(Ⅴ)激動
そこらに居る敵に俺は作業のように冷たく斬っていく。どいつもこいつも死に急ぐ奴が多すぎる。そんなに死にたいのか?俺には分からない……この戦はどう考えてみても俺達が勝つ。俺とベル、そして時々俺の思考を超えるエイジが居る限りは。
(ありゃあ、こんだけ倒したら遊べないじゃないか。もうちょっと焦らさないと勿体ないよ)
黙れ。てめぇはただただ俺の言いなりになれば良いんだよ。俺の魂を貪るクソガキが!
(無言は良くないぞぉ。そういうのは幼稚園辺りで卒業しないと)
「しばらく黙れ。この状況下でお前とペラペラと喋るつもりは無い」
思えば、いつも身勝手な野郎だ。コイツは俺が幼き頃に埋め込みやがった時から最悪の関係……
コイツさえ居なければ俺はもっと自由になれた。だが、最もの原因はあの男。
俺に呪いを与えた男には皮肉たっぷりのお礼を味わってもらう。地獄なんて生緩くなるくらいにはな!
(おひょ!敵の増員キタよ!僕達でやっつけてやろう!)
一つの青く染め上げられた剣を増やす。ソウル・レゾンド……この増やす技には時間という名の制約が付くが、その間に終わらせれば問題ない。
「手短に終わらせる。俺はこの無意味な戦争が気に入らないからな!」
(その意見は賛成。さっさと簡潔に終わらせちゃおう!)
敵はこちらに突っ込んでくる。馬鹿な奴等だ……わざわざ死ににいくとはな。
「死に逝く奴に慈悲は与えねえぞ」
両手に剣を持つ俺は敵陣に駆け込んで自由自在にそして縦横無尽に切り裂く。敵はどいつもこいつもハリポテの魔法や武術で対応するもんだから欠伸が出る。
「このぉぉ!」
「うぜぇ!さっさと消えろ!」
ソウル・ジャッジで燃えカスとなって消えていく姿に辟易とする。無駄な戦争を俺達に押し付けやがって!
(イライラしているね。少しは落ち着いたらどうだい?)
それは無理な話だ……俺は今、大分苛ついている。何なら不機嫌と言っても良い!
「うりゃあ!隙有――」
「あるのはてめぇだ」
背後に迫って来た敵を横に斬ってから縦で鮮やかに終わらせると男は無言で死んでいく。
「背後からの奇襲は死のフラグだ。覚えておけ」
(うひゃああ。怖い怖い)
とか言いつつ笑うのは何なんだ?
「この国に来てから不機嫌なままだな。何かあったのか?」
「ベルか。大方の敵は片付けたのか?」
「大体な。だが、それにしても革命派の連中は相当しつこい。これじゃあ骨が一本折れそうだ」
そんな屈強な身体の一つに骨が折れたら笑えるな。一生無いと思うが。
「あぁ、まだ立ち上がるか。召還獣も操られているのか結構しつこいし、こりゃあ最悪だ」
「文句は帰ってからでも出来る。今は目の前のゴミを片付ける」
襲い掛かってきたロボット型の召還獣の腕に飛び乗り、二つの刃で顔らしきパーツを叩き斬る。
その後にすかさずベルは強力な放電をロボット型の召還獣に浴びせると無残に朽ち果てていった。
「まだまだ、いけるか?」
「余計な心配は無用だ」
俺達二人を囲んだ所でどうしようも無い。だが殺意を向けられている以上、応えない訳にはいかない。
「掛かれ!」
一人の人物が号令を出す事で周辺の兵士共と操られていると思われる召還獣共が攻撃を仕掛けてきた。俺とベルは別段焦る事も無く淡々と確実に潰していく。
「失せろ」
一人の人物には剣を十字に斬り伏せ、周辺で機会を窺う奴等には跳躍や走力を駆使して迅速に終わらせる。
「さすがだな。俺も本気でやるぞぉぉ!」
手に携えている稲妻を帯びた大剣で次々と容赦なく圧倒的な力を見せつけるベルには少々恐れ入った。
「ベル、ここはもう良い。そろそろアイツと合流する」
「おうよ」
ここ周辺の敵は保守派の奴等がやってくれるだろう。あくまでもジョイソンを確保したい俺達はいつまでもこんな奴等と遊んでいる訳にはいかない。
俺とベルは互いに無言のまま、敵の本拠地らしき場所を吹雪の中かき分けて進んでいくと雄叫びが耳に伝わってくる。このおぞましい声は何だ?
「あっちの方で何か起きたのか」
巨大な影だ。もしかするとあちら側では巨大な奴と戦っているアイツが決死に戦っている可能性が高い。
「救援に向かうぞ。あんな巨大な奴を放置する訳にはいかない……!?」
「どうした?」
この妙に胸を締め付けてくる感覚。これは……まさか。
「誰だか知らねえが俺達に狙いを絞ったみたいだな。隠れても無駄だ!さっさと出てきやがれ」
「気配はなるべく消していたのになぁ。中々鋭い奴だ」
コイツ、只者じゃない。さっきから俺に向ける眼差し……完全に殺る気だ。
「俺はバルト、向こう側で戦ってんのはエイジ・ブレイン。正義面しているウザイ野郎には巨人兵にぺしゃんこにされてもらう。俺はその間に人間共に熱い鉄槌を下してやる!」
(やばいよ、レグナス。僕ですらあの瞳に恐れるよ)
それがどうした!こんな所で後退りをする程、俺のメンタルは弱くない。目の前に敵が居るなら、俺はただ斬り伏せるだけ。
「へへっ、その瞳……良いね!殺しがあるからさぁ!」
手加減は出来ない。本気を出させてもらう!
(ライア、ありったけの力を寄越せ!)
(そんな危ない賭けをしたら君の命は――)
(どうせ、俺は死なん!良いからやれ)
両手に持っている剣に均等の力がライアの魂から注ぎ込まれていく。俺は両手の力をぐっと握って、バルトの振り回す鎌を避けて技を零距離でぶつける。
「ソウル・ジャッジ」
予想通りに十字に斬られやがったバルトは身体全体から青い炎を吹き出して倒れていく。
普通ならこれで一網打尽に出来る筈だ。心臓を針で指した痛みが酷く身体中に伝わる……がはぁ!
「うぐっ、はぁはぁ」
「レグナス!何でそんな無茶な事を仕掛けたんだ!」
「ふんっ、奴は手加減が許されない相手だったからな。多少の命の危険は晒さなければならない」
しかし、ライアに魂を取られすぎたおかげかベルの肩を借りないと立ち上がれなくなってしまったな。
「あぁ、痛いねぇ。さっきの攻撃はめちゃくちゃ効いたぜ。普通の雑魚の人間の場合に限るがな」
なっ?先の攻撃で燃えたはずなのに再生しやがった!?何なんだよ……この化け物は!
「そういや、お前等には伝えてなかった事があったな。俺は100年前に魔術使いにしてやられた使徒……俺達の目的は人間の消滅。だから手加減どころか躊躇はしないぜぇ。お前達が泣き叫んでもな!」
っ!やはり油断ならねえ奴だ。俺が今まで会った中で異質。こうなると、命ギリギリでやるしかねえ!
「ベル、協力して倒す!手を貸せ!」
「言われんでも、分かっている!」
ベルは稲妻を浴びせている大剣をバルトの鎌に当てて、俺は両手の刀を使ってベルが横に引いた瞬間に縦に振り下ろす。
「筋は良い。けど、それだけか?」
バルトは一度だけ鎌を自分側に戻して一瞬の速度で俺の方へと吹き飛ばす。余りの爆風に膝をついた俺は続けざまの追撃にうろたえそうになる。
「ぐっ!この野郎!」
「強そうに見えたのは間違いか?お前なら多少なりとも娯楽になると思っていたんだけどなぁ!」
「レグナスはやらせん!」
不意に横槍を入れてくれたおかげで避ける時間が作れたな。
「ふうん、君達が二人居ると結構手間取りそうだな。そっちの方が面白いから有りだと言えば有りだけど」
もう一撃……加えるしか無さそうだな。
(ライア)
心の中で名前を呼び掛けるとライアは呆れた声で力を寄越す。今度こそ決めてやる!
「まだやる気はあるみたいだな。良いぜ良いぜ!もっと俺にぶつけてこい!」
「ソウル・ジャッジ」
両手の刃から纏う青い炎と同時にかつて無い痛み再び襲い掛かる。これは……気を抜けば間違い無く倒れる!
「がはぁ。さっさとくたばれ!」
血反吐を吐きながらも俺は両手の刀で全力でバルトの身体を切り裂く。バルトは今度こそ直に喰らって燃え散る筈だ!さっさと地獄に落ちやがれ!
「はぁ……芸の無い技に俺は呆れたんだけど、こういう時はどういう顔を浮かべれば良いんだ?」
二つの剣を両手で受け止めるとバルトは手加減無しに俺ごと地面に叩きつける。
そんな行動にすかさず窮地の手を差し伸べようとしたベルに対してバルトは平然とした顔付きで悠々自適に大剣を鎌の刃先で折るとベルを蹴りだけで向こう側へとぶっ飛ばし高笑いを始める。
「へぇ、結局は大した事無かったな。このままぺしゃんこにするのも有りだが……俺はもっと楽しみたいから、雑魚のお前達とはバイバイだ!」
「くそ、待ちやがれ」
まだだ!俺はこんな無様な所で倒れる訳には……
「はぁ、もう良い。飽きた。お前気に入らねえからこの場で終わりにするわ」
バルトの手に持っている鎌は俺の首筋に当たる。今動けば確実に殺される。かと言って動かなければ……死を意味する。
「じゃあな」
終わりか?俺の人生は。
「まだ死ぬには早すぎると思うけど」
鎌を振り下ろす瞬間に赤いマントを背中に付けた男……いやエイジが倒れている俺を鼓舞する。
前の時なら一切感謝の気持ちは無かった。だが今はコイツに感謝する。無様に倒れ込んでいる俺を庇ってくれた事に。
「おいおい、もう倒したのかよ。いくら何でも早すぎじゃね?どういう神経してんだよ」
「僕はこの命に換えても君達使徒並びにイスカリアを倒す!その為なら!」
エイジ・ブレインは大声で張り上げた同時にバルトを紅色を施した大剣で弾き飛ばして僅かに怯ませるとバルトはクスクスと笑いながら、人間らしい容姿から別の何かに姿を変えていく。
「イスカリアの命令に背いたら、色々と面倒事しか起きないんだがなぁ……お前から立ち向かってくるなら正当防衛にはなるよな!」
黄色の長髪はそのままで、バルトはトゲトゲとした両足と右手に肌と同じ色をした黒い妙におぞましい形を腕で俺達に宣戦布告を始める。
「決めたぜ!今日限りでお前達の命に幕を打ってやる!感謝しろよ!」
「感謝なんか誰がするかよ。今からは俺達の番だ!」
「レグナスの言うとおりだ!ここから先は僕達で終わらせる!」
吹雪が吹き荒れる中、俺とエイジの二人だけの熾烈が幕を開ける。
「吠えてろ!弱者がぁぁ!」