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(Ⅵ)始まる決意

 雪原のど真ん中に立つ僕は額から汗がポツリと落ちる。それはかつて無い程のオーラを感じるから。この男の容姿だけを見てると、どこかの空き地や道路でたむろしている青年と変わらない。

 だけど、バルトからは尋常では無いくらいの怖さを醸し出している。一年前に一回だけ見たイスカリアと同等のおぞましさ。 


「どうしたよ?来ないのならこっちからやってやるぜ!」  

 

 服装は統一されている可能性が高い中央の黒い十字架に白いジャケット。武器は鎌だけしか無さそうだが、あの視線がかなり怖い。下手したら目線だけで怯ませる事は容易いかもしれない。


(エイジ!)    

 

 クレインの声に咄嗟に今置かれている状況に気づいた僕は振り上げてくる鎌を払い落として切り上げる戦法を取るも相手側のバルトは怯む事無く振り上げてきた。更にバルトは目に見えぬ速度で連続攻撃を仕掛けてくる。僕はこの早すぎる速度にガードするしか出来ない。   


「そらぁぁ!どしたよ!もっと俺を楽しませるようにしてくれよ」       

 

 このままじゃ良いようにされるだけだ!こっちから仕掛けないとやられる!目に見えぬ攻撃に圧倒されそうになる僕はタイミングの良いところで紅の大剣を突く形で攻撃をすると、バルトは鎌の刃の部分を使って未然に防ぐ。駄目か……やはり一筋縄ではないのか。    


「危ねえな、おい。もうちょっとで腹直撃の全治一週間コース行きだったぜ!」 

 

 余裕の顔で手に掲げた紅の大剣を押し出して首の所に狙い付ける。しかしながら、その攻撃はレグナスの助力によって回避される。どうやら貸しが一つ増えたみたいだ。    


「あのまま倒れてれば楽に終わるのにな」

              

「悪いが、そこで終わる程の雑魚じゃあねえんだ。せめて俺に呪いを与えやがった人物を葬るまでは全力でやらせてもらう」

 

 レグナスは無駄な動きを止めて、必要最低限のやり方で仕掛けていくもバルトはスラスラと見えているかのように避けていく。


「こっちも相手になれよ、バルト!」    

 

 レグナスの追撃最中にバルトの背中に予め回り込んでいたベルは一直線に稲妻を帯びた大剣を振り下ろすとさすがにかわせなかったバルトは見事に直撃。

 その後、痛そうにしながらも後方へと距離を取って離れていく。


「三人はキツいな。この状況は俺にはシビアというもの。さて、どうすれば沈める事が出来るんだろうな?」


「その割には余裕だな」


「そうかい、まあどうだって良いけどな。たった今思いついたし」

 

 バルトは両手を横に広げて何かブツブツと唱えはじめる。その呪文の詠唱は僕が学園で勉強していた時にも聞いたことが無い。まさか・・・魔法では無い魔術なのか!?


「全ては地を押し戻し背徳と化す。恐れを抱け!不死身の魔よ!!」 

 

 詠唱を唱えきったバルトの周辺の雪原からどす黒い霧と共に人間の形をもした物体が動き出す。だが、それが何体も何体も地面から湧き出るのが厄介。これじゃあ、バルトの元にたどり着く前に体力が無くなる。


「っ!斬っても斬ってもキリが無い!」

         

「死体共、そこをどきやがれぇぇ!」  

 

 レグナスは咆哮とほぼ同時に青い炎を地面から湧き出てきた物件に直撃させると大半の者はその場で倒れていくが、まだまだ地面から出てくる以上まともに戦っていても意味がなさそうに見える。もっと効率良く動かない限り、僕達に希望は無いだろう。


「さぁさぁ、もっと湧きやがりな。あの場で立ち往生している三人を沈めろ!」         


「レグナス、エイジ!この場は俺に任せろ!!」

 

 ベルは俺達に離れてくれとジェスチャーを送ってきたので僕とレグナスは素直に距離を取ると、しばらくしてから体内に貯蓄していた電撃を身体全体に流し込んで一斉に敵に向かって放電させる……とバルトの表情はやや引きつっている。

 そんな時折、僕達二人は必勝法としてベルが放電している間と吹雪の威力が凄まじい時に背後に回って機会を窺うという作戦に的を絞る。


「しくじるなよ」  

 

 一言で済ませてしまうレグナス。僕も負けじと言ってやるか。


「君こそ失敗しないでね」

              

「てめえ」     

 

 よし、ベルが放電を溜め終えて大量の稲妻攻撃を始めた!今なら大量に湧き上がる生き物を凪払える上にバルトに近付ける!


「いくぞ」     

 

 吹雪の舞う空。僕達二人はバルトの見えない所で背後を取ってから、急接近。それからは思い思いの剣を振り下ろすとバルトは視線に気づき、背中の強襲を防ぐために正面に構えていた鎌を素早く背後に回して防御態勢を取る。     


「なるほど、道理でお前達二人の姿が見えなかった訳だ。目の前に居る稲妻に集中していたから気を許しすぎたな」   

 

 僕とレグナスの共闘攻撃でさえも何食わぬ顔であしらうバルトは背後に回した鎌の一撃で追い払ってから、手のひらから魔術なのだろうか?色々と複雑な文字が刻み込まれた状態で


「弾けろ、アルテマ・レイヴン」    

 

 宙に浮かぶ二つの多く並んだ文字列は詠唱が済まされるや否や超強力と思われるビームを放つ。僕はすかさず紅の大剣を正面に突き出すが、余りの威力に後退りが止まらない。 


「威力がありすぎる!一体どうすれば良いんだ!」


「てめえは守りに入っとけ!俺がこいつをぶちのめす!」


「出来るのかよ、さっきまで良いように可愛がられていたお前が?だとしたら笑えるぜ」


「本気を出せばお前なんて、すぐに終わらせる事は容易い……この命を多少犠牲にすればな!」

 

 犠牲になんて……駄目だ!そんな事はさせない!


「お前とベルはそこで突っ立てろ」

 

 首に剣が当たりそうになる。これは、もう覚悟を決めたという事なのか?だったら僕が口を挟む領域じゃない。ここは素直に任せるべきだ。


「お仕事だ、ライア。目の前で偉そうに待っている奴を完膚なきまでに滅ぼす力を寄越せ」

 

 誰かに呼び掛けるように淡々と喋るレグナス。そしてしばらく経ってからまた独り言を始めていく。


「死ぬつもりはねえよ。やるべき事を為し遂げるまではな!」

 

 戦闘中に言っていた呪いを掛けた人間。その人に復讐を為す事が彼の目的。だから、レグナスは強さを極めていたのか。


「何だ?背中から飛び出ていやがる!」


「驚く事かよ。これくらい地面からえげつない生き物を生み出すお前ならなんて事もないだろ」

 

 唖然とした表情をするバルトに対してレグナスは冷たく返す。それはバルトの言った通り、背中の服を一部分飛び出した青の翼が片方だけ姿を見せていた。レグナスは背中に飛び出てきた翼を気にかける様子も無く、今や二つの剣から一つの本来の形として戻った剣で気が済むまで振り回す。


「準備運動場のつもりか」


「そんな所だ。この力を使うのは初めてだからな……手加減は期待すんな!」

 

 凄まじい加速と共にレグナスは手に携えている一本の刀であちこちの箇所に高速で瞬く間に切り裂く。対してバルトは地面から無限に湧き出てくる生き物を生け贄にしながらも自身の所有する鎌で抵抗を図ろうとするもレグナスの圧倒的な強さに為すすべも無く、ただやられていく。

 もはや、これは一方的な戦闘に近い形。そんな光景を僕はただただ遠くで決着がつくまで眺めていなければならない。


「なっ!速すぎる!?下手したら加速系の魔術を超えるぞ」


「相も変わらず無駄な話が多いな。次で楽に逝かせてやる」

 

 人の目には全く見えない程、目に留まらぬ速さで圧倒していくレグナス。そんなイレギュラーな強さにたじたじになっていくバルトにレグナスは躊躇無く最後の留めの一撃を加える。


「ソウル・レゾン!」

 一本の剣は徐々に刀身が伸びていき最終的にはかなり長い剣では無くなり刀とした形を現す。最後まで伸びきり終えるのを窺っていたレグナスは確認を一目で終わる背や否や、バルトから離れた位置で待機してから再度目に見えぬ高速で色々な角度で変幻自在に斬っていく。だが直接斬ってはいないような……


「あばよ、使徒。お前の仲間さんにはチャンスがあればじっくり可愛がってやる!」


「野郎!舐めんなよ!!」


「終われ」

 

 レグナスが発した一言で先ほどまで斬っていたラインが鮮明に浮かび上がり、やがてバルトは大量の血飛沫を白く雪が積もった地面を赤色に染め上げ青い炎で浄化されていく。


「うおぉぉおのれぇぇ!」

 

 痛々しい声を上げるバルトにレグナスは微動だにせず見送ると雪が積もっている地面にバタリと倒れる。


「レグナス!」


「無茶しやがって!だが……まぁ、お前はよくやった。今日はゆっくりと休め」


「そうさせてもらう。俺の体力も限界に近いからな」

 

 レグナスの弱々しい声を最後に口を開く事は無かった。

 

 恐らく、今回の事で力を出しきったのだろう。今はゆっくりと休ませた方が良い。


「皆様、ご無事ですか?」

 

 しばらく経ってから馬を器用にこなすソール将軍が姿を現す。僕はさっきまでおこなわれた出来事を簡潔に伝える。


「事情は分かりました。リーダーが死んだのなら、この戦は終わったも同然。して首はどこに?」


「顔面に向かって炎を放ったので……さすがに無いかと」


「そうですか……なら、ある程度敵の勢力を減らしてから声明を出しましょう。では、私は倒れているレグナス殿を城まで搬送しましょう」


「ありがとうございます」

 

 ソール将軍は倒れているレグナスを軽々と担ぎ上げて馬に乗ると、鞭打って走り出す。今回の一件で一人の使徒をレグナスが倒した。後は僕達だけでこの戦いを終わらせる!


「さっさと残りの片付けをやろうぜ」


「そうだね、僕達の為に頑張ってくれたレグナスの為にも!」

 

 僕とベルは互いに目を合わせて、奥の方で未だに争っている大軍に突っ込む。今日起きた一件で使徒は徐々にだけど、動き出している。恐らくこのままいくとイスカリアが本格的に行動を始める。その前に僕がこの手で終わらせるんだ……何としても!

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