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(Ⅶ)安らぎは与えない

 意地でも抵抗を図る敵。僕はその抵抗を問答無用で切り伏せる。数は最初に比べると落ち着いている。

 やがて、ソール将軍から大将は死んだとの声明が発表されると敵兵は落胆するように、武器を落としていく。


「試合終了。ようやく帰れるな」


「うん、そうだね」

 

 革命派による反乱は無事に終える事が出来た。あの後レグナスを除いた僕達三人はメルビン王子から大袈裟過ぎる程の賛辞を受けて何事もなく、クロノス聖団に向かう電車に乗り継ぐ。その時も何故かメルビン王子が居た。


「カーネル大佐には礼を言っておいてくれ!無論、君達にも感謝する!今度暇があれば、是非とも遊びに来てくれ!とっておきの物をご馳走しよう!」

 

「偉く上機嫌だな」


「まぁ、今回の一件で戦乱は終わりを告げたからね。気分が良くなる理由も何となく分かるよ」

 

 僕とベルはひそひそと聞こえないように語って敬礼をすると、案の定メルビン王子は嬉しそうに手を振る。しばらくして電車が動き出し、落ち着ける状況になってから片手で持てる小型タブレットをカーネル大佐に繋いで業務報告をおこなう。


「やぁ、無事に……終わっちゃったようだね」

 終わっちゃった?まるで終わらせないようにして欲しかった言葉に聞こえるんだけど、気のせい?


「えぇ、レグナスが意識不明ですが」


「一人は重症か……まぁ、今回はよくやった。ゆっくりと電車でくつろいでくれ。それじゃあ」

 

 どうしたんだろう?いつもなら嬉しそうな顔をしながら喋り出すのに。何か今日のカーネル大佐は様子がおかしい。


「疲れているのかな」

 

 長く勤めていたせいで疲れが溜まったんだろう。そうとしか思えない。


「エイジ、表情が曇っています。何かあったのですか?」


「クレイン……何でもないよ。業務報告も終えたし席に座ろう」

 

 あの時に何故もっと気にかけなかったんだ!!僕がもっとあの業務報告の時点であの人を…………ここから次第に僕の道は大きく分岐していく、決して戻れない道へと。

※※※※

「エイジ君からの業務報告を受けた。そろそろ始めるのかな?」

 

 カーネルは手に持っている受話器を親機に戻し、正面のソファーで優雅にお茶を楽しむ縦長の帽子を被った男性に声をかけると男性は無言で口につけているお茶を机に置いて無論だと語る。


「私の約束を守れなかったミナトが死んだ今、我々が愚かしき人間に手を下す時がきたのだよ!その事は当然分かっているのだろう?」


「勿論。まぁ……本音を言うともう少し俺が招待したエイジ・ブレイン君をこの目でじっくりと見ておきたかったんだけどね」


「クロノス聖団の秩序遊びは終わりだ。これより我々の計画を本格的に実行する。失敗する事は許されない」

 

 イスカリアはすかさずカーネルの背後に回って肩を叩き、カーネルにしか聞こえない程の小さな声で囁く。


「時代は私達の物、もうすぐ世界を支配するのは我々さ……ヨハン」


「その名で呼ぶのは随分と久しいな。お前さんに禁止されていたからカーネルが定着していたよ」


「カーネルの方が良かったか?」


「いや、ここまできたら区切りをつけてヨハンがちょうど良い」

 

 二人に沈黙が訪れる。しばらく数分経ってからイスカリアが奇妙な声で笑い出す。


「はははっ、そうだね。ヨハンの方がよっぽど似合っている。むしろカーネルの名前の方が違和感に近い……」


「笑うなよ。てかさっさと本拠地に帰れ。俺は一応ここの長だから最後まで雑務をこなさないと気持ちよく終われないんだよ」

 

 カーネルはイスカリアに対して邪魔だと手でジェスチャーを促すと、イスカリアは言う通りに退散する。だが、最後に退散する間際に一言語る。


「計画は一週間後……お前がお手製で作り上げた広い部屋で兵士をかき集めて精神を破壊し、我々の奴隷として戦力に置く。その後は」


「言わなくても、分かっている。俺がアイツの中に眠っている膨大なルナをたっぷりと頂く」


「分かっているなら良い。では、そろそろ人が来る頃合いだから退散するとしよう」

 

 イスカリアは手をパチンと弾き出したと同時に消え去る。カーネルはホッと息をつかせて深呼吸すると、椅子にもたれ掛かる。


「悪いな、エイジ君。これも運命なんだ……君に安らぎは永遠に訪れない。我々が人間に復讐するのを諦めない限りね」

 

 部屋のノックが鳴る。カーネルはいつものように表情を戻して、どうぞと促す。


「失礼します!今回の調査の任務の報告をおこないます!」


「分かった。聞こう」

 

 カーネルは密かに心の中に迷いが生じている。だが、今や計画が始まる段階で拒否権は無いに等しい。彼は逆らえない……イスカリアの命令。そして昔に自身を追いやった人間を。

※※※※

 なんとか帰ってこれた。僕は腹を空かしているクレインに道中にある甘いお店からおやつを買って上げると嬉しそうにモグモグと良い食べっぷりを披露する。


「お前の召喚獣は随分と甘い食べ物に熱中しているなぁ」


「クレインは食いしん坊だから、しょうがないんだ。ちょっと食べ過ぎるおかげで時々財布の金が持たない時があるけど」


「エイジ、おかわりしたいです」


「とまぁ、こんな様子なんで注意も出来ないんだ。ははっ」

 クレインにはいつか金の貴重さを……やっぱり駄目だ。こんな嬉しそうに食べている姿を見ると、注意する気持ちが無くなる。


「うっぷ。旨かったですがそろそろ本部に行きましょう」


「誰のおかげで遅れていると思っているのか頭に刻ませた方がーー」


「わ、分かった。早速行こう!大佐を待たせてしまっても良くないからね」

 

 こんな人が見ている所で争っているのを見られるのは良くない。ここは何とか怒っているベルをなだめる方針でやっておかないと


「エイジ、ここ最近はスノウだけでなくそこで食べ過ぎのクレインに甘いみたいだが……もう少し厳しめでやっておかないと不味いと思うぞ!もっとビシバシと遠慮無く言ってやれ」


「その内、間を見つけたら指導する。だから、今は落ち着いてくれ……ベル」

 

 ふぅ、よく食べるクレインや食べてばっかりのクレインを諭そうとするベルを落ち着かせるのはあんまり楽じゃないな。僕一人だけだから、荷が重い……


「エイジ、エイジ!早く」


「はいはい、行こう」


「たくっ、甘やかすのは当分終わりそうにないな」

 

 ベルの言う通りかも。このままじゃあ、クレインの食べ歩きと腹減り癖は治らない。かといって無理矢理治すのは何かが違う気がする……あぁ、考えるな。今は目の前にある目的に集中させるんだ!余計な雑念はしばらく捨て去るんだ!


「お疲れ様です、ブレイン少尉・ベル中尉!」

 

 道中の食べ歩きを何とか終えて、クロノス聖団本部の入り口に差し掛かった瞬間に二人の騎士に敬礼をされたので僕とベルはすかさず敬礼で返すとベルが口を動かす。


「お疲れ。大佐は?」


「部屋で待機中です」


「っ!もうかれこれクレインの食べ歩きに30も付き合わされた……一体どの面下げて謝れば良いのやら」

 

 うん、何かごめん。クレインが面倒を掛けてしまって


「とにかく急ごう。基本的に僕が謝罪するから心配しないで」


「お前がやるなら、別に構わないが」

 

 なるべく早足で大佐の部屋に歩いていく僕達三人。歩き回る内に正面の大きな立派な扉にたどり着いた時に僕は一呼吸置いて、許可を頂いてから入室に踏み込んだ瞬間に素早く帰還の報告を済ませて、30分待たせた謝罪を可及的速やかに行うとカーネル大佐は大笑いで全く怒っていない様子。普通に考えたら激怒間違い無しなのに。


「あははっ!帰還早々に早口の謝罪をされるとはな!恐れ入ったよエイジ君!」


「あれ?怒らないんですか?」


「怒ってどうする?それに……クレインちゃんの頬にあるホイップクリームを見たら状況なんてわかるもんだよ」


「エイジに動かされたおかげかお腹が減ってしまいました」


「良いよ、別に。その間に書類の整理をしていたから逆に良い時間だったよ……さてと」

 

 カーネル大佐は自身の椅子から立ち上がり僕達三人を見渡し、労いの言葉を掛ける。


「今回の遠征ご苦労だった!レグナス君が意識不明だが、今こうして再び元気な姿を見れて嬉しく思う。君達の体調を考慮してしばらくは有給扱いとして休ませるつもりだから、別命があるまでゆっくりと身体を休めてくれよ。俺からの話は以上になるけど、質問ある?」


「いいえ、特には」


「そうか、じゃあ解散だ」

 

 カーネル大佐の一言でその場はお開きになる。ベルが先に部屋を出てクレインと同時に部屋を退出しようとする僕にカーネル大佐は呼び止める。

 振り返って見ると、いつもみたいに事件がある時以外のにこやかな表情をせずに妙に深刻な顔つきをしている。

やはり何かあったのだろうか?


「エイジ君、これから先……きっと、もっと辛い目に会うかもしれないが諦めないで欲しい。君には頼れる仲間が沢山居る。そいつらを頼りに生きていくんだ」


「やっぱり電話の時にもあれでしたが……何が起きているんですか?僕でよければ力を貸します!だからーー」


「何も起きちゃいないから安心しな。君は俺直々のアドバイスを有り難く頂戴して別命があるまで今後の人生を謳歌してくれ」

 

 それきり、カーネル大佐から言葉を発せられる事は無かった。僕はコクリと頷いた後、部屋を退出する。


「今日に限って、あの人は妙な言葉を言いますね。まるであの人が死亡するような」


「クレイン、笑えない冗談はよしてくれ。カーネル大佐が死ぬとか嘘でも言ってはいけない」


「失言でした、先ほどの言葉は前言撤回しておきます。ところで話は変わりますがこれからどうしますか?現時点では予定無しですが」

 

 そういえば、何も考えていなかった。どうしようかな?


「うん?ブザーが鳴っている」

 

 誰からかなとタブレットのモニターを見てみると見知らぬ番号。僕は邪魔にならない場所で勇気を持って出てみると、僕の知る人物の声が聞こえてきた。


「ハロー、お元気?」


「その声は……マリア姫ですか?」


「イエス。私の名前はマリア・ローゼン。電話番号は部下に調べさせてやった物だから安心しなさい。それよりもまたしてもあなたに頼らざるを得ない案件が発生したの。聞いてくれないかしら?」

 

 ここにきて、スノウの姉であり一国を治めているマリア姫から依頼か。本当は受けたくないけど、逆らったら出入り禁止になりそうだから選択は慎重に行う必要がある。


「エイジ、これは罠です。きっぱりと断りましょう」


「聞いてくれない場合はあなたの愛しきスノウの顔を拝む事が出来ないのだけど……良いのかしら?」

 

 僕は脅されているのか?前に学園に居た時もこんな事があった。はぁ、ここは出入り禁止を喰らわない為にも言う事を素直に聞くしかないか。


「分かりました。あなたが悩んでいる事情を話してください」


「あら、理解が早いのね。じゃあ……悩み事を話すわ」

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