕は未来に負けたくないだけなんだ。


 そんなある日の事、僕は部活が嫌になり、ほったらかして、そそくさに帰ろうとした時、下駄箱の前で未来は待ち伏せしていて、

「巧、何逃げようとしているの?」

 と嫌らしい目をして、まるで僕の行動をすべて分かっているような感じで見る未来。

 何か僕の行動パターンが未来に筒抜けな事に悔しさを覚えてしまう。

 未来は「フー」と息をつき僕の手を掴んで相談室に向かうと思いきや、校門の外へと向かう。


「どこに行くの?」


「良いからついてきなさい」

 と僕は渋々ながらについていく。


 下校する生徒達をかき分け、未来が注目したのが生徒会長で品行方正種目美麗と言う言葉がしっくりくる人物である木更津涙先輩だ。

 彼女は男子からも女子からも人気の的であり、今彼女はさわやかな笑顔で友達らと下校をしている。

 そんな彼女の笑顔を見ていると癒され、見蕩れてしまい、まさにひとめぼれと言うのか、でも僕には高根の花だとすぐに諦めがついてしまう。

 それはさておき、未来は木更津先輩を尾行している感じだ。

 その訳を聞こうとするが「黙ってついてきなさい」とまるでストーカーじゃないか。もしストーカーだと思われたら誤解されるし、面倒な事になる。


 そして、木更津先輩は友達と別れ、一人になり未来は尾行を続ける。

 あんな人を尾行して、もしかして未来はそのレズビアンの気があるのか?いや、そうだったら僕をわざわざ連れて行ったりしない。

 多分意味があるのだろうが、僕にはさっぱり分からない。


 さらに尾行を続けて木更津先輩はスーパーに入り化粧品売り場で何かそわそわしている。


 そして驚くべき行動に出た。

 それは口紅を鞄の中にしまったのだった。

 見ている僕はあまりにも信じられない光景を目の当たりにして息が止まりそうだった。それと恐ろしくなった。


 そこで未来の真意が分かった。

 未来は、木更津さんのそのさわやかな笑顔の裏の黒い部分を見抜いていたのだ。

 怖くて面倒な事になりそうなので、僕は帰ろうとするが、未来に「巧、怖いのは分かるけど、現実から目を背けちゃだめよ」と言われ、僕はまた未来の面倒ごとに巻き込まれそうだった。

 未来をほおっておいて自分だけ逃げたいと言う気持ちがあったが、僕は未来を一人にしてはいけない気がした。

 そして数分後、木更津先輩が店から出てくるのを待ち伏せして、出てきた。


「木更津先輩」

 と未来が声をかけると身をすくめて、すごく動揺している。

「あなたは?」

「私は相談部部長水島未来と言います」

「な、何なのよ」

 やましい事を隠している感じだったが、僕たちは目撃している。木更津先輩はばれたのか?と狼狽えている。

「隠しているようですけど、私達は木更津先輩の事を見ていました」

 すると木更津先輩はその瞳を閉じて、そして開き直るかのように、

「だからどうするの?」

「木更津先輩。以前から思っていたんですけど、あなたは無理をしている。あなたは生徒会長で周りから支持され、自分はしっかりとしなきゃいけないと言うプレッシャーに押しつぶされそうで、心にゆとりが持てなくなっている」

「関係ないでしょ」

 立ち去ろうとする木更津先輩の背後に未来は、

「このままじゃ木更津先輩は心が真っ黒に染まり、取り返しのつかない事になる」

 木更津先輩は振り向いて複雑そうな顔をして、再び背を向け去って行った。

 僕はどうすることも出来ずに、去っていく木更津先輩の後ろ姿を見つめる未来を見るしかなかった。

 そして未来は呟いた。


「まずは一歩目」


 そういって未来は明るく「さあ、帰りましょう」と言って僕はその後に付いて未来と一緒に帰宅した。


 夜、僕は木更津先輩が口紅を盗むところが頭にこびりつき、怖くて眠れなかった。

 それに信じられなかった。

 あんな品行方正で生徒会長まで勤めている木更津先輩が万引きに手を染めていたなんて。

 それを見抜いた未来には木更津先輩がどのように映っていたのか分からないし、仮に僕が気付いても知らないふりをしている。

 そんな面倒な事に首を突っ込んでまで、木更津先輩を助けたいと言う未来の気が知れない。

 たまに思うが未来とは縁を切った方が良いんじゃないかと思うが、なぜか未来の頼みごとを断れない自分がいる。




 目覚めて体を起こすと何か体にまとわりついているものを感じて、見てみると、妹の盟が僕の布団の中に潜り込んで抱き着いていた。

 また妹に心配かけた事が分かった。

 何か気持ちがほっこりしてしまうが、何か自分が情けなく思ってしまい、盟を起こして「盟はもう九歳だからこんな事はしない」と言ったが盟は笑顔で「はーい」と返事をして反省しているそぶりはない感じだが、まあ良いか。


 登校中、昨日の夜は恐怖に苛んだが、気持ちが楽になった感じだ。

「おはよう」

 と未来の声がして、

「おはよう」

 と挨拶をする。

 すると未来は急に真顔になり、

「巧、ゴメンね。昨日はあんなのを見て辛くなかった」

 そのように心配されると何か癪に障るが、未来は未来で僕の事をそのように気にかけてくれたことが少しだけ嬉しかった。だから僕は、

「別に」

 と言っておいた。

「今朝は盟ちゃんが布団の中にいて大変だったでしょ」

「何でその事を」

 何で未来がその事を知っているのか疑問に思うと、少しして僕は未来に鎌をかけられた事に気が付き、怒りがこみ上げて、

「未来」

 笑って逃げる未来。

 絞めてやりたい気持ちになるが、ここは抑えて、その笑顔を見るとなぜか憎めなくなり、そんな気持ちすら、ならなくなってしまうのはなぜだろう。


 今日朝礼での木更津先輩の姿を見た時、昨日の事がフラッシュバックして僕は軽く息をのむ。

 木更津先輩は壇上に立って喋っている時、いつもの凛々しく毅然とした態度ではなく、少し動揺している感じだった。

 昨日、未来に万引きを指摘されて、その事に対して何か気に病んでいるのだろう。


 昼休み、未来に連れられ、僕は木更津先輩の様子を見に行った。

 木更津先輩はみんなとお弁当を食べながら、周りの人たちに毅然とりりしくふるまっている。

 未来は探偵でも気取っているのか、アンパンをかじりながら、その様子を伺っている。

「壇上に立っていた時は、かなり昨日の事で動揺していたのにね」

 木更津先輩のそんな姿を見て僕は思い出す。

 小学校の頃、親にも周りの人たちにもいい子だねって言われて、最初自分は良い子だって思われて気持ちのいいものだと思っていた。

 でもそう言われているうちに僕は良い子じゃないといけない気持ちに縛られ、それが強迫観念になり、心が黒く染まるような気持ちに陥り、・・・。

 それで僕は木更津先輩が昨日万引きをした気持ちが少し分かり、木更津先輩に対する恐怖心が不思議となくなっていた。

 だから僕は最初、面倒事だと思っていたが、未来の、いや木更津先輩の力になりたいと心の底からそう芽生え始めて来た。

 その後、木更津先輩の様子を見ていたが、壇上に立った時とは違って凛々しく毅然とした態度で友達たちと過ごしていた。

 お昼休みが終わりそうになり、その場を離れ未来と共にそれぞれの教室に戻ろうとした所、僕は思いきって言ってしまった。

「木更津先輩が万引きした気持ち僕にも分かった気がする」

「巧」

 未来は僕の方を振り向いて、僕の目を見て首をちょこんと傾け、僕の口から意外な事を聞いたと言った感じの表情をしている。続けて僕は、

「木更津先輩の事、僕も協力するよ」

 と言ってしまった。

 すると未来は、次第に表情を綻ばせて、

「巧、その気持ちが大事よ。さあ、木更津先輩の心の闇から一歩抜け出せる事を一緒に考えましょう」

 と意気揚々にそういって、僕は未来のテンションについていけなくなり、思い付き的な発言に僕は後悔した。

 そう思ったけど、放課後、本格的に木更津先輩をどうにかしようと未来の計画に僕も積極的に取り組めた。

 今日の部活の活動は、僕の部屋のパソコンでネットでうちの高校の事を調べて、木更津先輩に関するデータを採取した。

 未来は勉強は僕よりすごいのにパソコンの事はちんぷんかんぷんで、携帯だってスマホではなく、何年か前に高齢者向けに開発されたボタン一つで通話が出来るようなものしか使えない。

 僕が木更津先輩の資料を印刷して、未来はじっと見つめて考えている。改めてその未来はいつも相談部に来る人に対してよくよく考えている姿だ。

 そして精神を統一させ意を決したかのようにその双眸を僕に向け、

「巧、一歩踏み出しに行くよ」


 どうして未来は僕より勉強していないのに、そんなにトップの成績が維持できるの?


 どうして未来の周りには、幸せそうに笑う人たちでいっぱいなの?


 未来、生きる喜びって何なの?


 僕の疑問に未来の事が思い浮かんで、僕のイメージの中で未来は人差し指を突きつけにっこりと意気揚々として未来は言う。


 巧、汝自身を知れ。


 と未来はそれ以上の事は言わない。

 汝自身を知れとは、古代ギリシアの哲学者のソクラテスの言葉だ。その汝自身を知れとはその言葉通り自分を知る事だ。

 自分を知ってどうするのだろう。

 とにかく僕は勉強不足なんだと思う。

 もっと勉強して、その真髄を知る為に得なくてはいけないんだ。


 まどろんだ瞳をこすって僕は目覚めたみたいだ。

 体には毛布が掛けられている。

「お兄ちゃん起きた?」

 僕のそばには愛くるしい笑顔の妹の盟がいた。

「未来お姉ちゃんは言っていたけど、お兄ちゃんの事を大事にしてあげるんだよって帰って行ったよ」

 未来は妹の盟とは生まれた時から知っている。

 盟はそんな未来の事を心から慕っている。


 次の日、学校の放課後、未来と僕は木更津先輩の事を付けていた。

 それで木更津先輩が一人になるところを狙って、木更津先輩は校舎裏の人目のつかないところで涙を流していた。

 僕も木更津先輩の気持ちは分かるので木更津先輩の力に少しでもなりたいと思って、未来に協力している。

「木更津先輩」

 未来が声をかける。

 すると木更津先輩はおぞましい形相で振り返り、僕は息を飲む。

「見たわね」

 木更津先輩は誰にも見られたくない姿を見られて嫌に思う気持ちは僕にも分かる。

「・・・」

 黙り込む未来。

「私が万引きした所を目撃された上に、こんな醜態を見られるなんてね」

「・・・」

 それでも黙り込む未来。

「何黙っているのよ」

 心にひびが入りそうなほどの奇声を上げ、僕は泣きそうだったが、それでも僕は木更津先輩のその気持ちは分かるので目をそらさず、黙ってその姿を見守った。

 そして未来は言う。

「木更津先輩、少しはすっきりしたんじゃないんですか?」

 その未来の言葉に心打たれたかのように木更津先輩は嗚咽を漏らして泣いてしまった。

 その姿を見て僕は分かった。木更津先輩は甘える事が出来ないので、あのような犯行に至ったのだと。

 それで僕は思う。もし木更津先輩をあのまま野放しにしてしまったら、とんでもない事になっていたんじゃないかって。

 さらに未来は意を決したかのように言う。


「私は木更津先輩のゴミ箱になってあげるよ」


 と。


 木更津先輩の事に関しては一件落着といった所だ。

 その後、木更津先輩はたびたび相談部にやってきて、」未来は未来曰く『木更津先輩のゴミ箱になってあげる』と言う事で木更津先輩の愚痴などを聞いてあげていた。

 木更津先輩は人に打ち明ける人がいなかったのだ。

 生徒会長でもあり、周りから頼りにされ、そのプレッシャーに耐えられなくなってあのような犯行に至ったのだ。

 だから未来は木更津先輩の打ち明ける人通称ゴミ箱になったのだ。


 いい子でならなくてはいけない。

 子供の頃、そのような強迫観念に陥りそうになり、心が壊れそうになった時、そこには未来が側にいた。

 僕はこらえきれず涙が流れ、僕は泣いているところなんて誰にも見られたくないので未来に「あっち行ってよ」と言っても、未来は笑顔で僕を見つめていた。

 未来は泣いている僕に対してただ黙って僕のそばにいてくれた。

 それで僕はそんな未来に見つめられるとたまらなくなり、その場から逃げるように去った。

 それから僕はその良い子と言う周りからのレッテルを張られるのが嫌になり、初めて親に逆らった。

 親は唖然とした。

 ひどく叱られると思った。

 でもその後親は『巧の気持ちも知らないでゴメンね』と謝ってくれて、それから気持ちが楽になり、親との絆を深めたのだった。

 あの時、もしかしたら未来は僕の背中を押してくれたのか?どうなんだろう?もうずいぶん前の事だから、記憶があいまいだから分からない。


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