表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

(Ⅷ)この偉大なる私がもらい受ける!

 マリア姫から事情を聞いた。内容はマリア姫のお見合いを阻止するというもの。どうやらマリア姫の父上に長く使えていた側近の一人が政略結婚らしき事を実行に移しているらしい。

 ただ、お見合いをさせられ拒否する理由が作れないマリア姫は僕を濃き使う為に連絡先を是が非でも調べ上げ、今やこうして出入り禁止という恐ろしく断れない言葉を悪巧みに使って僕に無理矢理協力させるのはさすがにどうかと思う。

 けれど受け入れてしまった以上は事態が終わるまで役目を演じきらなければならない。

 だから今やこうしてマリア姫が留守の間に太陽を遮断する屋根がある広々とした庭でスノウと向かい合って居心地の良い椅子に座り込んで先ほどまでマリア姫から聞いた事情を包み無く話している。

 ただ、スノウは基本的に穏やかだから僕の話に対して口を挟む事は全く無かった。スノウが喋り出すのは僕の話が終わってからだった。


「ごめんね、せっかくの休日が出来たのに姉さんが迷惑を掛けてしまって」

 

 ペコリと申し訳なさそうに謝るスノウ。何で妹のスノウの方がこんなにきっちりとしているんだろう?

 マリア姫はもうちょっと僕に対して礼儀をした方が良いと思う……何でこんな事を思い浮かべたのかが不思議だけど。


「とにかく受け入れてしまった以上は任を全うするよ。今さら怖じ気づく訳にもいかないからね」


「エイジ、噂のマリアが来ます」

 

 隣に座っていたクレインが耳打ちして報告をくれた時に僕を無理矢理依頼したマリア姫が姿を現し、やや高慢な感じで挨拶を始める。


「ご機嫌よう。久々にその凛々しい顔を見られて光栄ですわ。さすがは私のお気に召した騎士ですわ」

 

 マリア姫との出会いは一年前の深夜帯にジェネシス王国でキングによって先代のローマイアス国王が死去した後である。当時、僕は入ってはいけない王の間をこっそりと見ていた時にマリア姫に見つかってしまい無理矢理専属の側近にされそうだったが、何とかきっぱりと断る。

 それからは特に何も言われる事は無かったので気が軽かったけれど時間がある時にスノウと会って以来、側近のお誘いを幾度となく実行している。


「さてさて、今日こそは私の専属のーー」


「ごめんなさい、丁重にお断りします。僕よりも優秀な人が沢山居ますので、僕の事は諦めて下さい」


「まだ最後まで喋っていないのだけれど」


「マリア姉さん、いい加減にして下さい」


「マリア、しつこいです」

 

 スノウとクレインの注意にマリア姫はさほど気にする事無く、軽く咳払いをしてから話を進めていく。


「こほん!では、さっそくですが私からのお話を聞いてくださいまし」


「なるべく手間の掛からない話にして下さい。僕も昨日の遠征でヘトヘトなので」


「遠征って……どこに行っていたのかしら?」

 

 マリア姫に場所を聞かれたので僕は包み隠す事無く、北の地であるオセアムに行ったと伝えると珍しく申し訳なさそうな表情で謝る。


「何かごめんなさい。せっかくの休日だというのに、もう少し空気を読むべきでしたわ」


「いえいえ、気にしていないですよ」

 

 脅迫みたいな電話をしなければね。


「では、さっそく昨日の電話の詳細をお伝えしますわ」

 

 今回のマリア姫が頼む依頼。それは僕が偽りの結婚相手となってお見合い相手から縁を切られる事。僕にはスノウが居るというのに……


「あの、僕とスノウの関係は城内で結構認知されてますよね?上手く事が運ぶんですか?」


「大丈……夫だと思うわ。ごり押しでやれば何とか上手くいける筈よ!」

 

 歯切れが悪いんだけど、本当に大丈夫なのかな?現時点では上手く事態が収束する気がしない。


「マリア、エイジに馴れ馴れしくしたらスノウと一緒に沈めます」


「あらあら、怖い怖い。なるべく穏便にやり過ごすわ。ベタベタしない程度にね」

 

 クレインとマリア姫の間に鋭い睨み合いが開幕。僕が止めれる保証が無いので、スノウと一緒にその光景を眺めていくとマリア姫は呆れた表情になり


「もう良いわ。とにかく今日の昼頃にはいけすかないお見合い相手が来るから、約束の時間帯になったら王の間に入室する事!遅刻は勿論厳禁よ!それじゃあご機嫌よう」

 

 つかつかとブーツの足音を響かせて庭を後にすると睨み合いで疲れたのかクレインは椅子にもたれ掛かって目を閉じる。


「先程の余計な行動で疲れました。しばらくは寝させてもらいます」


「分かったよ。お休み」

 

 最近、クレインは暇があると直ぐに休眠を取る。僕の考えではルーンの激しい消耗による物だと考えているけど……あんまりにも酷かったら医療機関に相談しに出掛けた方が良いかもしれない。

 両目を閉じて、和やかに眠るクレインをそっとしておいて僕とスノウはクレインの睡眠の邪魔にならない場所で他愛ない話をお昼まで喋り合い、マリア姫に言われた約束の時間帯になってから心地よく寝ているクレインを優しく起こしてから指定の場所である王の間まで歩き、部屋に入室早々にユニバース王国の象徴であるマントを着けさせられると王の間の椅子に座っているマリア姫は嬉しそうな表情で褒めちぎる。


「完璧ね。今回は急ごしらえだけど、完全な服装に身を包めば私の側近に相応しい騎士となるわ!」


「どうも、それより約束の相手はいつ来られるのですか?」


「もう、間もなくよ。エイジ今日は宜しくね!」


「えぇ、宜しくお願いします」

 

 敬語で喋る態度に不機嫌な表情をしているマリア姫。あまりにも公然過ぎて気に入らないのだろうか?


「マリア姫!お見合い相手の方がご到着されました!」


「ご苦労!通しなさい!エイジ、相手が不審がられないように騙すわよ。それと父上に長く使えていたアルグレッドに気付かれないように……バレたら一貫の終わりよ」


「分かりました」

 

 何か凄く取り返しのつかなさそうな事態になっているような……もう遅いんだけどね。


「失礼します!」

 扉を勢い良く開ける青年はすかさずマリア姫の前で膝まずくや否や、名乗り上げる!


「我が名はアヴァロン王国から馳せ参じた一国代表のガウェインである!本日この場に招待してくれたことを光栄に思う!」

 

 いきなりの大声を上げる青年の名前はガウェインと呼ぶらしい。髪の色は僕と同じく黒色で髪を後ろに追いやっている。服装は一級品の装飾品がズラリと並んだ白色の背中のマントに赤い服を包んでいる。

 どうやら、あの一件で引き継ぎはガウェイン王になったと思われる。それにしても跡継ぎはさほど時間が掛からないんだ。てっきり王国事態廃れるかと考えていたけど……全くの杞憂だったみたい。


「遠くから遥々ご苦労様。わざわざ来てくれて私も光栄です」

 

 言葉だけ聞いたら何も感じないけど、表情が心底嫌そうな顔をしているのを僕は見逃さない。ただガウェインは至って前向きな姿勢で態度を変えないので、マリア姫よりもガウェインの方が大人である。


「いえいえ、本日はこのようなお見合いですから……さっそくお外に出ましょう!私に、この王国を案内してください」

 

 この調子でいくと僕の出番は当分というより永久に無さそうだね。良かった良かった!?


「あら、ごめんなさい。私には将来を約束した最高の騎士が居るので、それは叶いませんわ」

 

 やめて、僕の左腕に絡ませないで……横の方でクレインとスノウがメラメラと燃えているからさぁ。


「やれやれ、姫のご冗談に付き合う程私は暇ではないのですから、早く私と一緒に!」


「ごめんなさい、それは無理なの。ねぇ……エイジ?」

 

 もう、無茶苦茶なんだけど。打ち合わせした意味あったのだろうか?しばらくガウェインとマリア姫の静かなる言い合いが続くと、ガウェインは心がおれたのかガックリとうなだれる……ここまで否定されると何かちょっと可哀想に思えてきた。


「マリア姫、さすがに言い過ぎですよ」


「あら、ごめんなさい。エイジがそうおっしゃるのならこれ以上の醜い言い争いは止めますわ」

 

 ふぅ、助かったぁ。事態の落ち着きを取り戻せた事に安堵する。だが、次の瞬間……ガウェインはその場で指をパチンと鳴らして予想だにしない行動に出る。


「何をしているの!?」

 

 何だコイツらは?少なくともアヴァロン王国に勤めている兵士達じゃない!


「面倒な事は控えておきたかったが、仕方ねえな」


「あなたの目的は?少なくともお見合いに見えませんが」


 周りの兵士に武器を突き付けられた僕は慎重に問いただすとガウェインが快く答える前にガウェインの後方で立っているアルグレッドが敵の兵士に取り押さえられながらも怒りの表情と共に声を荒げるがガウェインの一言で瞬く間に血の池と化す。


「何でこんな事を!あなたの目的は何なの!」


「私の目的は人身売買。あなたを売り捌く事で我々アシュタロンは一生の軍資金を得て、やがては世界を裏から牛耳る最強組織となる。もはや精鋭の騎士揃えなどという言葉だけのお飾り時代は終了したのだ!」

 

 どうなっているんだ?今回の犯行はアヴァロン王国の王という名前を偽ったガウェインの計画だというのか?


「その顔は余り理解していないようだな。私の名前は無論偽名。本人は馬車で移動最中に暗殺して自身の顔を本人に似せる為に魔法をかけた。その後からアルグレッドの爺が来たから上手く事が運ぶように進めた。おかげで今はこの通り順調に成功しているから感謝しよう!さて、長話はここまでにして目の前で威張り散らしているマリア姫の代わりを探す……と発見!」

 

 発見の言葉に兵士は一瞬で、雪のよう真っ白い髪を施したスノウを抵抗出来ないように拘束。まずい、このままだと!


「おっと下手に動くなよ。この白姫ちゃんの命が無くなるぜ」

 

 所詮は脅し。だけれど、その言葉を頭に刻んだだけで僕の思考は止まりそうになる。クレインも同様に抵抗を図ろうとするが、今の状況では無理だと悟ったのか大人しくしていた。


「お利口お利口!じゃあ、標的変更でこの白女は偉大なる私が貰っていくとしよう」

 

「スノウ!」

 

 僕は叫ぶ。名前を何度も何度も。捕らえらていたスノウも抵抗を図りながらも精一杯の声で僕の名を繰り返す。


「エイジ……エイジ!」


「見たところ、スタイルも顔も抜群だし……こりゃあ売れるなぁ」


「くっ、お前!」


「悔しかったら、頑張って取り戻してくることだな。我等、アシュタロンに勝てるのなら……という話だが」

 

 僕の顔に唾を撒き散らしたガウェインは用が済んだのだろう。スノウ以外を解放して大人しく精鋭部隊と共に部屋を外出する。しかし振り向きざまに脅しをいれてきた。


「あぁ、いい忘れていたが……この世界の秩序を守るクロノスに通報をして襲い掛かった瞬間にこの可愛らしい女性に危害が加わるから間違ってもそんな事をするなよ。あと、ユニバース王国共々動いたら……分かるよな?それじゃあ、お元気で!」

 

 脅しに逆らえば、スノウの命の保証は無い。国も動けないなら下手に動けないじゃないか!


「エイジ、どうしますか。事は重大です」

 

 どうすれば良い?クロノス聖団に報告などがおこえない状況下。となると僕が実行するべき事は……彼に頼るしかない。


「クレイン、付いてきてくれ。まずはあいつらに対抗する為に彼を誘おう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ