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(Ⅸ)支援要請

「彼とは誰の事ですか?」


「詳しく言うとザイン・ヴァール。以前学園でちょっとした争いから、僕達のクラスで過ごしてきた仲間だけど……覚えているかな?」


「何となくは覚えています。最初の方はネジ曲がった性格をしていましたが、先生に矯正された事で最終的には丸くなりましたね」 

 

 ザイン・ヴァール……武器は二丁の厳重を主とする橙色の髪をしていて全体的にづぼらである。性格は良くも悪くもさっぱりしていて、基本的に面倒な事は避ける傾向がある。

 けれど……一度やると決めた事は徹底的にやってくれるので、実に頼りがいのある仲間だと思っている。

 現在は学園を何とか無事に卒業して、ジェネシス王国監視外の暗い一本道にある何でも屋で様々なお客からの依頼を捌いていると思われる。どうして予測のような言葉を使うかと言うと、卒業式の間際に彼が計画と表してベラベラと語っていたからだ。

 無論、現在の彼が何でも屋を営んでいる保証なんて無いけれど……今はこの方法で頼るしかない!ベルは組織の仕事以外では殆ど出会わないし、レグナスは意識不明だから。


「よし、いこう。時間は有限だからね」


「はい、行きましょう」

 

 今からなら、ジェネシス王国に行くのに数時間は掛かってしまうから決めたのなら直ぐにでも出発しなければ。


「エイジ君、スノウを助けて。今の私はただ見守る事しか出来ないけれど絶対に無事に帰ってきて」

 

 いつものイタズラしてくる表情から一変。そこに居るマリア姫は一国の代表、もしくは妹のスノウを心配する一人の立派な姉の姿が目に写る。

 こんな事を言われてしまうと僕は決して諦めるわけにはいかない!何としてでも、スノウをあのアシュタロンとかいう闇の組織から助け出さないと!


「マリア姫、必ずや妹のスノウを助けて参りますので……どうか安心して待っていて下さい」

 

 その場でお辞儀して部屋を出て歩いていると廊下や各部屋で倒れている兵士を発見する。どうやらガウェインが侵入した後、気配を察知されないように身体に優れた兵士を引き連れてこっそりと排除していたようだ。

 現状、一部の人は余りにも酷い殺し方を躊躇する事無く実行している。慈悲などの感情は一切を持って存在しないらしい。どこまでも卑劣で許しがたい性格をしている奴には徹底的に痛い目に合ってもらう!

 両手の拳を握りしめながら、城を後にして電車にかけ子数時間もの移動で目的地の場所へと到達。

 ただ先ほどスノウが拐われた事で心に余裕が無いので、急いでその場にあったタクシーに乗り込んでザインが居ると思われる場所の大まかな住所を伝えて現地へと向かう。

 その間は落ち着く事が出来なかったので、心の中でざわざわしながら待っているとザインが居る可能性がある場所に到着するも運転手は余り心地よく無いのか、忠告を促す。


「お客様、到着しましたけど……くれぐれも目立たないようにしないと、厄介事に巻き込まれるので気を付けて下さいね」


「どうも、ありがとうございます」

 

 僕は運転手に指定された代金をしっかりと釣り銭の無いように渡して、クレインと共に景色を眺める。


「何だか怪しさ満点です」


「確かに」

 

 じろじろと睨み付けてくる通行人の目が痛い。それに道行く通行人はどの人も清潔感という物が皆無。普通なら、この場所から早々に立ち去りたい所だけれど帰るに帰られないやむを得ない事情というものがある。

 だから僕は道歩く人に煙たがれながらも、この場所の詳細やザインという何でも屋を営んでいる人物に心当たりがあるかなどを調べる。


「街の詳細は分かったけれど」


「肝心の要であるザイン・ヴァールの居場所が分かりませんね」

 

 この場所の名前はジェネシス王国から東へと続く裏道を辿る事で行くことが出来るアドモスという裏の店が行き交う監視対象外の街。何故監視対象外かと言うと、それはアドモスで仕切っている長がジェネシス王国にとって条件の良い案件などを持ち帰ったりするから。要はちょっとした賄賂。

 ただジェネシス王国も敵に回せば厄介だと考えているから、暗黙の了解をしている可能性が高いと思う。これは道行く通行人にから話を聞いて判断した事なんだけど。


「居場所だけは分からないと思っている」


「ザインは居るのですか?今まで散々通行人から話を聞きましたが、全員首を横に振っていましたよ」

 

 場所の話を聞いてから、一番の目標であるザインの居場所を聞こうとすると決まって首を横に振る。僕はその行為が言い触らさないようにしようとしている表情だという事が分かった。

 恐らくザインから口封じをされているのだろう……首を横に振る前に若干躊躇っているのが一番の証拠と言える。

 さて……僕だけが分かっていても、あれだから念の為に分かりやすく自分の考えを伝えよう。


「なるほどなるほど。つまりエイジの話を要約すると、必ずやどこかにザインがこっそりとどこかの場所で潜んでいると」


「そういう事さ!だから、まだ諦めるわけにはいかないよ!」

 

 引き続き、通行人からザインの情報や適当に並んでいる柄の悪い店を巡っていき、一つ一つ丁寧に地道に辿っていくとある装飾品のお店の店長が僕達を見かけた瞬間にクレインの元に膝をつく。これにはさすがのクレインでも戸惑いの表情を露にしている。助けた方が良いのかな?


「おぉ、こんな胡散臭い街に神秘的な少女!今日はなんて素晴らしい日だ!神に感謝!」


「エイジ、この人は頭があれなんで早急に立ち去ーー」


「せめて、せめて!写真だけでも撮らせて!その為なら何でも聞くから!」

 

 頭の丸い店長はかなりしつこい。何かこのまま放置しておくとクレインが魔法で蹴散らしてしまいそうだけど、何でも聞くのなら有りかもしれない。


「正直に言って、嫌なんですけど……」

 

 ごめん、クレインには悪いけど……やってもらうよ。ザイン・ヴァールを見つける為に。


「クレイン、協力するんだ。もしかしたら事態が進展するかもしれない」


「そこまで言われたら……やるしかありませんね」


「ほんとかい?やったぜ!」

 

 嬉しそうにはしゃぐ店長に腰まで赤くキレイに揃えた髪を持っているクレインはやや呆れ顔で渋々と黙々と店長の言われるがままにポーズを取って、なすがままに撮られていくと偉くご機嫌になった店長。その表情は本人が居ないところで浮かべた方が良いと思うんだけど……


「これで、俺の可愛い子集まれ写真がまた一つ誕生。うひひひ」


「あの、クレインも頑張ってくれたので……そろそろ本題に入っても、よろしいでしょうか?」


「勿論勿論!言った事は絶対に曲げないよ!だから遠慮無く罵ってくれ」

 

 クレインが僕の背中にしがみついているという事はよっぽど怖いんだろう。ここは僕が前に出て、早急に終わらせた方が良さそうだ。


「ザイン・ヴァールという方をご存知ではないですか?どうやら、この場所で何でも屋を営んでいるとの情報があったのーー」


「おいおい、随分と仲良しの二人があんな不気味な場所に行くのかい?俺としてはお勧めしないが」


「僕達は何としても、そこの場所に入って依頼を出したいのです!ですから、知っている限りの情報を教えてください!」


「やれやれ。しかし可愛いっ子ちゃんの写真を撮る前に何でも聞いてくれと言ってしまったのだから、キチンと教えないといけないな」

 

 頭の丸い店長は無い髪の毛の後ろ側を撫でながらも、ザインが居ると思われる場所を事細かく説明してくれた事で僕達は迷う事無く目的地の場所へと到達する。


「本当に……居るのですか?こんな近寄りがたい場所に」

 

 確かに近寄りがたいのは僕も同意見。ここまで到着するのに普段なら避けそうな二人すれすれの細い複雑な枝分かれの道などの裏道を多用している。

 着いたら着いたで二階のオフィスが目の前に広がっていて、名前は文字通り何でも屋として建っている。せっかく、自分の店を築き上げたのに……そんな名前で良かったのだろうか?僕が意見を述べても仕方ないけど。


「あの人を信じてみよう。本当に居るのならびっくりだけど」

 

 僕の背中にしがみつくクレインに苦笑しながらもガラス製のドアを恐る恐る開けると、一階のロビーの部屋は薄暗い状態。あれ?今日はお休みなのかな?


「すいません、誰か居ませんか!居たら返事を下さい!」


「んだよ。今はお昼寝タイムに突入している最中なのによ。入り口の横にある看板を見なかったのかよ。ふぁ~あ」

 

 そんなのあったかな?中に入る気持ちが一杯だったから、そこまで注意深く見ていなかった。


「という事で馴染みの客さんだろうが、帰ってくれ。俺はしばらく寝たいからハードでアグレッシブな依頼はまた今度という事で」


「ザイン・ヴァール、私達はまだ帰れません。あなたが協力するまでは」


「あっ?どういう意味で言ってんだ?」


「とりあえず部屋が暗いから、明かりを灯してくれるかな?そしたら、色々分かると思うよ」


「やれやれ、久々に面倒な客さんか……電気を付けるから、ちょっと待ってくれ」

 

 顔とか表情の物は見えないが、声や言葉から発せられるのは紛れもないザインだ。どうやら、本当に何でも屋を営んでいたみたい。まさに有言実行。


「さて俺にそこまでさせる理由……はあっ!?」

 

 案の定、ザインは僕とクレインの馴染み深い顔を見た瞬間に口をパクパクさせている。反応が中々面白いけれど、事態は刻一刻を争うから早く本題に入ろう。


「やぁ、一年ぶりだね。こうして会えた事を光栄に思うよ」


「何の用だよ?日頃お日さまに当たっているお前達が遥々ご足労を掛けたんだから、よっぽどの事情で来たんだろうな?」

 

 用心深いザイン。こういう時は包み隠さず、はっきりと伝えた方が良い。だから……


「単刀直入に言うと、アシュタロンに捕らわれたスノウを助け出す為に支援して欲しい」


「支援ねぇ。確かに何でも屋である以上は何に大しても受けないといけないが」

 

 ザインは形が整えられていない橙色のボサボサ頭をさすりながら、二階に行けとジェスチャーで伝えてきた。

「とりあえずこんな所で話し合うのもおかしいし、ささっと上がっといてくれ!」


「エイジ、二階に行きましょう!」


「行こう」

 

 僕は背中で若干怯えているクレインを守りながらも、ザインの指示に従い上の階段を使って二階の部屋へと目指していく。

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